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第1章

猫飼いたい

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A:私、猫を飼いたいな。
B:飼えばいいじゃない。
A:ダメよ。私には猫なんて飼えない!
(仁王立ちして頭を抱えて絶叫する。)
B:どうしてダメなのよ。
A:だって、飼ったら猫は死んでしまうわ!
B:長生きできるように、責任もって大切にお世話すればいいじゃない。
A:それでもいつかは死んでしまう・・・。(号泣。)
B:一日一日覚悟して生きて行くのよ。形あるものは壊れるんだから。
A:B子、私の死亡保険金の受取人、あなたの名前でお願いするわ。
B:いきなり何?その重過ぎる提案。
A:私、余命半年になったら猫を飼うから、死んだら猫の世話をお願い。
B:人生預け過ぎだから・・・。もうさぁ、そこまで思い詰めるなら飼わなくていいじゃない。また今度一緒に猫カフェ行こう。
A:嫌よ!猫のいない人生なんて、淋し過ぎて耐えられない!
B:だったら、恋活なり婚活なりすれば?少なくとも男は、余程の事が無い限り、猫と違ってそう簡単には死なないから。
A:B子、私を殺す気?私が男アレルギーで、半径30cm以内に1分以上いると、命の危険があるシャレにならないアレルギーだって事。それが原因で母親は別居婚で、父親はATM状態。私も通学を諦めて、家庭教師で大学まで卒業して、近所にある女性だけのオフィスで働いているの。
B:そうなんだ。確かに特異体質なのは気の毒だけど・・・。猫アレルギーは聞くけど、男アレルギーって・・・。精神的に何かトラウマがあってとかじゃなくて?
A:生来の体質みたい。生まてすぐ男性のお医者さんに抱っこされて、発作起こして死の淵を彷徨って発覚したんだ。原因が原因だったので、父親の顔も知らないし。母親は時々まとめて休みを取って、父親と一緒にバカンスを楽しんでいるらしいけど。
B:基本、夫婦仲自体は良いんだ。
A:うん。いつも活き活きした顔で帰って来るから、時々申し訳ないなって思う。本当は話したい事は沢山あるはずなのに。
B:毒親という線も消えたか・・・。
A:私、どうすればいいの?
B:男子禁制の猫カフェを作ろう。そうしたら、もう淋しくない。私も一緒に働くし、流行って来たら従業員を増やせばいいわ。
A:いっぱい飼ったらいっぱい死んじゃうよねぇ。(涙ぐむ。)
B:じゃあ、猫型ロボットはどう?リアルなのを知り合いの博士に頼んで、作ってもらおう。
A:ブルーで耳が無くて、ロボットロボットしている「あいつ」は嫌よ。何にも出せなくてもいいし、喋れなくてもいいから、ちゃんとした猫でないと。
B:うん。うん。ちゃんと自然な猫だよ。ニャーって鳴いて、のどを鳴らす事しかしない、普通の死なない猫だよ。
A:そうねぇ。ただ、死なない猫って、プリザーブドフラワーと一緒で、どこか不自然で味気ない気もするわ。
B:それじゃあ、最終手段として「幽霊猫」を飼うっていうのはどう?生きてる猫も死んだ猫も、どっちも問題なし!しかも幽霊だから、これ以上怪我や病気の心配もないし、食費もかからないわ。夜中にちょっと怖いけど、それもまた一興よね!
A:要するに化け猫ね。そうかぁ・・・。その手があったか。それ、いいかも!
ようやく満面の笑みで、納得したA子であった。
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