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第二章
第二十七話 ハイエルフのエルミア 中編
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小国のギルド職員が回してくれたアクロシアへの護衛依頼は、エルミアのレベルとランクからすると非常に簡単なものだった。依頼人の商人が高ランク冒険者に恐縮してしまうほどで、道中で何度か魔物に襲われたものの、エルミアはあっという間に倒していた。
大きな問題もなくアクロシアに到達したエルミアは、依頼人には文句なしの高評価を貰って、護衛依頼を終了する。その後はエルフ族が持つ外見的特徴である耳を隠すためにフードを被った。
辺境の国とは比較にならない巨大なギルドの建物で、情報を集めるために彷徨っていると驚きの光景を目にする。
アクロシアは亜人族に対する差別が大きな国である。大陸の人口の七割は純人族と言われ、亜人族は三割でしかない。亜人族は更にその中で犬人族や猫人族など細分化されてしまうために、各種族は圧倒的な少数派だ。少数派はどこであろうと差別の対象となる。アクロシアの冒険者ギルドとは言え、亜人族の冒険者は良い顔はされない。それが常識のはずだった。
エルミアの視線に映ったのは、亜人族の二人組だ。一人は狐人族の少女で、黄金の毛並みを持つ可愛らしい女の子。もう一人は銀髪に金銀の瞳を持つ絶世の美丈夫で、その背中には黒と白の翼を幻視した。
単なる亜人族の二人組。にも関わらず、ギルド中の視線を欲しいがままにしている。いや、その視線はもはや尊敬に近い。あの二人はこの大国アクロシアの冒険者ギルドにおいて、亜人族でありながらも敬意を持たれている。
「あそこの、二人は?」
エルミアは思わずギルド職員へ問い掛けていた。ギルド職員が冒険者の個人情報を漏らすはずがないと分かりつつも、問い掛けずにはいられなかった。特に絶世の美丈夫のほうだ。エルミアが知覚できるレベルがおかしな何かを示している。
「ああ、あの二人ですか。ギルドマスターのお気に入りの冒険者ですね。王国騎士よりも強い、将来有望な冒険者です」
「へ、へぇ。そんなに、強いの」
「あの狐人族の女の子、ああ見えてレベル四〇〇を超えているそうです。しっかり媚びを売っておいたほうが良いですよ。絶対に有名な冒険者になります」
エルミアには狐人族の少女のレベルは分かっている。そのレベルは確かに高いけれど、問題はそちらではない。
「あっちの、男のほうは?」
「あぁ、あの人ですか。なんかレベルが変なんですよね。でも………ここだけの話、ギルドマスターが何度も話しているのは彼の方です。これは私の予想ですが、彼、とんでもなく強いですよ。きっとギルドマスターの後継者とか言われちゃうんじゃないかと! きゃー!」
「ギルドマスターが話している? それって、いつからか分かる?」
エルミアは言葉が震えそうになるのを必死に抑えながら、ギルド職員に尋ねてみる。
ギルド職員の話によれば、あの美男子の冒険者はエルディンとの騒動の前にふらりと現れたのだと言う。それからと言うもの、ギルドマスターは彼がギルドへ来たら自分へ報告するように通達を出し、つい先日に至っては「彼から何か要請があったら可能な限り叶えるように。難しいようなら断る前に相談せよ」とのお達しまであった。
冒険者ギルドが一人の冒険者をここまで贔屓するのは異常だ。
エルミアは宿へ戻ってから手に入れた情報を整理する。
「アクロシアのギルドマスターガルバロスは、昔から王女殿下と懇意にしていた。ギルドマスターは二人組の冒険者、特に男の方に強い興味を示していた。エルディンがアクロシアを制圧しようとした日、神鳥には誰かが、男が乗っていた。王女殿下を何者かが救った。あの、誰にも倒せないエルディンの王を、倒した」
倒したのは。
「あの二人組の冒険者が、やった? これは、考え過ぎ? いやレベルを見ても狐人族の少女には無理だから、やったのは、あの男。一人であの化け物を倒したの? いや、あの化け物以上の化け物ってこと? でもアクロシアは、あの男が現れた後でも変わっていない。あの化け物以上なら、もっと、国中を恐怖に陥れて支配するんじゃないの?」
エルミアはアクロシア王都に広がる日常の風景に目を背けるように、ギルドから紹介された宿へ急いだ。ハイエルフとは言えエルフ族であるエルミアを快く泊めてくれた宿にお礼を言って、宿の部屋で考え続けた。
