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06.子爵令嬢サナリア
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「え、いない?」
翌日のカリウスの報告には、驚きを隠せなかった。
確かに城中の侍女見習い、七年たったらすでに侍女として立派に仕事をしているであろう、ブライアンの想い人を見つけることができなかった、とカリウスは告げた。
「シャナ、という名の十八の子爵令嬢はおりませんでした。過去の雇用を調べても、その方に該当する方もおりません」
「で、では、彼女はどこに……」
てっきり朗報だろうとたかをくくっていたが、それはまさかの結果だった。
ブライアンの顔色も悪い。
「お名前はシャナ様。レインワース子爵家令嬢。お年は十八歳、という方はこの城にはおられません」
最後通告を聞き、とうとうブライアンは膝をついて両手で顔を覆った。
「ですが」
「ん、まだ何かあるのか?」
「お名前がサナリア様。ワーズリー子爵家のご令嬢で、十七歳の方ならおられました」
「子爵家という以外は、微妙に違うな」
「ええ、辺境伯領と領境を接しているのは、レインワース男爵領とワーズリー子爵領になります」
「――えっ?」
カリウスが肩をすくめて続けた。
「ご令嬢と出会ったのが七年前。当時ご令嬢が五つ上でしたら、現在十七歳ですね」
「……あっ?!」
うなだれていたブライアンが顔を上げた。己の記憶力と計算力の杜撰さに気付いたようだ。
「お入りください、サナリア嬢」
隣室のドアを優雅に開けたカリウスの横を恐縮したように入室してきたのは、十七というには可愛らしい侍女姿の小柄な女性だった。
「シャナ?!」
「御前失礼いたします、王子殿下」
彼女が深々と礼をした。侍女として立派にやっているらしい。
「シャナ、いや、サナリア、嬢。ずっと会いたかった!」
「覚えていてくださったなんて光栄です、ブライアン様。見違えるほど、ご立派になって」
「忘れるはずない!約束を果たすために、ここまで来たんだ」
ブライアンの方はともかく、サナリア嬢の方も満更ではなさそうである。
どうにもお邪魔なようだったので、カリウスを促して隣室へ避難することにした。
まぁ、王子の私室で間違いを起こすとは思わないが、部屋のドアは少し開けておく。
たぶん、おそらく。
「あいつ、忘れられないとか言いつつ、いい加減な記憶力だったな」
「ええ、ブライアンの言葉を信じていたら、彼女は見つかりませんでしたよ」
隣室でカリウスにこぼすと、彼も笑いながら応えた。
「年齢の計算と家名の取り違えはすぐわかったのですが」
「やっぱりか?レインワースは男爵家って覚えてたので、自分の記憶違いかと慌てたよ」
「名前の方ですが、当時五歳のブライアンはきちんと発音できなかったようですよ。ご令嬢が何度『サナリア』と教えても『シャナリア』としか発音できなかったようで」
「舌ったらずか!」
ブライアンの天然さにうんざりしていると、なにやら隣室に不穏な空気を感じた。
「なぜだ、シャ、サナリア!俺はお前のために、王都まで来たのに!」
「ごめんなさい」
「俺は、謝罪を聞きたいんじゃない。理由を教えてくれないと、納得できない!」
カリウスと共に、慌てて隣室へと戻る。
「感動の再会だったはずが、どうしたんだ?」
「お騒がせして申し訳ありません、殿下」
泣き顔を隠すようにうつむきながらも、サナリア嬢はしっかり礼儀を欠かさない。ブライアンはというと、悲しみと怒りがないまぜになった表情で肩をいからせていた。
「ブライアン?」
こちらも口を開こうとしない。途方に暮れてカリウスに助けを求めるも、彼もまた難しい顔をしていた。
「サナリア嬢がブライアンの求婚を断ったのでしょう」
「なぜ?」
第三者が見ても、二人は想い合っているとわかった。辺境伯子息とはいえ、ブライアンは三男。子爵家令嬢の四女との婚姻ならおかしくもないだろう。
沈黙を守る二人を一瞥し、カリウスが重い口を開いた。
「おそらくサナリア嬢が、年齢差を気になさっておられるのかと……」
サナリア嬢がビクリと震えた。
ああ、女性は若ければ若いほどいいとかいう、ふざけた風習のせいか。
「わっ、私はどうでもいいのです。でもっ、ブライアン様が後ろ指を指されることだけは……っ」
「俺はっ、サナリアさえ手に入るなら、それこそ、自分はどうだっていい!」
公開惚気か。
スンッとカリウスと共に、自分の表情が抜け落ちるのを感じた。
これだけ想い合ってるのに、これ以上ガタガタ言わせん。
「ブライアン、お前は第二王子専属護衛騎士だな。これから今以上に職務に励め。その努力次第で、騎士爵の栄誉を与えよう。そして、サナリア嬢。其方には今日より第二王子の専属侍女だ。結婚退職以外での離職は認めん。以上」
「「えっ、で、殿下?」」
強制的に二人を近くに配置することにした。
こういうのが正しい権力の使い方だ。
