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03.侯爵子息カリウス
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何回か顔を合わせ、見知っていた少年が週三度、登城するようになったのは七つを過ぎた頃だった。まずは友人として、相性次第で側近候補として共に学ぶためだ。
カリウスは侯爵家の次男で、父親は代々宰相として王家を支えてくれた家門だった。彼にも優秀な兄がいた。彼自身は生真面目で物静かな性格だったが、似たような環境からか、いつしか打ち解けるまでになれた。
九つの頃、カリウスの幼馴染だという、公爵家の令嬢と出会った。
彼女はカリウスを見つけた瞬間、パッと花咲くような笑顔を浮かべた。彼女は自分の父に連れられ、挨拶をしに近づいて来た。
「タルク公爵家が娘、フランソワーヌでございます」
先ほどの大輪の笑みから可憐な微笑みに変えた彼女は、無理しているように見えた。
「殿下、この子は殿下とちょうど同い年でございます。以後、お見知りおきを」
彼女の父親は含みのある笑みを浮かべ、それとなく彼女をこちらへと押し出した。
確かに彼女は可愛らしく、印象も悪くない。カリウスが、背後で息を飲んだ気配がした。
フランソワーヌ嬢と出会ってから、なぜか彼女と遭遇する機会が増えた。
休憩時の中庭で、本を探しに行った図書室で、あるいは、移動時の渡り廊下で。
側には必ずカリウスもいた。所在なさげに佇むフランソワーヌ嬢はカリウスの顔を見る度、満開の笑顔を咲かせる。それから慌ててその笑顔を押し隠し、貴族令嬢らしい淑やかな微笑みを浮かべる。
「フランソワーヌ嬢はカリウスに会いに来てるんだよな?」
そうだといい、と思いながら呟いた言葉に、カリウスが面食らったかのような顔をした。
「公爵はご令嬢を第二王子殿下の婚約者に、と思っているようです。お気付きの上で、袖にされてるのかと思っておりました」
やはりそうなのか。
ため息が零れそうになったが、実際ため息をつきたいのはカリウスの方だろう。
カリウスに対する笑顔にあふれんばかりの好意を感じるのに対し、こちらに向ける笑顔はあくまでも社交的なものにしか見えない。いくら可愛らしいとはいえ、九歳の女児に微笑ましさは感じても、それ以上の感情は抱けない。
「カリウス、君はそれでいいのか?」
側近候補、いや、今では友人だと思っている彼に問いかけた。
「私――私は、あくまでも侯爵家の次男です。将来的に家督が継げるわけではありません。侯爵家の持つ子爵位を継げるくらいでしょう。子爵程度では、公爵家のご令嬢を迎えられる身分ではありません」
前世の知識からすると、この身分制度は前時代的、まったく馴染めない制度だった。
しかし、これが今の現状。
王族とはいえ未成年の第二王子程度がどうこうできるものでもない。
「仮にだが、フランソワーヌ嬢との婚約を蹴ったら……彼女はどうなる?」
「第二王子殿下との話が調わなかった場合ですか?おそらく、タルク公爵家は王家の血も受け継いでおります。この国に王女がいないので、政略的に他国の王族へと話が行くだけかと」
例え自分が婚約を回避しても、カリウスにチャンスが回ってくることはないのか。
どう見ても、彼らは両想いだとしか思えないのに。
偶然を装った出会いは、やはりタルク公爵の差し金か。
しかも、こちらから婚約を言い出すよう、彼女に言い含めているようで更に癪に障る。確かにフランソワーヌ嬢の器量からすれば、成功の可能性も高いだろう。
中身が同い年の少年だったのならば。
どちらにしろ、彼女との婚約を蹴ったとしても、このままではまた別の誰かがその後釜に座るだけ――
「カリウス。お前は自分たちの――お前と彼女の絆を信じられるか?」
「どういうことでしょう?」
「是と言うなら……考えがある」
答えを待つ間、ジッとカリウスの表情の変化を見守る。彼はしばしの逡巡の後、決心したようにコクリ、とうなずいた。
カリウスは侯爵家の次男で、父親は代々宰相として王家を支えてくれた家門だった。彼にも優秀な兄がいた。彼自身は生真面目で物静かな性格だったが、似たような環境からか、いつしか打ち解けるまでになれた。
九つの頃、カリウスの幼馴染だという、公爵家の令嬢と出会った。
彼女はカリウスを見つけた瞬間、パッと花咲くような笑顔を浮かべた。彼女は自分の父に連れられ、挨拶をしに近づいて来た。
「タルク公爵家が娘、フランソワーヌでございます」
先ほどの大輪の笑みから可憐な微笑みに変えた彼女は、無理しているように見えた。
「殿下、この子は殿下とちょうど同い年でございます。以後、お見知りおきを」
彼女の父親は含みのある笑みを浮かべ、それとなく彼女をこちらへと押し出した。
確かに彼女は可愛らしく、印象も悪くない。カリウスが、背後で息を飲んだ気配がした。
フランソワーヌ嬢と出会ってから、なぜか彼女と遭遇する機会が増えた。
休憩時の中庭で、本を探しに行った図書室で、あるいは、移動時の渡り廊下で。
側には必ずカリウスもいた。所在なさげに佇むフランソワーヌ嬢はカリウスの顔を見る度、満開の笑顔を咲かせる。それから慌ててその笑顔を押し隠し、貴族令嬢らしい淑やかな微笑みを浮かべる。
「フランソワーヌ嬢はカリウスに会いに来てるんだよな?」
そうだといい、と思いながら呟いた言葉に、カリウスが面食らったかのような顔をした。
「公爵はご令嬢を第二王子殿下の婚約者に、と思っているようです。お気付きの上で、袖にされてるのかと思っておりました」
やはりそうなのか。
ため息が零れそうになったが、実際ため息をつきたいのはカリウスの方だろう。
カリウスに対する笑顔にあふれんばかりの好意を感じるのに対し、こちらに向ける笑顔はあくまでも社交的なものにしか見えない。いくら可愛らしいとはいえ、九歳の女児に微笑ましさは感じても、それ以上の感情は抱けない。
「カリウス、君はそれでいいのか?」
側近候補、いや、今では友人だと思っている彼に問いかけた。
「私――私は、あくまでも侯爵家の次男です。将来的に家督が継げるわけではありません。侯爵家の持つ子爵位を継げるくらいでしょう。子爵程度では、公爵家のご令嬢を迎えられる身分ではありません」
前世の知識からすると、この身分制度は前時代的、まったく馴染めない制度だった。
しかし、これが今の現状。
王族とはいえ未成年の第二王子程度がどうこうできるものでもない。
「仮にだが、フランソワーヌ嬢との婚約を蹴ったら……彼女はどうなる?」
「第二王子殿下との話が調わなかった場合ですか?おそらく、タルク公爵家は王家の血も受け継いでおります。この国に王女がいないので、政略的に他国の王族へと話が行くだけかと」
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「カリウス。お前は自分たちの――お前と彼女の絆を信じられるか?」
「どういうことでしょう?」
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