その日はよく眠れなかった。
翌日、ふらふらと街中を歩いていたら、声を掛けられる。
「あの、大丈夫ですか? お身体が悪いようでしたら多少の心得がありますけれど」
振り返ると、杖を持った少女がいた。その格好から神官かとも思ったけれど、装備や立ち振る舞いから神官から冒険者へ転進した者だと当たりを付ける。そのままでも安定しているクラスである神官が冒険者になるのには、それなりの理由がある。
しかし冒険者は暗黙の了解として過去を深くは詮索しない。加えて神官の多くは回復魔術を扱える【プリースト】というクラスに就いており、冒険者にとって死活問題にもなるクラスだから過去を詮索する場合には余計に慎重になるのが通例だった。
「ああ、いや、大丈夫。何でも、ないわ」
「でも………。あっ、ちょうど話し相手が欲しかったのですけど、もしお時間が許せばそこのお店でお茶でもしませんか? もちろんご馳走します」
「だから大丈夫だって………………今のなし。そう、ね。ちょっと私も話したい気分かも。けど奢るのは私。あなた低ランクでしょ」
エルミアは話し掛けて来た神官の少女のレベルを正確に把握していたため、冒険者としては自分よりも低ランクだと予想を付けていた。
「ぼ、冒険者の方だったんですね」
「こんな街中で武器を持ち歩いてるのは、兵士か冒険者しかいないでしょ」
エルミアがギルドカードを出して見せると、神官の少女は驚いた顔を見せた。
「Aランク!?」
「そういう訳だから、遠慮なく奢られなさい」
神官の少女を連れて近場で静かに話のできそうな店に入る。神官の少女はAランクのギルドカードを見せられて、すっかり萎縮してしまっている様子だった。それも当然で、Aランク以上の現役冒険者など大陸中のギルドからかき集めても、百人に満たない数しかいないのだ。それだけの実力と実績がある。
神官の少女からフィーナという名前を聞いてから、エルミアは尋ねたい内容を口にする。
「フィーナは、先日のエルディン侵攻の時、どうしてたの?」
フィーナはアクロシアの兵士に拘束されて、王城に連行されてしまっていたのだと言う。あのエルディンの王の性格が最悪であることは分かっている。フィーナという名の神官の少女は、エルフであるエルミアから見ても、とても容姿の整った少女だった。エルディンの王が何を考えて彼女を王城へ連行したのかは想像に難くない。
「そう。その王城で、何が、あったの?」
「それが、良く、覚えていないんです。凄い音がして城が崩れる中、“誰か”が来ました。その人を見た私が、とても驚いたのは確かなんですけど」
酷い経験をしたフィーナに対して、エルミアは慎重に話を聞こうとしていた。しかし話を聞いていく内に、彼女が軽い興奮状態になることを察する。まるでその経験を自慢しているかのような錯覚に陥ってしまうほどだ。
「凄かった。あの時みたい、に。一瞬だったと思うんです。でも、よく、覚えていなくて。気が付いた時には、兵士の方々に寝かされていて」
「いっ、しゅ、ん?」
話半分に聞いていたエルミアだったけれど、その言葉に寒気のする想像が止められなかった。
フィーナはエルディンの王がアクロシアを襲った現場にいて、エルディンの王が討伐された瞬間にも居合わせたと思われる。
だが、レベル四〇〇〇のエルディンの王を討伐した“誰か”は、その栄光のすべてを捨てて、その場に居合わせたものの記憶を操作して消え去った。そこから導き出されるのは、その“誰か”は、エルミアの人生を踏みにじりエルフ族を蹂躙した化け物を倒したことを何とも思っていない。それは“誰か”にとって、一瞬で終わる雑魚を処理したのと同じだったからではなかろうか。
様々な感情がエルミアの中を駆け巡る。私の人生は何だったのか、何のために冒険者となり強くなったのか、ずっとあの化け物を倒そうとしていた自分はどうなるのか、なんでもっと早く現れてくれなかったのか、これから自分は何を目的に生きれば良いのか。
「エルミアさん?」
「あ、ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をね。そうそう話は変わるけど、最近アクロシアに現れたって言う二人組の冒険者の話って知ってるかしら? 下手な王国騎士よりも高レベルで、狐人族と、銀髪の男の二人組」
「ああ! キュウさんと、ふぉ、フォルティシモさんですね!」
