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第四章
第百五十四話 魂のアルゴリズム
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実験区画にフォルティシモがやって来ると、まるで大統領かアイドルでもやって来たかのような騒ぎになる。騒がれるのは嫌いではないが、今は急いでいるので道を空けるように言うと、エルフたちが中心になって集まって来た者たちを散らした。
いつもなら「あんた私たちエルフを顎で使わないでよ」なんて文句を言いそうなエルミアも、今は大人しくフォルティシモへ付いて来ている。
実験区画の端にある建物へ入る。三階建ての木造建築で、一階部分は小綺麗なオフィスだ。
ここはフォルティシモの仕事場にそっくりだった。フォルティシモにとって、自宅とファーアースオンライン以外の、唯一外の世界と繋がっていた場所。まあ仕事はほとんどAI任せで、本人はファーアースオンラインを廃人プレイしていたのだが。
フォルティシモはシステムチェアに腰掛けて、情報ウィンドウを六枚立ち上げる。目まぐるしく変わる表示を見回しながら、最後の準備を整えていく。エルミアは立ったままフォルティシモを見つめていた。
問題は【領域制御】だったが、それも上手くいきそうで安堵する。【領域制御】は正しく全知全能なる神の力だったが、まるで人が神の力を振るうのが不遜であると言わんばかりに、莫大な代償を要求してくる。信仰心エネルギーという、どう集めれば良いのか、未だに良く分からないものだ。
加えて「願いを叶えてくれ」という都合の良いものではなく、全知によって“すべて”を解析し、全能によって上手くそれを変えていくという手順が必要だった。
「おい、エルミア」
「な、何?」
「あの御神木の好きな動物は?」
「………知らないわ」
エルミアの表情が歪んだところを見ると、御神木の趣味嗜好を知らなかったことにショックを受けたようだった。良く考えたら、フォルティシモもキュウの好きな動物を知らない。ついでにフォルティシモもショックを受けた。今日帰ったら、好きな動物を聞こうと思う。
フォルティシモは【拠点】の倉庫にアクセスし、億に達するアイテム群の中から、熊のぬいぐるみを取り出してテーブルに置いた。かなり初期の家具アイテムなので一覧の上部にあった、テディベアだ。
それから先ほど集めて来た御神木の破片をインベントリから取り出し、その上に右手を掲げて目を瞑った。深呼吸をして意識を集中させる。
権能【領域制御】を使って、御神木の破片から彼の記憶を、学習を、情報を、データを調べていく。それらを収集し、新しい肉体であるテディベアへ書き込んだ。信仰心エネルギーの減りが大きい。思わず舌打ちをした。課金で自動回復する要素はないのか、異世界を創ったクソ野郎に心の中で唾を吐きかける。
エルミアの視線が気になる。以前にピアノに突っ込まれたのを思い出して、集中力が途切れそうになるものの、【領域制御】を使うのにも慣れて来たお陰で、少しの途切れくらいならば問題ない。
それからフォルティシモは、従者たちに手伝って貰いながら作成した脳のアルゴリズム、いや魂のアルゴリズムが入った命令コードクリスタルをテディベアへ埋め込み、フォルティシモのMPを並々と注ぎ込んでゴーレムを起動した。
フォルティシモが講堂で堂々と語った三つの要素、御神木のデータを持つゴーレムの肉体、魂のアルゴリズムを持つ命令コードクリスタル、そしてそれを動かすための魔力。
すると、テーブルに座っていたテディベアが、目を開けて立ち上がった。テディベアは慌てた調子で周囲を見渡し、エルミア、フォルティシモを交互に見回す。
『あれ、僕は確か彼に殺されて………。え………!? フォルティシモ、君は、まさか、真の神まで至ったって言うのかい!?』
御神木あらためテディベアが大声を上げていた。
