廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第九章

第四百十八話 最強暗躍 前編

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 異世界ファーアースがオウコーによってアップデートされる数ヶ月ほど前、ちょうどフォルティシモがルナーリスやアーサーと出会った頃、アクロシア王国でキュウの誘拐事件が起きた。

 実を言えば『キュウの誘拐事件』というと語弊がある。事件発生直後、フォルティシモはすぐにキュウへ連絡を取り、キュウの無事を確認した。

 誰も誘拐されていない誘拐事件。それが発生してしまった原因は、デーモンの女武者プレストがキュウのアバター情報を持ったゴーレムを使っていたせいだ。

 フォルティシモはアルティマに大怪我をさせたプレストを許すつもりはない。一回PKされそうになったら十回PKしてやるのが流儀なので、プレストにはアルティマが受けた十倍以上の痛みを与えることは決定事項だった。

 冒険者ギルドへデーモンの女武者プレストの捜索依頼を破格の料金で依頼し、アクロシア王国も一時は彼女を躍起になって探し回っていた。

 だがある出来事以降、フォルティシモはデーモンの女武者プレストを探すのを止めているし、今やアルティマ本人さえも探していない。デーモンたちを救おうと言った時にも、プレストの件は問題にしなかった。

 その出来事とは―――。



 その日、フォルティシモはクレシェンドとの交渉にも使ったアクロシア王国の高級レストランを貸し切りにして、デーモンの女武者プレストが現れるのを待った。

 傍らに伴っているのは、完全武装のアルティマとリースロッテ。HPを半分以上減らされたアルティマは当然だけれど、リースロッテも本気の表情をしている。もし交渉がフォルティシモの意に沿わないものだったら、デーモンの女武者プレストの命運は一瞬にして尽きるだろう。

 時計が約束の時間を指し示すと同時に、フォルティシモ、アルティマ、リースロッテが待つ部屋に人影が現れた。

 VRMMOファーアースオンラインの種族デーモンの特徴である動物の角を持ち、白を基調とした和服に身を包んだ女武者プレスト。髪型はしっかりと整えられていて、一目で現代リアルワールドの美容師の技術だと分かる。大きなコサージュはつうの管理する【拠点】の庭園にある花で見たことがあった。

 見る限りでは一切の武装をしていないけれど、プレイヤーはボタン一つで装備を切り替えることができるので油断はできない。

「遅いぞ」
それがしの情報ウィンドウの時計では、間に合ったはずだが?」
「俺は待ち合わせの五分前に相手が現れなければ苛立つ主義だって言っただろ」
「某は聞いていないが、次からは気を付けるとしよう。座っても?」

 プレストが着席の許可を求めて来たので許可をする。アルティマとリースロッテが立っているのは、いつでも戦闘に入れるようにするためだ。

「それで、何の用だ? アルへの謝罪なら、アルが許しても俺は絶対に許さん」
「怒りの置き所は、あくまでも他者か。オウコーとは、本当に違うのだな」
「オウコー、か」
「近衛天翔王光の操るプレイヤーオウコー、お前の祖父であり、神戯ファーアースの主催者が一人。そして、偉大なる神々の仲間だ」

 その時のプレストは、彼女がフォルティシモ以上に神戯ファーアースに深く関わっているのだと宣言した。

 彼女の語る「偉大なる」なんて形容と「神々」なんて複数形は、神戯ファーアースの最大の真実をフォルティシモへ教えてくれている。

「お前は、爺さんの企みをすべて俺に教えてくれるつもりか?」
「いいや。某は、オウコーの思惑も、他のことも今は語るつもりはない」
「だったら俺に殺されに来たのか? アルの痛みを味わえ」

 フォルティシモはこれ以上の会話は無駄だと断じて、先制攻撃を仕掛けようとした。しかし次の言葉に動きを止めることになる。

「どうして今更、某とアルティマ・ワンとの交戦にこだわる?」
「何? 俺がアルを愛していないとでも言う気か?」
「フォルティシモ殿はアルティマ・ワンごと爆殺するのも戦術であっただろう? 某はアルティマ・ワンとの戦いの最中、何度もフォルティシモ殿にまとめてPKされた」

 フォルティシモはその言葉で理解し、怒りが彼方へ吹き飛んだ。

「………………プレスト、ぷれすと? お前、もしかして、プレスティッシモか!?」
「そうだ。だから本名を改めて名乗っただろう?」



 VRMMOファーアースオンラインのプレイヤー、プレスティッシモ。その名前は、かつてのフォルティシモのフレンドリストに刻まれていた。

 フォルティシモに迫る課金とプレイ時間を誇り、トッキーが作ったプレイヤーチームのエース。トッププレイヤー五人の名前を挙げたら、確実に名前の挙がる最上位プレイヤーの一人。

