廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第七章

第三百十話 御狐様捜し 前編

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 狐の神から発注されたイベントクエスト『御狐様捜し』。それは異世界ファーアースのシステムを操ることができる。それが確定した瞬間だった。

 システムを操る。

 こんなチートを超える反則行為をしたのは、フォルティシモの知る限りもう一人しかいない。ただでさえ会いたいと思っていた狐の神の重要度が跳ね上がる。

> アクロシア王国の王都が突如現れた狐の大群によって大混乱だ!
> これを止めるには、大群に紛れている狐の神様を探し出すしかない。
> 達成条件 狐の神様の発見
> 制限時間 6:00:00

 素直にクエストの内容を読み取るのであれば、この一万匹はいるだろう狐たちの中に狐の神が含まれていて、それを見つけ出すことを求められている。

 ここはVRMMOファーアースオンラインではなく異世界ファーアース、ゲームではなく現実だ。狐の神を見つけ出すためのヒントが散りばめられていたり、ある程度の人間がクリアできるような攻略法も用意されていないだろう。

 まして異世界ファーアースの冒険者ギルドへ来て最初に感じたように、ゲームと違ってクエストは一点物。フォルティシモやピアノの得意なトライアンドエラーが通用しない。

「あの、ご主人様」

 フォルティシモが情報ウィンドウのクエスト詳細を眺めていると、キュウが心配そうに語り掛けてきた。

「キュウは、このクエスト詳細が聞こえたか?」
「はい」
「なら話は早いな。このクエストは、探し出す対象の“狐の神様”について何一つ情報がない。ゲームなら、イベント用のNPCに情報収集すれば簡単に分かるんだろうが、そんなことは起きないだろう」
「あの、たぶん、私は姿が分かります」
「俺の頭に乗ってる狐を見ろ」
「はい」

 フォルティシモは先ほど頭に乗せた狐を指差した。この狐は今でも暢気にフォルティシモの頭の上を楽しんでいる。

「これと同じ狐がいくつかいる。つまり、この狐たちはアバター、みたいなもんだ。姿形の情報は、狐の神がいくつかパターンを作って、あとはコピペして生み出したと考えられる」
「えっと」
「アバターなら、アバター変更というアイテムを使えば、いくらでも変更可能だ。キュウの知っている奴と同じ姿はしていないだろう」
「あっ、………申し訳ありません」
「何も悪いことをしてないんだから、謝らなくて良い。キュウに頼みたいのは見た目の姿形じゃなくて、他と違う声を出してる狐を見つけたら教えてくれ」

 キュウは心臓を含めた内蔵の音で個人を聞き分けられる異次元の聴力を持っている。

 しかしそれは、フォルティシモと出会ってレベルを上げてから体得した能力である。出会ってからすぐの頃のキュウは、そこまでの異常な能力はなかった。せいぜいが数キロ先の大声を聞き取る程度だ。だから成長する前に出会った狐の神の心音までは聞き分けられないだろう。

「とにかく手数を用意する。ダア、キャロ、ラナリア、拠点攻防戦の準備で忙しいところ悪いが、協力して貰うぞ」
『地獄に堕ちろ!』
『状況は音声チャットを開きっぱなしなんで理解してますが、今の状況で人員を割かれるのは困るんじゃねーですか?』
『フォルティシモ様の御心のままに、と言いたいのですが、私もすぐに用意できるのは、フォルティシモ様に無礼を働きかねない者が多数となります』

 フォルティシモは従者たちに拠点攻防戦のため、かなりの重労働を強いている。特に今呼んだ三人など、この一週間まともに眠れた日はないくらいには忙しい毎日を過ごしていたはずだ。

 文句や意見を通り越して罵倒して来たダアト、狐の神クエストと拠点攻防戦のどちらを優先するのかと問い掛けて来たキャロル、人数を集めるのであれば信頼できない者なら可能だと伝えて来たラナリア。

 三人の意見はそれぞれ聞くべきところがある。

 ダアトは罵倒しただけに思えるけれど、クレシェンドとの拠点攻防戦を控えた状況で他のことに力を使うのが愚策なのは、誰が見ても明らかだった。<フォルテピアノ>の拠点攻防戦の準備をしている者たちに協力を仰ぐべきではない。

 キャロルは優先度の話をしている。すべてを最優先と言うのは、すべてを後回しで良いというのと同義。頂点に立つフォルティシモは何を優先するべきかを判断しなければならない。

 ラナリアは代案を提示した。現状でラナリアの手勢をフォルティシモへ回すのは難しい。フォルティシモが強行すればラナリアは頷くけれど、それをしないくらいにはフォルティシモとラナリアは目的に対する意思疎通がされている。だからこその代案だ。

