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第一章
第五話 ギルドマスター
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大量の掲示板に所狭しと依頼書の紙が貼り付けられていた。壁だけでは足りないため、パーティションが何台も並べられ、その両面にも依頼書がある。その数はゲームで情報ウィンドウから探すクエストの量を明らかに上回っている。全部読むだけでも、相当な時間が掛かりそうだった。
冒険者登録するためのフロアは人がほとんど居なかったが、こちらは大勢の冒険者が依頼書を見ていたり、パーティを誘い合っているようだった。森で出会った女の子たちのパーティが居るかとざっと眺めてみたが、残念ながら彼女たちの姿は見つからない。
今度は依頼書を眺めてみる。何かを討伐して欲しい、誰かの護衛をして欲しいという依頼は低ランク冒険者向けになると報酬が安く、アイテムを入手して欲しいという依頼はランクによる受注制限がないようで参考ランクと書かれていた。
フォルティシモが生活していけるかどうか、は優先度が非常に高い問題だ。冒険者に登録しようと思ったのは、およそ他のことで食べていける自信がなかったことも理由にある。
近衛翔はある一点において致命的な欠陥を抱えており、それは経営者や一般的な企業戦士となるには大きすぎる欠陥だ。
その欠陥の名前は、俗にコミュニケーション障害、コミュ障と言う。
単純な討伐依頼が目に入る。ただ倒すだけで良いので報酬は高くない。しかし安くても食事代くらいにはなるので、討伐依頼を受けてみようと手に取った。
「おい、あんた、それを一人でやるのはやめておいた方がいい。危険だ」
フォルティシモが依頼書を取ると、横から男が声を掛けて来た。今のフォルティシモと同じ装備を付けている青年だったので、同レベルだと判断して親切心から忠告をしてくれたのだろう。
初心者プレイヤー同士では、意外とこういった現地での情報交換は重要だったりする。禄に調べて来ないプレイヤーも多いし、同じレベル帯なら今後パーティを組む際に組みやすくなったりするのだ。
デモンスパイダーがCランクの冒険者パーティを皆殺しにしていたので、フォルティシモの強さはCランクまでの依頼ならば安全にこなせると判断している。だから青年の忠告に従う必要はないが、せっかく親切な忠告をしてくれたのだから無闇に反発する必要もない。
フォルティシモは持っていた依頼書を放して、青年に声を掛けた。
「そうか、ソロは危険なんだな。そうだ、な。その通りだ」
「なんで当たり前のこと言ってんだ?」
よく勘違いされるが、フォルティシモはソロに拘りがあるわけではない。数少ない気の合いそうな友人を誘って断られるのが怖かった―――否、他人とプレイスタイルが合わなかったのだ。
心の中で強がっておいて、たしかに危険だなと思い直す。討伐対象のモンスターは初心者プレイヤーが挑むレベルでしかない雑魚だが、初心者プレイヤーが何度も「死に戻り」しながらクリアすることが想定されている。ブルスラの森周辺とデモンスパイダーはゲーム時代と変わらないレベルのモンスターであっても、この討伐対象モンスターも同じとは限らない。
「ゲームなら、とりあえず一度死ぬつもりで突っ込めば良かったんだけどな………」
トライ&エラーは多くのゲームでは基本中の基本だが、現実でやれば最初の一度で終わってしまう。命は一つしか無い。
「メンバーが居ないなら、俺たちのパーティに入るか? お前美形だから、女たちは喜ぶだろうしな」
「いや………」
フォルティシモが現在就いているクラスは、パーティに所属すると大幅に弱体化する特性を持っている。具体的には与ダメージ減衰、全ステータス減少、状態異常耐性減少など、その弱体化率や度々にネタにされるほどだ。だから反射的に断ろうとしてしまう。しかし試しておきたい気持ちもあった。
