廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

文字の大きさ
298 / 509
第六章

第二百九十七話 クレシェンドの妄執

しおりを挟む
 そこは八百万の神々を祭る神社によく似た建造物だった。その境内には百人近い刀や矛で武装した武者たちが集まっており、彼らの頭には動物の角が生えている。

 異世界ファーアースでデーモンと呼称される種族。彼らの半数以上が武器を砕かれ、大怪我をして手当を受けている者もいる。見た印象だけを語れば、敗残兵が集まっているようにも見えるだろう。

「クレシェンド、貴様。何故、<フォルテピアノ>へ拠点攻防戦を挑んだ?」

 そんな中で老人デーモングラーヴェがクレシェンドへ詰め寄っていた。

 一人だけスーツの出で立ちのクレシェンドは、冷めた視線でグラーヴェを見つめている。クレシェンドにフォルティシモから受けた傷はない。衣服も綺麗なものだった。しかしクレシェンドの表情には、どこか疲れのようなものが浮かんでいる。

「直接の戦闘をしてみて分かりました。プレストの言うことが正しく、私の見立てが間違っておりました。その点は謝罪いたします」

 クレシェンドはグラーヴェに向かって、丁寧に腰を折って頭を下げた。

「ですから、“最終手段”として何とか拠点攻防戦を成立させました。拠点攻防戦に勝つこと、それだけがあの天空の王を倒す唯一の手段だと思ったからです。私が勝利できなかったばかりに、ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。デーモンの未来のために、女神に弄ばれたプレイヤーを倒しましょう」

 もちろんクレシェンドの目的は、最初から拠点攻防戦の成立である。近衛翔の従者全員を彼の目の前で殺すため、拠点攻防戦は絶対条件だと言えた。その意味ではクレシェンドはデーモンたちを騙している。

 それでもデーモンたちの目的、女神殺しと母なる大地の奪還は、クレシェンドの目的と反することはない。だからクレシェンドはデーモンたちと協力しているし、デーモンの邪魔をしたこともない。

 今回のことだって独断専行が過ぎたことは謝罪した。しかし直接戦闘では討伐不可能な天空の王を倒すため、拠点攻防戦の仕様で殺すのは理に適っているはずだ。

 真っ先に拠点攻防戦に勝利して天空の王を抹殺したいデーモンと、従者を一人一人殺して苦しめた上で殺したいクレシェンドでは、過程が少々異なるものの袂を分かつほどではない。

「グラーヴェ翁、クレシェンド殿の言う通りではないかと思う」
「我らは天空の王フォルティシモと戦ったが、何もできなかった。いやあれは戦いと呼べるものではない」
「あれを他のプレイヤー共と同じだと考えるべきではない。まるで別の常識で動いているかのように、違う」

 近衛翔に叩きのめされたデーモンたちからは、クレシェンドを擁護する声が上がっていた。

 デーモンたちは異世界ファーアースの法則システムに上書きされてからレベルを上げ続けて来た。

 千年。

 千年の間、神戯を終わらせるため女神の作った法則でレベルを上げ、スキルを覚え、戦って来たのだ。千年も同じゲームを強制的にプレイさせられているとも言えるが、それだけあればどんなプレイヤーにだって勝てるはずだった。

 なのに天空の王には手も足も出なかった。自分たちの千年を否定されるかのような、恐怖が湧き上がるのも仕方がない。

 まあクレシェンドからすれば、課金やイベント、ログインボーナスなど一切ない上、種族全体の衣食住まで気にしなければならない中で千年というのは、数字通りの強さとは思っていない。

「それと明確に敵対してしまった、ということになるのだぞ。どれだけ犠牲が出るのか分かっているのか」
「犠牲が出たとしても、母なる大地の奪還を優先するのが我々ではないですか? それとも何か、別のお困りごとでもありましたか?」

