Alastor-アラストル-

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旅立ち

Recherche d'ami ~仲間を探して~

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コカドリーユ討伐に向けて志願者探しから始めなければならない。カインとグランはまず簡易的な紙を村の広場に貼り付け、グランは農夫仲間に、カインは猟師たちに声を掛けることにした。

「グランさん、僕はまず母に報告してから動きます。
 荷物も置いて行きたいですし。」

「ああ。俺も一度家に戻ってからだな。
 今回の事は急げど慎重に進めなきゃなんねぇしな。」
 二人とも一度家に寄り行動することで意見は一致した。

「ではそれぞれ声を掛けて、同意してくれた方達と一緒に広場で落ち合いましょう。」

「了解だ。じゃあまた後でな。」
 二人は別れ仲間を探しに行動を開始した。

 村の東側に母と二人で暮らす小さな家、カインはまず急ぎ帰宅した。
「母さん、今戻ったよ!
 これから大事な用があるからまた直ぐに出なきゃならないんだけど、帰りは遅くなると思う!」
 カインは帰宅すると母に声を掛け、荷物を置いて直ぐに出掛ける準備に取り掛かる。

「お帰りなさいカイン。そんなに慌ててどうしたの?」
 椅子に座り編み物をしている女が、帰って来るなり騒がしく動き回る我が息子に微笑み話し掛ける。

「コカドリーユが出たってことは聞いてる?
 村長にその事で討伐隊に加わって欲しいと言われたんだ!
 他の人にも声を掛けて仲間を見つけなくちゃいけないから急いで探しに行くよ。」
 カインは身支度しながら返事をする。

「コカドリーユ……貴方が討伐隊に? 大丈夫なのかしら…」
 帰って来るなりモンスターの出現、しかもその討伐に息子が参加すると聞いて驚きと不安が隠せない。

「自信があるわけじゃないけど毎日鍛練してるんだし、村長も頼りにしてくれてるからね。やるだけの事はやるさ!」

「そうなの……でも討伐なんて……」
 そう答えられても不安は残る。

「グランさんも声を掛けられてるし、村長の昔馴染みの傭兵に依頼もしてあるそうなんだ。
 僕達は経験もないし後方支援になるはずだよ。」
 不安気な母に対してカインは答える。自分の力量はわかっているつもりだ。

「昔馴染みの傭兵……」
 傭兵、後方という事を聞いて少し安堵している。
 そしてカインの腰にある剣を見つけて何かを感じとった表情をした。その様子をカインは見ていない。
「カイン、その腰の剣はどうしたの?」
 息子が帯びているクレアを指差して尋ねた。

 カインは腰の剣に手を添えつつ決意の籠った眼差しで答える。
「これは村長に頂いたんだ。
 銘はクレア。若いころに使っていたそうなんだ。
 今回の討伐で役立てるよう言われた。
 こんな立派な剣を使ってたなんて、村長は何者なんだ?」
 そう答えカインは自分の村の村長が何者であるか今回初めて疑問に思っていることを伝える。

「そう、毎日鍛練を頑張っていたこと村長はきちんと見ていてくれたのね。
 彼の事は良く知らないのだけれど、相当腕の立つ傭兵だったってことは聞いてるわ。」
 母は遠い目をしている。
「……そ……時……のね……」
 そして聞き取れないくらい小さな声で何かを呟いた。

「母さん何か言った?」
 カインは母が何を呟いたのか尋ねる。

「いえ、何でもないわ。
 良い剣を頂いたのなら今回は気合いを入れて励まないとね。」

 幼少の頃より時折母が遠い目をしているのを知っている。それが何を意味しているのか尋ねることはなかった。
 尋ねても母が答えることはなかったし、はぐらかされるからだ。
 今回もカインは深く聞くことはしなかった。いずれ話してくれる日が来るだろうと、自分がもっと大人になってからでも遅くないだろうと思っているからだ。

 準備が整いカインは出掛けることを母に伝える。
「志願者を募ることにしたんだけど知り合いに声を掛けていくんだ。
 行ってくるよ!」
 何人か目星は付いているのか、カインは真っ直ぐに目的地へと駆け出した。

「行ってらっしゃい…ってもう出ていったの。
 カイン……これから辛い事が沢山あるかもしれないけど、貴方はあの人の息子だから……」
 駆けていく息子を窓から眺めながら悲しい中にも慈愛の籠った目をしていた。

