彼女と突然別れて落ち込んでいたはずの俺が、次の日から色んな女の子と仲良くなっているのはなぜだ?

リン

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第十話 見失った心

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「俺は……三葉先輩との約束を優先する。だから、ごめん麗奈。……いや
 また別の……用事がないときになら生徒会の手伝いもしてあげる事は出来るけど、今日だけはどうしても無理だ。だから悪いけど他の人に頼んで欲しい。」


 私、黛 麗奈まゆずみ れいなは、彼、相川 相太あいかわ そうたの発したその言葉の意味を、彼が私の誘いを断ったという現実を一瞬理解する事が出来なかった。


 ーーなんで私が断わられているの?

 どうして彼は大岡先輩の手を取って、私の手は離してしまうというの……?

 なんで……?どうして……?


 そんな処理出来ない感情の嵐が、私の中を渦巻いて……、私の心をかき乱す。

 そしてそんな中でも、嵐のような感情の波が私の心を止む事なく打ち付けてきて……。


 痛む心を押さえるように、彼に離されてしまったその手握りしめ呆然と立ち尽くすだけの私には、その場から動く事も、言葉を発する事も、彼と彼女を呼び止める事も……、その何一つも出来なかった。


 しかし無情にもそんな私を置きざりにしたまま、彼と彼女はお互いの手を握りしめ、二人でそのまま教室を出て行ってしまう。


「(行かないで!待ってよ……相太!)」


 そんな彼を呼び止めるための、口まで出掛かった「待って」の言葉でさえ……、彼の離れてしまった心の行方を見失ってしまった今の私には、ついには教室を出て行ってしまった相太にその一言を掛けることでさえ叶わないのであった……。

 そうして相太のいなくなった机をただじっと見つめ、記憶にある彼の面影をその机に映し出しては、その一つ一つを思い出して、先程の彼の変化を思い浮かべていると……。


「……どうしたの?あれ……。」

「おい!あれどういうことだよ!相太の方が振られたんじゃなかったのか!?」

「黛さん、どうしちゃったんだろ?」

「だ、誰か黛さんに声を掛けた方がいいんじゃないか?」

「でも……、俺たちじゃ黛さんの力には。」

「そう……よね、私達と黛さんでは……。」


 1-Bの教室からは口々にそんな声が、先程の出来事に対してのさまざまな反応がこのクラスの生徒の人達からは発せられていた。

 その大半は今の状況に対しての疑問の声であったが、中には立ち尽くすだけの私を心配する人達の声もチラホラ聞こえてくる。

 しかし、そんな心配する人達の声は聞こえてきたとしてもーー


「(誰も私には近寄って来てくれない……。
 ーー誰も私のことを女の子としては見てくれない……。)」


 分かってはいた事だが、そんな風に改めて自分が周りの人間と違うこと、周りからは自分が違う存在であると認識されている事実を目の当たりして……。


「ーー戻りましょう。いつもの私に……。」


 そう小さく呟くと、私はの澄ました顔で静かに1-Bの生徒達の方を振り返り、「お騒がせ致しました」と小さく一礼してから、その教室を後にするのだった……。


 ・
 ・・
 ・・・
 ・・
 ・


 ーーー在りし日の想い出・麗奈視点ーーー

 ーーいつからだろう?

 私が彼のことをジッと目で追うようになって、彼のことばかりを考えるようになり、名前も行動も平凡な彼を私がそこまで意識するようになったのは?

 私がそんな彼を意識し始めたのは、初めはなんて事のないーー本当にがきっかけだったような気がする。


 ただ廊下ですれ違った際に、「おはよう」と挨拶をされただけ。

 ただ食堂の空いている私の前の席に、たまたま彼が座ってくれただけ。

 ただ私がふった話に、彼がニコッと笑って応えてくれただけ。

 ただ彼が私と話をする時に、目をちゃんと合わせて会話をしてくれたというだけ。

 そんな何気ないごく平凡に見える普通の行動の数々が、私が彼を意識し始めた、初めて彼のことを気になる相手として認識し始めたキッカケだったと、今ではそう思っている。


 しかしそれらがキッカケだと言うと、「そんな言葉くらい誰だって言うし、誰だってしているよ」と言って、そんなのが本当にキッカケなのか?と、笑う人が沢山出てくるかもしれない。

 「そんなのは嘘だ。どうせ他にもっとちゃんとした、明確な理由があって付き合ってるんだろう?」と言いながら……。


 しかし、そんな人たちに向かって、私は声を大にして言ってやりたい。

「そのの行動を、一体どれほどの人間が私にしてくれたのか?」と。


「黛さんは特別。」「黛さんは人とは違う。」「黛は天才だな。」「黛さんは住む世界の違う人だし……。」


 私は小さい頃から、そんな言葉を周りの人達から言われ続けて今まで育ってきた。

 人よりも優れた成績、人よりも優れた美貌、人よりも優れた才能。

 それら全てに対する評価の結果が、先程の私に対して発せられた言葉の数々であった。


 ーー黛は特別だから……、俺たちとは住む世界が違う。

 ーー麗奈は天才だから……、なんでも人よりも出来て当たり前。

 そんな言葉の数々の中で育ってきた私にとって、彼のその言葉や行動は当時の私にはどれ程眩しく、そしてかけがえのないものとして映っていたことだろうか?


 廊下をすれ違った際、余所余所しい様子が見られず、普通に挨拶してくれる彼 。

 満員の食堂でも誰一人として座らない私の前の席に、当たり前のようにして「ここ座ってもいい?」と聞いて座ってくれる彼。

 私がふった何気ない会話に、変に強張った作り笑いなどではない、本心からの笑顔をみせてくれる彼。

 ーー私に話しかけてくる時に目を逸らすことなく、私の目を見て会話をしてくれる彼。


 その彼の言動のどれもが私にはとても嬉しく、そして他とは違う人間である自分を唯一同じ人間として見てくれているような気がして……、とてもドキドキしてしまった。


 そしてそんな風に彼を意識し始めて、それを自覚した私のそれからの行動はとても早急なものであった。

 自覚した次の日には彼を放課後に呼び出してそこで彼に告白して、その場で私と付き合うことを彼に承諾させたのだ。

 自分を普通の女の子として見てくれる彼と、少しでも一緒に会話していたい。

 他の誰にもない、そんなの魅力を持つ彼を他の人に渡すなんて絶対にしない。

 そんな思いからの行動の速さであった。


 しかし当時の私はまだその行動の意味を、その行動がもたらす彼への変化の意味について、その時はまだ気づく事が出来なかった。

 そうして中学3年生の冬、何も知らない私と彼の関係は、その始まりを迎えると同時に終わりを迎えることになったのだった……。

 ーー掛け違えたボタンの存在を、その時はまだ知らずに。
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