翌日には、サナリア嬢は第二王子付き侍女としてきちんと辞令が出された。
翌日のカリウスの報告には、驚きを隠せなかった。
確かに城中の侍女見習い、七年たったらすでに侍女として立派に仕事をしているであろう、ブライアンの想い人を見つけることができなかった、とカリウスは告げた。
「シャナ、という名の十八の子爵令嬢はおりませんでした。過去の雇用を調べても、その方に該当する方もおりません」
「で、では、彼女はどこに……」
てっきり朗報だろうとたかをくくっていたが、それはまさかの結果だった。
ブライアンの顔色も悪い。
「お名前はシャナ様。レインワース子爵家令嬢。お年は十八歳、という方はこの城にはおられません」
最後通告を聞き、とうとうブライアンは膝をついて両手で顔を覆った。
「ですが」
「ん、まだ何かあるのか?」
「お名前がサナリア様。ワーズリー子爵家のご令嬢で、十七歳の方ならおられました」
「子爵家という以外は、微妙に違うな」
「ええ、辺境伯領と領境を接しているのは、レインワース男爵領とワーズリー子爵領になります」
「――えっ?」
カリウスが肩をすくめて続けた。
「ご令嬢と出会ったのが七年前。当時ご令嬢が五つ上でしたら、現在十七歳ですね」
「……あっ?!」
うなだれていたブライアンが顔を上げた。己の記憶力と計算力の杜撰さに気付いたようだ。
「お入りください、サナリア嬢」
隣室のドアを優雅に開けたカリウスの横を恐縮したように入室してきたのは、十七というには可愛らしい侍女姿の小柄な女性だった。
「シャナ?!」
「御前失礼いたします、王子殿下」
彼女が深々と礼をした。侍女として立派にやっているらしい。
「シャナ、いや、サナリア、嬢。ずっと会いたかった!」
「覚えていてくださったなんて光栄です、ブライアン様。見違えるほど、ご立派になって」
「忘れるはずない!約束を果たすために、ここまで来たんだ」
ブライアンの方はともかく、サナリア嬢の方も満更ではなさそうである。
どうにもお邪魔なようだったので、カリウスを促して隣室へ避難することにした。
まぁ、王子の私室で間違いを起こすとは思わないが、部屋のドアは少し開けておく。
たぶん、おそらく。
「あいつ、忘れられないとか言いつつ、いい加減な記憶力だったな」
「ええ、ブライアンの言葉を信じていたら、彼女は見つかりませんでしたよ」
隣室でカリウスにこぼすと、彼も笑いながら応えた。
「年齢の計算と家名の取り違えはすぐわかったのですが」
「やっぱりか?レインワースは男爵家って覚えてたので、自分の記憶違いかと慌てたよ」
「名前の方ですが、当時五歳のブライアンはきちんと発音できなかったようですよ。ご令嬢が何度『サナリア』と教えても『シャナリア』としか発音できなかったようで」
「舌ったらずか!」
ブライアンの天然さにうんざりしていると、なにやら隣室に不穏な空気を感じた。
「なぜだ、シャ、サナリア!俺はお前のために、王都まで来たのに!」
「ごめんなさい」
「俺は、謝罪を聞きたいんじゃない。理由を教えてくれないと、納得できない!」
カリウスと共に、慌てて隣室へと戻る。
「感動の再会だったはずが、どうしたんだ?」
「お騒がせして申し訳ありません、殿下」
泣き顔を隠すようにうつむきながらも、サナリア嬢はしっかり礼儀を欠かさない。ブライアンはというと、悲しみと怒りがないまぜになった表情で肩をいからせていた。
「ブライアン?」
こちらも口を開こうとしない。途方に暮れてカリウスに助けを求めるも、彼もまた難しい顔をしていた。
「サナリア嬢がブライアンの求婚を断ったのでしょう」
「なぜ?」
第三者が見ても、二人は想い合っているとわかった。辺境伯子息とはいえ、ブライアンは三男。子爵家令嬢の四女との婚姻ならおかしくもないだろう。
沈黙を守る二人を一瞥し、カリウスが重い口を開いた。
「おそらくサナリア嬢が、年齢差を気になさっておられるのかと……」
サナリア嬢がビクリと震えた。
ああ、女性は若ければ若いほどいいとかいう、ふざけた風習のせいか。
「わっ、私はどうでもいいのです。でもっ、ブライアン様が後ろ指を指されることだけは……っ」
「俺はっ、サナリアさえ手に入るなら、それこそ、自分はどうだっていい!」
公開惚気か。
スンッとカリウスと共に、自分の表情が抜け落ちるのを感じた。
これだけ想い合ってるのに、これ以上ガタガタ言わせん。
「ブライアン、お前は第二王子専属護衛騎士だな。これから今以上に職務に励め。その努力次第で、騎士爵の栄誉を与えよう。そして、サナリア嬢。其方には今日より第二王子の専属侍女だ。結婚退職以外での離職は認めん。以上」
「「えっ、で、殿下?」」
強制的に二人を近くに配置することにした。
こういうのが正しい権力の使い方だ。
翌日には、サナリア嬢は第二王子付き侍女としてきちんと辞令が出された。
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