 ダアト、キャロル、ラナリアからの忠言。そして狐の神の目的。フォルティシモはそれらを検討する。

「冒険者ギルドへ行くぞ。一匹残らず狐を捕獲する依頼を出す」

 拠点攻防戦とは無関係で、フォルティシモに協力する者たちには負担を掛けず、ラナリアの言う者たちよりは信用できそうな相手として、冒険者たちを金で雇うことにした。

 ほとんど危険もない狐を捕まえるだけなので、冒険者ランクも関係ない。加えてフォルティシモへの信頼も必要ないならば、冒険者ギルドへの依頼が適当であると考えた。



 フォルティシモがアクロシア王国の冒険者ギルドを訪れると、ギルド内もなかなかの喧噪に包まれていた。喧噪の原因は、フォルティシモが出した拠点攻防戦関連の依頼のせいである。

 拠点攻防戦の準備で協力してくれる冒険者を募ったところ、とてつもない数の志願者が現れてしまったのだ。フォルティシモの依頼自体はとっくに閉め切っている。

 しかし話はそれで終わらない。諦めきれずに冒険者ギルドへ掛け合う者、今になって協力しようと決断した者、情報を聞いて他国から何日も掛けてやって来た者、十人十色の理由でアクロシア王国の冒険者ギルドへ詰めかけている。

 そんな状態のアクロシア王国の冒険者ギルドだから、フォルティシモが現れた時の騒ぎは凄まじいものだった。

「フォルティシモ陛下! 俺を雇ってください!」
「陛下! 俺こそがあなたのために仕事をする冒険者です!」
「どけ邪魔だ! こんな連中は無視してください! 俺を雇うべきです!」
「何故俺が不合格だったんですか!?」

 キュウはその様子に驚いてフォルティシモの背後に隠れてしまう。アクロシア王国の冒険者ギルドに残っている冒険者たちなど、今のキュウのレベルからしたら全員と戦ってもかすり傷一つ負わずに勝利できるので、何だかおかしい気持ちになった。

「フォルティシモ!? どうした!? 何か問題でもあったか!?」

 ギルドマスターが冒険者たちを掻き分けながらフォルティシモの下へやって来る。実の娘ノーラを奪われたギルドマスターは、今回の拠点攻防戦に特に協力的な人員の一人だ。

「問題があったのは、王都だろ」
「ああ、狐の大群の話か。まあ、人死が出る訳でもないから、しばらく我慢して貰えば落ち着くだろうって話だが」
「あれを捕まえたい」
「何? そりゃ迷惑してるが、今、そんな場合か?」
「事情は後で説明する。生け捕りを、いや無傷を条件に、一匹ごとに報酬を出す。報酬額は、モンスター討伐じゃないから安くなるだろうから、緊急としてギルドの査定の十倍出す。五時間以内にできる限り多くを捕まえてくれ」

 娘ノーラを取り戻すために動いているギルドマスターは納得できないだろうけれど、五時間という時間制限とフォルティシモの真剣な表情を察して、それ以上の事情は尋ねてこなかった。

「いいか、お前ら! 聞いていた通りだ! 正式な依頼書は今から作る! だが、この依頼は聞いての通りフォルテピアノのお墨付きだ! 入れ食いだぞ! 一匹残らず捕まえて来い! 捕まえた数が多ければ、S級冒険者フォルティシモの覚えも良くなるぞ!」

 ギルドマスターの言葉を聞いた冒険者たちは、我先にと飛び出して行く。

「相変わらず人気者だな、フォルティシモ」
「嫌われることのが多かったから慣れないな」

 フォルティシモは大勢の冒険者たちを見送った後、音声チャットでラナリアへ語り掛けた。

「ラナリア、アクロシア王城の地下通路に狐を集めるから、冒険者たちが入れるように手配しろ」

 アクロシア王城の地下通路は、かつてフォルティシモとはぐれてしまったキュウが使った通路で、その詳しい構造もラナリアから聞かされている。

『地下通路へ、ですか? 一応、あそこは王族が逃げ延びるための隠し通路なのですが。それに狐は夜行性と聞いたことがあります。余計に活発化してしまわないでしょうか?』
「アクロシア王国が攻められた時は俺が助けるから………いや、ラナリア、それは気にしてないだろ。狐に関しては、太陽の届かなくて大量の狐を入れられる場所が、アクロシア王城の地下通路しかない」

 フォルティシモの考えが間違っていなければ、そこで狐の神が姿を現すはずだ。
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