横川ガード下探偵団 結成篇 ~あの夏、僕らは名前をつけた~

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横川ガード下探偵団 結成篇 13 ~あの夏、僕らは名前をつけた~

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第13章「夏の終わり、始まりの朝」

 八月三十一日というのは、全国の子供に等しく「終わり」と「始まり」が同時に訪れる日だ。
 宿題の終わっていない子にとっては「終わり」が先に来る。宿題をとっくに終わらせた子にとっては「明日から学校」という「始まり」が先に来る。どちらにしても、同じ日の同じ時間に、夏が閉まっていく音がする。
 今年の八月三十一日は、ナツが横川を去る日でもあった。
 朝の九時、のぐちの前にナツが来た。
 スーツケースを転がしながら。後ろにお父さんとお母さんがいた。二人は子供たちに会釈して、少し離れた場所で待っていた。
 ケンジ、ミク、ユイ、ショウタ、テツが揃っていた。誰から連絡したわけでもなく、みんなが来ていた。
「八時に連絡した」とミクが言った。「昨日の夜に、全員に」
「ミク、ありがとう」とナツが言った。
「ちゃんと見送りたかったから」
「また来年来る」とナツは言った。
「来年の夏?」
「うん。おじいちゃんの家、しばらくはそのままにしておくことになったから。毎年来てもいい」
「来てほしい」とユイが言った。「来たら、またみんなで動こう」
「絶対来る」ナツは笑った。「あと、名誉会員って言ったけど——ちゃんと来たら正規会員になってもいい?」
「なってもいいよ」とケンジは言った。
「じゃあ来年は正規会員として参加する」
「楽しみにしてる」
「浜田のおじさんに、また来た時に会いに行く」とナツは言った。「本の続きも読みたいし」
「続きって?」
「横川ものがたりの続き、じゃなくて。浜田のおじさんとおじいちゃんの話の続き、を聞きたい。まだいろいろあるはずだから」
「あるだろうね」とミクが言った。
「ミクちゃん」とナツが言った。「来年来た時に、いろいろ教えて。横川のこと、何でも」
「教える」とミクは言った。「毎日ここにいるから、何でも知ってる」
「頼りにしてる」
 ナツが「じゃあ」と言った。スーツケースの持ち手を握った。
「また来年」とケンジが言った。
「また来年」とナツが繰り返した。
 ナツが歩き始めた。お父さんとお母さんの方へ向かっていった。途中で一回振り返った。全員に向かって手を振った。全員が手を振り返した。
 ナツは振り向かないで行った。
 それをケンジは最後まで見ていた。
 その日の午後、五人がガード下に集まった。
 ナツがいない。それだけで少し、ガード下が広く感じた。
「ショウタ」とケンジが言った。「父さんに電話した?」
「した」とショウタは言った。「昨日」
「なんて?」
「ガード下が、父さんが遊んでた場所かどうか聞いたら——そうだって言ってた。横川のガード下で、毎日遊んでたって」
「じゃあ本当に」
「うん。俺が探してた場所は、ここだった。父さんが子供の頃に遊んでた場所」
「見つかったね」とユイが言った。
「見つかった」ショウタは柱を見た。「父さんに、今でも子供たちが使ってるって話したら、『そうか』って言って、少し喜んでた。多分」
「多分?」
「父さんはあまり感情を表に出さないから。でも声が少し変わったから、嬉しかったんだと思う」
「テツの父さんみたい」とケンジが言った。
「少し似てるかもしれない」とショウタは言った。「子供の頃、同じ場所で遊んでたんだとしたら、感覚が似てても不思議じゃない」
「二人が友達だった可能性」とテツが言った。
「ある」
「それは面白いな」
「ユイ」とミクが言った。「塾のこと、お母さんに言った?」
「言った」とユイは言った。静かに、でもはっきりと。
「どうなった?」
「秋からは一個やめることになった。お母さんが『本当はどうしたいの?』って聞いてくれたから、ちゃんと話した」
「良かった」
「良かった、というか——怖かったよ、言うのが。でも言ったら、ちゃんと聞いてくれた」
「一個やめたら、空いた時間、何する?」とナツに聞かれたことを思い出しながらユイは言った。「まだ決めてないけど。でも自分で決めたいと思ってる」
「来年ナツが来た時に、答えが出てたらいいね」とミクが言った。
「そうだね」
「ケンジ」とテツが言った。
「何?」
「田村に手紙、書いたか?」
 全員がケンジを見た。
「書いた」とケンジは言った。「昨日の夜」
「渡したか?」
