廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

文字の大きさ
314 / 509
第七章

第三百十三話 邂逅、狐の神 後編

しおりを挟む
 フォルティシモは狐人族の里へ訪問しようとした時から、ずっと考えていた。

 キュウを奴隷として“売って”苦しめた連中に、文句の一つくらい言ってやろうと。

 キュウを奴隷として“買った”フォルティシモがというのを棚上げして。

 そう思って向かってみれば、狐人族の里はとっくに誰も住んでいない廃村ならぬ廃里になっていた。

 あの時、キュウの気持ちを考えたら苦しかった。キュウにとって自分が売られたことで家族が助かったことは、奴隷となり尊厳を失った彼女に残った最後の矜恃だったはず。

 だから狐人族の里長タマが、本当に狐の神で、キュウを売ったのが仲間たちを助けるためではなく、何かに利用するためだと言うのであれば。

 フォルティシモは里長タマを絶対に許さない。

 フォルティシモは自分に冷静になるように言い、苦手だと自覚している話し合いをする。苦手なことは他人に任せるのが心情だけれど、これはフォルティシモが問いかけなければならない。

「もう一度だけ、聞くぞ。お前こそ本当に理解しているのか? キュウは、キュウ以外の誰でもない」

 抽象的な問いかけだった。ただ、抽象的であるがゆえに多くの意味が含まれている問いかけでもあった。そしてその中心にはキュウへの想いがある。

 そうして里長タマからの返答は。

「どうやらわての負けだな。今の言葉は全面的に撤回しよう」
「勝ち負けの問題じゃない。俺が聞きたいのは」

 フォルティシモが言い終わらない内に、里長タマが扇子でフォルティシモを扇いだ。太陽の届かない地下の冷たい空気がフォルティシモへ流れてくる。

「わての言葉に嘘偽りなどない。お前は、わて以上にキュウを想っている。だからわての負けだ」
「そんな言葉で、俺が納得するとでも思ったか?」
「ならば、わてのがキュウを想っているから、お前は引き下がって、わてへ返せと言えば良いのかえ?」
「ふざけんな、PKするぞ」
「かかか!」

 フォルティシモは自分で言っていて支離滅裂だと思ったので、咳払いをして誤魔化した。

「さて、ここであれば“太陽”にも漏れまい」

> チャットが切断されました

 神戯の管理者としての力か、女神マリアステラが現れた時と同じ通信途絶か、繋ぎっぱなしだったフォルティシモの従者たちへの音声チャットが勝手に切断された。

 フォルティシモ、キュウ、ラナリア、里長タマ、四人だけが知る密談が始まる。



「ではお前の聞きたいことに答えよう。飢饉はあった。そのままでは、多くの餓死者が出るほどに大きな飢饉が。その中で、わては里の者たちを救うため、狐人族の中でも才能豊かな者を奴隷として売る決意をした」

 そこまでの話は細部が違うものの、キュウから聞いた過去と同じと言って良いだろう。問題なのは里長タマが狐の神で、神戯の管理者だと言うこと。曲がりなりにも神戯の管理者が、飢饉の一つも救えなかったということになる。

「キュウはその中の一人だ。高い価値で売れた。そして、それによって里は、一人の餓死者も出さずに飢饉を乗り越えられた」

 キュウの耳と尻尾が、見るからに安堵をみせた。キュウはもう家族に会いたくないと言ったけれど、その耳と尻尾だけで口から出た言葉以上の本音を見た気がする。

 里長タマが神戯の管理者なのが問題だと思ったのだけれど、キュウの様子を見たら問いかける気が失せた。

「そう、か。なら、あれだ。今後も文句は言うかも知れないが、俺からは、何もない」

 フォルティシモにとって重要なのは、キュウの気持ちだ。キュウの矜恃が守られたのであれば、フォルティシモからは口で文句を言うだけである。

「文句くらいであれば、いくらでも受け止めよう」
「その言葉を忘れるなよ。とにかく、お前がキュウを意図的に苦しめたんじゃないなら、もうお前の用件は後回しだ。あとでしっかり聞いてやるから、お前は待ってろ。クレシェンドとの拠点攻防戦は、俺が絶対に勝つから心配する必要はない」

