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2人の相性が最悪だった話。

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「なに……?手、跡になったら嫌だから……早くこの手を離してくれないかな?大橋?」

「あの、お言葉ですが……中峰くんがあなたに話し掛けているのに、それに何も言わず立ち去るのは……少し違うんじゃないですか?
 それに……私たちの話を盗み聞きしていたことについても、まだ説明をされていませんよ。」


 ーー目の前で繰り広げられる静かな攻防。俺はそのジワジワと圧力を増す2人の交錯する視線に……ホントに情けない話、男でありながらも、そのかなりの威圧感にびびってしまっていた。

 片やクラスの美人代表的とでも言うべき生徒ーー小川 夏樹こがわ なつきさん。彼女は言わずと知れた上位カーストの住人で、俺とは文字通り住む世界が違う存在だ。

 もしこんなきっかけがなければ、一生関わり合うことなどなかっただろう……。

 そして、大橋さんも言わずもがな……それに負けず劣らずの美人でーーホントに一体なんで、俺なんかに友好的に接してくれるのか、これが分からない。


 ーーと言うか……そもそも、どうして小川さんは大橋さんに少し攻撃的なんだろうか?

 俺に関しては……まあ、存在が気に入らないとかそういう理由でも、正直分からなくはない。(いや、ホントは分かりたくはないんだけど……。)

 しかしーー大橋さんに関しては……そんな理由などでは無いだろうし、俺にするような塩対応だけならともかく、ここまで大橋さんに対して攻撃的に接する理由などは、皆目見当がつかない。


 だが、俺が彼女たちを前にあわあわしている間にも、2人の舌戦はなおも続いていて……


「はぁ?私が中峰にどう接しようが、アンタには関係ないでしょ。それに盗み聞きって……アンタが空き教室に誰もいないって勝手に考えて、それでこんな所で話してることの方が悪いんじゃない?
 それとも、なに?まさか、優等生の大橋ともあろう人が、こんな人も寄らない空き教室の前で、なにかよからぬことでも話し合ってたのかな?」

「なんですか?たとえ、私がなにかよからぬ話をしていたとしても……それこそ、あなたにはなんの関係もない話でしょう……?
 それにーーそもそも私が言ってるのは、のマナーの話であって……話の内容がどうだからなどとは、こちらから一言も言っていません。」


 と、どちらも一歩も譲らないと言った様子で……言葉もそうなのだが、お互いの刺すような視線が非常に攻撃的で、遠くから見るよりも二倍は恐ろしい……ような気がする。(勿論、俺の体感で)

 ーーやはり、なにかしらの因縁が2人の間にあるのだろうか……?そんなことを疑ってしまう程には、2人の相性は最悪なようである……。


「(でも……よくよく考えてみたら、大橋さんと小川さんって属性は真逆だけど……結構似てるんだよな。
 ーー2人とも美人で、華があるって所以外でも。)」


 ……考えてみれば、2人の共通点は結構多いのだ。

 2人とも形は違うとはいえ、その行動や言動に一定の影響力があり……まさにそれに比例するような形で、両者ともその交友関係がとても広いのだ。

 それ故ーー彼女たちの一挙手一投足がよくウワサとなってこちらにまで届き、俺のように友人の少ない人間であっても、彼女たちの話はよく耳にするのだ。

 ーーだからそういった点なども、大橋さんと小川さんのある意味共通点であると言える。


 そしてーーこれは今日初めて分かったことなのだが……2人とも、好きな相手や、現在付き合っている相手はいないということである。

 正直、俺としてはーー小川さんが直輝のことを少なからず意識していると知っていた為、今回の話に際して、何かしらの行動をとると思っていたのだが……予想外にも、相手が俺であると知った時に騒いだだけで、特にそれ以上の行動は起こしていないようである。(例えば、先生に凸するといったことなどは。)

 ……とは言え、勿論ーー小川さんが俺のことを認めた訳ではなく、ただそれに対してなす術がなかっただけなので……出来るだけ、彼女の気の触るような行動はしないようにしたいものである。


 ーーそして、そんなことを考えていた俺の目の前で行われる、この2人の一歩も譲らぬ攻防。

 大橋さんの口から、少しでも自分の名前が出ているだけにとても気まずい……と言うか、なぜこんなにも相性が良くないのかと、頭を抱えたくなる気分だ。


 すると、尚も舌戦を繰り広げていた2人であったが……しばらくすると、先に小川さんの方が折れたのか、「はいはい、分かりましたよ……。」と言い、キッ!っと鋭い視線をこちらの方に目を向けてーー


「勝手に盗み聞きしてごめんなさい。あと、中峰のことも無視したのもついでに。ーーでっ、これで謝ったしもういいよね?私、帰るから。」

「……あっ!う、うん。さよなら……。」


 その視線の鋭さに比べ、全く覇気のこもっていない棒読みでそう言うと……辛うじて言った俺の別れの言葉に反応することなく、サッサと足早に立ち去って行くのだった……。

 ーー大橋さんの横を通り過ぎる際、今日一恐ろしい眼光で睨みつけるという大変なオマケ付きで。


 そうしてーー俺と大橋さんはその後も話し合いを行い、とりあえずは(当初の予定である)演技として、今後も定期的に2人で会うことを約束し、今日はこれで解散する流れになった。

 正直俺としては、憧れの大橋さんと定期的に会える事実に、得も言われぬ嬉しさがある反面ーーなんとなくではあるが、これまでのような……良く言えば平穏、悪く言えば単調で面白みのない生活が、これでとは全く違うものになるのだと。

 ーーそんな、どこか予感にも似た確信が、俺の心の中にはあるのだった……。


 ーー次話へと続く。ーー
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