グ・チ・り・魔・DEATHからッ!!

kgym

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第一章 MA・DA・O ~マトモに生きないダメ男~

第2話 馬鹿とベタみは使いよう。

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ぷに。
 「・・・・・・ふぇ?」
 柔らかいものが唇に当たり、驚いてとっさに情けない声をあげてしまう。
 ・・・・・・目の前には、少女の顔がある。以上、説明終了。
  ・・・・・・・・・・・・え、 ・・・・・・・・・・・・まさか。 ・・・・・・・・・・・・嘘だろ?
 少女も何が起こったか気付いたようで跳ね起きると、勇氏の上に馬乗りになったまま、自らの唇をなぞり始めた。途端に頬がさっと朱に染まり、続いてわなわなと身体を震わせ始める。
 ・・・・・・え、いや、嘘だろ、まじかよ、やっちまったのか? 俺、キス、本当に? 頬ならまだしもマウストゥマウスでっ!? 一生守るつもりだったおれの貞操を返せよ!
 ああ、我が愛しき二次元こいびとよごめんなさい! 勇氏は卑しい三次元リアルに汚されてしまいました!! 神よ! 我が罪をどうかお許し下さい!!  ガァアッデェエィム! ズィィイザアァス!
 後悔の二文字がパニクったテトリス並に積み上がっていき、勇氏は心の中で信じもしない神に赦しを請う。可愛いからいいかとか微塵も思ってないし、あ、女の子の唇ってこんな柔らかかったんだとか、良い匂いするんだな・・・・・・とかこれっぽっちも考えてない。たとえどんなにアルティメットにキューティクルでも、ドラマティックにトレビアンでも駄目なのである。
(・・・・・・っ、くそっ。と、とりあえず平静を装うのが先だ・・・・・・) 
 ともかくキスされて女より男の方がテンパるとかギャグ以外の何物でもない。動揺を悟られないよう必死に表情を整えながらも、勇氏は目の前の少女を見る。
  少女は未だに薄く頬を染めながら・・・・・・まるで親の敵を見るかのような目で勇氏を睨みつけていた。これだけ敵意を放ってくるとなんだか自分が悪いような気がしてくるので不思議だった。
 それにしてもすげえ被害者ズラしてんなおい。事故だろ事故。俺も被害者だっつの・・・・・・、あ、こいつ口元拭いやがった。喧嘩売ってんのか上等だよ買ってやるよいくらだオイコラ。財布準備するからちょっと待ってろ。                                
    ・・・・・・ということでぶちかます、メガトン級の一言。

 「・・・・・・ていうか重いんすけど。どいてくんない?」
「・・・・・・!? ・・・・・・ッッッッ!!!!!!」
 ハイ買いましたー。お釣りはとっとけ。少女の額がぴしっと音を立てて引きつり、猫のような俊敏さで飛び退き立ち上がる。
 ごしごしごし。
 ごしごしごしごし。
 互いに何度も唇を手の甲で拭い、「自分の方が嫌だった」アピールが繰り広げられる。
 唇がひりひりし始めた頃に立ち上がり、沈黙の幕を勇氏は開けた。
 「・・・・・・名前は?」
 「ヴァネッサ・ドートリッシュ。あんたみたいなナメた門番に家を名乗るつもりは無いわ」
 「そうかい。まあどちらにしろ“こっち”じゃ言えねえんだけどな・・・・・・、ああ悪い、俺は勇氏だ。それでヴァネッサとやら、お前に一言言っておきたいことがある」
 「・・・・・・何よ。聞いてあげるわ」
 だらけきった瞳をキラリと光らせて、拳を重ねて胸の前へ持ってくる。更に肩を丸め、エグい内股で上目遣いに勇氏は吼えた! 
「ファ、ファーストキスだったんだからね! 責任取ってよねッ!」

