上 下
2 / 3

小さくたって大丈夫?『俺、神さまなんだ/分かってます!分かってますからね!』

しおりを挟む
 
「おーい!!そんな所でぼーっとしてたら危ないぞー!ここは人通りが多いからもっと端に寄っておけよー!」

「あらー!可愛い男の子だねぇ!このりんごいるかい?」

「おー!ありがと!オッサン!ぼーっとしてた!
 それとおばさ……いや、お姉さんもありがと!りんごって言うのか……それ?でも、貰えるならありがたく貰うよ!」


 ここはとある人間界の、何処にでもある普通の街。

 そんな普通の街並みと人々に溶け込むようにして、1人の少年……少し見た目が可愛いらしいが、何処にでもいるような普通の男の子がこの街に訪れていた。

 そこにたった今訪れたーーいや、正確にはたった今ここにその少年は、ここに現れたその一瞬だけ。少しの時間だけそこに立ち止まっていた訳なのだが……周りからはその場でぼーっと突っ立てるように見えていたみたいだ。

 そして、その少年ーー男神エクスが小さくなってしまった姿をした男の子は、持ち前の明るさとから教えられた女性についての取り扱いスキルを存分に発揮し、無事安全な場所と食べ物……それに教会とやらの信者が集う場所の位置まで教えてもらえた。


「(それにしても、なんで俺こんなにも小さくなってるのかな?モイラたちには言ってなかったけど……俺の体調が全快じゃなかったから、こんな風に身体が小さくなったのか?
 ドルイトも何も言ってなかったし、原因はそれくらいしか思いつかないんだよなぁ……。)」


 俺は心の中でそう考えながらも、これからどうやって自分の信者を増やしていくのかについて、軽く色々な状況を想定して想像してみた。

 たとえば、圧倒的な神の力による人間界の支配。このような小さな身体になっても、おそらく人間界の全て……この世界の全ての生物と敵対したところで、まずやられる事はないだろう。

 これは驕りでも思い上がりでも何でもなく、ただ事実としてそうであり、それ程までに人間と神とでは、圧倒的なまでの戦闘力の違いがあるのだ。

 だが……それを実際に俺が行うかと言うとーー


「うん。それって普通にめんどくさいし……。人間を無駄に殺しても信者なんて絶対増えないよな。だって普通に怖がられるだけだし、俺だってそんなの嫌だ。」


 俺はこの下界に沢山の信者を増やしに来たのであって、決してこの下界を支配しに来た訳ではないのだ。

 なので武力以外の方法での信者獲得というのが、俺が下界で信者を獲得するにあたる大きな課題となるのだが……


「だ、だめだ……。武力以外で信者を増やすいい方法が全然思いつかない……。ていうかそもそも、どうやったら信者って増えるもんなんだ……?」


 俺は悩んでいてもその方法が全く思いつかず、ただりんごを咀嚼する時間だけがドンドン過ぎていく。


 そして俺がそんな風に頭を抱えて、これからどうするべきかと悩んでいると、こちらに駆け寄り「大丈夫……?」と、そっと俺に声を掛けてくる女性の姿が。


「あの……ボク、大丈夫……かな?すごい難しそうな顔をして悩んでいたけど……。もし良かったら、お姉さんに何かお手伝い出来る事とかないかな?どう……かな?」


 そうして俺に声を掛けてきた人間。頭にフードのような布を付けているその女性は、頭を抱えて困っていた俺の事を心配して、そのように声を掛けてくれたようで……初対面にもかかわらず、どうやら俺の助けになれないかと申し出てくれているみたいだ。

 しかしその話し掛けてきた女性はまだ歳若く、あまりそんな風に人に声を掛けた事がないのか、何処と無く落ち着かない様子である。


 俺はそれを見て彼女を不安にさせまいと、努めて明るめの声、元気な笑顔でその女性に対応する。


「うん!わざわざ声を掛けてくれてありがと!ちょっと考え事してただけだから……。お姉さんが心配するような事じゃないし、全然大丈夫!今から……教会?ってとこに行くつもりだから……俺はもう行くよ!」


 あんまり難しく悩み過ぎても仕方ない。とりあえずはその教えられた教会とやらに行ってから、今後について色々考えるのもいいだろう。

 俺はそんな事を考えながらその女性に背を向け、彼女の返事も待たず、教えられた道に向かおうとすると……ガシッと、その女性が俺の手を掴む。


「……?どうしたの?」

「ボク、教会に向かっているの?」

「うん。なんかそこに行けばにもしかすると会えるかなぁって……。別に待ち合わせとかはしてないけど、会えそうな気がするんだよね。」

「……?そ、そうなんだ?ま、まあボクが教会に向かうのなら私も一緒に向かうよ。実は私そこで務めるシスターの1人なの。ーーシスターと言っても、まだ見習いだけど……ね。
 でも、ボク1人だと途中迷っちゃうかもしれないし、子供1人で歩くのはやっぱり危ないよ。だから、私もボクと一緒に行ってもいいかな……?」


