Alastor-アラストル-

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旅立ち

Croyez-vous en fantaisie? ~お伽噺を信じるか?~

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「マスター=ルビンスタイン、御無沙汰しております。」
 カインの案内で村長グスタフの屋敷に到着し、広間へ招かれたウィリアム一行は胸に拳を当て元マスターの前に跪く。

 グスタフは懐かしむような目で兵を1人ひとり見ていった。
「ああ…皆久方ぶりだ。まずは今回の依頼を快く引き受けてくれて大変感謝している。
 そして、今更遅いかも知れぬが……何の説明無しにギルドを一方的に解散させてしまったこと詫びさせてくれ。すまなかった。」
 深々と頭を下げ礼と謝罪の言葉を口にする。

 ウィリアムは慌てて両手をバタつかせた。
「いえ! マスターにも事情があったんでしょう? 謝るのは止めて下さい!
 確かにショックでしたが誰も責める気なんてないですから! 10数年ぶりにお会いできたのを嬉しく思っています。
 それに貴方の依頼だから俺達は急いでここに来たんですよ。」
 恐縮し頭を上げて下さいと何度も繰り返す。

 グスタフは顔を上げ話し出す。
「ああ、すまない……故は追々話す。
 それにしても私の予想より早い到着だったな?」
 討伐が無事達成されたらギルド解散の理由を話すとグスタフは元部下達に約束する。
 そして昼になるだろうと思っていた傭兵団の到着が随分早かったことへの驚きを表した。

 その疑問にウィリアムが答える。
「実は元々俺達はコカトリスを追っていたんです。王都からの依頼でね。
 残念ながら隣村へは間に合いませんでしたが…そこへ丁度マスターからの便りが来た訳です。近くに居たんで急ぎ馬を走らせて来ましたが、この村には間に合って本当に良かった。」

 隣村で犠牲者が多数出てしまったこと、間に合わなかったことへの後悔の念は残る。
 決して彼等の責任ではないのだが、後ほんの少し速く走れば間に合ったのではないかと申し訳なく思う心は本物である。
 それと同時にグスタフの村はまだ被害に遭っていなくて良かったと安堵する気持ちがあり、とても複雑な心境の傭兵達であった。

「そうか……疲れもあるだろうに、皆ありがとう。村の代表として感謝の意を表そう。報酬は弾ませてもらうつもりだ。」
 再度頭を下げ、報酬を上乗せすることを提案する。そのくらいしか自分に出来ることはないだろうとグスタフは思っていた。

 しかしイリスが口を挟む。
「マスター、報酬は受け取れないわ。」
 マスターの提案を強い口調で拒んだ。断られた事に少し戸惑っているグスタフに向けて話を続ける。
「私達は王都より正式に依頼を受けています。
 マスターより頂いた便りは『昔馴染みが困っているのでちょっと助けてくれないか?』という内容のものです。
 なのでマスターには報酬を出す義務が発生しません。ね? 
皆。」 
 ウィリアム達を見る。
 皆声を揃えてイリスの言葉に賛同した。傭兵達は同じ考えのようだ。

 グスタフは戸惑いながら報酬は出すから受け取ってくれと説得している。
 そこにウィリアムが割って入る。
「マスター、貴方に再会できて元気な姿を見れた。俺達には最高の報酬です。
 追加報酬はギルド解散の訳を話すってことでどうです?」
 笑顔で報酬についての一方的に交渉を成立させようとする。

「しかし……それは報酬として如何なものか。」
 確かに危険な仕事に対しての報酬としてはあまりにも不確かなものだ。

 まだ納得のいかないグスタフにイリスが新たな提案をする。
「ではマスター、討伐後に宴会をご用意して下さる? 酒食べ物、私達の好きなだけ振る舞ってくれたら良いと思います。」

「それは良い、なあ皆! マスター、とびきり美味い肉を用意して下さいよ!
 これで交渉成立だ!」
 ウィリアムが兵士達に向かって同意を求める。皆心はひとつなので大いに盛り上がり口々に食べたいもの、飲みたい酒の種類をリクエストしている。

「わかった。あまり納得出来ないが、酒の席と説明の席を用意しよう。」
 グスタフに無理矢理折り合いをつけさせた。

「この話はお仕舞いだ!
 ところで俺達の他に村からも増援を出して下さるそうですが、マスターも参加して下さるんですか?
 またあの剣捌きを拝めると皆楽しみにしてます!」
 共に戦えると思いウィリアム一行は浮き足立っていた。クレアを振るう姿を忘れられずにいた。

 しかしグスタフが申し訳なさそうに口を開く。
「いや、すまんが私はもう剣を振れん。
 今回はカインとグランに任せておる。それにクレアはそこのカインへ譲ったのだ。なかなかに良い素質を持っているのでな。」
 カインへ目をやりつつ馴染み達に微笑みかける。

「そうですか……しかし、あれほど大事にしてたクレアを譲るなんて…そこまでの少年なんですかカイン君は。
 失礼ですが俺にはそうは見えない。」
 一緒に戦場に出れず落ち込む様子を隠さずウィリアムは項垂れる。
 そしてクレアはマスター=ルビンスタインの腰にあるべきだ、グスタフが振ってこそ価値があるとある種の偶像を見ているウィリアムはカインを睨む。

