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第六章
第二百六十一話 フォルティシモの正体
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クレシェンドはアクロシア大陸にある、大国から見れば同盟の価値もないような小国にいた。異世界ファーアースの大国と小国には、リアルワールドの先進国と後進国ほどの差はないけれど、異世界ファーアースの小国はリアルワールドの後進国よりも悲惨な現実がある。
この国では、国民は産まれた時に【隷従】を掛けられ、国王の奴隷となる。国民は権利どころか意思さえもすべて剥奪され、究極の独裁国家が続いていく。そんな中でこの国はエルフ、亜人族、他国の貴族まで攫ってきて奴隷として売買、使役する。奴隷売買を生業にする者にとって、最も商品を購入しやすい卸売り市場のようなものだ。
クレシェンドはその日も国王の奴隷と奴隷売買の交渉をしていた。
「ふむ。大分高騰していますね。この容姿にレベル、何のスキルも持たないのに、この価格ですか」
クレシェンドはチームメンバーのプレストには、あの空に浮かぶ天空の王フォルティシモを神戯から脱落させると宣言したけれど、<暗黒の光>の目的も、クレシェンドの目的も、天空の王フォルティシモに勝つことがゴールではない。
むしろ重要なのは邪魔者になる天空の王フォルティシモを脱落させた後であり、いくら戦うと決めたとは言え、天空の王フォルティシモだけにかまけている訳にはいかない。
当初のクレシェンドの予定では天空の王フォルティシモは大氾濫や“到達者”を越えた後で良い認識だったので、むしろ天空の王フォルティシモを戦力として数えないのであれば、それらへの対策はより一層強固にしなければならない。もちろん天空の王フォルティシモ相手に油断などしておらず、天空から墜とす準備は進めている。
「あんたも知ってるだろ? あのお空の王様が、奴隷を見境なしにバンバン買い漁ってる。仕入れれば売れる状況だ。在庫があるだけ感謝して欲しいね」
「………このような邪魔をしてくるのは予想外ですよ、お客様」
クレシェンドは溜息を吐き、値段交渉を諦めて買い取ろうと考えたところで、情報ウィンドウからメッセージ通知が報される。
「失礼。少々予算と相談して来ますので」
携帯電話や情報ウィンドウの概念がない世界なので、嘘を織り交ぜて時間を作る。クレシェンドは少し離れたところで情報ウィンドウを開き、メッセージの内容を確認した。
「カリオンドル皇国の初代皇帝の墓が暴かれましたか。第二皇女ルナーリスの戴冠を進めていたのですから、驚くことではないでしょう。あの場所は念入りに調べましたから、今更………」
メッセージの内容を読み進める。
そのメッセージによれば、天空の王フォルティシモは<暗黒の光>でさえ手にしていない何かを初代皇帝の墓所で発見し、持ち帰ったのだと言う。
クレシェンドは先代カリオンドル皇帝、ルナーリスが殺した父親を甘言で惑わし、初代皇帝の墓所を捜索した。
その結果として、あの隠し部屋を発見し、そこにあったアイテムを回収し、先代カリオンドル皇帝はチートツールを得た。その際に室内にAIが搭載されていることも知っていたが、あそこのAIは人間性を持っておらず、どんな説得にも応じなかった。
そこでクレシェンドたちは、隠し部屋に繋がる無数の手掛かりをすべて処分したのだ。チートツール以上のものが出て来るはずがないとは考えつつ、念には念を入れて。
「この短期間に、何の手掛かりもなく隠し部屋を見つけ、碌な端末もなくAIを解析するなどできるはずが」
クレシェンドは己の心音が高鳴るのに気が付いた。
一つだけ可能性がある。
AIのほうから何らかの信号を送る可能性がある人物がいて、それは隠し部屋に入るためのパスワードでもあって。
カリオンドル皇国初代皇帝近衛天翔王光の真の孫、近衛翔。
フォルティシモが近衛翔なら、有り得る。
「天空の王フォルティシモが、近衛翔?」
クレシェンドの全身にかつてない歓喜が広がった。
「ああ、まさか。このような幸運があるとは。私でさえ神に感謝を禁じ得ない。この手で近衛翔を殺せる機会を頂けるというのですね」