「野良なら参加させて欲しいんだが? 固定か?」
「野良? 固定? どういう意味だ?」
野良、固定とはVRMMOをやっている人間なら常識となるパーティの種類を表わす単語である。野良パーティは同じクエストや同じ目的の者がその場で集まって組むその場限りのパーティ、対して固定パーティとは基本的には何をやるにもいつも同じメンバーで構成されたパーティを指す。
「仕事のために一時的に組んだパーティなのか、と聞きたかった」
「一時的に? まあ、パーティ同士が連携することはあるが、そんな行きずりのメンバーに命を預けるなんて出来ないんじゃないか?」
「そう言われればそうだな」
野良パーティは壊滅して当然という気持ちで参加しろ、と言われている。それは現実に命が掛かっていれば許容できるはずもない。青年の言うことは現実で考えればいちいち尤もである。
「ああ、俺たちはそんな危険な依頼を受けるつもりはないから安心してくれ。最近は危険が増えているって話だから、安全を優先に動いてる」
「それは正しいと思うぞ。ただパーティ参加の話は、嬉しい話だが今回は断らせて欲しい」
「ん、そうか。引き留めて悪かったな。俺はカイル、気が変わったら言ってくれ」
「フォルティシモだ。悪いな、最初は一人の力でやってみたいんだ」
「分かった。けど無理はするなよ」
良い奴だった。もっと強かったらフレンド申請を送りたいと思っただろう。それでも今は固定パーティに所属するよりも、試さなければならないことが数多くある。
男から注意されておいて同じ依頼書を取るのは憚られたので、近くにあったスライムの破片の納品依頼を手に取った。いわゆる素材収集クエストだが、このようにモンスタードロップ品がクエストアイテムの場合、討伐クエストも同時に受けておくと効率が良いのは常識である。今回で言えば、ブルスラの討伐とスライムの破片の収集だ。
しかし、決まった場所で情報ウィンドウを操作するだけで、同じクエストを何度も受注できるゲームとは違い、大量の依頼書の中からあるかも分からないブルスラの討伐を探さなければならない。
「依頼を探す時点でソロ不遇かよ」
仮に仲間が八人居れば、八人で一斉にめぼしい依頼を探せるがソロではできない。ギルド職員に聞けば、大まかな場所を教えて貰えるかと思うのだが、考えることは皆同じである。依頼書の近くに待機しているギルド職員の周囲には、何人も冒険者が集まっていて、受けたい依頼の内容を伝えて職員に依頼書の場所まで案内して貰っている。
諦めてスライムの破片の収集の依頼書を持ち、受けたいことをカウンターへ伝える。
そのまま部屋を出ようとすると、ドアが勝手に開いた。入れ違いに部屋に入ろうとした男をさっと観察する。
筋骨隆々の肉体に傷だらけの顔、髪は白髪が交じっていても鋭い眼光は衰えていない。いかにも歴戦の冒険者然としている男は、ギルド職員の制服を着崩しており、フォルティシモが立ち止まると同じように立ち止まった。
「左右で瞳の色が違う、やたら美形の男………お前、フォルティシモか?」
「そうだが、そっちは?」
「おっと、これは失礼した。俺はここでマスターをやらせてもらってるガルバロスと言う。少し話を聞かせて欲しいんだが、時間を取って貰えるか?」
こちらに聞いているように見えて、決して逃がさないという雰囲気だった。
ギルドマスターに連れられた場所は小さな応接室で、簡素なテーブルと木製の椅子が置かれ、植物や絵画が飾られていた。
「なかなかのレベルを持っているそうだな?」
ギルドマスターは世間話もせずに切り出してきた。
「そうですね。レベルは必要なものですから」
「何に?」
「何にって、さ………強くなるために」
「そうだな。レベルは強さに重要な要素だ。だが、強さはそれだけじゃない」
「レベルが高いと何か問題があるんですか?」
