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第4章

グルメレビュー

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料理人:ちょっとこの書き込みを取り消してもらいたいんですが。
弁護士:何か問題でも?悪い事は何一つ書かれていませんが。
料理人:うちで作っていない料理を評価されて困ってます。
弁護士:どんな料理ですか?
料理人:いちご煮です。
弁護士:あー、青森名物の郷土料理ですね。
料理人:うちは昔ながらの中華屋なのに、こういう事勝手に書かないで欲しいです。何を期待したのか、最近オーダーも多くて。
弁護士:新鮮なアワビとウニを使った、手の込んだ高級料理は、ちょっとこの辺では無理ですよねぇ。
料理人:ええ。無いですよって言っても、じゃあ、あれを書いた奴にだけ出したのか?と。そんな訳もなく。
弁護士:ラーメン、餃子、チャーハンがしょぼく見えちゃいますよねぇ。なんかすごい一点豪華主義。
料理人:そこまで言わなくても。まあ、うちの裏メニューって言っても、レバニラ炒め、酢豚、あんかけ焼きそばがせいぜいですよ。
弁護士:他のメニューとは明らかに違う価格帯や、街中華のイメージからは遠く離れた、高級感ありまくりの郷土料理ですもんねぇ。
料理人:(思い出の不倫旅行・・・。まさかあの時のあの女が犯人なのか?)
弁護士:もう、北京ダックと一緒に、いっそ出しちゃえば?あーおなかが空いてきた。
料理人:いちご煮一品でうちのメニュー、何種類食べられると思ってるんですか?真面目にお願いします。
弁護士:つまり、これを書いた人間を探して、話し合いたいと。
料理人:いや、それは勘弁してください。(冷や汗)
弁護士:どなたか心当たりでも?
料理人:そこまでしなくていいので、いちご煮に対する評価を消してさえくれれば・・・。とにかく、困っているので。
弁護士:本人を探し出して、ちゃんと話し合う事をお勧めしますが。
料理人:そういう面倒な事はしたくないです。
弁護士:いやいや、こういう事は白黒はっきりつけた方が良いんですよ!
料理人:そこまでして強迫的に、個人情報をさらけ出される、相手の身にもなって下さい。
弁護士:相手の身・・・。
料理人:とにかく、そこまでして事を荒立てたくもないんで。
弁護士:それならいっそ、いちご煮という同じ名前の中華料理の開発でもなさったらどうですか?
料理人:そこは、長年の俺の直感で分かる。そんな物が美味しい訳がない。分かりました。もう結構です。

数日後、地元の子供達の書き込みだった事が判明する。小学生は学校の授業で、「商品などのレビューを書く。」という宿題を出されて、実際にネットにアクセスして書きましょうと言われたらしい。
「○○先生が、ここのいちご煮はとっても美味しいのよ。って言うから、いちごの甘酢あんかけの事かな?って思って書いたの。」
と、子供達の口から聞いた教師の名前を聞いて、肝が冷えた。そこに現れた、腕を組んで冷ややかな笑みを浮かべる女性。
「あの頃は良かったわね。白神山地で誓った愛を忘れたの?」
嫌な予感は合っていた。
相手はやはり、昔こっぴどく裏切って捨てた不倫相手だった・・・。
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