廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第五章

第二百三十七話 初代皇帝、その正体を知る 前編

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 ルナーリスは復讐をしたかった。それは王后キュウが言った通りだ。ルナーリスを落ちこぼれだと蔑んできたカリオンドル皇国に、ルナーリスの力を認めさせたかった。本当は、国を破壊したかったのでも、父を殺したかったのでもない。

 ルナーリスは白竜の姿から元の竜人族へ戻っていた。何故巨大な白竜になったのかは曖昧にしか理解できないけれど、白竜になっていた間のことはすべて覚えているし、あの時の憎悪は本物だった。

 今のルナーリスは鍵盤商会の従業員寮、元虎人族ディアナの部屋のベッドに寝ていた。

「どうやら起きたみてーですね?」

 部屋に誰かが入って来たことは気が付いていたけれど、今のルナーリスはそれが己を殺す刺客だろうが身を任せるつもりだった。しかしキャロルであれば身体を起こさなければならない。

「キャロル、さん」

 きっと今のルナーリスの表情を鏡に映せば、泣きそうな顔をしているに違いない。

 キャロルは溜息を吐いて頭を掻く。

「以前のてめーには、虎人族のまま鍵盤商会で働くのはどーですかって話をしよーと思ってました」

 キャロルが口にしたのは、ルナーリスが望んだ未来だった。

 心に傷を負った者たちが集まり、出生など関係なしに仕事振りで評価される、天国のような場所で一生を過ごす。ほんの少し前であれば、涙を流して喜んで受け入れた未来。

「けど、今のてめーの顔を見て、それは意味ねーって分かりました」

 キャロルがベッドまで近付いて来る。

「てめーは、てめーの幸せのため、贖罪と復讐を達成する必要があるみてーです」

 キャロルは優しい手つきでルナーリスの頭を撫でた。

「今回やらかしちまったてめーは、カリオンドル皇国に対する贖罪をしなければなりません。その力の限りで、戦争の終結と復興に尽力しやがれです」

 ルナーリスは白竜となってカリオンドル皇国の皇城と首都を、そして大陸中を破壊した。それは紛れもない事実だ。その事実を思うと、キャロルに撫でられている頭を下げてしまう。

「そして復讐は、キュウの言う通りです。てめーもフォルさんの仲間に加わるのが良いんじゃねーですか? 貞操のことなら心配する必要はねーです。むしろフォルさんとの子供が欲しいと思ったら苦労するくれーです」
「ですけど!」
「贖罪と復讐は必ずしも背反しねーでしょう。てめーが私ら天空の国フォルテピアノと懇意にしながら、カリオンドル皇国を発展させていけば、てめーの贖罪と復讐は同時に達成できねーですか?」

 カリオンドル皇国に対する贖罪と復讐。この胸の内の罪悪感と、消えることのない怒りを解消するには、それしかない気がしてくる。

 それに、初代皇妃の二人から告げられた内容もある。

「キャロルさん、フォルティシモ陛下と、お話できないでしょうか?」
「もちろんできますよ。つーか、向こうからご所望です。てめーは重要人物ですからね」



 ルナーリスが初めて訪れた『浮遊大陸』にあるエルフたちが多く暮らす都市は、地上のそれとは比べものにならないほどに栄えていた。

 この『浮遊大陸』の都市エルディンは、森に暮らし排他的なエルフ族の印象を完膚なきまでに粉砕する。大陸にはない建築技術を用いられた建物と、灯りや給水など惜しみなく使われている魔法道具の数々、街中を動き回る従魔やゴーレム、何よりも魔物に襲われない安心感。

 街の半分は森の中なのだけれど、森の木々と生活空間が完全に調和していて、森との共生はエルフの専売特許を思わせた。もう半分は完璧な碁盤目状に整備された街で、高い見識のある者が計画的に街を広げているのを感じさせる。

