廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第四章

第百三十八話 アクロシアの鍛冶師

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 ある日の夕食の後、キュウはリビングで編み物をしていた。主人と一緒のソファに座り、両手それぞれに持った棒針をせっせと動かし、真っ赤な糸を縫っている。

 これはキュウが突然編み物に目覚めたのではなく、【裁縫】スキルのレベル上げである。

 キュウは戦闘用のスキルを上げるべきなのだろうが、昼間魔物と戦ってレベルを上げた後、夜も庭で素振りまですると疲労が溜まりすぎて身体に悪いと言われてしまった。

 そこで主人から提案されたのが、どうせすべてのクラスをカンストさせるのだから、生産系のクラスのスキルも今の内からレベルを上げるのはどうかだ。

 それに戦闘にまったくの無駄ではないらしい。ベースレベルを九九九九まで上げて覚醒した先の話になるが、【裁縫】スキルでは布系の魔法道具を使う際に性能が向上するようになる。

 数ヶ月前だったら、そんな未来の話は想像もできないと思っただろうが、今のキュウには何が近い未来で何が遠い未来なのか想像もつかない。

 リビングには商会を立ち上げて大忙しのダアトとキャロルを除いたすべての従者の姿があり、皆が思い思いに過ごしている。

「ですから、マグナさんにアクロシアへお越し頂き………聞いていませんね」

 そんな中で、ラナリアがマグナへ話し掛けていた。マグナはドワーフであるため一般的な亜人族の平均からすれば背は低い。とは言え、半分の背丈しかないような極端なものではないので、小柄な女性と言われても通用する。

 その彼女は鉄火場に居ないためかいつも着けているバンダナを外し、居間のテーブルの上に何かの部品を広げて作業をしていた。

 先ほどからラナリアがマグナの気を引こうと話し掛けているのだが、マグナは手元の作業に集中していて生返事をするだけでまともに話に取り合っていなかった。

「はあ。先ほどから何を作っていらっしゃるのですか?」
「ああ、ゴーレムだよ。こっちでも色々動いているでしょ? ピアさんの施設も使えるようになったんで増産してる。あっちはこういう生産能力が弱いからね。有効活用するためにこっちからも助力してるわけ」
「あの異界で農作業などをしているゴーレムたちは、マグナさんのお手製だったのですね」

 この主人の【拠点】には、いくつもの摩訶不思議な施設がある。そもそも住んでいる屋敷自体、外観と内観が釣り合っておらず、広さだけでも外側から見た場合の倍の面積があった。

 そんな施設の中で最大の広さを持つのが、農場施設。柵を通り抜けたら、地平線の彼方まで広がる畑や牧場が現れる。ラナリアの言う通り、あそこは異界だった。

 ゴーレムというのは、その異界農場で二十四時間休むことなく農作業に勤しんでいる人形のことだ。彼らは今もキュウたちだけでなくエルフたちの分までの食糧をせっせと生産し続けている。

「まあね。それと聞いてない訳じゃない。興味が持てないだけ。私は仲間のためなら武具だろうがゴーレムだろうが全力で作るし、いくらでも教える。けど見ず知らずの奴を弟子に取って教えるなんてご免だ」

 キュウが端から話を聞いている限りのラナリアの話は、シャルロットを始めとして何名かに渡したマグナ製の武器が、アクロシアの鍛冶師たちの間で話題になり、それを作ったのは誰かと鍛冶師たちが王城まで押しかけてきたのだと言う。しかも、教えてくれなければ今後一切騎士団へ武器を作らないとまで豪語しているらしい。

 だからラナリアは、マグナに一度で良いからアクロシアの鍛冶師たちの前に姿を見せてくれないかと頼んでいる。

 キュウは横で一緒に話を聞いている主人の様子を窺った。主人は相変わらず虚空に手を掲げて高速で指を動かしていて、ラナリアとマグナの話に割り込む様子はない。

「ですが、その、今回はどうしてもマグナさんにお越し頂かなければ、解決が難しいのです」
「最初から狙った事象なんじゃないの? なら最後まで責任持ってコントロールしなよ」
「それを言われると弱いのは本音です。私も職人の方々の気持ちを軽んじていた訳ではないのですが、私の知る彼らはどこかやる気を失っていたため、少しでも刺激になればと思い………まさかここまで吹き出すとは」

 考えて見れば、キュウはアクロシアの鍛冶師が作った武具を使った経験がない。キュウが戦闘で使う武具は主人が用意してくれたもので、最近はマグナが作ってくれたものだ。

 けれども冒険者ギルド近くの市場に売られている物、ラナリアやシャルロットなどの装備を見れば、そのレベルは窺い知れる。

「まあ、どちらにしても行くつもりはないよ」
「どうしても聞き届けては頂けませんか?」
「なんで私がそういう面倒事をしなきゃいけないの。そういうのは、ダアかキャロの領分でしょ」
「分かりました。ですが、もう少し足掻いてもよろしいですか?」
「足掻く?」

 マグナが眉を潜めると、ラナリアは立ち上がってソファに座る主人とキュウの元までやって来る。

「フォルティシモ様の神の力を補充する方法ですが、試してみたいと考えている事柄があるのです」
「あ、それは汚いんじゃないのか!」

 マグナも席を立ってラナリアの前へ出て、主人とラナリアの間に割り込んだ。

「なんだ。なんで喧嘩してる?」

 主人は今正に二人のやりとりに気が付いたように、虚空から手を放して顔を上げた。キュウは急いで主人のフォローをすべく現状を簡潔に伝える。

「それと信仰心に何の関係があるんだ?」
「私たちフォルティシモ様の忠実な従者が、フォルティシモ様へ祈りを捧げても効果のないことは確認しました。しかし、私たち従者が集めた想いの力は、フォルティシモ様のものにならないのでしょうか? 理屈の上では、私たちの力はすべてフォルティシモ様のものであり、私たちへ想いを投げ掛けることは同時にフォルティシモ様への想いとなるはずです」

 キュウとラナリア以外の従者は、主人が創造した存在。キュウとラナリアだって、主人が居なかったら今頃誰かの慰み者になっていた。

 ラナリアの言う通り、主人がいなければ今の自分たちはない。自分たちへの感謝は、回り回って主人への感謝と言い換えても良いはず、という理屈は理解できる。

 迂回する信仰に意味があるのか疑問だが、教会や神官への感謝する行為は神への感謝とも言えるし、神像や十字架が従者に代わっただけとも言えるので、どうなのだろうか。

「………それができたら、回復がかなり楽になるな」

 ラナリアの進言には主人も心を動かされたらしく、主人が乗り気になったのが分かる。マグナも諦めたような顔をしていた。

「よし試すぞ。こっちの施設は限界まで使ってるから、ピアノの【拠点】に鉄火場を作って、そこにアクロシアの鍛冶師たちを呼ぶ。マグ、準備しとけ」

「分かったけどさ、フォルさん、この失礼な新人をどうにかして良い? こんなのは………アルとキャロとリースと………みんなこういう奴らだった」
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