神話干渉事件 ― 荒神斗真と均衡の王 ―

立花 猛

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プロローグ

――人類と悪魔の邂逅

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二〇××年。
人類は、初めて「悪魔」の存在を公式に確認した。

それは宗教的象徴でも、比喩でもなかった。
観測され、記録され、分析可能な――
人類とは異なる知性を持つ存在として、悪魔はこの世界に現れた。

彼らは言葉を理解し、契約を提示した。

――力を与える。
――代わりに、対価をよこせ。

その契約は明確で、合理的で、そして魅力的だった。

悪魔と契約した人間は、身体能力が向上し、知能が拡張され、感覚は鋭敏になった。
病を克服する者が現れ、貧困から抜け出す者が現れ、犯罪を未然に防ぐ者さえいた。

人はそれを「進化」だと呼んだ。

悪魔と契約することで、人は今よりも優れた人間になれる。
そう信じた者は少なくなかった。

政府は当初、悪魔の存在を否定した。
次に管理しようとし、やがて制度化した。

契約は登録制となり、悪魔は「特異存在」と定義され、
契約者は「能力保持者」と呼ばれるようになった。

悪魔は恐怖の対象から、資源へと変わった。

――ここまでは、公式記録に残されている事実である。

だが、記録には残らなかったこともある。

契約者の中には、徐々に感情を失う者がいた。
怒りも悲しみも感じなくなり、合理性だけが残る者。
あるいは、暴力性が異常に増幅し、理性を失う者。

彼らは「副作用」と呼ばれた。

契約の対価として、何を失ったのか。
それを正確に理解している者は、ほとんどいなかった。

さらに、人類は気づいていなかった。

――すべての人間が、悪魔と契約できるわけではない、という事実に。

適合しない者。
拒絶される者。
契約に耐えられない器。

そうした人間は、最初から切り捨てられていた。

やがて、非公式な市場が生まれた。

違法契約。
強制契約。
悪魔を“宿す”という手段。

悪魔は、もはや選ぶ存在ですらなくなった。
人間の側が、悪魔を管理し、兵器として扱い始めたのだ。

犯罪は進化した。

悪魔の力を用いた銀行強盗。
超人的反応速度による完全殺人。
空間を歪める密室犯罪。

警察は追いつけなかった。
法は無力だった。

そして、悪魔を使う犯罪を追うために、
悪魔を使う者が必要になった。

人々は、彼らをこう呼んだ。

――悪魔探偵。

その中でも、最も異質な存在がいる。

契約の記録がなく、
悪魔名の登録もなく、
それでいて、悪魔の力を自在に扱う男。

荒神斗真。

彼の体には、確かに悪魔がいる。
だが、どの記録にも、その契約は存在しない。

一部の者は言う。
彼は奇跡だと。

一部の者は言う。
彼は災厄だと。

だが、真実を知る者はいない。

――ただ一つ確かなことがある。

悪魔を狩り続ける彼の影には、
常に“もう一つの影”が寄り添っている。

それが何者なのか。
それが、いつから彼の中にいるのか。

その答えは、
まだ誰も知らない。
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