 フォルティシモはVRMMOファーアースオンラインの頃、名前がフォルティシモに似ている上、一部から打倒フォルティシモの希望、魔王を倒す勇者とか言われていたプレスティッシモが気に入らなくて、見掛ける度に地の果てまで追い掛けてPKをしていた時期がある。

 アルティマを傷付けられたことには、怒りを感じている。しかしフォルティシモは、プレスティッシモを言い掛かりにも似た因縁で百回以上はPKしただろう。どれだけデスペナを与えたのか分からない。何回か何十回かはリスキルもした。なんならアルティマと一緒になって死体蹴りもした。

 今更、アルティマを傷付けたな、なんて言っても良いのか。

「自分か相手が死ぬまで攻撃をやめないほど好戦的なアルティマ・ワンが、HP半減程度のダメージで某を追い掛けなかったのは、某に気が付いたからだと思ったが?」
「………い、いや、それは、たしかに、どこかで受けたことのある太刀のような、気は、したのじゃ」

 アルティマはキュウと同じように耳と尻尾を力なく垂れ下げて、フォルティシモを見る。たしかにあの時のアルティマは珍しく敵の追跡もせず、フォルティシモの接近にも気付かないくらい呆然と立っていた。

「あー、あれだ。とりあえず、お前を探せっていう依頼は全部取り下げておく」

 それからフォルティシモはこの店で最も高いワインを頼み、再会の祝いのつもりで差し出した。

「神戯に、随分と詳しいみたいだな、プレスティッシモ」
「何故、気持ち悪いくらいに馴れ馴れしい声を出す?」

 フォルティシモにはプレストとの距離感が分からない。ピアノとの再会の後も戸惑ったけれど、ピアノは元々仲が良かった。しかしプレストとは友好的な関係ではなかったので、接し方が分からない。

 けれどフォルティシモは異世界ファーアースに来たことで、ピアノという掛け替えのない親友を得られた。その成功体験が、同じようにVRMMOファーアースオンライン時代のプレイヤーへ仲間意識を感じさせる。

「とにかく、爺さんよりも、俺に協力する気があるってことで良いか?」
「それはフォルティシモ殿次第だ。小狡いと批判してくれて構わない。某は千年の悲願のため、誰にでも付く」
「蝙蝠かよ。好きにはなれそうもないな」

 しかしそれでもフォルティシモは、プレストの協力を受け入れた。情に流されただけの理由ではない。明確に利用価値があったからだ。

「フォルティシモ殿、一つ、尋ねたい」
「一つというか、今の内に疑問は解消したい。とりあえず、なんだ?」
「この神戯、他の神戯とは意味が違う。偉大なる神々の干渉だ。それに、勝てるか?」

 その答えは最初から決まっている。

「最強のフォルティシモが、神戯ごときに負けるとでも思ったか?」
「ならば某は、最強の味方だ」

 プレストが最強厨最強を望むならば、フォルティシモの味方に違いない。



 ◇



 時間は現在へ戻る。近衛天翔王光から神戯のアカウントを奪われたフォルティシモは、闇の中へ落ちていった。このままだとフォルティシモは闇へ溶けて消えてしまう。

 その中で、音が現れた。

 【救援要請】。プレイヤーが危機に陥った時、フレンド登録してあるプレイヤーへ救援を求めるシステム。

 救援を求めているプレイヤーの名前は、プレスト。

「これでアルへの攻撃は許してやる」

 フォルティシモは死後の世界さえ連想させる闇の中、光の出口に到達した。

 次の瞬間、フォルティシモは真っ白なタイルの床へ叩き付けるように転がっていた。

 フォルティシモのステータスには、この程度の落下で地面に叩き付けられた程度ではダメージが入らないはずだが、たしかに痛みを感じる。だとしたらここは、異世界ファーアースと同じく現実の法則が多重定義オーバーロードされているのか、もしくはまったく別の法則の世界か。

 フォルティシモが痛みを我慢しながら起き上がってみると、安物の簡素なベッドに腰掛けているプレストの姿があった。

 プレストの表情には、驚きが浮かんでいる。

「まさか、本当に、この世界に、フォルティシモ殿が現れるとは。一体、どのような策を使ったのだ?」

 フォルティシモは自分のことをペタペタと触って確認する。プレストが気を利かせて手鏡を渡してくれた。そこには銀髪の超美形青年が映っている。

 フォルティシモは手鏡をプレストへ返して、質問を口にした。

「ここはリアルワールドで合っているか?」
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