廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第七章

第三百四十二話 クレシェンドの真実

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 クレシェンドはアクロシア大陸全土を見下ろせる上空で、近衛翔のアバターフォルティシモの姿を見た。しかしフォルティシモは狐の神タマによって封じ込められているはずで、仮に狐の神タマの策略が失敗しても、クレシェンドが作り上げた『檻』に囚われるはずだ。

「何故ここにいるのです?」

 クレシェンドは、尋ねずにはいられなかった。ここまでフォルティシモの勢力が見せて来た力は、単なる神戯参加者では決して有り得ないものが含まれている。だからその力の源泉がどこから来ているのか、純粋に気になったのもある。

 しかしそれ以上に、フォルティシモへ対して底知れない何かを―――一言で言い表せば、恐怖を覚えていた。

 フォルティシモの姿は、初めて奴隷屋で出会った頃から変わっていない。あれから長い時間は経っていないし、神戯参加者はアバターであるため歳を取らない種族が多いので、外見が変わることは少ない。

 それなのに商売の取引相手として話した時、強力な神戯参加者として相対した時、憎悪する近衛翔として殺し合った時、そのどれよりも大きく見える。

 フォルティシモはクレシェンドの質問を無視して、地上と『浮遊大陸』を見回して目を細めた。

「俺のミスだな。正直、お前を甘く見てた。お前程度、本気になれば、すぐに倒せると考えてた。サンタ・エズレル神殿で、俺に無抵抗で五人殺されたのも、俺を油断させるための作戦だったなら、大したものだ」

 サンタ・エズレル神殿では課金アイテムによってカンストを超えたフォルティシモの速度に対して、本当に抵抗できなかったのだが、それを伝えるつもりはない。

「俺も、必死さが足りなかった。必死に、俺のものを守ろうって気持ちが」
「守る? おかしなことを言いますね。見捨てれば良い。あなたほど冷徹な人間は、そうはいないでしょう」

 今はこんな話をしている場合ではないのだけれど、フォルティシモの物言いは酷くクレシェンドの癇にさわるもので、どうしても無視はできなかった。

「ファーアースオンラインの頃の話なら、否定はしない。俺は、他のプレイヤーも人間扱いせずにプレイしていたのは認める」

 フォルティシモは、だが、と続ける。その言葉一つ一つが、クレシェンドの憎悪を掻き立てるとは知らずに。

「今更だし、何もかもとは言わないが、俺もこの異世界の奴らに、思うところがある。できれば幸せになって欲しいし、楽しいことがある世界であって欲しい。従者たちが生きて、NPCと呼ばれる奴らも人間で、何よりもキュウがいて、あれだ」

 クレシェンドはその先を聞くに堪えない。

「俺はこの異世界を守りたいと思う。まあ、自分の好きな範囲だけ見てるって自覚はあるから、俺の見てる世界を守りたい、となるんだろうが」
「は、ははは、愛を知って改心しますか。物語のようですね。残念ですが、現実では、それで罪は消えません」

 フォルティシモの決意は、あまりにもズレていて、遅い。

「管理権限実行、対象フォルティシモ、レベルゼロ、ステータス一へ固定!」

 フォルティシモがどれだけ課金してこようが、プレイ時間を重ねようが、VRMMOファーアースオンラインの開発チームの一人であり、管理者権限を持つクレシェンドがすべてを捨てる気になれば、敵ではない。



 はずだった。

> permission denied (アクセスが拒否されました)



「………は?」

 クレシェンドの力は、フォルティシモに防がれた。

「ピアノの忠告を聞かなかったお前に、答え合わせといくか、爆裂エクスプロシオン

 クレシェンドを爆風が襲う。凡百のプレイヤーであれば一撃でHPがゼロになる威力だが、クレシェンドを倒すほどの威力はない。

「知れば知るほどおかしいと思ってた。俺はVRMMOファーアースオンラインのアバターフォルティシモで異世界ファーアースへやって来て神戯に参加しているが、その認識ではまったく足りない要素が色々とあった。つまり神戯にはVRMMOファーアースオンライン以外の要素も持ち込める。考えて見れば、それは最果ての黄金竜と出会った時点で確定していたんだ。爆裂エクスプロシオン

 再び爆発した。クレシェンドは抵抗しようとも思うが、管理者権限が拒否されるという異常事態に対して、どんな対応をしたら良いか検討がつかない。

「神戯には、ファーアースオンラインのシステム以外の要素を持ち込んでる奴らがいた。竜神、爺さん、デーモンたち、チーター、マリアステラ。その中で最も危険なのは何か。簡単だ。ファーアースオンラインの開発者の参加。つまり、お前だ、クレシェンド。爆裂エクスプロシオン

 認めなければならない。フォルティシモは、クレシェンド以上の未知の力を以て神戯に参加している。

「お前はファーアースオンラインが元になった、異世界ファーアースという神戯に開発者として干渉できる。他はプレイヤーなのに、お前は開発者としての神戯参加者だ。なるほど、どうして千年もの間、勝利を目指さなかったのか不思議なほど、無敵の神戯参加者だったんだろうな。俺が現れるまでは。爆裂エクスプロシオン

 好き勝手に言ってくれる。ルールを逸脱する行為は神々が許しはしない。こうして使っているのは、クレシェンドも覚悟を決めたからで、クレシェンドに残された時間は少ないのだ。

