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第四章
第百六十七話 プレイヤーたちの見る最強
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チームメンバーたちは樹氷の影に隠れ、空から見つからないように息を潜めている。視線の先には綺麗に削り取られた山と、その上空に浮かぶレイドボスモンスターの姿があった。
「俺が行くよ。みんなは安全な場所に隠れててくれ」
ヒューマンのプレイヤーがそう言った。ここから出て、レイドボスモンスターに見つからないように下山し、入り口付近にいるだろう誘い出した天空のプレイヤーに会って、助けてくれるよう頼む。
レイドボスモンスターに見つかって殺される可能性、天空のプレイヤーが怒り狂ってその場で殺される可能性、下山する間に通常モンスターに殺される可能性まである。
「馬鹿、一人でなんか無理だろ」
「そうよ。もうアイテムもほとんど残ってないんだし」
チームメンバーたちはヒューマンのプレイヤーが一人で行くというのを引き留める。
『何言ってるの! 私が行くに決まってるでしょ。あなたたちは、大人しくしてて!』
「な、なんで、君は、最初から反対だったのに!」
『悪いけど、もうリーダーを振り切って出発しちゃったから!』
エルフの女性プレイヤーの言葉は嬉しかった。やはりみんな仲間なのだと感じられた。
しかし彼女の行動は遅かった。
空を旋回していたレイドボスモンスターが蒼く輝いた。その光はつい先ほど、『樹氷連峰』の山の一つを消し飛ばした攻撃モーションに他ならない。クールタイムが終わったのか、再びあの攻撃を使うつもりらしい。山一つが攻撃範囲。今から全速力で走っても、逃げられるはずがない。
死がプレイヤーたちに襲い掛かろうとした。
エルフの女性プレイヤーの行動はたしかに遅かった。しかしそれはチームメンバーたちの命を助けるのに遅かった訳ではない。
遅かったのは、天空のプレイヤーはレイドボスモンスターととっくに会敵して、助けを求めるまでもなく戦闘を開始したのだ。恐怖の対象でしかないはずのレイドボスモンスターを、いつか使うかも知れない肉盾にするため、強制的にフレンド登録するという理由で。
巨大な炎の竜巻が現れた。スケールF5はあろうかという竜巻が炎を纏ってレイドボスモンスターを包み込んだ。そのあまりの強風と熱量に、雪雲は吹き飛び、周囲の雪や樹氷が溶けていく。
「攻撃が、来ない?」
「ほんとだ。なんで?」
「今の、誰のアイテムだ!? もう一回やってくれ!」
「いや、あんな凄いの誰も持ってないって!」
「じゃあ、一体?」
レイドボスモンスターが空中のある一点へ向けて視線を投げ掛けた。その方向に何があるのか、確認するには隠れている樹氷から身を乗り出さねばならず、発見されてチームメンバーを皆殺しにされる危険は冒せない。
レイドボスモンスターの周囲に蒼い光の球がいくつも浮かび上がった。大きさは三メートルはあるだろうか、数は二十か三十ほどで目測でそのすべてを数えるのは難しい。光の球が先ほどの方向へ向けて殺到した、と思ったらカキンカキンという野球でもやっているのかという音がして、光の球が返ってくる。
光の球は次々に『樹氷連峰』の地面に着弾し、爆発を起こしていた。巻き込まれたモンスターが一瞬で消滅するのが見て取れる。その中にはダンジョンボスも含まれていて、レイドボスモンスターの攻撃力がとてつもないことを示していた。
だとしたら、その光の球を打ち返した者は一体何者だろうか。
「何が、起こってるんだ?」
チームメンバーの一人が、思わずと言った調子で樹氷から出てしまった。レイドボスモンスターが探し回っていたら、すぐに見つかってしまったことだろう。しかし今、レイドボスモンスターの注意は欠片も彼らへ向けられていない。
レイドボスモンスターから空中に浮かぶ何かへ向けて、蒼い光線が放たれる。レーザー兵器のような一直線に向かって行ったそれは、何かに当たって散り散りに弾け飛んでいた。