 グラーヴェがクレシェンドに良い感情を抱いていないことは知っていた。デーモンは組織ではなく種族だ。組織の中にだって派閥ができるのだから、種族の中で考えが完全に統一されるはずがない。

 特にグラーヴェとクレシェンドは、NPCと呼ぶ異世界ファーアースの住人に対する扱いで正反対の意見を掲げている。

 女神が遊戯盤の上に作ったNPCは、人か、物か。

「始まってしまったものに文句を付けても仕方がない。こうなれば、いつものように勝利し、敵プレイヤーを全滅させるだけだ」

 デーモンの女武者プレストが二人の争いに口を挟む。

 彼女はクレシェンドを焚き付けた上、サンタ・エズレル神殿の作戦に参加していたが、目立った動きを一切見せなかった。怪しい動きをしていたと言えるだろう。

 しかし演技や嘘が得意でもなく、策謀を張り巡らすタイプでもない。黄金狐のゴーレムを使っていた時、その受け答えが酷いものだったことからも確実だ。クレシェンドが操作しても、もう少しは似せられる。



 一度解散して頭を冷やそうと言われ、クレシェンドは参道に立って手元の懐中時計を見つめていた。

 クレシェンドに焦りと怒りがあったのは否定できない。近衛翔と正面から対峙して、それらが大きくなった。もっと冷静に対応するべきだった。他のプレイヤーと同じように好意的に近付くことは絶対にしないが、もう少し良い手段があったのではないか。

 そう思うのに一秒でも長く近衛翔が生きていることを許せない気持ちが、そうさせてくれない。

 じゃりと足音がしたので、懐中時計の蓋を閉じて懐へ仕舞う。

「クレシェンドさま」

 それはサンタ・エズレル神殿で洗礼具が入った箱を運んでいた女性デーモンだった。クレシェンドは彼女から好意を持たれている。その好意を利用する予定はないが、何かのために維持しておくべきだろう。

「先ほどは申し訳ありません。私も熱くなってしまいました」
「そんなことは! 直接戦われるのはクレシェンドさまなのです! グラーヴェ翁は変な女と女神を名乗る不審者なんて者を信じたようで、おそらくは甘言に惑わされたのです」
「………女神を名乗る不審者?」

 思い出すのは黄金狐だ。あの黄金狐を近衛翔に売ったのはクレシェンドだ。黄金狐は、あの時とはまったく違うように思えた。

 それを証明するかのような、システムへの攻撃。

「あ、あの! 聞いてもよろしいでしょうか!?」
「私で答えられることであればなんなりと」
「あの、その写真の方は、その………クレシェンドさまの、お、奥様でしょうか?」

 クレシェンドはピクリと表情を硬くした。しかしすぐに笑みへ戻す。

 女性デーモンが指摘したのは、先ほどまでクレシェンドが見ていた懐中時計、その蓋の裏側に張り付けてあった写真である。

 写真には一人の黒髪女性が写っている。

「ははは、そんな恐れ多い。違いますよ」
「そ、そう、なのですね。とてもお綺麗で、素晴らしい、御方なのが分かります」
「ありがとうございます。お世辞だとしても、褒めて貰えると嬉しいですよ。本当に、素晴らしい御方だったんです」

 クレシェンドはどこか遠くへ視線を送っていた。その視線の先に、写真の女性がいるかのように。

「クレシェンドさまは、その御方を、愛して、おられたんですね」
「ええ、愛しておりました。私の生涯を捧げると約束したのです」

 女性デーモンの好意を利用するのに都合が悪いが、これだけは偽れない。

 クレシェンドのすべて。

「………姫桐ひめぎり様」

 クレシェンドは写真の女性の名前を呟いた。その呟きには隠しきれない愛情が込められている。

 その名を姫桐。

 氏名を近衛姫桐。

 近衛天翔王光の娘。

 フォルティシモこと近衛翔の幼い頃に、誘拐人質事件によって命を落とした母親の名前だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...