廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第二章

第五十一話 キュウの助けたエルフ

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「神様のゲーム、“神戯”か」

 それがピアノがフォルティシモの話を聞いて最初に発した言葉だった。
 結局、フォルティシモに駆け引きなどそんな高等な技術ができるはずもなく、両手槍の男がアクロシアを支配しようとした手法と、その後にショタになった祖父に出会ったことを包み隠さず話していた。

 ピアノはその話を驚きつつ真面目な表情で聞いていた。

「そうなると、私たちは駒だな」
「俺がキングで、お前がクイーンか?」
「キングは弱点だろうに」

 チェスにおいてキングは強弱以前に追い詰められたら敗北の決定する駒である。ピアノはそれを弱点と表現したようだった。その考え方は本当にピアノらしい。

「便宜上、私の出会ったのを少女神様、お前が出会ったのを少年神様と呼ぶぞ」
「俺の気持ちを慮ってくれたか」
「お前の祖父って呼ぶ度に反応されるのがうざったいだけだ。それでだ。少女神様のほうは何も教えてくれなかった。私を異世界で蘇生させること以外は、何かを望んでいる様子は………いや、自分が楽しめればって言われただけだ」
「少年神様は神戯から逃げて、俺に押しつけた」

 少なくとも両手槍のエルフの男を殺した時に、フォルティシモの【魔王神】というクラスはレベルが上がっており、少年神様の言う通り、この初めて見るクラスが鍵を握っていることは疑う必要はないと思う。

 またピアノにも新しいクラスが現れており、それは【英雄神】というものだった。ピアノのメインクラスは【英雄】で、これはフォルティシモの【魔王】の真逆とも言えるパーティメンバーの数と強さによって強化される特性を持つクラスである。ピアノの【英雄神】のレベルは初期の一で、ピアノがこの異世界で神様のゲームに参加してプレイヤーを殺したとは考え辛いことを示していた。

「だから、異世界ファーアースで何をするつもりか、という質問になるわけか。この異世界で、私がお前の邪魔をするかどうか分からないからな」
「俺は最強を目指す。お前はどうする?」

 そう聞いてからピアノの境遇を思い出し、フォルティシモに対しては答え辛いかも知れないと考えて付け加えることにする。

「ああ、別に今すぐに答えなくてもいい。ただ、神様のゲームとやらの全容解明までは協力し合いたいのは本気だ。つっても新規イベ実装の時と同じだけどな。何か分かった時の情報交換とか、余った素材の交換とか、面倒そうなボスが居れば一緒に倒そう………いや戦闘は別にいいか」

 ボス、つまり神様のゲームの討伐対象はプレイヤーであり、言ってしまえば殺人をすることになる。フォルティシモに罪悪感は生まれていないし名前さえ忘れてしまったほどだが、ピアノにまでそれを強要するつもりはない。特にピアノの事情を慮ると、彼女は殺した相手をいつまでも引き摺りそうだった。

「この異世界ファーアースで何をするつもりかというのは、すぐに結論を出せない」
「そうか」
「正直に言うと私はその神戯に勝ちたいとは思えない。死にたくないが神様にはなりたくないんだ。だからと言ってリザインしたとしても、私じゃどうなるか分かったものじゃないしな」

 少しの間、二人の間に沈黙が流れる。フォルティシモは居心地が悪くなって、話題を変えることにした。ピアノが敵ではないと分かれば、何も急ぐ必要はない。

「よしピアノ。今日はつまらない話はここまでにして、異世界に来てからのお前の英雄譚でも聞いてやろう」
「んー、隠す事なんか無いんだが、お前の魔王譚を聞いた後だとなぁ」
「遠慮するな。俺は他人の自慢話を聞くのは大嫌いだが、お前の異世界生活には興味があるから我慢して聞いてやる」
「我慢するのかよ」

 なら先にキュウの尻尾がいかに素晴らしかったかの感想を話してやろうと口を開いた時、電子音が鳴った。
 ファーアースオンラインのメッセージを着信した時になるデフォルトの通知音で、今のフォルティシモにメッセージを送ってくる相手は居ないので、電子音が鳴ったのはピアノだ。

「フレアからのメッセージだな」
「緊急事態か? まさかキュウたちが襲われているなんて言わないだろうな」
「緊急なら通話を使うだろ。気になるなら確認するか」

 ピアノは己の情報ウィンドウを起動して、フレアからのメッセージを確認する。すると彼女はわずかに眉を潜めた。

「お前の連れてたキュウって女の子が、オープンチャットで話し掛けられて、【転移】で移動して来た奴を助けたらしい」
「さっぱり状況が分からない」

 ピアノはフレアからのメッセージが表示されたウィンドウを反転させて、フォルティシモに見えるように掲げてくれる。

「あった出来事がそのまま書かれてるだけなんだろうが、これだけか」
「必要最低限の報告だけするほうが格好良いだろ」

 フォルティシモ的には事務的な対応よりも親しげな対応をされるのが好みなので、それには同意しないでおく。

「かなり手伝って貰ったとは言え、私が設定したAIはいつも完璧な仕事をするぞ」
「まあいい。悪いがお前の英雄譚、自慢話は後日にしてくれ」
「元々自慢話なんてするつもりはなかったからな」

 フォルティシモとピアノは同時に席を立った。何も言わずとも、最優先はキュウの元に現れた未知のプレイヤーであるのは明白だ。
 緊急ではないのでアクロシアの時のように天烏を使うのではなく、しっかりとピアノの分も会計してから店を出て、それでも足早にホテルへ戻る。



 ホテルへ戻るとホテルマンがフォルティシモに対して敬礼をしていたが、特にそれに反応することなく部屋へ向かう。最高級ホテルが珍しいのか、ピアノはホテルの敷地に入ってから頻繁に足を止めては周囲を眺め、小走りになってフォルティシモへ追いつくのを繰り返していた。

 フォルティシモが取っているスイートルームの寝室に入ると、奥のソファに座っているキュウとラナリア、その横に控えるシャルロット、ドアの近くで立っているフレアの姿がある。
 そしてベッドの上には、特徴的な耳をした眠っている少女。

「ご主人様、お、お帰りなさいませ」
「その様子ですと、お話は上手く運んだようですね」
「ああ、それでそいつか。分析アナリシス

 フォルティシモは挨拶もそこそこに、エルフの少女へ向けて【解析】を使用する。
 プレイヤー自身かもしくは従者か、そう予想して身構えていたのだが、予想を裏切る数値がフォルティシモの情報ウィンドウに並んでいた。

 フォルティシモはエルフの少女の情報に覚えがある。
 名前はすぐに忘れたものの、エルフの少女は一昨日アクロシアの冒険者ギルドで、フォルティシモの名前を叫んで騒いでいたというエルフの冒険者だったからだ。

 念のため、その時に使った【解析】のログとも付き合わせた。
 エルフの冒険者エルミア、間違いなく同一人物だった。

「成る程、両手槍の男の仇討ちか。そういうのはいくらでも受けてやる。だがな、キュウたちを人質に取ろうとする卑怯な奴に、俺は一切の容赦はしない」
「あの、ご主人様、申し訳ありません!」

 フォルティシモの心が紅蓮の炎で燃え上がりそうになった時、キュウから冷や水を浴びせかけられた。
 何せキュウが地面にのめり込みそうな勢いで頭を下げるものだから、方向転換を余儀なくされる。

「どうした? キュウは何も悪いことはしていないだろ?」
「いえ、貴重な薬を使った上、ご友人とのお時間を邪魔してしまいました」

 キュウは空っぽになったエリクシールの瓶を手に持っていた。

 エリクシールはガチャのハズレアイテムで、いつもいつもいつもいつもガチャのハズレ枠として居座り続けた。もはや当たっても怒りさえ湧いて来ず、無心で次のガチャを引くだけの記号。その結果、フォルティシモの【拠点】の倉庫には、掃いて捨てるほどのエリクシールが死蔵されている。
 フォルティシモが最も多く所持しているアイテムは、エリクシールだと言っても過言ではない。

「使うために渡してるんだから、使う場面だと思ったら遠慮せずに使え」
「で、ですがすごく、貴重で」
「いや、ゴミだ」
「………え?」
「いいか、ゴミだ。これはゴミだ」
「は、はい」

 これは怒りではない。無心だ。

「ピアノとの話もほぼ終わってたからな。自慢話を聞くところだったから、キュウは気にしなくて良い」
「だからするつもりはないって言ってるだろ、コミュ障魔王」

 キュウの怯えた姿とピアノの懐かしい呼び名で、すっかり気勢の削がれたフォルティシモだったが、キュウたちを狙ってきたエルミアに対する警戒は解いていない。

 だから誰よりも先にエルミアが目を覚ましたのに気が付いた。フォルティシモがキュウを隠すように躍り出ると、シャルロットはラナリアをフレアはピアノをそれぞれの主を庇うように立ち位置を変える。
 フォルティシモとキュウのところだけ主従が反転しているのは仕方がない。

「………ここ、は?」

 エルミアはベッドから身体を起こし、周囲を見回した。そしてフォルティシモを見つけると、大きく目を見開く。

「あ、あなたはっ!?」

 フォルティシモはエルミアを観察する。
 身に着けているのはサイズから言ってシャルロットの持ち物だろう薄着のTシャツ。女の子の部分はスレンダーだったが、綺麗なうなじがしっかりと見て取れる。美男美女揃いのエルフだけあって、かなりの美少女だ。
 彼女の薄暮の色をした瞳はフォルティシモを掴んで放さない。

「両手槍の男の仇討ちか?」
「両手槍?」
「エルフだろ?」
「エルフと両手槍に何の関係があるのよ」
「あるだろ。エルフの王だ」
「ヴォーダンっ! あなたが………あなたがやったの!?」
「そうだ。俺があいつを殺した。この最強のフォルティシモの一撃でな。だが、お前にとってあいつが何だったかは関係ない。お前がキュウを人質に取ろうとした時点で、俺はお前を許さない」

 エルミアは顔を俯かせ、身体を震わせていた。これは怒りの感情を爆発させる予兆だろう。

「………なんで」

 ぽつりと彼女の腹の底から言葉が紡がれる。次に出て来るのは、フォルティシモの予想通り怒りだ。

「なんでもっと早く倒してくれなかったの!!」

 内容は予想と大分異なっていたが。

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