レイドボスモンスターは、何かへ向かって飛ぶ。
何かは、巨大な剣を構えた。数百メートルはあろうかという天を貫く大きさの剣だ。その剣の腹で、向かって来るレイドボスモンスターをはたき落とす。
レイドボスモンスターは地面に激突し、大きな震動がダンジョン全体を揺るがした。
地を這うレイドボスモンスターと、それを見下ろす何か。
いつの間にか、樹氷から出て来たのは一人ではなくなっていた。一人、二人とレイドボスモンスターと何かの戦いに引き寄せられるように、樹氷の影から出て空と地を見比べる。
今更、何か、なんて表現するべきではない。
あれこそが天空のプレイヤーだ。個人どころかパーティでさえ打倒不可能に調整されているはずのレイドボスモンスターを、たった一人で圧倒するプレイヤー。
誰かが言った、化け物、と。
何故かあの日を思い出す。異世界にやって来ることになったあの日、ダンジョンボスを独占し、数々のトッププレイヤーを返り討ちにして、どちらが新実装されたボスなのか分からない暴虐の限りを尽くしていたトップオブトッププレイヤーを。
果たしてどちらがプレイヤーたちにとっての希望で、どちらが絶望なのか、分からなくなる。
天空のプレイヤーを倒すためのギミックだったはずだ。どんなプレイヤーでも倒せないレイドボスモンスターのはずだった。最初の神戯参加者は嘘は吐いていないし、チームメンバーたちもそこに疑問は持たなかった。最初の神戯参加者もチームメンバーも知らなかっただけだ。天空のプレイヤーの強さを。
天空のプレイヤーは、あまりにも強すぎる。彼はレイドボスモンスターを単騎で、それも圧倒的な力を以てして制圧してしまえる―――最強のプレイヤーだった。
誰かがオープンチャットを使う。
「頼む! そいつを倒してくれ!」
それが始まりで、チームメンバーたちは口々にオープンチャットを使って、天空のプレイヤーへ語り掛ける。
『誰だお前ら………? あっ』
天空のプレイヤーからの返信があった次の瞬間、雪と樹氷の世界は一転し、自分たちが海中にいると気付いた。
一部のボスモンスターが使う、専用のインスタンス空間だ。
「俺が行くよ。みんなは安全な場所に隠れててくれ」
ヒューマンのプレイヤーがそう言った。ここから出て、レイドボスモンスターに見つからないように下山し、入り口付近にいるだろう誘い出した天空のプレイヤーに会って、助けてくれるよう頼む。
レイドボスモンスターに見つかって殺される可能性、天空のプレイヤーが怒り狂ってその場で殺される可能性、下山する間に通常モンスターに殺される可能性まである。
「馬鹿、一人でなんか無理だろ」
「そうよ。もうアイテムもほとんど残ってないんだし」
チームメンバーたちはヒューマンのプレイヤーが一人で行くというのを引き留める。
『何言ってるの! 私が行くに決まってるでしょ。あなたたちは、大人しくしてて!』
「な、なんで、君は、最初から反対だったのに!」
『悪いけど、もうリーダーを振り切って出発しちゃったから!』
エルフの女性プレイヤーの言葉は嬉しかった。やはりみんな仲間なのだと感じられた。
しかし彼女の行動は遅かった。
空を旋回していたレイドボスモンスターが蒼く輝いた。その光はつい先ほど、『樹氷連峰』の山の一つを消し飛ばした攻撃モーションに他ならない。クールタイムが終わったのか、再びあの攻撃を使うつもりらしい。山一つが攻撃範囲。今から全速力で走っても、逃げられるはずがない。
死がプレイヤーたちに襲い掛かろうとした。
エルフの女性プレイヤーの行動はたしかに遅かった。しかしそれはチームメンバーたちの命を助けるのに遅かった訳ではない。
遅かったのは、天空のプレイヤーはレイドボスモンスターととっくに会敵して、助けを求めるまでもなく戦闘を開始したのだ。恐怖の対象でしかないはずのレイドボスモンスターを、いつか使うかも知れない肉盾にするため、強制的にフレンド登録するという理由で。