 里長タマがキュウを心配して来たのであれば、杞憂だと伝えたつもりだ。<フォルテピアノ>の拠点攻防戦敗北によってキュウが死ぬことはない。フォルティシモが絶対に勝つからだ。

 フォルティシモは里長タマがキュウを心配してやって来たことに安堵していた。里長タマが狐の神で神戯の管理者である点は、後々問い詰めれば良い。

 しかし里長タマは、ここからが本題だと言わんばかりに扇子をくるりと回した。同時に耳と尻尾が鮮やかに動き、フォルティシモを黙らせる効果がある。

「わてはクレシェンドに、<フォルテピアノ>との拠点攻防戦への協力を要請された」
「何? 管理者に協力を仰ぐなんて有りなのか?」
「ルール違反にはならん」
「ゲームを題材にした創作物の中には、都合良く管理者に勝つのもあるが、技術者の立場から言わせて貰えば管理者に勝つなんて荒唐無稽この上ないぞ。極端な話、お前が勝たせたい奴以外、アカウント停止すれば終わりだ」
「その点は安心して良い。神戯はお前たちの考えるコンピュータゲームとは違う。スポーツの世界大会やオリンピックに近い。管理者と言えど、そこまで逸脱した介入は不可能だ」

 フォルティシモは里長タマの例えに眉をひそめる。神戯を世界大会やオリンピックに例えたのは、近衛天翔王光だけ。

 里長タマは相変わらず余裕の表情で扇子を使っている。

「まさかとは思うが、<暗黒の光>、クレシェンドとの拠点攻防戦で、狐人族を殺すなって言うつもりか? そっち、お前の配下の狐人族は全力でこっちを殺しに掛かるが、こっちは全員を殺さずに終わらせろと」
「話が早い」

 フォルティシモは腕を組んで、呆れて里長タマを見た。

「なら最初から参加するな。クレシェンドの要請を拒め」
「わてが太陽の届かぬ地下へ導いたとまで当てたのに、その理由までは察せないのかえ?」
「お前も太陽の神には逆らえず、クレシェンドに協力するしかないってことか?」

 里長タマの微笑みが答えだろう。

 元々、フォルティシモはデーモンたちの被害を最小限にして拠点攻防戦を終わらせると宣言している。それに狐人族が加わったところで、作戦に大きな変更はないと思われた。むしろ事前に狐人族たちの参戦が分かっている分だけ、対応も取りやすい。

 何よりキュウの故郷の狐人族たちが襲って来たからと言って、キュウの目の前で狐人族を虐殺するなんて、フォルティシモにできるはずがない。

 それでもただで相手の要求を呑むのは、フォルティシモの嫌いな行為だ。

「俺のメリットは?」
「クレシェンド、デーモン、<暗黒の光>、本来であれば、どんなプレイヤーでも勝てるはずのない戦力。しかし、お前がそれを、わてからの縛りを受けた上で、それでも上回るのであれば」
「最強のフォルティシモは勝つ」
「………約束しよう。わてたちの誰も殺さず、この拠点攻防戦を終えられたのであれば、お前を近衛天翔王光やクレシェンド以上の存在と認め、わての知る限りのことを伝えると」

 里長タマ、狐の神タマは、フォルティシモが求める最高の対価を約束した。

 異世界ファーアースに来てから、ずっと調べ続けて来た異世界ファーアースの仕様。

 それを、管理者自ら説明してくれる。

 フォルティシモは逸る気持ちを抑えられなくなって、思わず感情に任せた質問を口にした。

「良いだろう。狐人族は一人も殺さないよう厳命する。ただ、その前に一つ聞きたい」
「何かえ?」
「残りの二十五点は何だ?」
「………かかか、それも勝ったら教えてやろう」

 フォルティシモは笑ってみせた。

 最初の神戯参加者クレシェンド、原住民デーモンたち、神戯の管理者タマ、その配下の狐人族、それらがフォルティシモの敵として立ちはだかる。

 デーモン、狐人族が死なないことを前提条件にして。

 三日以内に終わらせると、従者へ約束した。

 すべてを達成するのが最強のフォルティシモだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...