横川ガード下探偵団 ~グミの謎を追え!~

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横川ガード下探偵団 5 ~グミの謎を追え!~

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第5章「バーコードの秘密」

 ショウタは人前で喋るのが苦手だったが、調べることは好きだった。
 正確に言えば「分からないことが分かった状態になる瞬間」が好きだった。霧の中に道が現れる感覚。最初はぼんやりとした輪郭しかなかったものが、だんだんくっきりしてくる過程。それが好きだった。
 だからショウタは今回の件で「バーコードが変だ」と気づいた瞬間から、ずっとそのことが頭から離れなかった。
 月曜日の放課後、探偵団と桐島めぐみが三〇四号室に集合した。めぐみのパソコンを借りて、ショウタが説明を始めた。
「バーコードっていうのは、JANコードっていう規格があって」ショウタはゆっくり、できるだけ分かりやすい言葉を選んで言った。「日本で売られてる商品のバーコードは、全部この規格に従ってる。前半の七桁が会社コードで、後半が商品コードになってる」
「へえ」ケンジは感心した顔をした。「ショウタ、そんなこと知ってたの?」
「図書館で本読んだ」
「いつ?」
「昨日の夜」
 全員が少し黙った。ショウタは昨日の夜に図書館本を読んでいたのだ。探偵団のために。
「偽グミのバーコードの会社コードを調べたら」ショウタはパソコンの画面を指した。「GS1ジャパンのデータベースに登録されてるはずなんだけど、今は存在しないコードだった」
「今は、ということは」めぐみが言った。
「以前は存在したはず」
「廃番になった会社ね」
「そう。それで、古いデータベースを調べる方法を——」
「私に心当たりがあります」めぐみがショウタの言葉を引き取った。「日本グミ協会のデータベースに、廃番商品のバーコード記録があります。昔のグミのメーカー情報を保存するために、協会が独自に集めているんです」
「さすがグミ協会」とユイが言った。感動しているのか呆れているのかよく分からないトーンで。
 めぐみはパソコンを操作した。日本グミ協会の会員専用サイトにログインし、データベースを開いた。ショウタが覚えてきた会社コードを打ち込む。
 検索結果が出た。
 全員が画面を覗き込んだ。
 そこには一行の記録があった。
「ハルカ製菓株式会社 広島市西区横川 2005年登録 2014年廃業」
 しばらく、誰も何も言わなかった。
「ハルカ製菓」とケンジがゆっくり言った。「広島? 横川?」
「ここの近所だ」とテツが言った。
「廃業してる」とユイが言った。「十年前に」
「なんで廃業した会社のバーコードが、偽グミに使われてるの?」ミクが言った。
 全員の疑問を代表するような問いだった。誰も答えられなかった。
 めぐみはじっと画面を見ていた。ハルカ製菓という名前を目にした時、その顔が一瞬だけ動いた。眉が、ほんの少し、寄った。しかしすぐに元に戻った。
「もっと調べましょう」と彼女は言った。静かだが、有無を言わせない口調で。
 追加で調べると、ハルカ製菓については断片的な情報が集まってきた。
 地元の古いニュースサイトのアーカイブに、短い記事があった。「地元菓子メーカー・ハルカ製菓が廃業 地元商店街に惜しまれる」という見出しで、記事の内容は短い。かつて横川商店街周辺に工場と店舗を持ち、地元の子供たちに親しまれていたグミや飴を作っていたが、経営難から廃業した、というものだった。
「経営難」とユイが言った。「本当に経営難だったのかな」
「どういう意味?」
「なんか、引っかかる言い方じゃない? 地元に根付いてた菓子メーカーが、突然廃業するって。何か他に理由があったんじゃないかって」
「根拠は?」ショウタが言った。否定ではなく、純粋に問いとして。
「ない。でも、ないからこそ調べたい」
「同感」とショウタは言った。
 めぐみはもう一つ、記事を見つけていた。廃業のニュースより少し前の記事で、「横川商店街近代化計画、組合が推進」という見出しだった。記事の中に「一部の旧来店舗・施設の移転または撤退が必要となる可能性」という一節があった。
「組合」とケンジが言った。「藤井組合長の?」
