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俺の運命がバグった話。
しおりを挟む『1-B中峰 太一の運命の相手は……同じく1-Bでクラスメイトの小川 夏樹です!同じクラス同士の2人なので、これまで以上に仲良くしていきましょう!』
ーー呆然。俺はその大々的な言葉を聞いて、その意味を自分の脳で理解してからは、自身の頭の中にその二文字の言葉しか浮かんでこなかった。
しかし、そこでの言葉は紛れもない現実で、今後俺の……ひいては俺たちの将来に関わる、まさしく運命としか言いようのない揺るぎなき決定なのだ。
とは言え、その発表に俺は呆然としてしまっていたが、もう一人の相手、クラスでもイケイケな女子である小川 夏樹が何の意見も言わない訳はなく……
「はあ!?嘘でしょ!?AIちゃん、それマジで言ってんの?あたしの運命の相手が……あんな地味男って、そんなのマジでありえないんだけど!?」
などと、教室の後ろの方にいた小川は俺の事を指差し、『ありえない、マジありえない。』と本気で嫌な顔をしながら、そう取り巻きと一緒にぐちぐちと文句を言っている。
そして俺は、そんな女子たちのAI発表に対する文句の声を聞いて、ようやくその正気を取り戻した。
「(いやいやいや!俺の方こそ嘘だろ!?俺と小川が運命の相手?ないないない!もしあったとしても、因縁の相手とかそんな感じの間違いだろ……。)」
ーーどうしてこんな事になってしまったのか……?
それはこの話の1時間ほど前、新しく高校に入学してから2ヶ月後の今日にまでその話を遡る。
ーーーー6月中旬・教室にてーーーー
「いやー、待ちに待ったこの日がきたなぁ、太一!お前も楽しみにしてたんだろ?AIちゃんがする運命の相手の発表。」
「う、ううん?AI発表?……お、俺がそんなの気にする訳ないじゃん。な、何言ってんだ?」
この頃のジメジメとした湿気と天気に辟易としていた今日この頃、俺、中峰 太一は小さい頃からの親友兼幼馴染み、そして無駄にイケメンでクラスでも人気な男、鷹宮 直輝からのその言葉に、自分でもちょっと気持ち悪いなと思うくらいにキョドりながら、その言葉を否定しはぐらかした。
たしかに今日は俺にとっても特別な日で、それを心待ちにしていたのはたしかなのだが……どうにもそれを他人から指摘されると、なんだか気恥ずかしくなってしまうのだ。
ーー高校入学から早2ヶ月、今日はもしかすると自分の運命の相手が分かるかもしれない日、これまでの人生で好きになった相手と結ばれるかもしれないチャンスの日なのだ。
すると、そんなキョドった様子の俺を見た直輝は、バシバシと俺の肩を叩きながら、嘘つけ!とすぐさま俺の言葉が嘘であると一方的に決めつける。
「いやいや、お前メッチャ意識してたじゃん。入学してからすぐにAIちゃんによる運命の相手の発表について調べてたし……なにより、隣のクラスの大橋さんだっけ……?彼女の事すっごい意識してたじゃん。
まあ、遠くから眺めるだけで実際なにもしてなかったけども……。」
「ちょっ!おま……な、なんで、その事を知って……?て、ていうか……大橋さんは関係ないって!俺はただ、運命の相手を知れるっていう『AIによる運命の相手のマッチング』ってシステム自体に興味があっただけで……俺自体がその相手が気になってるとか、そういう事では……。」
そして、直輝の口から思わぬ名前が出た事にひどく動揺してしまったが、なんとか平静を装いどうにか誤魔化した俺は、そこから畳みかけるようにして、俺の話から『AIによる運命の相手のマッチング』の方に話を徐々に逸らしていく。
「で、でもさ!なんかすごいよな!AIによってその人の運命の相手が分かるってさ!聞くところによると、そのマッチングで選ばれた男女って、そのまま付き合って結婚まで行く確率がほとんど100%に近い99%くらいなんだって。しかも、過去にまで遡って相手が表示されるっていうし……自分でも意外な相手とかが出てきそうで、な、なんだかそこら辺もドキドキして面白そうだよな!」
「はあ……。誤魔化すのが下手な奴め。そんないきなり早口になってもバレバレ……って、まあ、それはいっか。そうだなぁ……普通に考えてAIちゃんによって相手が決まるってなんだよって正直思うけど、なんか……その少子化対策?だっけ。それのため、運命の相手をあらかじめ知らせておいて、それでそのカップリングを有無を言わさずくっつけてるって考えると……まあ、それはそれでありなんじゃないかって俺は思うかなぁ。」