フィーナは堰を切ったように二人組の冒険者のことを話してくれる。曰くデモンスパイダーを一撃で爆殺する魔術を使う。曰くとても紳士的で優しい。曰くパーティメンバー想いで狐人族の少女との仲は非常に良好。曰く冒険者とは思えないほどの教養を持つ。曰くアクロシアの常識に疎いようなのでこの国に来たばかり。曰く冒険者になって日が浅い。
狐人族の少女の情報が入って来ないけれど、エルミアが知りたかったのも銀髪の男の情報だったため問題はない。
「じゃ、じゃあ、そんなに強い冒険者なのに、フィーナが初めて知ったのは、その、ブルスラの森の怪しい依頼の時だったってこと?」
「怪しい依頼って、あれはデモンスパイダーにも遭遇しましたので、危険な魔物がいたのには間違いなかったですし」
「それはどうでも良いわよ。それより、あなたが銀髪の男と初めて会った時、そいつはギルドカードも持ってなかったし、他の身分証も無かったのね?」
「え? そ、それはそうですけど、もしかしてモグリの冒険者を疑っているんですか? それは有り得ません。キュウさんのギルドカードは正規のものでしたし、モグリであればフォルティシモさんが数々の不可能と言われた高難度の依頼をこなしたり、ギルドマスターから一目置かれたりはしないはずです」
銀髪の冒険者フォルティシモ。エルミアの知りたいのはエルディンの王の行く末。それに関係していると思われるフォルティシモについてだ。これまでの情報を総合すると、
フォルティシモこそがエルディンの王を討伐したのは確実だと思われた。それほどまでにフォルティシモの行動は異常だ。こうして少し聞くだけでも異常性が際立つ。
エルミアは話を聞かせてくれたフィーナにお礼を言って、急ぎ足でギルドへと戻る。
「冒険者フォルティシモへの伝言をお願いしたいの」
「伝言板をお使いになるのでしたら、場所によって値段が異なります。どちらの伝言板をお使いなりますか?」
「さ、さすが大国のギルドね。じゃあ出入口の目の前の、って高っ!?」
エルミアの冒険者としてのランクは高いが、エルフたちに目を付けられないように仕事は基本的に目立たないものを選んでいた。そのためランクに反して懐事情は芳しくない。
「出入口手前の伝言板は王族や貴族様方のご利用が多く、現在は非常に高騰しています」
「………やっぱりいいわ。自分で伝えるから」
自らの懐事情に情けなさを感じながらギルドを後にしようとしたところ、懐かしい声が掛けられる。
「エルミア?」
「スーリオン、様!?」
それはエルディンの中で長老と呼ばれるハイエルフの一人だった。
大きな問題もなくアクロシアに到達したエルミアは、依頼人には文句なしの高評価を貰って、護衛依頼を終了する。その後はエルフ族が持つ外見的特徴である耳を隠すためにフードを被った。
辺境の国とは比較にならない巨大なギルドの建物で、情報を集めるために彷徨っていると驚きの光景を目にする。
アクロシアは亜人族に対する差別が大きな国である。大陸の人口の七割は純人族と言われ、亜人族は三割でしかない。亜人族は更にその中で犬人族や猫人族など細分化されてしまうために、各種族は圧倒的な少数派だ。少数派はどこであろうと差別の対象となる。アクロシアの冒険者ギルドとは言え、亜人族の冒険者は良い顔はされない。それが常識のはずだった。
エルミアの視線に映ったのは、亜人族の二人組だ。一人は狐人族の少女で、黄金の毛並みを持つ可愛らしい女の子。もう一人は銀髪に金銀の瞳を持つ絶世の美丈夫で、その背中には黒と白の翼を幻視した。
単なる亜人族の二人組。にも関わらず、ギルド中の視線を欲しいがままにしている。いや、その視線はもはや尊敬に近い。あの二人はこの大国アクロシアの冒険者ギルドにおいて、亜人族でありながらも敬意を持たれている。
「あそこの、二人は?」
エルミアは思わずギルド職員へ問い掛けていた。ギルド職員が冒険者の個人情報を漏らすはずがないと分かりつつも、問い掛けずにはいられなかった。特に絶世の美丈夫のほうだ。エルミアが知覚できるレベルがおかしな何かを示している。
「ああ、あの二人ですか。ギルドマスターのお気に入りの冒険者ですね。王国騎士よりも強い、将来有望な冒険者です」
「へ、へぇ。そんなに、強いの」
「あの狐人族の女の子、ああ見えてレベル四〇〇を超えているそうです。しっかり媚びを売っておいたほうが良いですよ。絶対に有名な冒険者になります」
エルミアには狐人族の少女のレベルは分かっている。そのレベルは確かに高いけれど、問題はそちらではない。
「あっちの、男のほうは?」
