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白湯

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蜘蛛

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巣の中に卵を宿した小さな蜘蛛がいた。
殺虫剤を噴出すると、卵を置き去りに我先へと幾重にも自分の体から排出されたであろう繭のような家から這い出る。

子を置き去りにしてよろめくように、錯乱した蜘蛛は暴れたかと思うとポトリと壁から剥がれ落ちるかのように墜落した。
子を残した蜘蛛は、地面によろよろと落ちると次第にピクリとも動かなくなった。
無力だ。蜘蛛が嫌いとは言え殺虫剤をかけてもがき死に絶えるその様を見て安心する。自分よりも力のない存在を見て安心を憶える。

小さいながらも命を奪った。いや、奪ってやったのだ。

嫌悪感を持つものを人でなければ殺してもいいと思っている人は世の中に沢山いるだろう。ゴキブリだろうが、害獣だろうが大小では無いと思う。
これがもし愛でられた犬猫、ましてや人の子だとしたら問題なんだろうけど命というものは別に等しく価値が無いものだと思う。天秤の計りは人それぞれだろうが皆それぞれ正しくもないと思う。

そのまま、殺虫剤のスプレー缶を玄関前に置き今日も病院へ行く。
カウンセラーに話すことも特にないけれし、命がどうのと議論をする事もないので、今日の調子や食べた物なんかを話せば良いのかなと考える。
とても、今はスッキリしている。理由を聞かれたら嫌いなものを排除したより克服したと言っておけば良いのかなと思った。

僕の家から歩いてすぐの所に病院がある。
SSRIの抗不安薬を貰いにお酒を飲んだのでマスクをして歩いて赴く。意味の無い額に当てられる体温計は36.8度を計測する。
病院の職員が事務的に事を進め、今日も薬を貰うために先生と言われるなんでも薬をくれる便利屋さんと数十分の会話をする。

帰りの初夏の不安定な天気と、温い風が少し不快だけど休みの日に病院に行くのは、働いている日よりもずっと楽。


この病院は築何十年もあるだろう大きくも古臭いひび割れたコンクリートの建物。
入院患者の金切り声が鉄格子の窓から聞こえてきて、元気が良いなと感心する。
患者達は好きでここに来たわけでもないだろう、に落ち着く先がここだったのだろうが守られた存在なのは確かだ。
何か硬いもので叩く音が細い路地裏に響くと楽しそうだなと感じる。

病院の受付を済ませ、簡単な面談、直ぐに貰える処方箋と大量の薬。
その後で薬局に行きコンビニでアルコール入の缶を買い帰宅して、そのまま薬と流し込み明日を迎える。
淡々とした日々、なにも変わらない人生と退屈な時間の中でもそこそこ不満もない生活。だけど、何か足りない。いつも足りていない。そんな晴れない層の厚い雲がずっとのしかかっている。

家に帰ると蜘蛛が地面に丸くなって死んでいた。
自分の体を守るように、丸く丸く、丸く縮んでいた。
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