法律で一般人はレベルいくつ以上にしてはならない、と決まっている可能性もある。そんな馬鹿なと思うことはできない。近衛翔の住む国でだって個人で爆弾や銃器を作ることは禁止されている。レベルを上げた人間は、戦車やミサイルと同列の兵器になるのだから、国として管理していても不思議ではないはずだ。もしそんな法律があるのであれば、フォルティシモのこの世界での生き方を大幅に修正しなければらない。
「高いと言っても九九だからな、問題はない」
つまりギルドマスターからすれば、九九は平均よりも上だが高レベルと言うほどではないということだ。もう少し高くても大丈夫だったかも知れない。
「俺はこういった事は苦手だ。だから率直に言わせて貰おう。我々は君をエルディンのスパイではないかと疑っている」
「エルディン、エルフの国でしたか?」
「そうだ。エルディンで訓練された戦士を送り込んできたのではないか、そう思う連中が居る。俺はそんな奴がいきなり冒険者登録して、レベルを晒すなんて間抜けはしないと言ったんだが、それさえもブラフだなんて言われると反論のしようがなくてな」
「エルディンには行ったことがない、と言っても信じてくれないでしょうね」
ギルドマスターはフォルティシモの言葉に苦笑する。
もちろんゲーム時代ならエルディンへ何度も行っている。その国は大森林の中で生活している穏やかな国でエルフの美少女美女NPCが多くて良い国だった。
「スパイを送り込むような関係なのですか?」
「本当に知らないで来たのか? アクロシアとエルディンはここ十年ほど戦争状態にある。すぐに全面戦争という状況ではないが、国境での小競り合いは続いてる」
勘弁してくれ、と叫ぶのに我慢が必要だった。海外製VRMMOの中には、国々が戦争状態で好きな国に所属してPvPを楽しむゲームもあったが、ファーアースオンラインはあくまで対モンスターのやり込み重視、戦争状態の国など一国もなかった。
「………疑われている程度なら問題ありません。ですが、ギルドで依頼を受けると問題があるなら、冒険者を辞めますが」
それにしても少しレベルが高くてスパイかも知れないというだけで、ギルドマスターが出てくるのは大袈裟ではないだろうかと思ってしまう。
「いや、そこまではしなくて構わない。ただ、君はハーフだと聞いている。冒険者ギルドに国境はないし種族で差別することはない。だがね」
「家族なり仲間なりをエルフに殺されて、復讐しようとしている冒険者も多いということですね?」
「それが半分だな。その様子だともう半分も分かっているか?」
「依頼が異常に多いことに関係していますか? 戦争の物資不足だとすると、依頼者側もエルフへの感情はよくない」
「そういうことだ」
軽い気持ちで【偽装】によって人間とエルフのハーフにしたが、大失敗だった。知らないということは、それだけで失敗を引き起こす確率を跳ね上げる。
フォルティシモは内心で盛大な溜息を吐き、とにかく当初の目的通りに行動しようと決める。この国を脱出するかどうかは、トラブルに巻き込まれなければすぐに決断する必要はないはずだ。
「護衛などの依頼者と直接会う必要のある依頼は、なるだけ受けないようにします。俺にはまだやりたいことがあるので、ギルドには迷惑掛けてしまうかも知れませんが」
「そのくらい迷惑とも思わないぞ。ふむ。これは個人的好奇心なんだが、何をしたいんだ? そのレベルなら冒険者をやらなくても働き口くらい見つけられるだろう?」
量子コンピュータの一つもない世界では、冒険者以外に金を稼ぐ方法が思い浮かばなかった。それに異世界に来たばかりで、どんな職業があるかも分かっていない。ギルドマスターへの回答は馬鹿正直に言えないので濁しておく必要はあるが、嘘を吐くと見抜かれそうなので本音も織り交ぜる。