「あぁ、あの人ですか。なんかレベルが変なんですよね。でも………ここだけの話、ギルドマスターが何度も話しているのは彼の方です。これは私の予想ですが、彼、とんでもなく強いですよ。きっとギルドマスターの後継者とか言われちゃうんじゃないかと! きゃー!」
「ギルドマスターが話している? それって、いつからか分かる?」
エルミアは言葉が震えそうになるのを必死に抑えながら、ギルド職員に尋ねてみる。
ギルド職員の話によれば、あの美男子の冒険者はエルディンとの騒動の前にふらりと現れたのだと言う。それからと言うもの、ギルドマスターは彼がギルドへ来たら自分へ報告するように通達を出し、つい先日に至っては「彼から何か要請があったら可能な限り叶えるように。難しいようなら断る前に相談せよ」とのお達しまであった。
冒険者ギルドが一人の冒険者をここまで贔屓するのは異常だ。
エルミアは宿へ戻ってから手に入れた情報を整理する。
「アクロシアのギルドマスターガルバロスは、昔から王女殿下と懇意にしていた。ギルドマスターは二人組の冒険者、特に男の方に強い興味を示していた。エルディンがアクロシアを制圧しようとした日、神鳥には誰かが、男が乗っていた。王女殿下を何者かが救った。あの、誰にも倒せないエルディンの王を、倒した」
倒したのは。
「あの二人組の冒険者が、やった? これは、考え過ぎ? いやレベルを見ても狐人族の少女には無理だから、やったのは、あの男。一人であの化け物を倒したの? いや、あの化け物以上の化け物ってこと? でもアクロシアは、あの男が現れた後でも変わっていない。あの化け物以上なら、もっと、国中を恐怖に陥れて支配するんじゃないの?」
エルミアはアクロシア王都に広がる日常の風景に目を背けるように、ギルドから紹介された宿へ急いだ。ハイエルフとは言えエルフ族であるエルミアを快く泊めてくれた宿にお礼を言って、宿の部屋で考え続けた。
その日はよく眠れなかった。
翌日、ふらふらと街中を歩いていたら、声を掛けられる。
「あの、大丈夫ですか? お身体が悪いようでしたら多少の心得がありますけれど」
振り返ると、杖を持った少女がいた。その格好から神官かとも思ったけれど、装備や立ち振る舞いから神官から冒険者へ転進した者だと当たりを付ける。そのままでも安定しているクラスである神官が冒険者になるのには、それなりの理由がある。
しかし冒険者は暗黙の了解として過去を深くは詮索しない。加えて神官の多くは回復魔術を扱える【プリースト】というクラスに就いており、冒険者にとって死活問題にもなるクラスだから過去を詮索する場合には余計に慎重になるのが通例だった。
「ああ、いや、大丈夫。何でも、ないわ」
「でも………。あっ、ちょうど話し相手が欲しかったのですけど、もしお時間が許せばそこのお店でお茶でもしませんか? もちろんご馳走します」
「だから大丈夫だって………………今のなし。そう、ね。ちょっと私も話したい気分かも。けど奢るのは私。あなた低ランクでしょ」
エルミアは話し掛けて来た神官の少女のレベルを正確に把握していたため、冒険者としては自分よりも低ランクだと予想を付けていた。
「ぼ、冒険者の方だったんですね」
「こんな街中で武器を持ち歩いてるのは、兵士か冒険者しかいないでしょ」
エルミアがギルドカードを出して見せると、神官の少女は驚いた顔を見せた。
「Aランク!?」
「そういう訳だから、遠慮なく奢られなさい」
神官の少女を連れて近場で静かに話のできそうな店に入る。神官の少女はAランクのギルドカードを見せられて、すっかり萎縮してしまっている様子だった。それも当然で、Aランク以上の現役冒険者など大陸中のギルドからかき集めても、百人に満たない数しかいないのだ。それだけの実力と実績がある。
神官の少女からフィーナという名前を聞いてから、エルミアは尋ねたい内容を口にする。
「フィーナは、先日のエルディン侵攻の時、どうしてたの?」
フィーナはアクロシアの兵士に拘束されて、王城に連行されてしまっていたのだと言う。あのエルディンの王の性格が最悪であることは分かっている。フィーナという名の神官の少女は、エルフであるエルミアから見ても、とても容姿の整った少女だった。エルディンの王が何を考えて彼女を王城へ連行したのかは想像に難くない。
「そう。その王城で、何が、あったの?」
「それが、良く、覚えていないんです。凄い音がして城が崩れる中、“誰か”が来ました。その人を見た私が、とても驚いたのは確かなんですけど」