「確かに僕は未熟です。戦場の経験だってありません。
 役に立たないかもしれませんが村長より授かったこの剣にかけて全力を尽くすつもりでいますよ。」
 カインは臆することなるウィリアムの正面に立ち真っ直ぐに目を見る。

「こらウィリー。そんなに睨まないの。貴方はマスターに幻想を抱きすぎよ。
 カイン君もウィリーを許してあげてね? この人思ったら一直線なのよ……未だにお伽噺なんて信じてるし。」
 謝るイリスにカインは僕もムキになってすみませんと頭を下げる。

「おいイリス! あれはお伽噺なんかじゃねえ! 紛れもない真実なんだよ、アラストルは実在するんだ!」

 ウィリアムの口から発せられた言葉に周りはまた始まったと呆れて苦笑いだが、カインだけは違った。
「ちょっと待ってくださいウィリーさん…貴方もアラストルは実在すると思うんですか?」
 カインは目を輝かせウィリアムに詰め寄る。

 詰め寄るカインに負けじとウィリアムも前のめりになり話を続ける。
「ああ間違いない。俺は長年アラストルを調べ回ってるがお伽噺で終わらせるにはあまりにも文献や伝承が多すぎるんだ。
 今でこそ子供向けの本にゃなってるが、剣への道しるべは各地に残ってるんだ。
 現にのモンスターや魔女だって存在すんのに神の剣がないってのはナンセンスだ!」
 興奮気味に話すその目はまるで少年の様である。

「ウィリーさん、僕も絶対にあると思ってるんです。
 それに僕の手に入る範囲での文献、村に伝わる歌や伝説からもアラストルの存在を裏付ける物が多いと感じるんですよ!」
 カインも同じ考えの者に出会えて興奮し、2人の話はどんどんエスカレートしていく。

「ちょっと2人とも! その話はまた後でにしてくれない? 今はモンスターの方が先でしょ。」
 イリスに注意され2人は反省し黙る。

「村からの討伐志願者達は夜明けには広場に集まって訓練をするという話だ。皆顔見せと情報共有の必要があるだろう。
 カインとアニエス一緒に行ってやってくれ。」
 グスタフは咳払いをし兵たちに訓練の指導もするよう申し付けた。
 そこへアニエスが丁度部屋に入ってきてカインの隣へ立つ。

「皆さんご協力ありがとうございます。娘のアニエスです。よろしくお願いしますね。」
 軽く頭を垂れ微笑むアニエス。

「アニエスちゃん彼氏居るの? この後俺とデートしない?
 俺ウィリアム。ウィリーって呼んでね!」
 彼女の元にウィリアムが素早く接近しとても良い笑顔を向け歯を輝かせる。

「え? はぁ……」
 状況をまだ飲み込めていないアニエス。

「おいウィリアムお前ぶっ殺すぞ。
 カイン、クレアを貸せ! 八つ裂きにしてくれるわ!」
 グスタフが鬼の形相でウィリアムを脅し、カインの腰にあるクレアを今にも抜剣する勢いだ。マスター=ルビンスタインの実力を垣間見た気がし震え上がるカインであった。

「ではお父様、ウィリアム=フィールド出陣致します!
 さあ行こうアニエスちゃん。」
 アニエスの手を取り勢い良く駆け出すウィリアム。

「あの男は私が後で燃やしときますから落ち着いて下さいマスター!」
 イリスが何とかグスタフをなだめカインと傭兵団は屋敷を後にした。
「あんなマスター初めて見たわ……」

「アニエスのことになるといつもあんな感じです……」


 一行は広場へと到着した。既にグラン、ローベルトその他志願者たちが集まっている。

「グランの旦那! 久しぶりだな!」
 広場でパイプを吹かしていたグランにウィリアムが声を掛ける。

「ウィリー! 随分早いな! 昼に着くって話だったんじゃねえのか?
 ……て何でアニエスと手ぇなんか繋いでんだ? お前村長に刺身にされるぞ。」
 仲睦まじく……は決して見えない2人にグランはため息混じりで言う。
「相変わらず軟派な野郎だな…まぁ良い。
 皆もう集まってんだ、挨拶ぐれぇしてくれや。」
 グランを気にも止めずにアニエスばかり見るウィリアムに事を進めるよう催促する。

「あんたいい加減にしなさいよ! 皆待ってるんだから。」
 イリスはこのままでは埒が明かないと思い、手に持っている金属製のロッドでウィリアムの後頭部を強打する。

「痛ぇっ! イリスそれは鈍器じゃありません!」
 頭を抑えつつウィリアムは兵士を引き連れしぶしぶ村人達の前に立つ。手は繋いだまま。村人達は若干引いている。

「皆、俺は傭兵ギルド、リコリス・ラディアータの団長ウィリアム=フィールドだ。ウィリーで良い。
 こっちの女はイリス=S・ルーナ、後は……その他大勢だ!
 で、この娘は俺の妻となるアニエスちゃん!」
 また大雑把な紹介で済ませ余計なことを言っているウィリアムの後頭部をイリスが強打する。
 そのイリスの出で立ちを見て村人達はざわついている。口々に魔女だ、魔女だと。
「ああ、確かにこいつはお前らの言うように魔女だ。
 だが空は飛ばねぇし子供を拐ったり煮たりもしねぇから安心しな!」

