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犬も食わない少し前のお話(side花岡)
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しおりを挟む吐き捨てるように言った美夜飛の煽りは無自覚というより、鋭い真摯な眼差しからして、真っ向からぶつかるつもりのようだ。
兼嗣は怒ると力に任せてくるみたいだから、美夜飛に勝ち目があるとは思えなくてヒヤヒヤする。
「裕太……、悪いけど、外に出ててほしい」
「へっ、え……っ?!」
「花岡、こいつの言うこと聞かなくていいぞ。俺が出てくから」
えっ、ええー……!
とてつもなく俺を巻き込んで、間接的な喧嘩をするふたりにオドオド狼狽するしかない。
話にならないと諦めたか苛立った美夜飛がチッと舌打ちし、兼嗣から距離をとって出入り口に向かう。
その後ろ手を兼嗣がすぐに強く掴み、美夜飛を自分の腕の中に閉じこめ、そして茫然とする俺の背中を優しく誘導するように廊下へ出すと、
「……ごめんね、裕太」
申し訳なさそうに下がった眉と、垂れた目を細めた柔らかい声色で言われ、パタン、と目の前で静かに閉まる。
そして、ガチャリとドアの鍵をかけられた。
ちっ、違うだろ、それ……。
その台詞、その表情、俺じゃなくて、全部美夜飛に見えばいいんじゃん……。
「──ふざけんなっ、離せ……! おいっ、やめ、いやだ……っ、頭おかしいだろお前……!」
美夜飛が暴れているのか、室内から物がバサバサ落ちる音と、ガタガタと家具が動くような音もする。
「──……てめぇ……っ、この変態クソオタク! またかよっ、結局こうなんのかよ! 力尽くでっ、身体ばっか持っていって、楽しいかよ……っ!」
廊下には籠もったような美夜飛の怒鳴り声が聞こえて、俺はどうするべきか迷った。
もう放っといたほうがいいのか?
人の恋路にここまで首を突っ込むのはアリなのか?
普通はナシだろ。無粋だ。野暮すぎる。
でもこの一週間、たまに素直に見せた美夜飛の寂しげな顔を思い出すと、この状況はあまりに不憫で、可哀想で。無視、できなかった。
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