「色々なことを知りたいと思っているのですが、まず衣食住の心配をしないでいられるようになりたいと思っています。冒険者がどのくらい儲かるか分からなかったので、試してみようと」
「はははっ! 知識欲か、いいな、それこそ冒険者の醍醐味だからな。確かに衣食住を満たしながら知識を得ようとすれば、冒険者はうってつけの職業だ。ようこそ冒険者の世界へ、期待しているよ」
◇
「ガルバロス様、いかがでしたか?」
フォルティシモが退出した後、やってきた職員がギルドマスターへ声を掛ける。ギルドマスターの顔にはフォルティシモと話していた時の穏やかな笑顔は浮かんでいない。
「限りなく白いに近いグレー。少なくともエルディンとは無関係だろう」
「それでもグレーなのですか?」
「何かを隠していることは間違いない。だが嘘がバレバレだ。プロじゃないな」
「早くレベルを上げる方法を発見し、それを独占しようとしているのでしょうか」
「それなら俺が知りたいぞ。今から締め上げてくるか?」
「冗談ですよ」
「分かってるよ。デモンスパイダーを一撃で倒せる【マジシャン】か。ハーフでなければ奪い合いだっただろうな」
「王宮がお抱えにしてしまうので、我々の管轄では無くなるでしょう」
ブルスラの森で出現したデモンスパイダーがCランク冒険者八人を惨殺し、通りがかりの青年によって討伐されたことは、Gランク冒険者から報告が上がっていた。その青年がその日のうちにやってきて、冒険者として登録するとは驚きながらも期待できる話だったが、エルフとのハーフというのは放っておける話ではなかった。
デモンスパイダーの生息地はエルディン領内だ。そこからブルスラの森までやって来て、ハーフエルフによって退治された。疑わないのが不可能という状況である。
「それにしても、この時期に出身地不明のハーフエルフか」
「何もなければいいですが」
「ある、だろうな」
ギルドマスターは先ほどまで話していたフォルティシモという青年を思い出す。
戦争の話をしたとき、本気で驚いていた。人間とエルフの戦争に驚愕できる感性の持ち主である。それはギルドマスターとして好む性質であるが、彼がハーフエルフであるゆえかも知れない。
「まったく………エルフと争っている場合ではないのにな」
冒険者登録するためのフロアは人がほとんど居なかったが、こちらは大勢の冒険者が依頼書を見ていたり、パーティを誘い合っているようだった。森で出会った女の子たちのパーティが居るかとざっと眺めてみたが、残念ながら彼女たちの姿は見つからない。
今度は依頼書を眺めてみる。何かを討伐して欲しい、誰かの護衛をして欲しいという依頼は低ランク冒険者向けになると報酬が安く、アイテムを入手して欲しいという依頼はランクによる受注制限がないようで参考ランクと書かれていた。
フォルティシモが生活していけるかどうか、は優先度が非常に高い問題だ。冒険者に登録しようと思ったのは、およそ他のことで食べていける自信がなかったことも理由にある。
近衛翔はある一点において致命的な欠陥を抱えており、それは経営者や一般的な企業戦士となるには大きすぎる欠陥だ。
その欠陥の名前は、俗にコミュニケーション障害、コミュ障と言う。
単純な討伐依頼が目に入る。ただ倒すだけで良いので報酬は高くない。しかし安くても食事代くらいにはなるので、討伐依頼を受けてみようと手に取った。
「おい、あんた、それを一人でやるのはやめておいた方がいい。危険だ」
フォルティシモが依頼書を取ると、横から男が声を掛けて来た。今のフォルティシモと同じ装備を付けている青年だったので、同レベルだと判断して親切心から忠告をしてくれたのだろう。
初心者プレイヤー同士では、意外とこういった現地での情報交換は重要だったりする。禄に調べて来ないプレイヤーも多いし、同じレベル帯なら今後パーティを組む際に組みやすくなったりするのだ。