・・・・・・ブチィッ。

「きゃるん♪」というサウンドエフェクトが出そうなセリフを、恥ずかしげもなく裏声で放たれ、ヴァネッサの中で何かが弾ける音がした。
 もう怒った、容赦はしない。わずかに残った理性をかき集め、瞬時に算段をつける。
  んでもって放つことにしたのは、左足と共に体を傾け体重を乗せた全力のグー。もちろん避けられるだろうが、意識を手に向けさせた時点で自分の勝ちだ。なにせそれは囮、本命は浮いた方の足で放つ股ぐらへの蹴りなのだから。
  ・・・・・・こんなに心の底から誰かを叩きのめしたいと思ったのは初めてなので、害意を抱いて人を殴ろうとするのも、そして蹴るのも初めてである。しかも思いっきり男の、その、急所を。
  正直気恥ずかしく躊躇もあったが、このスカした男を地に伏せられるというならまったく構わない。
  激務に追われているにも関わらずその身の研鑽を怠らない自分の父とて、たまに起こるケンカの際に母に蹴られて「か、ふぅ・・・・・・」と言って崩れ落ちるのだ。ましてやこの男が耐えられる訳がない!
「それはこっちのセリフでしょうがァああああああッ!」
 叫ぶとともに踏み出し、ヴァネッサは握り締めたこぶしを前に突き出した。
 ・・・・・・のだが、そこで思わぬことが起きた。この男、頭の裏で手を組みニヤニヤと見ているだけで、避ける素振りを見せないのだ。
  ・・・・・・よくもまあこんなに人をコケにできるわね、と怒りを通り越して呆れさえしたが、もう自分のこぶしはその鳩尾に触れるか触れないかの所だ。
  調子に乗ったのが命取り、左右に避けてももう間に合わない。素早く後ろに退るならなんとかなるかもしれないが、その時は予定通りに空中に置いてきた方の足で蹴り上げるだけの話・・・・・・。
 ヴァネッサはそう思っていた。

  ・・・・・・パチンという音と共に、自分の手がその直前で空間に固定されたように動かなくなるまでは。

  「・・・・・・おいおいダメだろぉ、初対面の人に暴力なんか振るっちゃあ?」
  「なっ!? ・・・・・・っさいわよッ!!」
   ヴァネッサは面食らったが、当初の通りに蹴りを放つ。
   ・・・・・・が、それすらもビタリ、と中途で止まり、勢い余って思いっきりすっ転ぶ。
 「ほらみろ言わんこっちゃねえ、さっそくバチが当たったぜ?  あと言っちゃ悪いが黒はやめとけ。そのナリで一体何を勝負するってんだよ」
  笑いながら言う勇氏の言葉は聞こえるだけで、頭の中には入ってこない。ヴァネッサの心は悔しさでいっぱいで、それどころではなかったのだ。
 もちろんこの男がなにもしていない訳がない。だがしかしその正体がわからない以上、大人しくならざるをえない。
  ・・・・・・見下ろしてくる勇氏を睨みつけつつヴァネッサは立ち上がったが、そのとき勇氏がぽん、と手を打った。忘れてた、という声が言わずとも聞こえるような動作であった。
「・・・・・・なあ、それはそうとしてなんだが」 
「なによ! まだなにかあるのッ!?」
「悪い悪いさっきは俺がやりすぎた。謝るから聞けって。キレてる場合じゃねえぞ?」
そう言うと先ほどから取っていたバカにした態度をやめ、勇氏は軽く頭を下げた。
  あまりの屈辱に思わず全身が震えっぱなしだったヴァネッサだったが、唇を噛んで怒りを鎮め応じる。理由はこれ以上この男の挑発にムキになっても無駄だと悟ったからと、そしてもう一つ。このまま変な意地を張って反発していると、さらに何かイヤなことが起こりそうな気がしたからだ。
「・・・・・・なによ、さっさと話しなさい」 
「いやさ、まさかお前手ぶらで"こっち”に来た訳じゃないだろ? 察するにだがつっかえた時、持ってきた荷物手放したな?」  
「そうよ。 ・・・・・・で、それがどうかしたの? 脅かしてるつもりなら無駄よ。来るの初めてじゃないから知ってるわ、そんな時「門」は中に入った物を外に弾き出すのよ。こっちにないんだからあっちにあるはず。・・・・・・って、この後に及んでまだバカに・・・・・・」
「いや、そういうわけじゃなくてだな? 最近どこぞの成金が爆買いして帰った時の話なんだけどよ、荷物が多すぎてお前みたいに通らなくってさ。いちいち抱えて運ぶのも面倒だって、門に放って運搬したんだ。・・・・・・で、自分たちも渡ってみるとアラ不思議、こっちに届いてるはずの荷物は、一つもありませんでしたと。そーゆー話があるワケよ」
「・・・・・・それってどういうこと? 新しい制約なの?」
「正解。通行人が物持って通るのは良いけど、物だけ通すのはダメらしくなっちまったんだよこの門ちゃん。門っていうけどトンネルみたいに少し奥行きあるから、きっとその分弾き出すのに疲れたんだな、ここ最近は異世界の彼方にポイ捨てされっぱで泣く通行人が増えた。まあ最近はだいぶ調子よくなってきて、荷物が飛ばされるまでに少し時間ができるようになったな」
「・・・・・・門をまるで人みたいに言うのね」
「まあな、この世界にあるもん全部が俺にとってはアライビングだ。・・・・・・でもって話を戻すけどな、お前は通る時に荷物から手を放した。・・・・・・つまり俺が何を言いたいか、ってーと・・・・・・」
「・・・・・・ちょっと待って、嘘でしょッ!?」
話の途中で気づき、ヴァネッサは先ほどつっかえていた机の引き出しに今度は頭から突っ込んだ。
  その言葉が本当ならば、持ってきた手荷物・・・・・・その中に入っている活動報告書もふいになってしまう。・・・・・・今のところただの白紙の束だが、「こちら」で自分が功績や失態を成すにつれ、勝手に書き込まれていくように出来ている。
  当然その管理能力も試験では問われているのだが、ヴァネッサはそのことをあまり重く考えていなかった。
  改竄防止に外部からの干渉はできない。書き込めないし消せないし、さらにいえば汚れないし濡れもしないし燃えもしなければ破れもしない。そんな紙束盗まれない限り大丈夫だろう、とたかをくくっていたのだ。
  すぐに荷物が見えたが、後少し届かない。例えようのない何かが流れ、まとわりついてくるような不思議な感覚に、ヴァネッサはさらに身を沈めていく。
  これを感じる時はこの試験を乗り越えた後だと思っていたので、今こうして再び門をくぐる自分が情けない。
(ほんっとに最悪・・・・・・。油断してたわ、あんなくだらない男に気を取られるなんて・・・・・・)
頭に上っていた血が抜け、自らの至らなさをヴァネッサは噛み締める。
・・・・・・しかし悲しいかな、そんな反省から学ぼうとする少女の健気な様子は、傍から見ている気だるげな男には伝わらないのだった。

