横川ガード下探偵団 ~グミの謎を追え!~

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横川ガード下探偵団 7 ~グミの謎を追え!~

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第7章「藤井組合長の真実」

 横川商店街組合の事務所は、アーケードの中ほどにある小さなビルの二階にある。一階は印鑑屋で、よく分からないけれど昔からある。
 ケンジは「乗り込む」という言葉を使ったが、ユイに「子供が組合長に乗り込むって意味がよく分からない」と言われたので、正式に言い直した。「話を聞きに行く」。
 水曜日の放課後、五人がその二階の事務所の前に立った。めぐみは一緒に来たが、ドアの前で「私は外で待ちます」と言った。「藤井さんと私が一緒だと、話が複雑になる可能性がある」とのことだった。
 ケンジがドアをノックした。
「はい」という声がして、ドアが開いた。
 藤井繁雄は、事務所の奥の椅子に座って書類を見ていた。五人を見て、最初は笑顔を作った。しかしその笑顔が、一瞬で崩れた。子供たちの顔ぶれを見て、何かを感じ取ったようだった。
「ケンジ君たちか。どうしたの、こんなところに?」
「少し、聞きたいことがあって来ました」ケンジは真っ直ぐに言った。
「何を?」
「のぐちのグミのすり替え事件について」
 藤井は表情を変えなかった。しかし右手の指が、持っていた書類を少しだけ強く握ったのをテツが見ていた。
「それは……もう解決したよ。業者の手違いでね」
「業者の手違い」ユイが繰り返した。「初めて聞きました」
「大人の話でね。子供には難しい」
「組合長」ケンジは言った。ここは真っ直ぐ行くと決めていた。「組合長、グミが好きですよね?」
 藤井は、固まった。
 完全に固まった。五秒間ほど。
「……何でそれを」
「好きですよね?」
 藤井はゆっくりとため息をついた。椅子の背もたれに体を預けて、天井を見た。そのまましばらく何も言わなかった。
 ケンジは実を言うと、「グミが好きですよね」という言葉を選んだのは半分勘だった。藤井が事件を揉み消そうとした理由を考えた時、「好きだったハルカ製菓への罪悪感」という可能性をショウタに指摘されていた。だから言ってみた。
 それがこんなに効くとは思っていなかった。
「ハルカ製菓のグミがね」と藤井は、天井を見たまま言い始めた。「昔から好きだったんだよ」
 子供たちは黙って聞いた。
「このあたりで育ったからね、私も。子供の頃から、のぐちや近所の駄菓子屋でハルカ製菓のグミを買ってた。コーラ味と、あとメロン味が特に好きでね。あの弾力と後味は、どこにも売ってなかった」
「それで」ケンジが静かに促した。
「組合の仕事をするようになって、ハルカ製菓の土地の問題が出てきた時……止めようとしたよ。でも当時の組合長に押し切られた。私はまだ若くて、力がなかった。それが言い訳になるとは思ってないけど」
「春日信夫さんのこと、知ってましたか」
「もちろん。春日さんは誠実な人でね。最後まで揉めることなく、話し合いで決着を付けようとしてくれた。それがかえって辛かった。私が嫌な顔をして怒鳴ってくれたなら、まだ楽だったかもしれん」
 藤井は顔を戻し、五人を見た。
「組合長になってから、何度かあの空き店舗の前に立ったよ。春日さんの工場があった場所。何かできないかと思いながら、結局何もできないままここまで来た」
「今回の件は」ショウタが言った。「犯人を知っていたんですか?」
 藤井は少し迷った顔をしてから「知っていた」と言った。
「それなのに揉み消そうとした?」
「揉み消すというより……守りたかった。その人が、悪意でしたことじゃないから」
「誰ですか」ケンジが言った。
 藤井は首を振った。「それは言えない。その人に直接、話してほしい」
「名前だけでも」
「それもだめ」
「なぜですか?」
「その人には、事情がある」藤井は静かに言った。「春日さんの息子に——」
 そこで藤井は口を止めた。言いすぎたと気づいたような顔をした。
「……とにかく、乱暴なことはしないでほしい。その人は悪い人間じゃない」
「あの子」とユイが言った。「さっき、『あの子が悪いんじゃない』って言いかけませんでしたか?」
 藤井は何も言わなかった。しかしその沈黙が、答えだった。
「最後に一つ」とケンジは言った。「山田さんが証言しようとした時、邪魔したのは組合長ですか?」
「……あれは」藤井は目をそらした。「先走ったな。申し訳なかった」
 事務所を出ると、めぐみがドアの横で待っていた。
「どうでした?」
「春日さんの息子、って言いかけた」ケンジが言った。「それで止まった」
 めぐみの表情が、かすかに変わった。
「それと」ユイが言った。「組合長は犯人を知ってる。でも名前を言わなかった。その人を守りたいって」
「……そう」
「めぐみさん」ミクが言った。静かな、しかしはっきりした声で。「一個聞いていいですか」
「何?」
「めぐみさんの旧姓って、春日じゃないですか?」
 その瞬間、めぐみは動かなかった。息も、ほとんど止まっているように見えた。
 三秒が過ぎた。
「……どこで調べたの?」とめぐみは言った。
「ポスター」ミクは言った。「めぐみさんの部屋の棚にあった。横川商店街夏まつりのポスター。隅の方に制作者の名前が書いてあって、春日めぐみって」
 めぐみは、ミクを見た。十歳の、小柄な少女を。
「この中で一番侮れないのはあなたかもしれない」と彼女はつぶやいた。
「ありがとうございます」ミクは言った。
 藤井が「あの子」と言いかけた時の「息子」という言葉。春日信夫の息子。めぐみの弟。
 それが誰なのか、もうほぼ全員の頭の中に答えが浮かびかけていた。
「めぐみさん」ケンジが言った。「話してくれますか」
 めぐみは少しの間、アーケードの天井を見た。十一月の光が、そこにあった。
「喫茶店、行きましょう」とめぐみは言った。「長くなるから」

つづく
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