デモンスパイダーがCランクの冒険者パーティを皆殺しにしていたので、フォルティシモの強さはCランクまでの依頼ならば安全にこなせると判断している。だから青年の忠告に従う必要はないが、せっかく親切な忠告をしてくれたのだから無闇に反発する必要もない。
フォルティシモは持っていた依頼書を放して、青年に声を掛けた。
「そうか、ソロは危険なんだな。そうだ、な。その通りだ」
「なんで当たり前のこと言ってんだ?」
よく勘違いされるが、フォルティシモはソロに拘りがあるわけではない。数少ない気の合いそうな友人を誘って断られるのが怖かった―――否、他人とプレイスタイルが合わなかったのだ。
心の中で強がっておいて、たしかに危険だなと思い直す。討伐対象のモンスターは初心者プレイヤーが挑むレベルでしかない雑魚だが、初心者プレイヤーが何度も「死に戻り」しながらクリアすることが想定されている。ブルスラの森周辺とデモンスパイダーはゲーム時代と変わらないレベルのモンスターであっても、この討伐対象モンスターも同じとは限らない。
「ゲームなら、とりあえず一度死ぬつもりで突っ込めば良かったんだけどな………」
トライ&エラーは多くのゲームでは基本中の基本だが、現実でやれば最初の一度で終わってしまう。命は一つしか無い。
「メンバーが居ないなら、俺たちのパーティに入るか? お前美形だから、女たちは喜ぶだろうしな」
「いや………」
フォルティシモが現在就いているクラスは、パーティに所属すると大幅に弱体化する特性を持っている。具体的には与ダメージ減衰、全ステータス減少、状態異常耐性減少など、その弱体化率や度々にネタにされるほどだ。だから反射的に断ろうとしてしまう。しかし試しておきたい気持ちもあった。
「野良なら参加させて欲しいんだが? 固定か?」
「野良? 固定? どういう意味だ?」
野良、固定とはVRMMOをやっている人間なら常識となるパーティの種類を表わす単語である。野良パーティは同じクエストや同じ目的の者がその場で集まって組むその場限りのパーティ、対して固定パーティとは基本的には何をやるにもいつも同じメンバーで構成されたパーティを指す。
「仕事のために一時的に組んだパーティなのか、と聞きたかった」
「一時的に? まあ、パーティ同士が連携することはあるが、そんな行きずりのメンバーに命を預けるなんて出来ないんじゃないか?」
「そう言われればそうだな」
野良パーティは壊滅して当然という気持ちで参加しろ、と言われている。それは現実に命が掛かっていれば許容できるはずもない。青年の言うことは現実で考えればいちいち尤もである。
「ああ、俺たちはそんな危険な依頼を受けるつもりはないから安心してくれ。最近は危険が増えているって話だから、安全を優先に動いてる」
「それは正しいと思うぞ。ただパーティ参加の話は、嬉しい話だが今回は断らせて欲しい」
「ん、そうか。引き留めて悪かったな。俺はカイル、気が変わったら言ってくれ」
「フォルティシモだ。悪いな、最初は一人の力でやってみたいんだ」
「分かった。けど無理はするなよ」
良い奴だった。もっと強かったらフレンド申請を送りたいと思っただろう。それでも今は固定パーティに所属するよりも、試さなければならないことが数多くある。
男から注意されておいて同じ依頼書を取るのは憚られたので、近くにあったスライムの破片の納品依頼を手に取った。いわゆる素材収集クエストだが、このようにモンスタードロップ品がクエストアイテムの場合、討伐クエストも同時に受けておくと効率が良いのは常識である。今回で言えば、ブルスラの討伐とスライムの破片の収集だ。
しかし、決まった場所で情報ウィンドウを操作するだけで、同じクエストを何度も受注できるゲームとは違い、大量の依頼書の中からあるかも分からないブルスラの討伐を探さなければならない。
「依頼を探す時点でソロ不遇かよ」