  ・・・・・・思い出すのはゴーン! という効果音と共に、ウォーターセブンの煙突に刺さった腹巻き三刀流。そんな残念な状態の少女を、勇氏は呆れたように見つめていた。
(・・・・・・ってか普通足からだろ。思考より体が先に動くタイプか)
しかもバタバタしてるので、腰の布がめくれることめくれること。先ほどがっつり見たというのに、見えそうで見えないチラリズムは勇氏の心をグラグラの実を食べたあの三日月ヒゲのごとく揺らしてくる。
  ここでイタズラするのは薄い本や固い本のベタでベターな一手。だが勇氏にはその甲斐性・・・・・・はあるけれども、資格はない。
「・・・・・・叫びすぎて喉乾いたな。暑いし、なんか飲んで来るか」
  ともあれ、流石にこのままこの場に居続けるのはなんかまずい気がする。ということで適当な理由をひとりごち、時間を潰しに勇氏は下に降りることにした。

「ふぃー、疲れたぁ、仕事したなー・・・・・・」
冷蔵庫で再びドクペを飲むと、先ほど寝ていた茶の間に帰還。クーラーの爽やかな空気に包まれ、愚痴りながら勇氏は寝転がる・・・・・・
「って、何してんのよ! さっさと仕事しなさいよッ!」
「え~? あと五分勘弁してくんない?」
後頭部目掛け迫るトランクケースを難なく避けると、その反動で起き上がった勇氏は座り、フルスイングしてきたヴァネッサに問う。当然ヴァネッサは激怒していた。
「ふざけないでちゃんとしなさいよ、あんた今まで何にもしてないじゃない!」
「だって今日誰か来るなんて聞いてませんからね、僕。・・・・・・まぁ、仕方ないので働くとしますよ。“こっち”の3つのルールはご存知ですよね?」
「当たり前じゃない。1つ目、#$¥&&#の地名、家名、物の名前は使えない。また#$¥&&#の情報の秘匿のため、わたしたち“入界者”はこの地球を“こっち”、#$¥&&#を“あっち”って言ってるわ」
「それじゃ2つ目」
 「“こっち”の世界に、“あっち”の物を持って来たらNG。例えば魔石とか、魔道具とか。理由“あっち”の存在が“こっち”、地球の人間にバレたらいけないから」