「当時の組合長は別の人みたい」めぐみは画面を見ながら言った。「でも、役員の名前が……」
 彼女はそこで少し止まった。
「藤井繁雄」と彼女は読み上げた。「当時の組合、若手幹部として記載されてる」
 全員が顔を見合わせた。
「つまり」ケンジがゆっくり言った。「藤井組合長は、ハルカ製菓が廃業した時の出来事に関わってた」
「関わってた、というだけではまだ何も言えない」ショウタが言った。「でも関係があるのは確か」
 ショウタがもう一つ調べていたことがあった。テツがメモしていた白いバンのナンバーだ。
「個人情報なんで、直接は調べられないんだけど」ショウタは言った。「レンタカーかどうかは、ナンバーの種類から分かる」
「分かるの?」
「緑地に白の文字だったら事業用。白地に緑の文字だったら自家用。テツが見たのはどっち?」
「白地に緑だった」テツは即答した。
「じゃあ自家用か、レンタカー。レンタカーかどうかは……」ショウタはパソコンで何かを調べた。「ナンバーの頭の分類番号で分かる場合がある。テツが見た番号、最初の三桁は?」
「七八〇」
 ショウタが調べた。「この番号帯、横川周辺で登録されたレンタカーが多い。断言はできないけど、レンタカーの可能性が高い」
「レンタカー」とユイが言った。「つまり、その人は地元の人間じゃないか、正体を隠したいかのどっちかってこと?」
「そうなる」
「レンタカーを借りた場所を調べれば、何か分かるかもしれない」めぐみが言った。「横川周辺のレンタカー店は何件かある。心当たりはあります。ただ、個人情報なので、店に聞いても直接は教えてもらえない」
「どうするの?」
「間接的に調べる方法を考えましょう」と彼女は言った。
 その日の後半、ショウタが最後にもう一つの発見を報告した。
「ハルカ製菓の廃業記事の中に、社長の名前が出てた」
「何て名前?」
「春日信夫」
 誰もその名前に反応しなかった。商店街の子供たちには、十年前の廃業したメーカーの社長の名前など知る由もない。
 ただ一人、めぐみだけが——ほんの少し、息を止めたように見えた。
 しかしその一瞬は誰も気づかなかった。誰も、まだ。
 ショウタが最後にパソコンの画面を指した。「もう一個。ハルカ製菓の旧住所」
「どこ?」
「横川二丁目、十三番地」
「それ、商店街のどの辺?」ケンジが聞いた。
 ミクが静かに「知ってる」と言った。「そこ、今は空き店舗になってる場所だよ。シャッターに貼り紙がしてあって、誰も借りてないって言われてた場所」
「商店街の中に、ハルカ製菓のあった場所がある」とユイが言った。「今も残ってる」
 全員が少し重い空気の中にいた。十年前の廃業。組合の関与。謎の業者。偽グミ。
 バラバラなピースが、少しずつ近づいている感じがした。でもまだ、全体の絵は見えない。
「次は」ケンジが言った。「ハルカ製菓のことを、もっとよく知ってる人に聞かないといけない」
「商店街で一番昔から知ってる人」とミクが言った。「それは——」
「勇造さん」と全員が声を揃えた。
 めぐみだけが、それより少し早く、口の中だけで「そうね」と言った。声にはならなかった。
 めぐみの部屋を出る時、ミクが後ろを振り返った。
 棚の隅。他のグミのコレクションとは別の場所に、一枚のポスターが置かれていた。色が少し褪せている。
 横川商店街夏まつり、とタイトルが読めた。年号は「2013年」とある。
 ポスターの隅に小さく、協賛企業の名前が並んでいた。文字が小さくて全部は読めなかったが、ミクの目がある一箇所で止まった。
「ハルカ製菓」という文字。
 そしてその下に、もっと小さな字で、何か名前が書いてある。「春日めぐみ」——と読めた気がした。
「ミクちゃん、どうしたの?」とユイが廊下から声をかけた。
「ううん、なんでもない」
 ミクはドアを閉めた。
 廊下を歩きながら、ミクはその名前を頭の中で繰り返した。春日めぐみ。桐島めぐみ。桐島は結婚後の苗字なのかもしれない。春日は——
 ハルカ製菓の社長は、春日信夫。
 ミクは歩きながら考えた。
 まだ確信はない。でも、何かが繋がった気がする。
 今日は言わない。でも、ちゃんと調べてから、みんなに話す。

つづく
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