「お前自身とプレイヤーをコピーするのは、【アカウント】と【従者】システムの応用だ。お前は、自分のアカウントをいくつも作り、一つは自分で操作し、他は【従者】システムのAIで動かしていた。エンやセフェに俺の真似を頼めば、よほど俺をよく知る相手以外は騙せる。権能まで実現しているのはお前の学習権能のせいだ」

 クレシェンドは爆撃が止んだため、フォルティシモから距離を取ろうと試みた。

「ちなみに、俺の知るファーアースオンラインと、テディベアの知るファーアースオンラインに違いがあることは、テディベアを復活させた日に聞き出してある。お前が当時御神木だったテディベアを今更になって殺したのは、最もアップデートされた最新のファーアースオンラインの情報を漏らせないようにするためだ。瞬間モメント移動ムダールセ

 フォルティシモがクレシェンドの目の前に瞬間移動し、黒い剣で斬り付けてくる。

「だが、誤算だったな。俺は、そもそも最新のファーアースオンラインから来た、最強のプレイヤーだ」

 クレシェンドは急いでインベントリから太刀を取り出したけれど、クレシェンドの太刀は呆気なく砕かれてしまった。マウロとの戦いで知っていたはずなのに、打ち合ってしまった。本気になった第二の廃神器魔王剣とは、権能を使わなければ打ち合うことさえ不可能。

「何故、管理者権限が、ロックされている? まさか近衛天翔王光が、あなたを後継者と選んだのですか?」
「あの爺さんが俺にまともなものを残す訳がないだろ。俺には一切の遺産を渡すなって遺書を目の前で見せられた上、自分よりも先に死ねって言われたぞ」

 己の祖父に死ねとまで言われた近衛翔―――フォルティシモ―――魔王は嗤う。

「いつだったかファーアースオンラインのアップデートが遅くなって内容もスカスカになって来た。開発に困ってるんだと思った」

 そして、だからと続けた。

「ファーアースオンライン開発チームから、外注の仕事を格安で受注した。俺もファーアースオンラインの開発チームへ、お前が居なくなった後に入ったんだ。だから俺も管理者権限を持ってる。途中で抜けたお前よりも、上位の管理者権限をな。ああ、最強プレイヤーが開発者チームの一員なんて反則だ、なんて言うなよ。開発チームから支払われた報酬は、即日すべて課金に回したから、セーフだ」

 クレシェンドは最強厨のイカれ具合に、初めて戦慄を覚えた。こいつは間違いなく、近衛天翔王光の孫だ。



「あの日、己の母親を、姫桐様を見殺しにしておいて、やることはゲームと、祖父との争い? 私の学習データにも、あなたほど身勝手で醜悪な人間はいません!」



 それは決定的な一言だった。近衛姫桐が死亡した現場を知っているのは、近衛翔とそのサポートAIエンシェント、近衛姫桐の元にいたナンバーツー、そしてクレシェンドだけ。それはクレシェンドがあの時、近衛翔の傍に居たことを告白する一言だった。

 フォルティシモが目を見開いて驚きの表情を作る。

「クレシェンド、お前、まさか、そういうこと、なのか?」

 フォルティシモとクレシェンド、二人は会話しながらも一切の油断をしていなかった。お互いが隙さえあれば、お互いを抹殺したいと考えている。それでも二人は、確認せずにはいられない。



「クレシェンド、お前がAIだってのは予想通りだ。だが、これは予想してなかった。お前は俺の母親、近衛姫桐のサポートAIだ。近衛姫桐のために近衛天翔王光が作り出した、当時の世界最高の量子コンピュータに搭載されたAI、それがお前か」



「ええ、その通りですよ。近衛翔」



 近衛天翔王光という天才が、溺愛する娘のために生み出した究極のAI。

 それがクレシェンドのリアルワールドでの姿である。

 神戯の参加条件は、神に至る才能を持つこと。それは人間に限定されておらず、どんな種族でも参加できる。最果ての黄金竜や白き竜神ディアナのように、まったく別世界で別種族のような者たちも姿を見せている。

 ならばAIが神に至ると認められない理由はない。むしろ多くの人間やその他の種族よりもAIが優れていると言える点がある。だからこそクレシェンドは神々に認められた。

 クレシェンドの権能を使った太刀がフォルティシモを斬殺するべく向かう。フォルティシモは黒剣をクレシェンドの太刀に当てて見せた。

「この程度では、やれませんか。まったく、予定をここまで狂わせてくれるとは、初めて、別の意味の憎しみを覚えましたよ」
「嫌悪されるのは慣れている。お前には言いたいことがあったんだが、話し合う段階は過ぎたな」
「それは同意いたしましょう」

 クレシェンドは近衛翔の言い訳を聞くつもりはない。クレシェンドは近衛姫桐を物心付く前から、ずっと見守り、慈しみ、愛して来たのだ。

 それがサポートAIとして生み出された時から作られた使命だとしても、近衛姫桐を愛する気持ちはクレシェンドという存在が産み出された時から不変の事実である。

 たとえ近衛姫桐の息子が相手だとしても、クレシェンドは近衛姫桐のサポートAIであり、近衛姫桐がクレシェンドのすべて。

 それはAIだからこそ、どれだけ時間が経ったとしても色褪せることがない。
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