神戯の勝利は重要だ。しかし同じくらい、重要な目的ができてしまった。
「ふむ。お客様が近衛翔だと知った私は、冷静ではありませんね。自己分析と自己問答による対応が急務です。今すぐ殺しに行きたいのが本音です。ええ、ですが、殺すだけでは足りません。お客様が手に入れたもの、大切にしているもの、そのすべてを蹂躙しなければ」
奴隷を仕入れることなく商談を終わらせたクレシェンドは、すぐに【転移】を使ってある場所へやって来た。
そこは昼間にも関わらず一切の光がない暗黒の世界。
ダークグレーのスーツを着たクレシェンドも、この暗闇に塗りつぶされて輪郭さえ見て取れない。コツコツという革靴の足音が暗闇に響き、やがて止まった。
「お客様にはチームと私の力で対応しようと考えていました。仕込みもあります。これまであらゆるプレイヤーを抹殺したように、お客様を倒すことは可能でしょう」
クレシェンドは暗闇に向かって語り掛ける。
クレシェンドはフォルティシモに勝てる、とクレシェンドは判断しているという話を。希望的観測などではなく、これまでのフォルティシモの戦いを観察した結果として勝率が高いと計算していた。
「これはチームには言っていませんが、実のところ、私はお客様が<暗黒の光>の一員となり、共に戦う未来も有り得ると思っていたのです。あの日、奴隷を求めてやって来たお客様の瞳は、人間を誰も信用していなかった。きっと私たちを理解し、力になってくれるだろうと。だから“この投資に自信がある”などと言ってしまいました」
しかしこの戦いだけは、勝率が高いでは満足できない。
「ああ、話は大氾濫の後にしようと思っておいて良かった。何せ私は近衛翔を殺すことが、もう一つの目的なのです。神戯を勝利した後は、元の世界へ戻り、必ずあなたを殺そうと考えていました」
だから。
「今よりお客様は、<暗黒の光>の仲間として勧誘しようとする相手ではなくなりました。我々の大地を汚す悪魔であり、私の怨敵となったのです」
クレシェンドは笑みを浮かべる。
「本当に現実はままならないものですね。幸運というものが、私のような者にも巡ってくるとは、いくら予測しても予測できない。そして私は、やって来た幸運を掴み取らないほど愚か者ではありません」
暗闇に光が差した。
この国では、国民は産まれた時に【隷従】を掛けられ、国王の奴隷となる。国民は権利どころか意思さえもすべて剥奪され、究極の独裁国家が続いていく。そんな中でこの国はエルフ、亜人族、他国の貴族まで攫ってきて奴隷として売買、使役する。奴隷売買を生業にする者にとって、最も商品を購入しやすい卸売り市場のようなものだ。
クレシェンドはその日も国王の奴隷と奴隷売買の交渉をしていた。
「ふむ。大分高騰していますね。この容姿にレベル、何のスキルも持たないのに、この価格ですか」
クレシェンドはチームメンバーのプレストには、あの空に浮かぶ天空の王フォルティシモを神戯から脱落させると宣言したけれど、<暗黒の光>の目的も、クレシェンドの目的も、天空の王フォルティシモに勝つことがゴールではない。
むしろ重要なのは邪魔者になる天空の王フォルティシモを脱落させた後であり、いくら戦うと決めたとは言え、天空の王フォルティシモだけにかまけている訳にはいかない。
当初のクレシェンドの予定では天空の王フォルティシモは大氾濫や“到達者”を越えた後で良い認識だったので、むしろ天空の王フォルティシモを戦力として数えないのであれば、それらへの対策はより一層強固にしなければならない。もちろん天空の王フォルティシモ相手に油断などしておらず、天空から墜とす準備は進めている。
「あんたも知ってるだろ? あのお空の王様が、奴隷を見境なしにバンバン買い漁ってる。仕入れれば売れる状況だ。在庫があるだけ感謝して欲しいね」
「………このような邪魔をしてくるのは予想外ですよ、お客様」
クレシェンドは溜息を吐き、値段交渉を諦めて買い取ろうと考えたところで、情報ウィンドウからメッセージ通知が報される。
「失礼。少々予算と相談して来ますので」
