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それは、日常か非日常か
しおりを挟む「お早うございます」
「・・・はい、おはようございます」
二日前の朝、この電車であの子に挨拶をされて、混乱すること暫し。
そして今朝また、挨拶が交わされて、自然と私の隣に立つ彼を、そっと見上げてみる。
これは、どういう事なんだろう・・・?
二日前の朝、朝の挨拶と隣に立つ彼に大混乱して、“また”と云う言葉に、“また”と返事をして。
・・・今朝に至った様・・・だけれど。
あの子は、電車に乗って来て迷うこと無く私の傍に来て、挨拶をしてから普通にそこにいる。
何で?何か御用でも?ところで、どちら様でしたっけ?良いお天気ですね?
・・・どれも違う。
「どうしたの・・・かな?」
そうだ、どうしたのか・・・って、私、声に出してる。話しかけるつもりも・・・それ以前に、何でもないはずなのに。
「僕は、天宮 奏と云います。高2・・・17歳です」
・・・・あ。自己紹介されてる・・?
つい隣に立つ、その子の顔を見上げれば、彼の顔と視線は私のそれに合わされていて、ぐっと何かが詰まった様に動けなくなる。
「・・・はい」
自己紹介されて、これは無いって思うけど。今の私には返事で精一杯で。何とか視線を反らせば、動く様になった顔を正面に戻す。
・・・これって、どうすべき・・・どうしたら良い・・・どうしろと・・・?
二日前の朝の混乱と同じく、ただただ降りる駅に着くのを待つしか出来ない私に、隣から声が降ってきた。
「天宮 奏です」
・・・さっき、聞きました。あまみや そう、くんですね、はい。
何回も聞かなくても分かるけど?って隣を見上げれば、焦ったような物言いたげな視線とぶつかった。
「・・・?」
・・・もしかして、名前を教えてと、云われてる・・の?でも、それを言葉に出せないから、自分の名前を繰り返してる、とか?
名前を名乗れば、“知り合って”しまう。
関わる気なんて無いって云いながら、気にしてる自分は何なんだろう。
あの手紙・・・を読んで、あれが誰が書いたものなのか、思い当たってしまった時点で、もう意識は向いていて。二通目をポケットに入れたのを受け入れてしまった時には、もう関わってしまっていたのに。
それから挨拶が始まって・・・これって、私が中途半端に関わり・・受け入れたからだ。
直接、来るなんて思っていなかったし、好奇心とよく分からない状況を少し楽しんでた。
“何で?”は、私が原因でもあるのに。
私、自分がした事を、この子だけに何もかも押し付けてた。
高校生に声を掛けられて、何か悪い事をしているみたいで。一気に後ろめたい感じがして。
でも、ただ朝の電車で挨拶をして隣に立っているだけの、“知り合い”に何の悪い事があるのか。
“気になる”なら、知れば気が済むものだし。きっかけがちょっと・・・だけど、名乗って挨拶をする位なら誰にでもするし。
そんな、自分の中の混乱の原因が私自身だったと、それを言い訳じみた解決方法を考える自分に、どう収拾を付けるつもりかと、今さら思い至る。
そんな私に、また彼から声が掛けられた。
「あの、ここですよね?駅」
「・・えっ?・・・あ、そうですっ・・すみません、ありがとう」
考え込んでいて、うっかり乗り過ごす所を助けてもらってしまった。
もう開いてしまっている扉に急ぐ。ホームに足を着けた瞬間に扉が閉まる。本当にぎりぎりだった。
ホームから電車を振り返ると、ガラス窓のあちら側の彼が私を見ていた。
もう一度、頭を軽く下げると。にこりと笑顔でつり革に掴まる指をひらりと振った。
その屈託の無い、笑顔に。
私は、彼の“気になる”が“気が済んだ”にしてしまいたい、と思ってしまった。
そうなれば、また前のように“朝の電車の同じ車両に乗る人”に、戻るだけなのだから。
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