 カインの行き先は先程素振りをしていた木陰だ。誘う人物の一人目はローベルトだと即座に思ったからだ。
 木陰にたどり着くとローベルトはまだ休憩していた。
 思った通りだとカインは声をかける。
「ローベルト! まだ休憩してたのか。
 話があるんだけど良いか?」

 カインの姿を見たローベルトはのっそりと起き上がり、その痩せた体で伸びをする。
「カイン、村長のとこにはもう行って来たのか? そんなに時間は経ってないぞ。」
 寝ぼけ眼で尋ねる。

「ローベルト、もう結構時間は経ってるよ。
 村長のとこには行って来た。
 その事で頼みたいことがあるんだけど、率直に言うね。
 今回のコカドリーユ討伐に加わって欲しい。」

「ええ……何で俺が……モンスター討伐なんて無理だ、死んじまうよ。」
 突然の申し出にローベルトは嫌そうな顔をする。
 それはそうだろう。しがない村人にモンスター討伐に協力しろとは、死んでくれと言われているようなものだ。

 勿論そう返事が返ってくるだろうことはカインも予想していた。
「直接戦えと言っているんじゃないさ。
 今回は大事だし、傭兵にも依頼してあるらしいんだ。
 僕達は後方支援になるだろう。君はショーギが強いし、それに二人で狩りをする時に作戦を練るのが巧いだろう?
 後方支援と言えども周りを見れる人が欲しいんだよ。」

 ショーギとは東の国から伝わったボードゲームだ。複数の動ける範囲の違う駒を使い、相手の王様を制圧した方が勝ちというルールらしい。
 ローベルトはこのゲームを得意としていて、カインにもアニエスにも一度も負けた事がない。カインと狩りをする時には獲物を追い詰め、効率良く仕留める作戦を練るのが抜群だ。
 命の危険を伴う今回の討伐は、そんなローベルトの頭脳が必要だとカインは思っていた。

「本当に後方だけだろうな? 危険な所は避けたいんだけど。
 命を落とすのはごめんだ。」
 カインには悪いと思うが、今一気が進まないローベルトだった。

「万が一こっちにも被害が及ぶようなら引き際を見極めるのはローベルト、君が適任だと思うんだ。
 その辺の嗅覚も鋭いだろ?」

 尚も食い下がるカインにやれやれと言った表情でローベルトは答える。
「わかったよ……一応参加はするけどさ、ヤバイと思ったらすぐに逃げるからな?」
 カインに誘われたらうんと言うまで逃げられない。ローベルトは結局しぶしぶ了承することになった。

「ありがとうローベルト! すまないね。」
 カインは爽やかな笑顔で一応謝る。

「いや良いよ。どうせ君の勧誘からは逃げられないんだしさ。」
 渇いた笑いでローベルトは手をヒラヒラさせた。
 「それより声掛けるのは俺だけじゃないでしょ? そっちの方にも早く行った方が良いと思うんだけど。」
 まさか自分だけでないだろう事はローベルトにも解る。他の誰に声を掛けるかは薄々感付いてはいた。

「ああ。アニエスも誘うつもりだ。」
 ローベルトの他に村長の娘であるアニエスも討伐隊に加わるようカインは話すつもりだった。

 村長の娘を誘うのはどうかと思うローベルトだったが、彼女の力は戦略的にも欲しいと即座に思い口を開いた。
「まぁ確かに彼女の弓は欲しいところだね。」
 そう言ったローベルトにカインも同意する。
「ところで、その腰の剣は?」
 カインが提げている剣に目をやりローベルトは尋ねる。

 カインは剣を抜き、前に掲げつつ答えた。
「村長から授かった。」
 その一言だけ答えたカイン。

「ふ~ん……そっか。綺麗な剣だね。」
 特に深く聞く気もないローベルトはそれだけ言って興味は失せたようだ。
「じゃあ早くアニエスの所に行こう。」
 ローベルトはたらたらと動き出す。

「そうだな。この時間だし、夕飯の買い出しに市場りに居るかもしれないな。
 グランさんとそこで落ち合う予定だし丁度良いかもしれない。猟師仲間も今日の獲物を売りに出してるだろう。」
 カインは剣を納めつつローベルトの横に立って歩きだした。

 クレール村では町の中心にある広場で育てた作物、家畜、狩りで仕留めた獣肉・毛皮、織物等を村人達が各々売っている。貨幣で買うことも出来るが、大体の者は物々交換で済ませている。
 村人は市場と呼んではいるが、外の者から見れば交換広場というところだろう。
 時折行商人がやって来て商売をしているが、村の事を知っている数人しか現れない。商売と言うよりも仕入れと言った方が良いか、干し肉や毛皮、織物と商品を交換することが通例となっている。
 それでも村人達にとっては外の物が手に入る貴重な時なのだ。

