恋のヤンキー闇日記

あらき奏多

文字の大きさ
63 / 107
遅かれ早かれ(side美夜飛)

49

しおりを挟む



 緊張の糸だけがピンと室内を張り巡らせ、呼吸するのも忘れそうになる。

 花岡にいたっては兼嗣と廣瀬と俺を交互に見るだけで、不憫なほどずっと挙動不審だ。
 当事者なはずの俺も首を突っ込めなくて、なんて声をかけていいものか、回らない頭で必死に考える。

「美夜飛の身体、見たけど、あれはアホすぎて呆れるわ。ここの風呂、大浴場だぞ。他のやつに見られていいのかよ」
 
「っ……そんなわけないだろ! ってかなんで廣瀬がみーちゃんのカラダ見たことあんの……?!」

「いや、今質問してんの俺だから。俺が聞いてんだよ、状況わかってる?」

 廣瀬の斜め後ろにいる俺は、座っているのもあってやつの表情はよく見えない。

 見えないが、だんだん低くなる声には明らかな怒気が含まれていて、それが地下のマグマみたいで、こっちまで身がすくむ。

 それを真正面から受けている兼嗣は気まずげに目線を逸らすだけ。当たり前だ。
 逆に今ここで何か余計なことを言ったら俺が殴り飛ばすからな。

「……」

「言えねえくらい酷い扱いしたのか。なあ俺、美夜飛より、お前のほうが何考えてんのか分かんねぇんだけど」

「……後悔してる。みーちゃんに、無理させたこと」

「は?」

「……兼嗣、やめろ……」

 何だか妙な方向に会話が進んでいることに気づいて、とっさに口を挟む。
 だが兼嗣は懺悔するようにうつむき、動く唇が止まる気配はない。

 ざわりと湧いた焦燥感。いやな胸騒ぎがした。

「痛いって泣いてたのに……」

「……っおい、やめろ、やめろよっ、兼嗣……っ!」

「無理やり、抱いた。レイプしたんだ」

「違う!! 違ぇ……っ!!」

 空間がビリビリと波打つくらいに叫んだ瞬間──ボゴッ、と空気が揺れる、硬くて鈍い音がした。

 廣瀬の一撃が、顔面にモロに入った。
 勢いで後ろによろめいた兼嗣は頬を庇うこともなく、項垂れて微動だにしない。

 一部始終を間近で見ていた花岡は、自分が殴られたわけでもないのに真っ青な顔を両手で覆っている。

「……お前、ほんと何してんの? 何やったか分かってんの?」

「……」

「お前のしたこと全てにムカつくわ。マーキングなんか、こいつは男にとっての獲物だって目印つけてるようなもんだろ。逆に足枷になるって思わなかったのか?」

「……」

「そこまで考えられなかったのか。なあ、相手のこと考えられないくらい余裕ねえのに、自分の欲だけ押し通したのかよ」

 思いきり殴っておいて廣瀬は声を荒らげることも呼吸を乱すこともなく、口調も声色もひたすらに冷静で平坦だった。
 なのにめちゃくちゃ理詰めで責めてくるの、それが正論なだけに恐ろしい。

「……ごめん」

「つか殴りてえのは俺じゃなくて美夜飛のほうだよな……。俺に謝るのもお門違いだし。ちょっと頭冷やしてくるわ。裕太、美夜飛頼む」

「あっ、ちょ……翔……っ!」

 廣瀬はすれ違いざま、退けと言わんばかりに兼嗣の肩に強くぶつかって、部屋を去った。

 いつもなら全然しない足音が聞こえて、唯一それが、廣瀬の怒りを表してるみたいだった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...