エルミアがテディベアを抱き締めて一通り泣いた後、フォルティシモとテディベアはようやく会話を再開できた。フォルティシモが御神木の記憶と脳のアルゴリズムをゴーレムへ移植したのだと説明すると、テディベアは首を傾げる。
テディベアは最初は歩くのも難しそうだったけれど、すぐに机の上を歩けるようになった上、器用に手足を動かしていた。
『僕にはさっぱりだ。君、有名な技術者だったりしたの?』
「家族………親戚………知り合いが有名なだけだ。技術に罪はない」
ノーベルを虐殺者だと言う人間はいないと心を落ち着ける。
『なんだか分からないな。しかし凄い。これってもう神の力みたいだよ』
テディベアの愛くるしい視線がフォルティシモと交錯する。
『ところで、なんでテディベアなのさ。もっと等身大でちゃんと五本の指のある人形とか無かったの?』
「自由になったお前が俺の敵にならないとも限らないだろ」
『それもそうだ。意外と抜け目が無い』
テディベアが両手を叩くとぽふぽふと音がした。分類上はフォルティシモのアイテムであるテディベアが、フォルティシモの【拠点】に入れるのか気になったので、今度調べておこうと思う。
エルミアがテディベアを抱き上げて、フォルティシモから庇うように隠す。
「御神木さんは味方よ!」
『あれ、フォルティシモ、これ、痛覚があるんだけど。呼吸してないはずなのに、苦しい』
「ご、ごめんなさい!」
「幻痛だ。たぶん」
エルミアがそっとテディベアをテーブルの上へ戻すと、テディベアはエルミアの頬をポンポンと優しく叩く。するとエルミアは嬉しそうに頬を染めて笑った。
フォルティシモも従者たちを取り戻した時は、あんな顔をしていたのだろうか。きっとしていたのだろう。エルミアと自分を重ね合わせて同情し、御神木のことを考えず身勝手なことをした自覚があったので、二人の雰囲気を見るとフォルティシモの胸に温かいものが灯った。
「そんなことより、お前をやったのは誰だ? お前の仲間の神戯に参加してる奴が戻ってきて、お前をやったのか?」
『ああ、その通りだ。僕は彼にまた、いやついに殺された』
その後の話で、フォルティシモは御神木から以前では聞けなかった話を聞き出す。その中には有用な情報も無用な情報も紛れ込んでいたけれど、なかなかに興味深い内容だった。
いつもなら「あんた私たちエルフを顎で使わないでよ」なんて文句を言いそうなエルミアも、今は大人しくフォルティシモへ付いて来ている。
実験区画の端にある建物へ入る。三階建ての木造建築で、一階部分は小綺麗なオフィスだ。
ここはフォルティシモの仕事場にそっくりだった。フォルティシモにとって、自宅とファーアースオンライン以外の、唯一外の世界と繋がっていた場所。まあ仕事はほとんどAI任せで、本人はファーアースオンラインを廃人プレイしていたのだが。
フォルティシモはシステムチェアに腰掛けて、情報ウィンドウを六枚立ち上げる。目まぐるしく変わる表示を見回しながら、最後の準備を整えていく。エルミアは立ったままフォルティシモを見つめていた。
問題は【領域制御】だったが、それも上手くいきそうで安堵する。【領域制御】は正しく全知全能なる神の力だったが、まるで人が神の力を振るうのが不遜であると言わんばかりに、莫大な代償を要求してくる。信仰心エネルギーという、どう集めれば良いのか、未だに良く分からないものだ。
加えて「願いを叶えてくれ」という都合の良いものではなく、全知によって“すべて”を解析し、全能によって上手くそれを変えていくという手順が必要だった。
「おい、エルミア」
「な、何?」
「あの御神木の好きな動物は?」
「………知らないわ」
エルミアの表情が歪んだところを見ると、御神木の趣味嗜好を知らなかったことにショックを受けたようだった。良く考えたら、フォルティシモもキュウの好きな動物を知らない。ついでにフォルティシモもショックを受けた。今日帰ったら、好きな動物を聞こうと思う。
フォルティシモは【拠点】の倉庫にアクセスし、億に達するアイテム群の中から、熊のぬいぐるみを取り出してテーブルに置いた。かなり初期の家具アイテムなので一覧の上部にあった、テディベアだ。