酷い経験をしたフィーナに対して、エルミアは慎重に話を聞こうとしていた。しかし話を聞いていく内に、彼女が軽い興奮状態になることを察する。まるでその経験を自慢しているかのような錯覚に陥ってしまうほどだ。
「凄かった。あの時みたい、に。一瞬だったと思うんです。でも、よく、覚えていなくて。気が付いた時には、兵士の方々に寝かされていて」
「いっ、しゅ、ん?」
話半分に聞いていたエルミアだったけれど、その言葉に寒気のする想像が止められなかった。
フィーナはエルディンの王がアクロシアを襲った現場にいて、エルディンの王が討伐された瞬間にも居合わせたと思われる。
だが、レベル四〇〇〇のエルディンの王を討伐した“誰か”は、その栄光のすべてを捨てて、その場に居合わせたものの記憶を操作して消え去った。そこから導き出されるのは、その“誰か”は、エルミアの人生を踏みにじりエルフ族を蹂躙した化け物を倒したことを何とも思っていない。それは“誰か”にとって、一瞬で終わる雑魚を処理したのと同じだったからではなかろうか。
様々な感情がエルミアの中を駆け巡る。私の人生は何だったのか、何のために冒険者となり強くなったのか、ずっとあの化け物を倒そうとしていた自分はどうなるのか、なんでもっと早く現れてくれなかったのか、これから自分は何を目的に生きれば良いのか。
「エルミアさん?」
「あ、ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をね。そうそう話は変わるけど、最近アクロシアに現れたって言う二人組の冒険者の話って知ってるかしら? 下手な王国騎士よりも高レベルで、狐人族と、銀髪の男の二人組」
「ああ! キュウさんと、ふぉ、フォルティシモさんですね!」
フィーナは堰を切ったように二人組の冒険者のことを話してくれる。曰くデモンスパイダーを一撃で爆殺する魔術を使う。曰くとても紳士的で優しい。曰くパーティメンバー想いで狐人族の少女との仲は非常に良好。曰く冒険者とは思えないほどの教養を持つ。曰くアクロシアの常識に疎いようなのでこの国に来たばかり。曰く冒険者になって日が浅い。
狐人族の少女の情報が入って来ないけれど、エルミアが知りたかったのも銀髪の男の情報だったため問題はない。
「じゃ、じゃあ、そんなに強い冒険者なのに、フィーナが初めて知ったのは、その、ブルスラの森の怪しい依頼の時だったってこと?」
「怪しい依頼って、あれはデモンスパイダーにも遭遇しましたので、危険な魔物がいたのには間違いなかったですし」
「それはどうでも良いわよ。それより、あなたが銀髪の男と初めて会った時、そいつはギルドカードも持ってなかったし、他の身分証も無かったのね?」
「え? そ、それはそうですけど、もしかしてモグリの冒険者を疑っているんですか? それは有り得ません。キュウさんのギルドカードは正規のものでしたし、モグリであればフォルティシモさんが数々の不可能と言われた高難度の依頼をこなしたり、ギルドマスターから一目置かれたりはしないはずです」
銀髪の冒険者フォルティシモ。エルミアの知りたいのはエルディンの王の行く末。それに関係していると思われるフォルティシモについてだ。これまでの情報を総合すると、
フォルティシモこそがエルディンの王を討伐したのは確実だと思われた。それほどまでにフォルティシモの行動は異常だ。こうして少し聞くだけでも異常性が際立つ。
エルミアは話を聞かせてくれたフィーナにお礼を言って、急ぎ足でギルドへと戻る。
「冒険者フォルティシモへの伝言をお願いしたいの」
「伝言板をお使いになるのでしたら、場所によって値段が異なります。どちらの伝言板をお使いなりますか?」
「さ、さすが大国のギルドね。じゃあ出入口の目の前の、って高っ!?」
エルミアの冒険者としてのランクは高いが、エルフたちに目を付けられないように仕事は基本的に目立たないものを選んでいた。そのためランクに反して懐事情は芳しくない。
「出入口手前の伝言板は王族や貴族様方のご利用が多く、現在は非常に高騰しています」
「………やっぱりいいわ。自分で伝えるから」
自らの懐事情に情けなさを感じながらギルドを後にしようとしたところ、懐かしい声が掛けられる。
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それはエルディンの中で長老と呼ばれるハイエルフの一人だった。
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