恋のヤンキー闇日記

あらき奏多

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遅かれ早かれ(side美夜飛)

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 だって別に、あいつに触れられるのは、求められること自体は、いやではなかった。知らない他人じゃないから。

……でも、身体に馴染む、拒む要素がないあいつだからこそ。心底、いやだった。
 
「だっ、黙るなよ……。気に障ったなら、」

「……違う。ちょっと涙腺にきただけ」

「えっ、ごめん」

「ううん……。花岡っていいやつだな」

「へっ? そ、そうかな……」

 えへへ、と花岡は何故か嬉しそうにヘラヘラしている。
 ちょっと薄気味悪いけど、でも本当に悪いやつではないことだけは伝わって、拒絶されなかったことが嬉しくて、俺もつられて少し笑った。

……図星、だったんだ。
 自分でもまだ気づいていない心を、気持ちを代弁されたようで、感極まってしまっただけだ。
 熱のせいもあって、今は正気じゃない自覚もある。

「……なあ、朝日。俺もこの際だから言うけど、お前のこと、ずっと苦手だったんだ」

「うぇ……?」

「でもお前、思ってた感じと全然違うのな。器でかいよ。俺がもし同じことされたら、そうは思えないかもしんない」

「……だな。俺だって許せねえけど、でも……」

「……でも?」

 言おうか言わまいか一瞬迷うが、促されて、それは自然と口をついて出る。

「……あいつの全部を、否定したいわけじゃないんだ」

 きょとん、と今度は花岡が黙った。
 そして一呼吸おいたあと、笑いまじりの温かな声色で。

「もはや愛だな」

 なあ、それってさ、親愛なのか友愛なのか、それとも恋愛的な意味なのか。
 一体、なんだと思う?

 そう思って、口に出そうとして、やめた。
 きっと、それを自分で考えないといけないのだろう。

「なあ、俺も、美夜飛って呼んでいい?」

「……そんなん、好きにすればいいだろ」

 変なこと聞くやつだな。

「じゃあ、“みーちゃん”は?」

 邪気のない明るい声で言われ、はたと少し考える。

 唇を尖らせて、そっぽを向いたまま、なんとなく拗ねたように呟いた。

「……それは、ちょっとやだ」

 花岡の笑った柔らかい気配がする。

 自分のその返答が、それが全てなのかもしれないと、唐突に気づく。

──ずっと、自分に置いてきぼりにされている気分だった。
 どうしてそんなふうに思うのか自問しても分からなかった。

 抗えなかった自分が情けないのと、兼嗣の一方的な気持ちがやるせないのと、もっと他にどうにかできたのではという後悔と、それでも、あいつの全部を嫌いになれない愚かさに。
 救いようがなくて、自嘲もできない。

 考えれば考えるほど切なくって苦しくて、胸の奥の柔らかいところがぎゅうとする。

 涙が出そうになるのを喉奥でこらえて、深く息を吐く。

 今だけは、まだ、何も見たくない。

 逃避するように、そっと瞼を閉じた。




end.


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