 市場にやって来たカインとローベルトはアニエスを探している。
「カイン! 今日の獲物はどんな奴だ?
 家の野菜と交換してかねぇか?」
 広場で野菜を並べている一人の農夫が交換を持ち掛けてきた。

「ごめん、今日は別件でここに来たんだ。
 大きな鹿が獲れたから干し肉にしてまた持って来るのでその時にお願いしますよ!」

 そう返事すると農夫は残念そうにカインを見て言った。
「そうかい…残念だが肉はお前んとこのが一番旨いからな。
 期待して待ってるぜ! 真っ先に俺んとこに来いよな?」

「ありがとう。必ず声をかけますよ!」
 カインは嬉しそうに笑顔で答えた。肉の処理には自信があるからだ。

 そんなやり取りを見て隣の農婦もカインに話し掛ける。
「ちょっと! 抜け駆けはずるいわよ!
 私んとこの野菜とも交換しておくれよカイン!
 後は出来れば包丁の打ち直しもお願いしたいんだけど良いかしら?」

「ええ勿論、約束しますよ。」
 カインは農婦にも返事をし、急ぎますからと少し微笑み頭を下げてその場を去る。

 そんなやり取りをして時間が掛かってしまったが、広い場所ではないのでアニエスを直ぐに見つけることが出来た。
 彼女は座って野菜を見ながら何かの交渉をしていた。

「アニエス!」
 カインが声を掛けてローベルトと共に駆け寄る。

 声に気付き自分へと近寄って来る二人を見ながらアニエスは立ち上がる。
「カイン、ローベルト。
 大体の話は予想出来てるんだけど、今大事な時だから少し待ってて。」
 そう言い左手を挙げて鋭い目で二人を制する。二人は言われるがまま待つことにした。
「さて、話の続きだけど…カボチャを2、3個は付けてくれないとこの織物は渡せないわ。
 良い? おじさま。これの製法は私しか知らない特別品なのよ?
 奥様への贈り物なんでしょ? ケチケチしてる場合じゃないよ!」

 どうやら物々交換の交渉らしい。カインとローベルトは苦笑いしてその様子を眺めている。

「う~む……わかったよ……小麦とイモにカボチャ3個も付ける。母ちゃんの為だもんな、安いもんさ……ブツブツ……」
 アニエスの気迫に負けて農夫は涙目で交換を承諾した。妻へのプレゼントだからと自分に言い聞かせて納得しようとしているようだ。
 アニエスは誇らしげに戦利品を篭に入れているが、一人で持つには大変な量だと見て分かる。

「お待たせ、二人とも。
 ちょっと荷物が多いから運ぶの手伝ってくれない? 話は運びながらでも出来るでしょ?」
 アニエスはカインとローベルトに戦利品の運搬をするよう頼む。
 二人は承諾し、家まで運ぶことを約束する。

「アニエス、少しだけ待ってくれないか? グランさんとここで一度落ち合う予定なんだ。」
 カインは彼女にグランと一度市場に集まるよう約束していることを話す。

「そうなの? 私は構わないよ。
 それならグランさんを待っている間に話しましょうか。」

「そうだね。ローベルトにも参加してもらうことは決まってるんだけど、アニエスにもコカドリーユ討伐に協力して欲しいんだ。」
 カインはモンスター討伐にアニエスの力が必要なこと、カイン、ローベルト、アニエスの3人での連携を軸に動いた方が効率良いことを伝えた。勿論強制はしないこともだ。
 ローベルトは少し思うところがあるようだがカインは気付かないふりをした。

「私も父から参加するよう言われてるから丁度良いわ。この3人なら動きやすいと思うし、私たちでチームを組みましょう!」
 アニエスも討伐に協力するつもりだったようであっさり了承を得た。

「ありがとうアニエス。心強いよ。」
 カインもローベルトも笑顔でお礼を言う。

「前線じゃないにしろ君の弓が必ず必要になると思う。俺も作戦を立てやすい。」
 ローベルトはそう言う頭の中で戦闘を想定しだしたのかブツブツと自分の世界へと入っている。

 カインは他の猟師たちにも声を掛けてくると席を外した。彼の中ではこの3人がベストメンバーだと思っていたが、討伐隊の人数が多いに越したことはない。グランが到着するまで広場に集まっている者達に話していった。
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