それから先ほど集めて来た御神木の破片をインベントリから取り出し、その上に右手を掲げて目を瞑った。深呼吸をして意識を集中させる。
権能【領域制御】を使って、御神木の破片から彼の記憶を、学習を、情報を、データを調べていく。それらを収集し、新しい肉体であるテディベアへ書き込んだ。信仰心エネルギーの減りが大きい。思わず舌打ちをした。課金で自動回復する要素はないのか、異世界を創ったクソ野郎に心の中で唾を吐きかける。
エルミアの視線が気になる。以前にピアノに突っ込まれたのを思い出して、集中力が途切れそうになるものの、【領域制御】を使うのにも慣れて来たお陰で、少しの途切れくらいならば問題ない。
それからフォルティシモは、従者たちに手伝って貰いながら作成した脳のアルゴリズム、いや魂のアルゴリズムが入った命令コードクリスタルをテディベアへ埋め込み、フォルティシモのMPを並々と注ぎ込んでゴーレムを起動した。
フォルティシモが講堂で堂々と語った三つの要素、御神木のデータを持つゴーレムの肉体、魂のアルゴリズムを持つ命令コードクリスタル、そしてそれを動かすための魔力。
すると、テーブルに座っていたテディベアが、目を開けて立ち上がった。テディベアは慌てた調子で周囲を見渡し、エルミア、フォルティシモを交互に見回す。
『あれ、僕は確か彼に殺されて………。え………!? フォルティシモ、君は、まさか、真の神まで至ったって言うのかい!?』
御神木あらためテディベアが大声を上げていた。
エルミアがテディベアを抱き締めて一通り泣いた後、フォルティシモとテディベアはようやく会話を再開できた。フォルティシモが御神木の記憶と脳のアルゴリズムをゴーレムへ移植したのだと説明すると、テディベアは首を傾げる。
テディベアは最初は歩くのも難しそうだったけれど、すぐに机の上を歩けるようになった上、器用に手足を動かしていた。
『僕にはさっぱりだ。君、有名な技術者だったりしたの?』
「家族………親戚………知り合いが有名なだけだ。技術に罪はない」
ノーベルを虐殺者だと言う人間はいないと心を落ち着ける。
『なんだか分からないな。しかし凄い。これってもう神の力みたいだよ』
テディベアの愛くるしい視線がフォルティシモと交錯する。
『ところで、なんでテディベアなのさ。もっと等身大でちゃんと五本の指のある人形とか無かったの?』
「自由になったお前が俺の敵にならないとも限らないだろ」
『それもそうだ。意外と抜け目が無い』
テディベアが両手を叩くとぽふぽふと音がした。分類上はフォルティシモのアイテムであるテディベアが、フォルティシモの【拠点】に入れるのか気になったので、今度調べておこうと思う。
エルミアがテディベアを抱き上げて、フォルティシモから庇うように隠す。
「御神木さんは味方よ!」
『あれ、フォルティシモ、これ、痛覚があるんだけど。呼吸してないはずなのに、苦しい』
「ご、ごめんなさい!」
「幻痛だ。たぶん」
エルミアがそっとテディベアをテーブルの上へ戻すと、テディベアはエルミアの頬をポンポンと優しく叩く。するとエルミアは嬉しそうに頬を染めて笑った。
フォルティシモも従者たちを取り戻した時は、あんな顔をしていたのだろうか。きっとしていたのだろう。エルミアと自分を重ね合わせて同情し、御神木のことを考えず身勝手なことをした自覚があったので、二人の雰囲気を見るとフォルティシモの胸に温かいものが灯った。
「そんなことより、お前をやったのは誰だ? お前の仲間の神戯に参加してる奴が戻ってきて、お前をやったのか?」
『ああ、その通りだ。僕は彼にまた、いやついに殺された』
その後の話で、フォルティシモは御神木から以前では聞けなかった話を聞き出す。その中には有用な情報も無用な情報も紛れ込んでいたけれど、なかなかに興味深い内容だった。
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