「まあ当然だな。“こっち”の世界にはない“魔力”っていうモンが、“あっち”には溢れてる。もし“こっち”の連中にそれがバレたりしたら戦争だよ戦争。・・・・・・んじゃ3つ目、その杖を」
「イヤよ」
「いや、そうは言っても規則ですし。バレたらアウトなのに魔法使うバカを許す訳ねえだろ。どうしても杖出さねぇなら勝手に取りますよーっと」
 言いながら少女の腰に差してある杖をさっ、と引き抜こうとすると、思いっきりはたかれた。痛てぇなおい。何でもいいから早く終わらせてくれよ。
「あのですねぇ、規則だっつったでしょ。聞いてました?」
「聞いてたわよ? でも、出す必要はないわ。だってわたし“試験”を受けに来たんだから」 
「! ・・・・・・ほぅ」
  しかし次のヴァネッサの言葉は、勇氏の気怠げそうだった目を興味深そうに細めた。
  瞬時に頭の歯車が回り始める。こちらで受ける試験といえば、“取締”の一つしかない。
 ・・・・・・先程言った通り、あちらの世界の物をこちらに持ち込むのは禁止されている。──しかしどこにでも自分の利益しか考えないバカはいるもので、まず魔道具や魔獣などを横流しし始める者が出てきた。そしてそれがイイ金になることを知ると、味を占めたそいつらは組織を作り始め、大規模な密輸を始めた。
 ・・・・・・まあ、そんな連中が一つ二ついる程度だったら話は簡単だっただろう。
 しかし彼らの勢いは収まることを知らず、貧困に苦しむ者、罪を犯した者をそそのかし、次々と引き込み、取り入れていった。その結果、その数は爆発的に広がり、今現在、そんな組織の数は小中含めれば百近くに達する。
  もちろん、この未曾有の危機を“あっち”の国が黙って見過ごしていた訳ではない。元々“こっち”の人間である国王はこの事態を重く見て、ブローカーたちを検挙する組織を立ち上げた。
 そう。それこそが、“取締クラックダウン”。給料良し。衆評良し。言ってみれば“こっち”の昔の中国であった「科挙」のように、誰もが羨むエリート街道まっしぐらな職種なのだ。
「・・・・・・んにしても試験は春だぞ、季節間違えてるんじゃねえのか?」
「つ・い・し・に・来・た・の! 合格だったらもうしてるわよ!」
 そう言うと、ヴァネッサは先ほど苦労して救出した荷物の中に手を突っ込んだ。ゴソゴソといじくり、一枚の紙を取りだして誇らしげに突きつけてくる。見れば、合格者一覧表とある中に、しっかりと少女の名前が記されてあった。杖の携行を認める印も、きちんとついている。
 「ほら見なさい、分かったでしょ!? 大体あんたみたいな門番なんかが生意気な口叩いていい立場じゃないのよ、光栄に思いなさい!」
  そこまで言うか普通。まあ、“あっち”の取締には優秀な人材しか登用されないからな・・・・・・。
 言いたいことはいろいろあったが、少なくとも、“あっち”ではそうなのだ。薄い胸を誇らしげに張る少女の気持ちは、まあ、分からなくもない・・・・・・・・・・・・。
 しかし思考中の沈黙を恐れをなしたとでも思ったのか、ヴァネッサの増長は止まらない。
 「ふふん、やっと自分の身の程知らずに気づいたみたいね! ああ、謝罪なら聞いてあげなくもないわよ? わたしの優しさにせいぜい感謝することね!」
 腰に手を当て鼻まで鳴らし、こんな事まで言い出す始末。気い強い上に調子に乗りやすいとか手に負えねえよ、と相手するのを勇氏は諦めかける。
 ・・・・・・だが、しかし。
 「・・・・・・ん? これなんだ?」
 どうやらその一覧表にぴったりともう一枚重なっていたようで、剥がれるようにひらり、と書類が足元に落ちた。屈んで拾い上げると、ヴァネッサの顔からはさっ、と血の気が引いていた。
 「ち、ちょっと待って、それダメ!」
 飛びつくように伸ばす手をかわし、にったりと勇氏は笑う。こんな反応されて、返すバカがいたらお目にかかりたいもんだ。
 「は? やなこった。そんなこといわれたら返さないのがお約束ですぅー!」