「まだ。でも書いた。書けたから、渡せると思う」
「そうか」
「テツが言ったことを思い出しながら書いた。正しかったことと、謝ることは別だ、って」
「覚えてたのか」
「大事なことだと思ったから」
 テツは特に何も言わなかった。少し視線を外した。それがテツなりの「照れている」なのだと、もう全員が知っていた。
 夕方に近づいた頃、テツが「行ってくる」と言った。
「どこに?」とケンジが聞いた。
「父さんと、少し走る」
「え」とケンジが言った。テツと父が一緒に自転車で走るのは、珍しい。
「昨日、誘ったら来た。夜に商店街を一周するって話になって」
「どうして急に?」
「昨日話した。ショウタの父さんと俺の父さんが、同じ場所で遊んでたかもしれないって話をしたら、父さんが少し話し始めて。子供の頃の話を。それで、一緒に走りたくなった」
「良かったじゃん」とユイが言った。
「まあ」とテツは言った。でも今日の「まあ」は、いつもより少し軽かった。
 テツが行った後、四人が残った。
「なんか」とケンジが言った。「夏が終わる感じがするな」
「終わるよ、今日で」とミクが言った。
「でも、また明日から何かが始まる感じもする」
「そうだね」
 ガード下の柱に貼られた段ボールの看板。「横川ガード下探偵団 本部」。夏の間に何度も来た場所。今日は特に何もない日だったが、それでもここに来た。
「次の事件がいつ来るか分からないけど」とケンジは言った。「来たら動こう。ここで、みんなで」
「動く」とミクは言った。
「動く」とユイが続けた。
「動きます」とショウタが言った。
 夜になって、テツがサカモトサイクルの前で父と自転車を出していた。
 父の剛が二台の自転車のタイヤの空気を確認していた。ライトが点くかも確かめた。
「出発するか」と剛が言った。
「うん」
 二人で商店街に出た。夏祭りの提灯はもう外されていて、代わりに秋の気配の始まりが商店街に漂っていた。
 走り始めると、剛は意外と速かった。自転車屋の親父だから、乗り方を知っている。テツは少し追いかける形になった。
「父さん、速い」
「昔からここで乗ってたからな」剛は言った。走りながら。
「ガード下もよく通った?」
「よく通った。昔、友達とよく溜まってた」
「どんな友達?」
「いろんな奴がいた。外国の奴もいたな。ハーフの奴で」
 テツは少し驚いた。「ハーフ?」
「父親がアメリカ人で、母親が日本人の奴。大人しそうに見えて、論理的でよく分析してた。頭の良い奴だった」
 テツは頭の中で、ショウタの顔が浮かんだ。
「まさか」とテツは思った。
 ガード下の前を通った。
 二人の自転車が、ガード下の前でほんの少しスピードを落とした。
 段ボールの看板が柱に貼ってあった。「横川ガード下探偵団 本部」。
「なんだあれ」と剛が言った。
「俺たちの」とテツは言った。
「お前たちの?」
「うん。この夏に作った」
 剛は看板を見ながら走り過ぎた。何も言わなかった。でも少し、スピードが緩んだ。
「悪くないな」と剛は言った。
 テツは返事をしなかった。でも少し笑った。
 その夜、ミクが寝る前に、小さなノートを開いた。
 表紙に「横川日誌」と書いた。中に、今日の日付を書いた。
「ナツが帰った。来年また来る。ショウタの父さんとテツの父さんは、もしかして昔ここで会ってたかもしれない。ケンジは田村に手紙を書いた。ユイは塾を一個やめることにした。テツは父さんと一緒に走った。みんな、少し変わった夏だった」
 それだけ書いて、ノートを閉じた。
 勇造が隣の部屋で眠っている気配がした。
「じいちゃん」とミクは小さくつぶやいた。「今年の夏、ありがとう」
 返事はなかった。でも縁側から、夏の夜風が入ってきた。
 九月の最初の日曜日。
 ケンジが段ボールの看板の前に立った。田村への手紙をポケットに入れて。
 今日、学校の前に田村の家に行くつもりだ。
 ガード下の看板を見た。夏の間に少し日焼けして、文字が少し薄くなっていた。でも読める。
 ケンジはマジックを出した。文具屋の息子だから、ペンは常に持っている。文字を上から重ねて書いた。濃く、はっきりと。
「横川ガード下探偵団 本部」
 書き終わってから、少し眺めた。
 秋が来る。ナツはいない。でも四人はいる。それで十分だ。
 ケンジはポケットの手紙を確認して、商店街を歩き始めた。
 電車が通った。轟音が商店街に響き、そして去っていった。
 横川の朝は、今日も始まっていた。

つづく
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