仮に仲間が八人居れば、八人で一斉にめぼしい依頼を探せるがソロではできない。ギルド職員に聞けば、大まかな場所を教えて貰えるかと思うのだが、考えることは皆同じである。依頼書の近くに待機しているギルド職員の周囲には、何人も冒険者が集まっていて、受けたい依頼の内容を伝えて職員に依頼書の場所まで案内して貰っている。
諦めてスライムの破片の収集の依頼書を持ち、受けたいことをカウンターへ伝える。
そのまま部屋を出ようとすると、ドアが勝手に開いた。入れ違いに部屋に入ろうとした男をさっと観察する。
筋骨隆々の肉体に傷だらけの顔、髪は白髪が交じっていても鋭い眼光は衰えていない。いかにも歴戦の冒険者然としている男は、ギルド職員の制服を着崩しており、フォルティシモが立ち止まると同じように立ち止まった。
「左右で瞳の色が違う、やたら美形の男………お前、フォルティシモか?」
「そうだが、そっちは?」
「おっと、これは失礼した。俺はここでマスターをやらせてもらってるガルバロスと言う。少し話を聞かせて欲しいんだが、時間を取って貰えるか?」
こちらに聞いているように見えて、決して逃がさないという雰囲気だった。
ギルドマスターに連れられた場所は小さな応接室で、簡素なテーブルと木製の椅子が置かれ、植物や絵画が飾られていた。
「なかなかのレベルを持っているそうだな?」
ギルドマスターは世間話もせずに切り出してきた。
「そうですね。レベルは必要なものですから」
「何に?」
「何にって、さ………強くなるために」
「そうだな。レベルは強さに重要な要素だ。だが、強さはそれだけじゃない」
「レベルが高いと何か問題があるんですか?」
法律で一般人はレベルいくつ以上にしてはならない、と決まっている可能性もある。そんな馬鹿なと思うことはできない。近衛翔の住む国でだって個人で爆弾や銃器を作ることは禁止されている。レベルを上げた人間は、戦車やミサイルと同列の兵器になるのだから、国として管理していても不思議ではないはずだ。もしそんな法律があるのであれば、フォルティシモのこの世界での生き方を大幅に修正しなければらない。
「高いと言っても九九だからな、問題はない」
つまりギルドマスターからすれば、九九は平均よりも上だが高レベルと言うほどではないということだ。もう少し高くても大丈夫だったかも知れない。
「俺はこういった事は苦手だ。だから率直に言わせて貰おう。我々は君をエルディンのスパイではないかと疑っている」
「エルディン、エルフの国でしたか?」
「そうだ。エルディンで訓練された戦士を送り込んできたのではないか、そう思う連中が居る。俺はそんな奴がいきなり冒険者登録して、レベルを晒すなんて間抜けはしないと言ったんだが、それさえもブラフだなんて言われると反論のしようがなくてな」
「エルディンには行ったことがない、と言っても信じてくれないでしょうね」
ギルドマスターはフォルティシモの言葉に苦笑する。
もちろんゲーム時代ならエルディンへ何度も行っている。その国は大森林の中で生活している穏やかな国でエルフの美少女美女NPCが多くて良い国だった。
「スパイを送り込むような関係なのですか?」
「本当に知らないで来たのか? アクロシアとエルディンはここ十年ほど戦争状態にある。すぐに全面戦争という状況ではないが、国境での小競り合いは続いてる」
勘弁してくれ、と叫ぶのに我慢が必要だった。海外製VRMMOの中には、国々が戦争状態で好きな国に所属してPvPを楽しむゲームもあったが、ファーアースオンラインはあくまで対モンスターのやり込み重視、戦争状態の国など一国もなかった。
「………疑われている程度なら問題ありません。ですが、ギルドで依頼を受けると問題があるなら、冒険者を辞めますが」
それにしても少しレベルが高くてスパイかも知れないというだけで、ギルドマスターが出てくるのは大袈裟ではないだろうかと思ってしまう。