 ぴょんぴょん跳ねるヴァネッサの手が届かないよう、上に掲げて凝視する。暗いわ目からは遠いわで見にくかったが、文字の羅列は問題なく読み取ることができた。
 「・・・・・・なになに? ヴァネッサ・ドートリッシュ・&##・*・*$&¥ー$。貴殿は取締登用試験に合格されたが、あいにく今現在どの地区にも空きが無い。よって待機を命ず。・・・・・・ほー。へー、ふーん」
 「・・・・・・! べ、べつにあんたには関係ないでしょッ!」
 図星だったのか、少女は顔を赤らめそっぽを向く。これがラノベだったらもうそろそろ説明連チャンで読者の皆様はお疲れだろうが、お兄様TUEEEなあのラノベよりはマシなハズだ、我慢してくれ。面白れえけど読みにくいんだよなアレ。
 さて、それはさておき説明すると、“あっち”では地区ごとに分けられ、優秀な者が配属される。
 ・・・・・・戦闘能力や情報収集に長ける者、果ては取引物などの処理やブローカーたちの思考をトレースし推測する者など“取締”は多伎にわたって細分化されているのだが、どうやらこの少女はその席から押し出されたようだ。
「 ・・・・・・で、追試に来たと。そんでもってまだなってもいないのに、胸張って門番風情に威張り散らしましたと。調子に乗っちゃいました、と。・・・・・・俺だったら恥ずかしさで死ねるけど。ああ、弁明なら聞いてあげなくもないぜ?」
「~~~ッッ!!」
 先ほど聞いた言葉をそっくりそのまま返すと、ヴァネッサは羞恥に頬を赤くしていく。そして肩をどこぞのRAVEの使いレベルに震わせ、がっくりと落とした。
「おーい。お~い? 聞いてんのか?」
 顔の前で手を振るが、ヴァネッサから応答はない。どうやらシカトを決め込むつもりのようだが、そんなことされると更にからかいたくなってしまうのは性だろうか。
 「・・・・・・ったく付き合い悪いな、これだから昨今のガキはゆとり世代なんて言われんだよ。親の顔がみてみたいわ。そんなんじゃ社会でやっていけねえし、いつか家の名前に泥ぶちまけるぞ。まあ俺は別に構わねえけどよ?」
 家柄まで引き合いに出して煽るが、ヴァネッサは貝のように口を閉ざして床を見つめ続ける。なんだか急に虚しくなってきたので、勇氏はため息一つと共に切り替えた。
 「・・・・・・はいはいわかったわかった、じゃあどこまでも他人行儀に対応するからな」 
 空きっ腹に入れたビールも抜けているし、ここらが仕事に入る頃合いだろう。
 しっかりとメリハリをつけ、きちんと遊びと仕事に線を引く。
 ・・・・・・実際には本日は休みであり労働の義務はないのだが、こうして来られてしまったならば送り返すよりもきちんと仕事した方が早い。そして仕事に支障が出るのならば悦楽の余韻なんて絶対に持ち込まない。こう見えても勇氏は真面目な方の人間なのだ。
 ・・・・・・まあ、そんな真摯さは「重要」と自分の中で順位付けられている物事に限ってしまうのだが。
 「では付いてきてください。元々お客様が来られるのは本来こちらの部屋です」
 少女は黙りこくったまま、首を縦に振る。まだ話すつもりねえのかこいつ、しつけえ。甘党天パ侍だって言っただろ、ねばり強さとしつこさは紙一重って。いいかげんにしろよ、何か俺が悪者みたいになってんじゃん・・・・・・  
 ・・・・・・1階から2階へ登るだけなので、とりとめもないことを考えている間に足は勝手に着いてしまう。
 「ほらお嬢様、お入り下さい」
 馬鹿丁寧にドアを開き、手のひらで部屋に入るように促す。先程は少し悪かったと思い、どこぞのぐる眉コックにも劣らぬレディーファーストっぷりを勇氏は見せる。
 しかし、ヴァネッサは無視して礼の一つも言わずに中に入った。
 ・・・・・・まあいいか、どうせもう二度と会わないんだろうし。
 「・・・・・・さて、と」
 しなくちゃいけないことはたくさんある。時間の無駄だ、さっさと終わらせるか。
 引きつるこめかみをカリカリと掻きながら、勇氏はとりあえず目の前にいる「仕事」を片づける事にした。
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