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08.公爵子息リーファイ
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王立学園に入学する年になった。
入学直前、紹介したい者がいる、と父の執務室へと呼び出された。
「よく来たな。まずは、座るがよい」
父の右隣のソファへと促され、腰を落ち着けた。
正面に見知らぬ客がいるとは思っていた。親子だろうか、明らかに仕事のできそうな、威風堂々とした紳士とその息子――
息子の顔を見た瞬間、心臓が跳ねあがった。
いや、顔、というよりも、その造りとその色合い。
夢の中の彼女に似通っていたのだ。
濡れたように艶のある黒髪に黒目。ほっそりとしたラインの顔にスッキリとした目鼻立ち。
しかし、メガネの奥の三白眼は明らかに敵意を持ってこちらを睨みつけていた。
「彼は私の古くからの友人でもあり、最も信頼する臣下。ザグデン公爵だ。公はこの国と他国との折衝に飛び回ってくれていたが、この度三男の学園入学を機に帰国したのだ」
「そ、うでした、か」
「殿下とはお初にお目にかかりますな。こちらは息子のリーファイ。殿下と同い年になります」
危うく聞き逃しそうになったが、なんとか父の言葉を反芻して理解した。
「初めまして。お会いできて、うれしいです」
今どんな顔をしているだろうか。ちゃんと挨拶の言葉を言えてるだろうか。
息子と紹介された彼から目が離せない。不躾に見つめてしまっていた。
「息子の色合いは、珍しいでしょう。遠国はご存知ですか?」
「あ、はい」
ここから海を挟んで数か月もかかる大陸にある国。
そこは、前世の日本という国に似ている文化と風土を持っているらしい。
知識としては頭に入っていた。
「私の亡き妻は遠国出身で、息子はその血が濃いようです。尤も、息子はこの国で生まれ、この国の忠実なる臣民です」
「ジルベルト。儂も公と積もる話がある。よかったら、王宮を案内してやりなさい」
反論は許されず、初対面の彼と共に部屋から放り出された。
仕方なしに、なんとなく距離を取ってあてどもなく歩き出す。
「えーと、どこへ行こうか」
「馬車止めでいい。そこで父の帰りを待ってるから」
「え?でも、王宮の案内……」
「嫌々されるくらいなら、そんなもん、自分で勝手見て帰るさ」
眉を顰め、三白眼が射貫くようにこちらを睨みつける。
なぜ、最初からこんなにケンカ腰なんだろう。理由がわからず、困惑する。
「ああ、くそっ!そんなにこの見た目が、この色が珍しいか?!お前らみんな、ジロジロ珍獣でも見るように見やがって!!」
思い出した。
この国の者たちは遠国を、その文化を野蛮で低俗だと、自分たちの方が上だと勝手に見下している。そんな中に身を置いた彼もまた、謂れのない差別にさらされてきたのだろう。
「違う!!」
思った以上の大声で、否定の言葉を叫んでいた。
「あ、いや、見つめてたのは確かに気を悪くさせたと思う。でも、それは、キミの纏う色が懐か……キレイだと思ったからだ」
「は?」
意外な言葉に毒気を抜かれたのか、リーファイがポカンとこちらを見つめていた。
「む。これではまるで、君を口説いているようだな。勘違いしないで欲しい。尤も、キミの色を纏った女性が目の前にいたら、口説くのもやぶさかではない。それほど、君の色合いを好ましいと思うが、おかしいか?」
「――信じられるか」
「では、どうしたら信じてくれる?やはり、口説かなければダメなのか?男を口説く趣味はないのだが」
「俺も男に口説かれる趣味はねぇよっ!!」
こいつ、目の前にいるのが第二王子だと分かっているのだろうか。
恐れもせず、ポンポンと小気味よく憎まれ口をたたいてくる。
不敬罪を恐れ、そんな口をきく者は周りにはいなかった。
新鮮であり、楽しくもあった。
「やっぱり、口説き落とそう」
「え?!」
生意気な顔から一転、リーファイは恐怖を浮かべた表情で一歩後ずさった。
「お前、同じ学園に行くんだよな?ならば、側近として行動を共にしろ」
「なんでだよ?」
「王族の後ろ盾があれば、陰口をたたく奴らなど黙らせることができるぞ?そしてこの国の第二王子は、偏見などない博愛主義者として尊敬してもらえる。双方にとって一挙両得だろう、どうだ?」
「汚ねぇ……大人の考えだ」
「でも、悪くなかろう?」
スッと片手を差し出した。
リーファイはビクリと肩を振るわせ、さらに半歩後ずさった。
「この手を取れ、リーファイ。悪いようにはしない」
「そういうやつが一番腹が黒いんだよ!」
「まぁ、否定はしない」
悪い笑顔を浮かべれば、苦虫を嚙み潰したような忌々し気な表情を返された。
