彼女と突然別れて落ち込んでいたはずの俺が、次の日から色んな女の子と仲良くなっているのはなぜだ?

リン

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第二十四話 第一女学院生徒会

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「あっ!どうもこんにちは~相川くん。アタシは『第1女学院』生徒会長の猫井 環ねこい たまきだよ~!
 わざわざ放課後に、こっちの学校まで来て貰ってホントごめんね?」


 俺の対面にいる女生徒、俺の在籍する『第1高校』とは違う制服を着た『第1女学院』の生徒会長である所の猫井 環ねこい たまきさんが、そのように軽い調子で俺に挨拶してきた。

 その顔はニコニコと笑顔を浮かべていて、とてもじゃないが、今から行われる深刻な話し合いに参加する人の表情ではなかった。


「(軽い!あまりにも挨拶が軽い!おそらく学年は1つ上の先輩だとは思うけど……。女子校の生徒会長だから、もっとお堅い人を想像してた!あんま華やか過ぎるのもアレだけど、これはこれでやり辛そうだな……。)」


 俺は若干失礼な事を考えつつ、猫井生徒会長の挨拶に居住まいを正して応える。


「はい。こんにちは、そしてはじめまして!俺は『第1高校』1年B組の相川 相太って言います。それと今回は緊急事態なので、このくらい全然大丈夫です!お気遣いありがとうございます。猫井生徒会長。」


 出来るだけ丁寧に猫井生徒会長に受け答え、何か粗相が無いようにと気を遣う。

 いくら相手がこちらにフランクな態度で接してきていても、最初から気の抜けた態度ではこちらの印象を悪くしてしまう。

 何と言っても、今回俺が『第1高校』の男子代表としてこちらに来ているのだから……。


 すると、その挨拶を聞いた猫井生徒会長はより一層笑みを深くして、うんうんと何やら頷くような仕草を見せる。


「ふぅん……。やっぱり相川くんはから聞いていた通り、こっちに色々気を遣っているみたいだね?ここに来てから文句1つ言わないし、アタシには失礼の無いようにってずっと気を遣ってる。
 ちょっと受け応えが堅いような印象も受けるけど……、まあ今回が初の対面だし、それはしょうがないかな?」


 先程までのニコニコした顔とは一転、真面目な表情で俺の方を見つめると、そのような冷静な分析を自ら確認するように呟く。

 その冷静な姿勢は俺が想像するような生徒会長よりも、遥かに貫禄のある堂々としたものであり、先程とのギャップに面食らう。


「(よかったー!調子に乗った態度で受け応えしなくて本当によかったー!さっきと同じように笑顔を浮かべてるけど、今度のは本物っぽいやつだな……たぶん。
 この感じは……あちらからの第1印象はまずまずって感じなのかな?)」


 その言葉にちょっとだけホッとしつつ、少しだけ冷静になって辺りを見渡す。

 今、この生徒会室にいるのは俺と猫井生徒会長の2人だけであり、他の生徒、俺を連れてきた犬神委員長に高木委員長、それと何故か付き添いで来た三葉先輩は『第1女学院』の副会長2名を呼びに行っている。

 最初入った時には生徒会書記の女の子もいたが、それも猫井生徒会長の指示で高木委員長達と一緒に呼びに向かった。

 なので俺は、意図的に猫井生徒会長から2人きりの状況を作られてしまったので、何を言われるんだと、とてもドキドキしていたのだが……、色々と考え過ぎだったみたいだ。


 そして室内を眺めていて思ったのだが、この部屋にはお菓子やティーカップなどが結構たくさん置いてある。

 せんべいや駄菓子、それにスコーン?のようなものまで和と洋どちらのお菓子も置いてあり、『ここはホントに生徒会室か?』と思わず疑ってしまう程だ。


 すると、それを見た猫井生徒会長は「相川くん、お菓子食べる?」と聞いてくる。


「まあ、簡単なもてなしにはなるけど……はい、お菓子をどうぞ。他の生徒会の子達が持ってきたものだから、相川くんも遠慮しないで食べてね?……あっ!それと紅茶も淹れてあげるね?相川くん、紅茶飲めるよね?」


 最初のように心配になるようなフランクさではないものの、かなり砕けた口調で猫井生徒会長はそう俺に問いかける。

 というか、俺が返事をするよりも先にティーポットを手に取り、ポコポコと紅茶を2つ分のティーカップに注ぎ込んでいる。

 しかし、その所作は口調に似合わずとても丁寧なもので……、正直、その砕けた雰囲気と口調も相まって違和感がハンパない。


 だがそれを直接言及する程俺も馬鹿ではないので、ここは黙って感謝の言葉を述べる。


「はい。ありがたくいただきます。紅茶は俺も好きですし、お菓子も遠慮なくいただきます。
 正直に言うと、猫井生徒会長に紅茶を淹れていただけるなんて想像もしていなかったです。なので……、実際に紅茶を淹れていただいて、俺の猫井生徒会長に対する印象が変わったので、とても新鮮に感じます。」


