7 / 10
07.邂逅
しおりを挟む
誰かが泣いている。
顔を覆う両手の指の隙間から、零れた涙が見える。
その手のひらを撫でるように流れ落ちたのは、見事な黒髪。
懐かしい色。
――願わなければよかった。
――もともと悪人だと、私たちを殺した悪人だと思っていた。だから、この手で復讐してもいいと。されるべき人間だと思ってたの。
――でも、あの人も私たちと同じ、普通の人だった。つまづいては苦しみ、些細なことに幸せを見出し、誰かを大事に思い、誰かの大事な人になってた。
ふと、その人が顔を上げた。
その長い髪の隙間から、涙を湛えた瞳がこちらを見据えた。
――酷い人。あなたを憎み続けることができない。
――これでは、私が、私こそが酷く醜い人間だわ。
意識が浮上するとともに、洗面所へと駆け込んだ。
まだ部屋の中は夜明け前の暗さに沈んでいた。
胃の中の物がなくなるまで全て吐き出しても、吐き気は収まらなかった。
扉の前で寝ずの番をしている衛兵たちが中の異変に気付いたのか、部屋の中へ飛び込んできた。この惨状を見て、医者だなんだと騒がしくなった。そんな喧騒の中、意識は再び暗闇へと落ちていった。
再び意識を取り戻したのは、丸一日経ってからだった。
また毒か、と前日に口にした物全てが検査され、関わった者たちも全てその身を拘束されたと聞いた。未だに体調は万全とは言えなかったが、毒でも、それを盛られた訳でもない、と弁明に向かった。就寝前にこっそりと酒を口にした、という尤もらしい理由をでっち上げた。こってり叱られたが、無実の者たちに相応の対価を与え、迷惑をかけたことを詫びた。
「こっそり嗜んだお酒の味はいかがでしたか?」
三日の謹慎後、顔を合わせたと思ったら当てこすられた。
「――最悪だったよ。そして、お前も大概性根が悪いな、カリウス」
「大変心配してましたから。『私の』フランが。謹慎が明けたら、見舞いに来たいそうです」
「拘束されてたサナも、自分の心配よりも殿下の心配をずっとしてました」
あれ、自分たちの彼女ののろけと自慢かな。
「ああ、酒はもうこりごりだ」
笑顔を見せると、二人とも張りつめていた息をこっそりと吐いていた。
案外、心配される程度には、好意を持たれていたらしい。
顔を覆う両手の指の隙間から、零れた涙が見える。
その手のひらを撫でるように流れ落ちたのは、見事な黒髪。
懐かしい色。
――願わなければよかった。
――もともと悪人だと、私たちを殺した悪人だと思っていた。だから、この手で復讐してもいいと。されるべき人間だと思ってたの。
――でも、あの人も私たちと同じ、普通の人だった。つまづいては苦しみ、些細なことに幸せを見出し、誰かを大事に思い、誰かの大事な人になってた。
ふと、その人が顔を上げた。
その長い髪の隙間から、涙を湛えた瞳がこちらを見据えた。
――酷い人。あなたを憎み続けることができない。
――これでは、私が、私こそが酷く醜い人間だわ。
意識が浮上するとともに、洗面所へと駆け込んだ。
まだ部屋の中は夜明け前の暗さに沈んでいた。
胃の中の物がなくなるまで全て吐き出しても、吐き気は収まらなかった。
扉の前で寝ずの番をしている衛兵たちが中の異変に気付いたのか、部屋の中へ飛び込んできた。この惨状を見て、医者だなんだと騒がしくなった。そんな喧騒の中、意識は再び暗闇へと落ちていった。
再び意識を取り戻したのは、丸一日経ってからだった。
また毒か、と前日に口にした物全てが検査され、関わった者たちも全てその身を拘束されたと聞いた。未だに体調は万全とは言えなかったが、毒でも、それを盛られた訳でもない、と弁明に向かった。就寝前にこっそりと酒を口にした、という尤もらしい理由をでっち上げた。こってり叱られたが、無実の者たちに相応の対価を与え、迷惑をかけたことを詫びた。
「こっそり嗜んだお酒の味はいかがでしたか?」
三日の謹慎後、顔を合わせたと思ったら当てこすられた。
「――最悪だったよ。そして、お前も大概性根が悪いな、カリウス」
「大変心配してましたから。『私の』フランが。謹慎が明けたら、見舞いに来たいそうです」
「拘束されてたサナも、自分の心配よりも殿下の心配をずっとしてました」
あれ、自分たちの彼女ののろけと自慢かな。
「ああ、酒はもうこりごりだ」
笑顔を見せると、二人とも張りつめていた息をこっそりと吐いていた。
案外、心配される程度には、好意を持たれていたらしい。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした
まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」
王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。
大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。
おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。
ワシの怒りに火がついた。
ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。
乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!!
※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。
豚公子の逆襲蘇生
ヤネコ
ファンタジー
肥満体の公爵令息ポルコは婚約者の裏切りを目撃し、憤死で生涯を終えるはずだった。だが、憤怒の中に燃え尽きたはずのポルコの魂は、社内政争に敗れ命を落とした男武藤の魂と混じり合う。
アニメ化も決定した超人気ロマンスファンタジー『婚約者の豚公子に虐げられていましたが隣国皇子様から溺愛されています』を舞台に、『舞台装置』と『負け犬』落伍者達の魂は、徹底した自己管理と泥塗れの知略で再点火する。
※主人公の『原作知識』は断片的(広告バナーで見た一部分のみ)なものとなります。
己の努力と知略を武器に戦う、ハーレム・チート・聖人化無しの復讐ファンタジーです。
準備を重ねて牙を剥く、じっくり型主人公をお楽しみください。
【お知らせ】
第6話「聖者の演説」は2026/02/06 08:00公開予定です。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる