廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

文字の大きさ
133 / 509
第四章

第百三十三話 エルフの移住

しおりを挟む
 バルデラバーノ公城を後にしたフォルティシモたちは、バルデラバーノ公爵が乗っている馬車を先導としてエルフたちが避難している森へ向かった。

 森と言ってもエルディンとは比べたら小規模のもので、人が通ったり住んだりするために整えられている様子はなく、木々が自由に大地に根を下ろしている。テントのようなものが奥に見えるが、家や小屋は見当たらない。こんな場所で何日も過ごすのは苦労があるだろう。

 そんな森の入り口付近で馬車が停車し、シャルロットが馬車の扉を恭しく開けた。馬車の前には数名の騎士たちが傅いており、その者たちの鎧は綺麗だし見目の良い者たちだったので、いわゆる儀仗兵なのだと思われる。馬車の先にいるエルフたちは十人ほどの集団で、迎えのようだった。

 アルティマが最初に、続いてエンシェント、セフェール。ラナリアはシャルロットの手を取って降りる。キュウは慌てたように降りた。フォルティシモは最後にゆっくりと馬車から顔を出し、エルフたちを一瞥する。フォルティシモが姿を現すと息を呑む様子が見て取れる。

 ファーアースオンラインでの設定の話になるが、エルフは人間の何倍もの寿命を持ち知性と魔力に優れる種族となっている。また、人間と同じように成長していくものの、老化現象が二十歳頃に止まるため五十歳でも百歳でも外見からは判別できない。

 エルフには上位種が存在しており、万年の寿命を持つハイエルフ、精霊や神霊に近い不老不死のハイエストエルフとされている。エルディンにハイエストエルフは居ない設定であるが、ハイエルフはわずかに住んでいて、プレイヤーは重要なイベントNPCとして何度もハイエルフと会話することになる。

 エルフの一団から出てくる人影がある。

 ピアノと、件のハイエルフだ。そしてエルフたちの中で唯一憮然とした表情をしているエルミアだった。本来であれば失礼極まりない態度なのだろうが、知っている顔を見ると意外と安心する。

「お待ちしておりました。フォルティシモ様」

 ハイエルフは中性的な顔立ちをしている美男子で、麻か何かで作った簡素な服を身に着けているだけで飾り気はまるでなかった。顔に少しばかり疲れを滲ませているのが分かる。ゲームのエルディンで出会ったハイエルフは、刺繍が入ったマントや宝石を散りばめたネックレスなどをしていたので、印象が大きく違っている。

「スーリオンか?」
「はい、私がスーリオンでございます」

 フォルティシモは異世界に来て初めてファーアースオンラインと同じNPCと出会ったことになる。ファーアースオンラインと似ている異世界にもスーリオンというハイエルフが居るということに意味があるのかどうか考えて、ひとまず意味が見出せないことを頭の中で確認した。

「こちらのエルミアからお聞きになられましたか?」
「いや。だがスーリオンのことは少し知っている」
「そうでしたか」
「エルフたちの準備はできているのか?」
「準備はできております。フォルティシモ様、我らに天空の大陸の一部に住まわせて頂く代わりに、我らの慣習に要求があると伺っております」

 ピアノを見ると、彼女は軽く頷いた。フォルティシモのことを考えて、先にスーリオンに話を通してくれていたらしい。さすがフォルティシモの苦手分野を理解している親友の仕事だ。

「ああ、そうだ。まずは、教会でも建てるから、週一くらいで祈る習慣を作ってくれ」
「承りました」
「それからエルフの何人かに実験に付き合って貰いたい。最初は少ない数でいいから、希望者を募り―――足りなかったら指名だな」

 実験と聞いてスーリオンの表情が曇る。しかしそれも一瞬のことで、すぐに穏やかなものへ戻った。

「承りました」
「ちょっと待ちなさいよ! 実験って何!?」

 エルミアが口を挟んだのをスーリオンが留めようとするが、それよりも先にフォルティシモが答えを返した。

「言い方が悪かったな。酷い人体実験をするって意味じゃない。治験、いや、お前らだって新しく見つけた薬草を使ってみたりするだろ? それと同じように、多少危険はあるが協力をして貰いたい」
「………そんなのギルドに頼みなさいよ、って言いたいところだけど、あなたの立場なら私たちに依頼すればタダだから、そうしたいのも分からなくはないわね」

 ハイエルフでありながらAランク冒険者のエルミアは、仕事と報酬の関係性をよく分かっていて、納得したように引き下がった。

「エルミアもやってくれ」
「ま、まあやってくれって言うならやってあげても良いけど、私を指名依頼するなら高いから」
「ダアがうるさいから値段によるな………」
「なっ。あなたあの空の大陸の王様なんでしょ? お金くらい用意できないの? あ、いや、まあ今回は特別に安くしてあげるし、何なら後払いでも良いけど」

 エルミアは腕を組んでチラチラとフォルティシモを見ている。

「言っておくが、そこまで甘い話じゃない。まったく知らない土地を開拓して住むってのは、それだけで大変だ。それから、実験に関しちゃ結果が出なくても構わないが、祈りを捧げるほうで一般的な冒険者より結果が出せないようなら別の手を打つし、まったく信仰心が芽生えないようならエルフたちを見捨てる選択をする可能性もある」

「まるで神のようなことをおっしゃるのですね。分かりました。週一度などとは言わず、毎日の祈りを捧げるよう皆に言い含めます。また、落ち着いて来ましたら祭事の検討もしましょう。始めは難しいでしょうが、百年千年と続けば必ず結果が出ることでしょう」

 スーリオンはお辞儀をして、皆に説明と出立の準備するように別のエルフに声を掛けていた。

 スーリオンに案内されエルフたちが居留している場所へやって来ると、万を超えるエルフたちがフォルティシモを待っていた。エルフたちは扇状にずらりと座っており、フォルティシモは櫓のような物の上に登るよう案内されたため、皆がフォルティシモたちを見上げる形だ。

 彼らは武器を持っているわけでも、殺気立っているわけでもなく、ただフォルティシモの一挙手一投足を注視しているのだとは分かる。

 フォルティシモはマイクという名前のアイテムを取り出す。このアイテムの効果はただ大きな声を出せるだけで、ハリセンを始めとしたパーティグッズ系アイテムの一つである。

「俺がフォルティシモだ」

 インパクトを考えて、この言葉と共に【威圧】を発動。さらに周囲に影ができる。我ながら芸がないことは自覚しているが、アクロシアと同じ手法。『浮遊大陸』をエルフたちの頭上へ持って来たのだ。

 エルフたちは空を見て騒ぎ出すものの、静かにという言葉が各所から上がり、やがて騒ぎが収まった。

「今からお前たちはあそこで暮らしていくことになる。木を切るのも土地を耕すのも、俺の与える領内であれば好きにして構わない。魔物や侵略の心配をする必要もない。俺の領域に誰も入らせはしないし、来ても叩き潰すからだ」

 エルフたちから反応はない。

「俺が必要なのは祈りだ。お前たちの祈りが俺の満足いくものであれば、森を広げることも動物を増やすことも叶えてやるし、便利な魔法道具も提供してやる」

 やはり反応はない。フォルティシモの感覚では祈りを捧げるだけで見返りがあると約束して貰えたら、これ幸いに祈りを捧げようと思うのだが、彼らは違うようだった。本当に信仰心エネルギーが集まるのか、少し心配になる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...