携帯電話や情報ウィンドウの概念がない世界なので、嘘を織り交ぜて時間を作る。クレシェンドは少し離れたところで情報ウィンドウを開き、メッセージの内容を確認した。
「カリオンドル皇国の初代皇帝の墓が暴かれましたか。第二皇女ルナーリスの戴冠を進めていたのですから、驚くことではないでしょう。あの場所は念入りに調べましたから、今更………」
メッセージの内容を読み進める。
そのメッセージによれば、天空の王フォルティシモは<暗黒の光>でさえ手にしていない何かを初代皇帝の墓所で発見し、持ち帰ったのだと言う。
クレシェンドは先代カリオンドル皇帝、ルナーリスが殺した父親を甘言で惑わし、初代皇帝の墓所を捜索した。
その結果として、あの隠し部屋を発見し、そこにあったアイテムを回収し、先代カリオンドル皇帝はチートツールを得た。その際に室内にAIが搭載されていることも知っていたが、あそこのAIは人間性を持っておらず、どんな説得にも応じなかった。
そこでクレシェンドたちは、隠し部屋に繋がる無数の手掛かりをすべて処分したのだ。チートツール以上のものが出て来るはずがないとは考えつつ、念には念を入れて。
「この短期間に、何の手掛かりもなく隠し部屋を見つけ、碌な端末もなくAIを解析するなどできるはずが」
クレシェンドは己の心音が高鳴るのに気が付いた。
一つだけ可能性がある。
AIのほうから何らかの信号を送る可能性がある人物がいて、それは隠し部屋に入るためのパスワードでもあって。
カリオンドル皇国初代皇帝近衛天翔王光の真の孫、近衛翔。
フォルティシモが近衛翔なら、有り得る。
「天空の王フォルティシモが、近衛翔?」
クレシェンドの全身にかつてない歓喜が広がった。
「ああ、まさか。このような幸運があるとは。私でさえ神に感謝を禁じ得ない。この手で近衛翔を殺せる機会を頂けるというのですね」
神戯の勝利は重要だ。しかし同じくらい、重要な目的ができてしまった。
「ふむ。お客様が近衛翔だと知った私は、冷静ではありませんね。自己分析と自己問答による対応が急務です。今すぐ殺しに行きたいのが本音です。ええ、ですが、殺すだけでは足りません。お客様が手に入れたもの、大切にしているもの、そのすべてを蹂躙しなければ」
奴隷を仕入れることなく商談を終わらせたクレシェンドは、すぐに【転移】を使ってある場所へやって来た。
そこは昼間にも関わらず一切の光がない暗黒の世界。
ダークグレーのスーツを着たクレシェンドも、この暗闇に塗りつぶされて輪郭さえ見て取れない。コツコツという革靴の足音が暗闇に響き、やがて止まった。
「お客様にはチームと私の力で対応しようと考えていました。仕込みもあります。これまであらゆるプレイヤーを抹殺したように、お客様を倒すことは可能でしょう」
クレシェンドは暗闇に向かって語り掛ける。
クレシェンドはフォルティシモに勝てる、とクレシェンドは判断しているという話を。希望的観測などではなく、これまでのフォルティシモの戦いを観察した結果として勝率が高いと計算していた。
「これはチームには言っていませんが、実のところ、私はお客様が<暗黒の光>の一員となり、共に戦う未来も有り得ると思っていたのです。あの日、奴隷を求めてやって来たお客様の瞳は、人間を誰も信用していなかった。きっと私たちを理解し、力になってくれるだろうと。だから“この投資に自信がある”などと言ってしまいました」
しかしこの戦いだけは、勝率が高いでは満足できない。
「ああ、話は大氾濫の後にしようと思っておいて良かった。何せ私は近衛翔を殺すことが、もう一つの目的なのです。神戯を勝利した後は、元の世界へ戻り、必ずあなたを殺そうと考えていました」
だから。
「今よりお客様は、<暗黒の光>の仲間として勧誘しようとする相手ではなくなりました。我々の大地を汚す悪魔であり、私の怨敵となったのです」
クレシェンドは笑みを浮かべる。
「本当に現実はままならないものですね。幸運というものが、私のような者にも巡ってくるとは、いくら予測しても予測できない。そして私は、やって来た幸運を掴み取らないほど愚か者ではありません」
暗闇に光が差した。
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