廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第六章

第二百八十五話 最低最悪の戦術 後編

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 クレシェンドが無防備にフォルティシモの眼前まで歩み寄り、歩みを止めたクレシェンドは拳を高く振り上げる。

究極スプレモ打撃ペガル

 そしてスキル設定を音声ショートカットで発動した。

 それはフォルティシモが作り出したチーター殺しのスキル設定だった。どんなに防御力の高いタンクに対しても、その防御力を無視してダメージを与える攻撃スキル。

 そのコード設定は誰にも公開していない。公開すればチーターと出会った時に対策されてしまうからだ。クレシェンドがそれを使って来たのは、どこかで学習されてしまったからだろう。

 クレシェンドの拳は、フォルティシモにダメージを与えた。フォルティシモのHPからすれば微々たるもので、咄嗟に反撃をしようと考え、もし反撃すればフィーナが自害のループを始めると思い至る。

 フォルティシモはクレシェンドを殺そうと振り上げた腕を止めた。

「やはり反撃はしないのですね。それでは、このまま攻撃を続けてしまいますよ? 究極スプレモ打撃ペガル!」

 クレシェンドの攻撃に対して、アルティマとリースロッテが出て行こうとするのを止める。

 クレシェンドがフィーナへ命令したのは「私が攻撃されたら自害しろ」で、攻撃者がフォルティシモであることに限定していない。クレシェンドはアルティマの凡百のプレイヤーを上回る圧倒的なステータスも、リースロッテの対人最強の従者と名高き力も使わせない戦術を組んだのだ。

 人質作戦という、およそ楽しむためのゲームでは有り得ない、フォルティシモ史上最低最悪の犯罪行為によって。

「どうしました? 反撃しなければ、いくらお客様のHPが高いとは言え、いつかはゼロになるでしょう? 究極スプレモ打撃ペガル!」

 クレシェンドの拳がフォルティシモの身体にめり込み、鈍い痛みを感じる。

 クレシェンドは何度も何度もフォルティシモへ拳を叩き付ける。フォルティシモも痛みと、それ以上の憤りをクレシェンドに対して感じているが、アルティマとリースロッテは今にもフィーナを無視してクレシェンドに飛び掛かりそうな雰囲気だった。

「ご主人様っ」

 キュウの悲鳴に似た言葉に、フォルティシモは身体を動かして反応する。クレシェンドがキュウを苦しめるのではないかと思ったからだ。

「ご安心くださいお客様。私は充分理解しております。私があの狐に手を出そうとしたならば、お客様は瞬時にあの人間たちを切り捨て私を消し去ろうとするでしょう。ですから、私が嬲るのはお客様だけです。他の者には手を出しません。お客様さえ耐えれば、良いのです」

 それは疑う余地もなく正しい。フォルティシモはキュウだけでなく従者たちの誰かに危険が及ぶようであれば、フィーナを見捨てる覚悟を決めている。

 しかしフォルティシモだけが少々のダメージを受けるのであれば、耐える選択肢を採ってしまう。

 これは自己犠牲という尊いものではない。自己満足なんて自己犠牲とは最も遠いものだ。

 最強のフォルティシモの力で、人質を取った犯人の思惑を覆す。優先順位としては、従者たちの安全と比べられないものの、フォルティシモへのダメージとは天秤が釣り合ってしまう。



 ◇



 キュウは己の行動を悔いていた。

 目の前で主人が殴られている。最強の主人が抵抗すれば確実に敵を倒せるにも関わらず、無抵抗でされるがままになっていた。

 主人ほどの強さがなければ、とっくに死んでいただろう魔力で殴られ続けている。主人の身体が傷付き、血を流すところを見て、キュウの心はそれ以上に傷付いていく。

 この光景を作りだしてしまったのは、他ならないキュウだから。

 キュウがフィーナを助けて欲しいなんて言わなければ、主人がこんな危機に陥ることはなかった。

 キュウのせいだ。キュウの責任だ。キュウの罪だ。

 しかし、ここで後悔して泣くなんて、許されない。

 キュウは覚悟を決めた。

 怨敵クレシェンドが友人フィーナへ下した命令は、「私が攻撃されたら即自害しろ」だ。主人から攻撃を受ける以外でも、怨敵クレシェンドが誰かから攻撃されたら、友人フィーナは【隷従】から解放されるまで自害し続ける。だからアルティマやリースロッテも手が出せない。

 出せるのは、キュウだけだ。

 キュウの覚悟は、フィーナの気持ちを察して、フィーナの代わりにフィーナへ引導を渡すこと。

 フィーナはキュウを釣る餌に使われた。キュウは主人を釣る餌に使われた。

 それを断ち切ることをフィーナも望むはずだ。

 キュウがクレシェンドを攻撃し、フィーナを自害させる。そして主人には、フィーナを【蘇生】させないでくれと頼む。

 それしかこの状況を覆す方法はない。

 キュウは主人に頼んでしまったフィーナの救出を、自ら諦める。それがキュウの責任だ。

 心の中でフィーナへ謝罪し、それ以上の礼を言う。

 キュウが武器を抜き放とうとした時、その手を掴む者がいた。

「セフェさん?」

 こんな状況でもセフェールは落ち着いていた。アルティマやリースロッテの音を聞けば、今にも爆発しそうにも関わらず、セフェールだけは変わらない音を奏でている。

『大丈夫ですよぉ。ここまではぁ、想定内ですからぁ』

 キュウは驚いてセフェールを勢いよく振り返った。そこには穏やかな笑みがある。

 セフェールがそう言っていたので、改めてよく聞き取ってみれば、主人の音に憤怒はあっても焦燥はない。主人はこの状況でさえ想定していた。キュウの主人は凄い。大切な友人との別れの覚悟を、簡単に上回ってくれる。

 主人の背中から声が聞こえる気がする。エルフ王ヴォーダンや黄金竜などと出会った時、キュウが不安になるといつも言ってくれる言葉が。

『安心しろ。俺が奴隷屋ごときに負けると思ったか?』

 ―――いえ、思っておりません。ご主人様、お願いいたします
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