今はまだ威嚇する野良ネコのような奴だが、有能だという父親に似ているなら、手懐けたら案外いい仕事をするかもしれない。
入学直前、紹介したい者がいる、と父の執務室へと呼び出された。
「よく来たな。まずは、座るがよい」
父の右隣のソファへと促され、腰を落ち着けた。
正面に見知らぬ客がいるとは思っていた。親子だろうか、明らかに仕事のできそうな、威風堂々とした紳士とその息子――
息子の顔を見た瞬間、心臓が跳ねあがった。
いや、顔、というよりも、その造りとその色合い。
夢の中の彼女に似通っていたのだ。
濡れたように艶のある黒髪に黒目。ほっそりとしたラインの顔にスッキリとした目鼻立ち。
しかし、メガネの奥の三白眼は明らかに敵意を持ってこちらを睨みつけていた。
「彼は私の古くからの友人でもあり、最も信頼する臣下。ザグデン公爵だ。公はこの国と他国との折衝に飛び回ってくれていたが、この度三男の学園入学を機に帰国したのだ」
「そ、うでした、か」
「殿下とはお初にお目にかかりますな。こちらは息子のリーファイ。殿下と同い年になります」
危うく聞き逃しそうになったが、なんとか父の言葉を反芻して理解した。
「初めまして。お会いできて、うれしいです」
今どんな顔をしているだろうか。ちゃんと挨拶の言葉を言えてるだろうか。
息子と紹介された彼から目が離せない。不躾に見つめてしまっていた。
「息子の色合いは、珍しいでしょう。遠国はご存知ですか?」
「あ、はい」
ここから海を挟んで数か月もかかる大陸にある国。
そこは、前世の日本という国に似ている文化と風土を持っているらしい。
知識としては頭に入っていた。
「私の亡き妻は遠国出身で、息子はその血が濃いようです。尤も、息子はこの国で生まれ、この国の忠実なる臣民です」
「ジルベルト。儂も公と積もる話がある。よかったら、王宮を案内してやりなさい」
反論は許されず、初対面の彼と共に部屋から放り出された。
仕方なしに、なんとなく距離を取ってあてどもなく歩き出す。
「えーと、どこへ行こうか」
「馬車止めでいい。そこで父の帰りを待ってるから」
「え?でも、王宮の案内……」
「嫌々されるくらいなら、そんなもん、自分で勝手見て帰るさ」
眉を顰め、三白眼が射貫くようにこちらを睨みつける。
なぜ、最初からこんなにケンカ腰なんだろう。理由がわからず、困惑する。
「ああ、くそっ!そんなにこの見た目が、この色が珍しいか?!お前らみんな、ジロジロ珍獣でも見るように見やがって!!」
思い出した。
この国の者たちは遠国を、その文化を野蛮で低俗だと、自分たちの方が上だと勝手に見下している。そんな中に身を置いた彼もまた、謂れのない差別にさらされてきたのだろう。
「違う!!」
思った以上の大声で、否定の言葉を叫んでいた。
「あ、いや、見つめてたのは確かに気を悪くさせたと思う。でも、それは、キミの纏う色が懐か……キレイだと思ったからだ」
「は?」
意外な言葉に毒気を抜かれたのか、リーファイがポカンとこちらを見つめていた。
「む。これではまるで、君を口説いているようだな。勘違いしないで欲しい。尤も、キミの色を纏った女性が目の前にいたら、口説くのもやぶさかではない。それほど、君の色合いを好ましいと思うが、おかしいか?」
「――信じられるか」
「では、どうしたら信じてくれる?やはり、口説かなければダメなのか?男を口説く趣味はないのだが」
「俺も男に口説かれる趣味はねぇよっ!!」
こいつ、目の前にいるのが第二王子だと分かっているのだろうか。
恐れもせず、ポンポンと小気味よく憎まれ口をたたいてくる。
不敬罪を恐れ、そんな口をきく者は周りにはいなかった。
新鮮であり、楽しくもあった。
「やっぱり、口説き落とそう」
「え?!」
生意気な顔から一転、リーファイは恐怖を浮かべた表情で一歩後ずさった。
「お前、同じ学園に行くんだよな?ならば、側近として行動を共にしろ」
「なんでだよ?」
「王族の後ろ盾があれば、陰口をたたく奴らなど黙らせることができるぞ?そしてこの国の第二王子は、偏見などない博愛主義者として尊敬してもらえる。双方にとって一挙両得だろう、どうだ?」
「汚ねぇ……大人の考えだ」
「でも、悪くなかろう?」
スッと片手を差し出した。
リーファイはビクリと肩を振るわせ、さらに半歩後ずさった。
「この手を取れ、リーファイ。悪いようにはしない」
「そういうやつが一番腹が黒いんだよ!」
「まぁ、否定はしない」
悪い笑顔を浮かべれば、苦虫を嚙み潰したような忌々し気な表情を返された。
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