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忠犬が狂犬になった理由(side美夜飛)
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しおりを挟む……お前、殴られてばっかだな。
そんで、避けることもなく、いつも律儀に受け入れてる。
免罪符だとでも思ってるのか、それが。
「……っいやだ……、」
顔が目と鼻の先まで近づく。
首を振って、顔を横に背けた。
そうしないとまた口付けられると思った。
ぎゅうっと目を瞑って肩を押しやると、その手を邪魔そうにきつく掴まれ、まとめて頭の上で壁に縫いつけられて。
「……っうぁ、やめ……ッ!」
鼻先が近づき、気配が頬を掠める。
そうしてやつが触れたのは、噛みついたのは、唇ではなく、無防備に晒された首筋だった。
その痛みよりも、胸の奥のほうが潰れそうだった。
前はもっと、たとえ暴れる腕が邪魔でも、手を繋いで、指を絡めて、熱を持つくらいに密着して、汗ばむほど温かくて。
拘束するというよりは、慰めるような仕草だった、のに。
……キスさえ、しないのか。
あの時より、ひどいじゃねえか。
「てめぇ……っ、この変態クソオタク! またかよっ、結局こうなんのかよ!」
首の太い血管が、血液の流れを感じるほどドクドクと脈打つ。
耳許で自分の鼓動が聞こえるくらいに跳ねる頸動脈の上を、兼嗣の舌がねっとりとたどっていく。
ずくずくと胸の奥がさらに苦しくなって、その痛みを誤魔化すように頭を振ってやつを拒絶した。
「力尽くでっ、身体ばっか持っていって、楽しいかよ……っ!」
揺れる視界の中、色んな小物が散乱した床に、あの、事の発端である日記が紛れているのがふと目に入る。
見慣れた大学ノートが、今は恨めしくて仕方なかった。
お前がいなけれゃあ、こんなことになってなかったのに……っ!
ぶつけたい悲しみが、怒りが、虚しさが、情けなさが、出口を求めて体内で暴れまわる。
兼嗣は片手で俺の両手の自由を難なく奪い、脚で蹴ろうとすると両膝を開いて、そこに身体を滑りこませて。
「……ップライドへし折って、ズタズタに切り刻んで楽しいかって聞いてんだよ……っ! 答えろや、馬鹿野郎っ!」
追い詰められてどうすることもできずに、唯一動く口で怒声を浴びせた。
壁と背中の間に挟まれたモニターが勢いに押され、背骨や肩甲骨に容赦なくゴツゴツ当たって痛い。
がっちりと押さえられた手首が、末端まで血が巡らずに、手のひらが冷たく、ピリピリと痺れる。
痛くて、痛くて、泣きたくなる。
なあ兼嗣、お前の愛は、ぜんぶ、痛いよ。
「……楽しいわけ、ないだろ……っ、」
「……っ!」
「好きでこんなこと、しない……っ」
前髪の隙間から見えた目は、まっすぐに俺を見る。
目を眉も下げた、くしゃりと歪んだ顔は苦しそうで、泣きたいのを必死で我慢してるような表情だった。
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