 そしてエルフが多いにも関わらず、純人族も亜人族もドワーフも関係なしに街中を歩いている。あんな絶対的な天空の王の前では、種族など些細なものだと言わんばかりだった。

 ルナーリスはここまで活気のある都市を見たことがない。力による支配が正しいとは思わないけれど、その支配者がどちらかと言うと善人で、神の如き力を持ち、永遠に支配してくれるのであれば、大陸の国々にとって幸福な選択はどちらになるだろうか。

「どーしました?」

 ルナーリスが天空の都市エルディンの街並みを見て立ち止まっていると、先を行くキャロルから声を掛けられた。ルナーリスは駆け足になって、キャロルに追いつく。

 それから天空の国の冒険者ギルドへ案内され、そこの応接室へ通される。

 応接室はアクロシア王国の冒険者ギルドを参考に作られているのか、丈夫そうな机とソファが置かれ、壁には明るい雰囲気の絵画が掲げられ、部屋の隅には手の掛からない観葉植物が設置されていた。

 およそ大陸東部同盟をたった一国の力で破り、大陸の危機を救った、神話の王との謁見をする場所ではない。

 けれどルナーリスが謁見を願い出た天空の王フォルティシモは、既に応接室のソファに腰掛けていた。それだけではない。彼の背後には、彼の信頼する従者たちが控えている。

 狐の魔王アルティマ、御使いリースロッテ、鍵盤商会会長ダアト、そして太陽の如き天才ラナリア。

 もちろん反対側のソファに腰掛けるなんて行動は取らない。彼女たちでさえ立っているのに、ルナーリスが座れるはずがない。例え着席を勧められても拒否する。この場で着席を許されるのは、天空の王フォルティシモだけだと理解できる。

「来たか」
「お待たせして申し訳ありません。本日は拝謁を許可して頂きまして―――」
「そういうのはいい」

 フォルティシモの言葉には、敵意がある。

 夜の街や鍵盤商会で出会った時にはなかったものだ。やはりルナーリスが、カリオンドル皇国の第二皇女であったことを秘密にしていたことに憤りを感じているのか。もしくは白竜と成ってカリオンドル皇国で暴れたことを咎めているのか。

 ルナーリスは緊張で息ができなくなるのを感じる。恐ろしい。アクロシア国王やカリオンドル皇帝と謁見した時とは、まるで違う緊張感を覚えていた。

 当然だろう。この天空の王フォルティシモは、初代皇妃ディアナの竜神の力をものともせず、大陸中に現れたドラゴンを一匹残らず消滅させる絶対の強者だ。

「最初に言っておくが、お前を生かしてるのは、キュウがお前を助けるべきだって言ったからだ。だからキュウに感謝しろ」
「ちょっと、フォルさん! この状況で脅す意味はありますか? キャロがこんなに良い関係を築いて来てくれたんですよ? それを台無しにするような発言!」

 鍵盤商会会長ダアトが天空の王フォルティシモの発言に割り込む。一般的な国であれば、一介の商人が国王が話している最中に割り込む、まして堂々と文句を言うなんて有り得ない。

 王権の強い国であれば不敬罪で極刑に処されても文句が言えない発言をする鍵盤商会会長ダアト。何が起きるのかとルナーリスが震えていると、天空の王フォルティシモは溜息一つで済ませてしまった。

「はぁ。まあいい。俺は苛立っているが、今すぐお前をどうこうするつもりはない。ただし、俺たちに協力して貰う」
「フォルティシモ陛下の慈悲に感謝いたします。非才の身であれど、全身全霊を以てフォルティシモ陛下に尽くす所存です」

 ルナーリスは床に膝を突いて頭を下げた。

「そうだな。まずお前から俺に話があるらしいな。先に聞いておく」
「発言の機会を頂きありがとうございます。偉大なる初代皇帝、近衛天翔王光陛下の御孫様であられるフォルティシモ陛下に、初代皇妃様方から伝言がございます」
「………………………………………………………………………」

 天空の王フォルティシモはルナーリスの言葉に目を見開いた後、拳で己の眉間を何度か叩いた。それでも満足できなかったのか、指で眉間を抑え付ける。しばらくして手を放し、ルナーリスを見つめて問い掛けをした。

「なんだって?」
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