 イリスは少し肩身が狭そうにしている。カインら若い世代ではあまりこのような事はないが、一世代前になると未だ魔女への偏見が存在する。

「皆さん、私の事をどう思ってもらっても構いません。
 でも今回のコカドリーユ討伐は全力で当たりますし、皆さんの事も命懸けで守ります。」
 村人に偏見を無くすよう話始めようとしたウィリアムと何か言いたげな団員らを制止し、イリスは言葉を発した。ウィリアムは何とも言えない表情で見守る。

 1人ひとり見ながら真摯な目で協力すると申し出たイリスに対して、村人達は自分を責め彼女に謝罪した。
 蟠りは解消されたようだ。

「さて俺達の自己紹介も終わったことだし、皆の戦力の詳細を教えてもらうのと、それにそっちの作戦参謀は俺の所に来てくれ。
 訓練するに当たって知っておきたいこともあるから話し合おう。」

「それは俺です。」
 ローベルトが名乗り出てウィリアムとの会議が始まった。

「カイン君とグランの旦那は志願者達の組を分けておいてくれ!
 それが終わったらこっちにも参加してほしい。」

 ウィリアムの指示に従い2人は村人を並ばせて組分けを開始する。数十分で済ませあれやこれやと意見をぶつけ合うローベルトと傭兵団の元へと合流した。

「終わりましたよウィリーさん。戦略は決まりましたか?」
 カインが指示を済ませた事を報告し、ここまでの経過を確認する。

「ああ早いな。こっちも思ったより早く済みそうだ。
 ローベルト君は良い軍師になれるぞ!」
 照れるローベルトの背中をバシバシとウィリアムが叩きながら上機嫌で話す。
「まずこの広場に住民を全員集める。広さはギリギリだがいけるだろ。機動性を重視して身ひとつで集まってもらうがな。
 それに万が一家に被害が出たら王都が保証してくれるって太っ腹なことを言ってるからその事を必ず伝えて納得させてくれ。
 避難場周辺を3人一組を4箇所に配置、避難誘導と護衛を任せるんだが、これはそっちの戦力を使う。
 俺達は村の入口と出現予想ポイントを固めて戦う。対処出来ない場合は伝令を走らせるから直ぐに全員で逃げるんだ。良いな?」
 作戦概要を告げ、質問はないか確認をする。

「大丈夫です。」
 カインは答える。

「それと……カイン君、ローベルト君、アニエスちゃんは俺と行動してもらう。グランの旦那は広場で指示を出してくれ。」

 予想外の言葉に驚くカイン達。
「僕らがですか!? 戦闘経験だって無いんですよ!」

「おいおいそりゃ無茶じゃねえか?」
 グランも良い判断だとは言えないとウィリアムに詰め寄る。

「なぁに、危なくなりゃ逃がすし俺が守ってやる。
 ローベルト君の頭もあるし、それに……カイン君。腰のクレアは飾りか? その剣を託された以上半端なことは言ってらんねぇじゃねえの? 良いから付いて来い。」
 カインの実力を、クレアを持つに相応しいのかを見極めたいウィリアムはそう命令する。

「ええ! 後方支援って言ったじゃん!!」
 ローベルトは涙目。

 目を瞑り思案している様子のカインは口を開いた。
「了解しました……僕も戦います。」
 決意を目に宿らせて。

「本気なのカイン?もっと強くなってからでも良いんじゃない?」
 心配そうに止めようとするアニエスを制し、カインは首を振った。
「いや、ウィリーさんの言う通りこのクレアに誓って逃げることは出来ない。」
 何を言っても無駄だと、止めることは出来ないという意思を表明する。

「おいマジかよ……勘弁してくれよ……」
 ローベルトはもう泣いている。グランはただただ黙っていた。

「良し、そうと決まれば事は急げだ。
 早速陣形の確認と各々の動きを確認するぞ! 訓練だ!」
 ウィリアムの掛け声と共に傭兵達は動きだし訓練が開始された。

 グランが動き出したウィリアムを呼び止める。
「ウィリー俺はもう何も言わねぇが、カインを頼む。」
 それだけ言うと訓練に合流した。

 訓練は陽が沈むまで行われた。明日も同時刻に集まり訓練するとウィリアムが言い渡し、今日は解散する。

 帰り際ウィリアムはカインを呼び出した。
「カイン君。この後飯を食ったらもう一度ここへ来るんだ。剣の稽古をつけてやるから。」
 対人での訓練経験が無いことを知り一肌脱ごうと提案した。

「わかりました。宜しくお願いします。」
 カインは返事をし広場を後にする。期待を胸に込めながら。
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