巨大な炎の竜巻が現れた。スケールF5はあろうかという竜巻が炎を纏ってレイドボスモンスターを包み込んだ。そのあまりの強風と熱量に、雪雲は吹き飛び、周囲の雪や樹氷が溶けていく。
「攻撃が、来ない?」
「ほんとだ。なんで?」
「今の、誰のアイテムだ!? もう一回やってくれ!」
「いや、あんな凄いの誰も持ってないって!」
「じゃあ、一体?」
レイドボスモンスターが空中のある一点へ向けて視線を投げ掛けた。その方向に何があるのか、確認するには隠れている樹氷から身を乗り出さねばならず、発見されてチームメンバーを皆殺しにされる危険は冒せない。
レイドボスモンスターの周囲に蒼い光の球がいくつも浮かび上がった。大きさは三メートルはあるだろうか、数は二十か三十ほどで目測でそのすべてを数えるのは難しい。光の球が先ほどの方向へ向けて殺到した、と思ったらカキンカキンという野球でもやっているのかという音がして、光の球が返ってくる。
光の球は次々に『樹氷連峰』の地面に着弾し、爆発を起こしていた。巻き込まれたモンスターが一瞬で消滅するのが見て取れる。その中にはダンジョンボスも含まれていて、レイドボスモンスターの攻撃力がとてつもないことを示していた。
だとしたら、その光の球を打ち返した者は一体何者だろうか。
「何が、起こってるんだ?」
チームメンバーの一人が、思わずと言った調子で樹氷から出てしまった。レイドボスモンスターが探し回っていたら、すぐに見つかってしまったことだろう。しかし今、レイドボスモンスターの注意は欠片も彼らへ向けられていない。
レイドボスモンスターから空中に浮かぶ何かへ向けて、蒼い光線が放たれる。レーザー兵器のような一直線に向かって行ったそれは、何かに当たって散り散りに弾け飛んでいた。
レイドボスモンスターは、何かへ向かって飛ぶ。
何かは、巨大な剣を構えた。数百メートルはあろうかという天を貫く大きさの剣だ。その剣の腹で、向かって来るレイドボスモンスターをはたき落とす。
レイドボスモンスターは地面に激突し、大きな震動がダンジョン全体を揺るがした。
地を這うレイドボスモンスターと、それを見下ろす何か。
いつの間にか、樹氷から出て来たのは一人ではなくなっていた。一人、二人とレイドボスモンスターと何かの戦いに引き寄せられるように、樹氷の影から出て空と地を見比べる。
今更、何か、なんて表現するべきではない。
あれこそが天空のプレイヤーだ。個人どころかパーティでさえ打倒不可能に調整されているはずのレイドボスモンスターを、たった一人で圧倒するプレイヤー。
誰かが言った、化け物、と。
何故かあの日を思い出す。異世界にやって来ることになったあの日、ダンジョンボスを独占し、数々のトッププレイヤーを返り討ちにして、どちらが新実装されたボスなのか分からない暴虐の限りを尽くしていたトップオブトッププレイヤーを。
果たしてどちらがプレイヤーたちにとっての希望で、どちらが絶望なのか、分からなくなる。
天空のプレイヤーを倒すためのギミックだったはずだ。どんなプレイヤーでも倒せないレイドボスモンスターのはずだった。最初の神戯参加者は嘘は吐いていないし、チームメンバーたちもそこに疑問は持たなかった。最初の神戯参加者もチームメンバーも知らなかっただけだ。天空のプレイヤーの強さを。
天空のプレイヤーは、あまりにも強すぎる。彼はレイドボスモンスターを単騎で、それも圧倒的な力を以てして制圧してしまえる―――最強のプレイヤーだった。
誰かがオープンチャットを使う。
「頼む! そいつを倒してくれ!」
それが始まりで、チームメンバーたちは口々にオープンチャットを使って、天空のプレイヤーへ語り掛ける。
『誰だお前ら………? あっ』
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一部のボスモンスターが使う、専用のインスタンス空間だ。
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