 どうやら、この女性はその教会とやらの関係者らしく、わざわざ俺の事をそこまで連れて行ってくれるみたいだ。

 そのシスター?というのもよく分からないが、もしかすると、この女性のような優しい人間の事を指す人間界の言葉なのかもしれない。


 なので俺は、彼女の方からその教会に連れて行ってくれると言うのであればありがたいと思い、「ああ、もちろん大丈夫!」と言い、2人並んで歩き始める。

 すると2人で歩き始めてすぐ、彼女の方から俺に話し掛けてくる。


「さっきは突然ボクに話し掛けてごめんね?私、シスターのメアリーって言うの。この街の小さな教会に住み込みでお務めしていて、君みたいなまだ小さい……身寄りのない子たちの事をお世話してる。
 だから、ボクにもちょっとお声を掛けさせて貰ったの。」

「いや、大丈夫だよ。俺もちょっと困ってたのは事実だし。
 お姉さんが声を掛けてくれたから、あんまり悩まずにいこうかなって思えたんだ。だから……ありがと。
 それと俺の名前はエクスって言うんだ。この街の事とか色々と知らない事が多いけど……よろしくね、メアリー。」


 俺は彼女、メアリーにそう言うと、この世界に来て小さくなってしまった自分の手を差し出し、彼女に「よろしく」の意思を示す。

 たしか人間はこうやって友達を増やすと聞いた事があるので、俺はその小さな手を差し出した訳であるが……一体どうしたと言うのだろう?

 メアリーがなんだかポカンとした顔で俺の事を見てくる。


 それを見た俺はなんだか不思議に思ったので、「どうしたの?変な顔して?」と、率直に思った感想をメアリーに述べる。

 するとメアリーはハッとした様子で、「ごめんなさい。少し驚いてしまって……。」と言い。


「いえ……なんだかエクスくん。すごいしっかりしてるなって思って。ごめんね。変な事言って……。
 でも、すごいね!エクスくんは。教会にいる子たちの中にも、エクスくんと同じくらいの年齢の子もいるんだけど……そんなにしっかりしてる子は1人もいないよ。
 私、大人の……。それも私よりももっと大人な男の人とお話ししてるみたいに錯覚しちゃって……。なんか私……ドキドキしちゃいました。ーーって、何を言ってるんでしょう……私……。エクスくんはまだ子供なのに……。」


 なんだか恥ずかしそうな顔で彼女は俺を見ると、少しだけ顔を赤くして、すすすっと俺の方から顔を逸らす。

 その目はなんだかあわあわと揺れていて、見ていてなんだか興味深いものだ。


 しかし、それを聞いた俺は彼女には言わなかったが、心の中では「まあ、見た目通りじゃないし……当たり前だな。」と頷く。

 そもそも、年齢が見た目と違うどころか種族そのものからメアリーとは全く違うのだ。それによって彼女が違和感を感じてしまうというのも仕方のない話だ。


 なので、俺は特に隠す必要もないかと思い、メアリーを安心させる目的で軽いフォローを入れておく。


「あーうん。俺、実は見た目と年齢が全然違うんだ。
 だから、メアリーが変に思うのも仕方ないし、それが普通だと思う。だって……俺の方がメアリーよりも何歳も歳上だからね?
 まあ、別に隠すつもりもないし言っとくけど、俺、違う世界から来た本物のなんだ。
 色々目的があってこちらの世界に来ただけだから、怖がらず、これからも仲良くして貰えたら助かるかな。」


 別に自身が神である事をメアリーに伝える必要はなかったが、俺はなんとなく、彼女が安全な人間だと判断したので真実を伝えた。

 もしかすると、これによって彼女が俺を恐れてしまい、側を離れて行ってしまう……そんな不安も多少心の中にはあったのは事実だが。

 それでも、見知らぬの俺の事を助けようとしてくれたメアリーに、せめてもの誠意を示したいとそう思ったのだ。


 すると、それを聞いたメアリーはキョトンとした顔をしたのち、なぜかすぐに笑顔になって……


「そう……ですね!エクスくんは神さま……って設定なんですよね!子供のおままごとみたいな、そんな感じで!
 ふふふ。大人のような言動をしていても、エクスくんにもまだまだ可愛いところがあるんですね?私なんだかホッとしちゃいました。
 でも……そんなエクスくんも可愛らしいので、私は全然いいと思いますよ?ですから……仲良くしましょうね?」


 と、俺にそう言ったメアリーは先程までの少し緊張した様子から考えられない程、落ち着いた様子で俺の頭を撫で「分かってます。私、分かってますからね?」と優しく俺の話に理解を示した?ようである。

 よしよしと撫でるその手は優しくて、何やら変な事をメアリーが俺に言っていた事も気にならなくなってしまう。

 そのため、俺はくすぐったい気持ちのまま、メアリーにされるがまま頭を撫でられ続け、教会に到着する頃には設定云々言われていた事など、あっさりと忘れてしまったのだった……。
しおりを挟む

処理中です...