ーーそう……このAIによる運命の相手の選択はただの中高生のお遊びなどではないのだ。これはれっきとした政府による、少子化に対する国策の一環なのだ。
だから、直輝の言う通り文字通りそのカップリングを上手くいかせるように、その後の対応もちゃんと存在している。
「(たしか、その相手同士可能な限り同じ環境にさせるんだったよな。クラスが違うなら、どちらかを片方のクラスに移すっていう形で。しかも、そもそも学校が違ったり、住んでる場所が違ったら、政府がその負担を全部負う形で引っ越しさせるって言うんだから……その本気度がすごいんだよな。この政策に対する徹底ぶりが……。)」
しかも、その政策はそれだけで終わるものはなく、その最たる目玉の政策は『学校監修の寮での共同生活』である。
これは、この政策によるカップリングの成功率の高さに最も直結すると言われている目玉の政策で、学校の監修する下ではあるが、その相手の異性との共同の寮生活を(特別な事情がある場合を除いて)行う事になるのだ。
となるとやはり、学校監修とは言え年頃の男女が一つ屋根の下となると、それはイヤでも相手の事を意識せざるを得ないだろう。そうなれば目論見通り、なんだかんだあってその二人が付き合いだして……ゆくゆくは、そのまま2人は本物のカップリングに……。
すると、俺が少し黙っって考え事をしたのを何か勘違いしたのか、直輝は「まあ、心配すんなって!」といちいち俺の肩をバンバンと叩いて、謎の励ましを俺にしてくる。
「たしか聞いた話によると、大橋さん今は誰とも付き合ってないらしいぞ?あんなに男女問わず人気があるのにな。まあ詳しい話は聞いていないが……今は想い人もいないらしいし、もしかするとお前にもワンチャンあるかもよ?」
「い、いや、直輝が何を言ってるのか分からないけど……お、俺には関係ない話だし。でも……そうなんだ、大橋さんは今誰とも付き合ってないんだ……。」
「まっ!そんな感じだし……まあ、かなり低い確率だとは思うが、お前が大橋さんの運命の相手の可能性も無きにしも非ずって事で……とにかく、希望は捨てるなって所だな。」
そうして、直輝は無駄に爽やかな笑顔でそう俺に言い終えると、朝から宿題のやり残しがあるとやらで自身の席にさっさと立ち去って行く。
そして、その帰りついでに他のクラスメイトたちから男女問わず挨拶されて、それに対しにこやかに受け答えするさまは……まさしく、クラスの人気者と言った所だろう。
「(やっぱ、直輝はイケメンだしすごい人気者だなぁ。俺は昔からの幼馴染だから気軽に声掛けれるけど……そうじゃなかったら、どうだったか分からないよなぁ。)」
ーーもともと、小学生低学年の頃は直輝も今のように友達が多い方ではなかったのだ。いつも俺と一緒にいて、あまり人と話すのが得意じゃない。……そんな今の俺のように。
しかし、中学に入った頃くらいからだろうか……?
それまで、あんまり人と関わろうとしていなかったあいつが、いつの間にか、男女問わず色んな奴と話すようになっていったのは。
しかもそれには、とても分かりやすい明確な社交的になった理由があって……
「(まあ、分かりきった事だけど……直輝が普通に女子からモテだしたからだよな。小学校の頃も数回告白されてるのは知ってたけど、中学からはそれが段違いに増えたからなぁ。
しかも、それに比例するようにして、男子たちも露骨に直輝に対する態度を変えたしな。モテる奴には楯突かないっていうか、女子に嫌われないように必死というか、いかにも男子中学生って感じの理由で。)」
そして、そんな風に下心を隠さないで擦り寄る男子たちと、度重なる女子たちからの告白や会話などでコミュ力が日に日に磨かれ、次第にコミュ力の塊のような今の直輝になったという訳である。
こんな風に言ってしまえば、イケメンじゃない俺の僻みみたいになってしまうが……。俺も少しはそういう環境で、そういうルックスであれば、直輝のように陽キャの仲間入り……とまでは言わないが、今よりはもっと社交的になっていたとは思う。
ーーまあ、そんな仮定に意味なんてないのだが。
すると、そんな風にぼんやりと直輝の後ろ姿を眺めていた俺の横を、ガンッ!と1人の女子が俺の席に当たりつつ、そのまますぐとなりを通り過ぎてーー
ーー次話へと続く。ーー
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