事故を起こさせない探偵 ―元刑事・天川の未来視事件録

立花 猛

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第六章

第二部 続・監視される者たち

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 港湾地区へ向かう車内は、異様に静かだった。

 ラジオは切ってある。
 斎藤健はハンドルを握ったまま、前を見続けている。

 「……いいんですか」

 天川が口を開いた。

 「正式な指示、出てませんよね」

 「出てない」

 斎藤は即答した。

 「だから、
  俺たちは“行ってない”」

 それは、逃げ道を自分で塞ぐ言い方だった。



 港湾倉庫街は、昼間でも人気が少ない。

 前回の火災以降、
 周囲は立ち入り禁止になっているはずだった。

 だが、
 規制線は剥がされ、
 誰かが出入りした痕跡が残っている。

 「……早いな」

 斎藤が眉をひそめる。

 「復旧作業にしては、
  静かすぎる」

 天川は、足元を見た。

 新しい靴跡。
 だが、作業靴ではない。

 ——革靴。



 倉庫の外壁は、前回よりも補修が進んでいる。

 焼け跡を、
 “なかったことにする”速度が異常だ。

 天川は、息を整えた。

 能力を使う。

 ——視る。

 映像が、浮かび上がる。

 夜。
 人影。
 懐中電灯。

 複数。

 そして、
 運び出される箱。

 前回、空白だった場所から。

 箱には、
 簡素な番号だけが振られている。

 ——証拠。

 だが、
 次の瞬間。

 映像が、また途切れた。

 「……くそ」

 天川は、歯を食いしばる。

 斎藤が、気づいた。

 「今、
  何か見たな」

 否定はしなかった。

 「……消されてます」

 「誰に」

 「分かりません。
  でも、
  警察です」



 その時だった。

 遠くで、
 エンジン音。

 黒いセダンが、
 倉庫の前で止まる。

 降りてきたのは、
 スーツ姿の男。

 ——会議室で会った男。

 「……やっぱり来たか」

 斎藤の声が低くなる。

 男は、二人に向かって歩いてきた。

 「非公式行動は、
  感心しないな」

 声は穏やかだが、
 視線は鋭い。

 「ここは、
  もう君たちの仕事場じゃない」



 「捜査妨害ですか」

 天川が言う。

 男は、わずかに笑った。

 「捜査は、
  終わっている」

 「終わらせただけです」

 一瞬、
 男の目が細くなる。

 「新人にしては、
  口が過ぎる」

 次の言葉は、
 はっきりとした脅しだった。

 「これ以上踏み込むと、
  君は警察にいられなくなる」



 斎藤が、一歩前に出る。

 「それ、
  正式な命令ですか」

 男は答えない。

 その沈黙が、
 答えだった。



 後藤直次が現れたのは、
 その直後だった。

 「……そこまでだ」

 後藤の声は、疲れていた。

 男は、後藤を見ると、
 表情を変えた。

 「まだ、
  庇うつもりですか」

 後藤は、静かに言った。

 「若いのは、
  何も知らん」

 「だからこそ、
  危ない」

 男は、後藤に近づく。

 「あなたも、
  十分分かっているはずだ」



 後藤は、天川を見た。

 短い視線。

 ——下がれ。

 天川は、拳を握った。

 だが、
 ここで逆らえば、
 すべてを失う。

 斎藤が、歯を食いしばる。

 「……分かりました」

 撤退。

 それが、この場の結論だった。



 署に戻ると、
 天川の机は、移動されていた。

 窓際。
 孤立した位置。

 誰とも、視線が合わない。

 「露骨だな」

 斎藤が、苦く笑う。

 「まだ、
  クビじゃないだけマシだ」



 その夜。

 天川は、自宅で一人、
 資料を見返していた。

 港湾倉庫。
 被害者。
 内部告発。

 そして、
 後藤茜。

 すべてが、
 一本の線で繋がり始めている。

 だが、
 線の先が、
 闇に沈んでいる。



 能力を使う。

 写真。
 名前。

 ——視る。

 今度は、
 完全に“拒絶”された。

 頭痛。
 吐き気。

 まるで、
 能力そのものが警告を発しているように。



 翌朝。

 天川は、呼び出しを受けた。

 内部監察。

 名目は、
 「事情聴取」。

 だが、
 実態は違う。

 監視は、
 次の段階に入った。



 天川黎人は、
 まだ知らない。
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