 と、失礼にならないように気を使って、その違和感をオブラートに包んで伝える。

 別にそれについて触れなくてもいい事なのだが、この人に対しては思った事を誤魔化すよりも、ハッキリと違和感を感じたと伝えた方が良いと思ったのだ。

(まあそれでも、オブラートに包んだ言い方をする必要は勿論あるんだけど……。)


 恐らく、このタイプの冷静に言動を分析する人には、変な嘘や誤魔化しは通用しない。

 それどころか、逆にそれが相手の俺に対する不信感が増す結果に繋がったりするのだ。

 そして今の俺は試されている立場、そのような不安定な立場での相手からのマイナス評価は出来る限り避けたい。


 俺はそのような考えで、猫井生徒会長に感じた違和感をオブラートに包んで伝えた訳なのだが、何故だか猫井生徒会長はその言葉に嬉しそうに反応して笑う。


「へぇ……?にはアタシが紅茶を自分で淹れたことが新鮮に感じたんだ?
 アタシ結構みんなからは淑女って言われる事が多いのに、そんな事言われてすごいショックだなぁ……、なんて、ねっ?
 まあ、アタシが紅茶を淹れる事なんて殆どないからね。相太くんが違和感を感じても仕方ない事だと思うよ?
 ーーでも、それをハッキリと言ってくるのは正直アタシも意外だったかな?……でも、そこがいいね。うん、すごくいい。」


 笑みを浮かべているが、その節々に微弱ながらの鋭さをチラつかせ、猫井生徒会長はそのように言って俺に微笑みかける。

 そして意識的か無意識なのかは定かではないが、猫井生徒会長は時折、その名と同じ猫のように見定めるような若干鋭めの視線を俺に向けてくる。

 それが恐ろしくもありながら、どこかこちらを不思議な感覚にさせる。


「(俺にはMっ気なんて無いと思ってたんだが……、この身体の内側がゾクっとするような感覚がソレなのかな?)」


 そんな馬鹿な事を現実逃避気味に考えながらも、この場合どう答えればいいのかと考えあぐねて、思わず押し黙っていると……。


「……ああ、別に今の話に何か答えなくても大丈夫だよ。さっきのはアタシのただのだから安心して?
 ほら、それより紅茶が出来たよ。お菓子も一緒にどうぞ。うん!我ながらいい出来かな?環お手製紅茶の出来栄えはいい感じだね。」


 取り繕った明るめの口調で猫井生徒会長はそう言うと、俺に紅茶入りのティーカップとお菓子をズイっと差し出す。

 そして、それを受け取った俺と猫井生徒会長は向かい合う形で座り、そのまま二人でお菓子タイムに突入する。


「そういえば、雫は何でこっちの学校なの?
 君らくらいの仲の良さなら、『同じ学校がいい』って、そうはならなかったの?」

「いえ……、確かに雫はそう言ってたんですが、父親がそれを嫌がりまして……。それに雫が気を使っちゃったみたいで、こちらの学校になりました。
 あっ!でも、本人は結果的には良かったって言ってましたよ。やっぱり女同士だと気が楽な事が多いみたいです。」

「へー、大切にされてるねー。まあ、可愛い子だしね?相太くんに似て……ね?」

「いや……、無理にフォローしなくても大丈夫です。俺らが似てないのは自分達がよく分かってますから。まあ、でも……、雫が可愛いってのはその通りですからね。」


 などといった感じで、取り留めのない内容を猫井生徒会長と話しつつ、副会長やその他メンバーの到着を待つ。

 その間紅茶をお代わりなんかもして……。

 俺自身、猫井生徒会長の気遣いと温かい紅茶で、少し緊張が和らいだ気がする。


「(もしかして猫井生徒会長は、予めこれを狙って俺と2人きりになったのか?なんかこの人ならそれもあり得そうだ……。
 何はともあれ、俺をもてなしてくれているのは確かだから感謝しないとな。)」


 俺は猫井生徒会長に感謝しつつ、俺と生徒会長が取り留めのない会話に花を咲かせているとーーコンコン……ガチャッ!


「「「「失礼します。」」」」


 突然ノック音が鳴り、硬い声とともに生徒4名が中に入ってくる。

 そのうち2人は俺が知る生徒、三葉先輩と高木委員長なので見知った顔なのだが、もう2人の見覚えのない生徒が話に聞いた副会長なのだろう。……さあ、これからが説得本番だ。
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