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自分とは違う存在の話。
しおりを挟む「あっ、おはよー!華鈴、姫沙羅!ごめーん!ちょっとだけ寝過ごして遅れちゃった。
いやー、この頃寝るの遅くなっててヤバいわー。」
「あっ!夏樹おっそーい!今日朝から待ち合わせって言ってたじゃーん。電話掛けても出てこないし……何かあったのかって心配だったんだよー?」
「そうそう。夏樹の事だから寝てるだけだって言ってたんだけど、華鈴が心配しちゃってねー。
何かあるのは分かるけど、あんまり華鈴の事心配させ過ぎたらダメだぞー。ほらコイツ、ちょっとだけメンヘラ入ってるからさ。」
「あはは、ごめんごめん。華鈴も心配してくれてありがとね。ただの寝不足だから、そんなに心配しないでー。ねっ?それと姫沙羅、いつも華鈴のフォローありがとー。何はともあれ助かるよ。」
……まあ、なんと言うか、Theっクラスの上位カーストの女子って感じ。クラスでも特に派手な印象の女子たちが、俺の横を当たり前にスルーしながら通り過ぎ、遅めの登校をしてきた。
そして、その中のリーダー格の女子、小川 夏樹が意識してか分からないが、俺の席に当たってきた。あと、勿論の事ながら俺の方には一瞥もくれていない。
まさに、雲の上の存在というか……異性である事も相まって、俺からすると完全に別世界の存在たちだ。
「(なんでも、この小川ってのがこのクラスの女子のボスキャラなんだよな。口調はちょっとキツめだけど、意外と見た目は正統派の美人って感じで。
あとその取り巻きも、結構レベルの高い綺麗どころで、まあなんと言うか……イヤでも周りの目を引く存在って感じだよな。うん。)」
そして勿論の事ながら、俺と彼女たちの間に接点なるものは、微塵も存在していないのだが……直輝に関しては、彼女たちと楽しそうに話す様子を入学してからの2ヶ月で結構目撃していたりする。
あまり、彼女たちからはクラスの男子に話しかけたり、気軽に声を掛けたりはしないのだが……。やはり、彼女たち上位カーストの女子であっても、直輝のようなイケメンは無視出来ない存在であるようだ。
すると、その中で1番目立つ存在である女子生徒、小川夏樹がとててと歩いて、少し前の方の席に座る直樹の方に歩み寄る。
「あっ、おはよー!鷹宮くん!もしかして今、宿題やってる感じ?もし、よかったらだけど……私のやつ見せてあげよっか?……な、なんてね。」
「んー?おう、小川さんか。まあ、宿題をやってるのはその通りだけど……でも大丈夫、問題ないよ。
もう殆どが太一の……中峰の家での勉強で終えてるし、あとは自分の力でやるから、気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう、小川さん!」
「う、うん、鷹宮くんが大丈夫ならいいんだけどね……。それに……宿題を自分でやるのはいい事だよね!ごめんね!あたし変な事言った。」
ーーうーん、なんだろう……?なんとなくだけど、小川さんが言いたいのはそういう事ではないような気がする……。俺が言うのもなんだが、直輝にはもっと直接的に言わないと意味がないような……。
あいつにとって、クラスの中心的存在の小川さんでも、他の女子と対して変わらない認識なんじゃないかのように思える。
俺はそんな事を考えて、少しだけ小川さんが可哀想だなぁと、その後ろ姿をぼんやりと眺めているとーー
「ほらー、席につけよお前ら。出席とるぞー!」
「うわっ!松原いつもよりも来るの早ーい!えっ、どうしたのー?今日はHRでお知らせがある感じー?」
「うん?誰だ……?って、なんだ……内田か。いつも俺の名前を変な呼び方するなって言ってるだろ?
ほら、お前も早く席に着け。今日は内田の言うように、ちょっとしっかりしたHRを行うぞー。」
「もー、なんだ……って酷いなー。松原先生!
折角、女っ気のないせんせのためにカリンが話し掛けてあげてるのにー、せんせはもっと喜ぶべきだと思うよー?だってJKだよー!?現役の女子高生!」
すると、突然ガラガラと教室の前方にある扉が空いて、その扉からこのクラスの担任兼数学教室である松原 大志先生が入ってきた。
たしかに内田さんの言う通り、いつもはここまで早い時間に教室に来る事はないのだが……やはり彼女の予測通り、何か重要なお知らせなどがあるようだ。
ーーと言うか、おそらく今日の『運命の相手』の発表についてのお知らせとか、そんなものだろう。
でも、なんと言うか……松原先生の言っているように、内田さんの先生への話し方というか距離感が、まるで自分の友達に対するそれのようで……教師に対して、本当にそれでいいのか感がある。
そしてそんな内田さんの軽口に対し、松原先生はやや呆れ顔で彼女の言葉を溜め息と共に受け流してーー
「はぁ……なんで俺が自分の教え子との会話を喜ばないといけないんだ。そもそも俺からすれば、お前は女である以前に自分の教え子の1人だからな。
まあ、そういう訳だから……早く席に着けよ。」
「えー!カリンは先生にとってそんな微妙なポジなのー?はぁ、せんせってばお堅いんだからー!」
「いや……うん。まあ、なんだ……後でゆっくりとお前の話を聞いてやるから、とりあえず今はHRを始めるから早く席に着いてくれ……。
なんかもう、内田の言葉に対して真面目に答える方が間違っているような気がしてきたぞ……。」
と、松原先生は完全に内田さんの事を諦めて、半ば受け流すような形で話を無理やり切り上げる。
……内田さんの軽口からとは言え、松原先生の言葉も聞く人によっては結構傷つくかもしれないので、それらを聞いてるこちらの方がドキッとしてしまう。
しかし、そう言われてしまった当の本人である内田さんは、その言葉に少しでも傷つくどころか、寧ろなぜか嬉しそうな声を上げてーー
「えっ!せんせ後でカリンとタイマンでお話ししてくれんのー!?それなら、今すぐ席に着きまーす!」
すると、あろう事か内田さんは先生の『後でゆっくりとお前の話を聞いてやるから』との発言を、文字通りの言葉として捉えて喜んでしまったのであった。
俺としては、先生と2人で話すのを喜んでいる事も驚きなのだが……それ以上に、あっさりと内田さんが先生の言う事に従った方が俺にとっては驚きだった。
「(内田さんも含め、小川さんたち3人の上位カーストの人たちは、見た目の派手さやその口調に反して、聞き分けが良かったりするんだよな……。)」
勿論それは、彼女たちが扱いやすいなどという意味ではなく、彼女たちが誰かと争ったり、教師に反発したりする事が殆ど見られないという意味でだ。
これは勝手な想像だが、こういう派手めな人たちはもっとヤンチャな性格で、人の話を聞かないような人が大半だと思い込んでいた。
ーーそのため、今目の前での行われている内田さんの行動を見ていると、なんだか不思議なものを見ているような気分になり、改めて、彼女らがどんな存在なのかが分からなくなってくるのだ。
そしてその後、内田さんが大人しく自分の席に着席して、その近くでいた小川さんも直輝との雑談を切り上げ、自身の席に戻ろうとこちらに歩いて来た訳なのだが……なぜかギロッと、そんな擬音が聞こえてきそうな眼光で、俺の横を通った小川さんが俺の事を睨みつけてきたのであった……。
ーー後ろから不躾に眺めていたのは俺が悪かったとはいえ、その……すごい怖かった……。
ーー次話へと続く。ーー
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