「いや、そこまではしなくて構わない。ただ、君はハーフだと聞いている。冒険者ギルドに国境はないし種族で差別することはない。だがね」
「家族なり仲間なりをエルフに殺されて、復讐しようとしている冒険者も多いということですね?」
「それが半分だな。その様子だともう半分も分かっているか?」
「依頼が異常に多いことに関係していますか? 戦争の物資不足だとすると、依頼者側もエルフへの感情はよくない」
「そういうことだ」
軽い気持ちで【偽装】によって人間とエルフのハーフにしたが、大失敗だった。知らないということは、それだけで失敗を引き起こす確率を跳ね上げる。
フォルティシモは内心で盛大な溜息を吐き、とにかく当初の目的通りに行動しようと決める。この国を脱出するかどうかは、トラブルに巻き込まれなければすぐに決断する必要はないはずだ。
「護衛などの依頼者と直接会う必要のある依頼は、なるだけ受けないようにします。俺にはまだやりたいことがあるので、ギルドには迷惑掛けてしまうかも知れませんが」
「そのくらい迷惑とも思わないぞ。ふむ。これは個人的好奇心なんだが、何をしたいんだ? そのレベルなら冒険者をやらなくても働き口くらい見つけられるだろう?」
量子コンピュータの一つもない世界では、冒険者以外に金を稼ぐ方法が思い浮かばなかった。それに異世界に来たばかりで、どんな職業があるかも分かっていない。ギルドマスターへの回答は馬鹿正直に言えないので濁しておく必要はあるが、嘘を吐くと見抜かれそうなので本音も織り交ぜる。
「色々なことを知りたいと思っているのですが、まず衣食住の心配をしないでいられるようになりたいと思っています。冒険者がどのくらい儲かるか分からなかったので、試してみようと」
「はははっ! 知識欲か、いいな、それこそ冒険者の醍醐味だからな。確かに衣食住を満たしながら知識を得ようとすれば、冒険者はうってつけの職業だ。ようこそ冒険者の世界へ、期待しているよ」
◇
「ガルバロス様、いかがでしたか?」
フォルティシモが退出した後、やってきた職員がギルドマスターへ声を掛ける。ギルドマスターの顔にはフォルティシモと話していた時の穏やかな笑顔は浮かんでいない。
「限りなく白いに近いグレー。少なくともエルディンとは無関係だろう」
「それでもグレーなのですか?」
「何かを隠していることは間違いない。だが嘘がバレバレだ。プロじゃないな」
「早くレベルを上げる方法を発見し、それを独占しようとしているのでしょうか」
「それなら俺が知りたいぞ。今から締め上げてくるか?」
「冗談ですよ」
「分かってるよ。デモンスパイダーを一撃で倒せる【マジシャン】か。ハーフでなければ奪い合いだっただろうな」
「王宮がお抱えにしてしまうので、我々の管轄では無くなるでしょう」
ブルスラの森で出現したデモンスパイダーがCランク冒険者八人を惨殺し、通りがかりの青年によって討伐されたことは、Gランク冒険者から報告が上がっていた。その青年がその日のうちにやってきて、冒険者として登録するとは驚きながらも期待できる話だったが、エルフとのハーフというのは放っておける話ではなかった。
デモンスパイダーの生息地はエルディン領内だ。そこからブルスラの森までやって来て、ハーフエルフによって退治された。疑わないのが不可能という状況である。
「それにしても、この時期に出身地不明のハーフエルフか」
「何もなければいいですが」
「ある、だろうな」
ギルドマスターは先ほどまで話していたフォルティシモという青年を思い出す。
戦争の話をしたとき、本気で驚いていた。人間とエルフの戦争に驚愕できる感性の持ち主である。それはギルドマスターとして好む性質であるが、彼がハーフエルフであるゆえかも知れない。
「まったく………エルフと争っている場合ではないのにな」
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