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第九章
第四百四十五話 姫桐vs天翔王光 前編
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世界の天頂より、<時>の神々と最強の神の戦いを見下ろす存在があった。
それは灰髪銀眼の美少年で、一見しただけでは細身の弱々しい印象さえ与える人間。しかしその姿は千年前に亜人族たちを統一し、太陽と戦った帝王のものだった。
そしてその内側には、科学技術を大いに進歩させる頭脳と、神々さえ虐殺しかねない知性が混沌として渦巻いている。
近衛天翔王光の操るアバターオウコーは、孫であるフォルティシモが<時>の神々を堕としていくのを冷静に見守っていた。
「時に忘れられた神々では、儂の孫の相手にもならんか」
VRMMOファーアースオンラインは、ただのゲームではない。偉大なる星の女神と偉大なる時の男神、そして近衛天翔王光が協力して創り出した世界だ。
そこに集まる因果は、ただゲームを楽しもうなんて人間では容易に弾かれることになる。
誤解を恐れずに表現すれば、神々へ届く“運”がない者には強くなることができない。
あのVRMMOファーアースオンラインで最強の魔王にまで到達した孫に、信仰を失っていく神々が届くはずがなかったのだ。
近衛天翔王光は、この結果を最初から予測していた。
もちろん予測していたとは言え、絶対にこの結果になるとまでは思っていなかった。<時>の神々が近衛天翔王光の孫を撃破する未来があったかも知れない。可能性としてはそちらのほうが遙かに高かっただろう。
その可能性の未来であれば、『マリアステラの世界』へ<時>の神々を送り込むことで、近衛天翔王光の目的は達成された。
それを変えたのは、マリアステラの策略か、狐の神の裏切りか、孫の力を甘く見ていたか、黄金狐のモフモフか、他の何かか。
「プランBは失敗だ。やはりプランA、完璧な儂による完全な作戦じゃな」
近衛天翔王光のメインプランはまったく外れていない。ここまでのすべてが―――キュウをものにできなかったが―――計画通りだ。
しかしそれは、あくまでもここまではであって、近衛天翔王光にとって最大最高の誤算が空へ上がってきた。
「もう良い加減、止めにしない、お父様?」
世界一可愛くて賢くて将来はパパのお嫁さんになると言っていた愛しの娘が、近衛天翔王光の前に立ち塞がった。
近衛天翔王光は『マリアステラの世界』へ穴を開ける行為を止めて、全力全開で娘と向かい合う。
腰よりも長く伸びた枝毛一つない黒髪に、この世のどんな陶器も叶わない美しい肌。二人静色に白い花柄が入った着尺模様の着物は、娘のお気に入りだった。
それは娘を再現したアバターだったけれど、娘の美しさを一パーセントも再現できていなかった。しかし、一パーセント未満でも本物の娘の美しさが無量大数であれば、アバターの美しさに目を奪われるのも仕方がない。
いや近衛天翔王光が見ているのは、内面の美しさである。もちろん外見も最高で絶対だけれど、内面も究極で無敵なのが娘だ。
「美人コンテストというのがあるじゃろう?」
近衛天翔王光の唐突な質問に対し、娘は眉をひそめる。それでも彼女は答えてくれた。
「私が出たら優勝できるって言うのは、聞き飽きたから。優勝できる訳ないでしょ。ああいうのは、ちゃんと食事制限とか身体作りのトレーニングとか、体型維持のために努力した人が勝ってこそ意味があるの」
娘らしい解答に笑みを零す。これが近衛天翔王光やクソ孫だったら、こう答えるだろう。
「これより世界の“美”は姫桐を基準とする! 世界の基準は姫桐が基準となり、お前にいかに近づけたかが、審査基準じゃ。おお、儂は天才だ、さすわし、美人コンテストの時代の変遷によって変わる価値観への対応を、克服してしまったぞ」
常識や世界が、自分に合わせろ。
「はい、馬鹿ー! 世界中の人は、お父様を天才だと褒め称えるけど、私としては世界一頭の悪い父親だから! 世間に理解されない娘の気持ちが分かる!?」
「分かるとも。お前は可愛い」
「相手を思いやらない溺愛は虐待と同じだからね」
その瞬間、近衛天翔王光の天才的頭脳に閃きがやってきた。
ああ、娘は恥ずかしがっている。
ここは大人な対応で受け止めてやるのが、父親というものだろう。仲直りのために一緒にお風呂へ入って髪でも洗ってやりたいけれど、この歳になると恥ずかしいに違いない。近衛天翔王光はまったく気にしないけれど、娘が恥ずかしいという気持ちを尊重してやるのが、良い父親というものだ。
「とりあえず、一緒に風呂でも入って汗を流そう」
「もう嫁に行って子供もいる娘に対する言葉だと思うと、気持ちの悪くなるレベル!」
「父親にとっては、娘はいくつになっても娘だ」
「良い言葉に聞こえるけど、時と場合が最低すぎる」
娘は虚空に手を入れると、そこから直刀を抜き放った。
孫が『現代リアルワールド』と呼ぶ世界では、娘に襲い掛かる悪漢が存在する。近衛天翔王光自身が思わず襲い掛かりたくなる可愛さなので、悪漢共の気持ちは理解できるが、そんな行為は許されるはずがない。
だから近衛天翔王光は娘に幼い頃から護身術と、銃刀法無視の射撃術と刀術を教え込んだ。
ただし娘がその技術を使うことはなかった。近衛天翔王光の元に居た幼い頃は、大統領並みの警備を付けるのは当然として、民間軍事会社を組織し娘の行く先々の危険を排除すると共に、可能な限り施設や土地は買収していったのだ。娘は安心してすくすくと育っただろう。
こうして大きくなった娘は、『現代リアルワールド』で披露する機会のなかったそれを、近衛天翔王光に見せてくれるらしい。
「娘のお遊戯会か。忙しいから後にしてくれと言うパパは三流、具体的な約束をして二流、あらゆる用事を後にして娘を優先するのが一流」
「ならお父様は失格ね」
娘が美しく空を駆ける。
「プロのカメラマンと撮影用機材を用意し、その後はお遊戯会が行われた土地と建物を購入、記念館を立ち上げる儂は、超一流!」
その一刀が近衛天翔王光の同体を真っ二つに切り裂いた。
それは灰髪銀眼の美少年で、一見しただけでは細身の弱々しい印象さえ与える人間。しかしその姿は千年前に亜人族たちを統一し、太陽と戦った帝王のものだった。
そしてその内側には、科学技術を大いに進歩させる頭脳と、神々さえ虐殺しかねない知性が混沌として渦巻いている。
近衛天翔王光の操るアバターオウコーは、孫であるフォルティシモが<時>の神々を堕としていくのを冷静に見守っていた。
「時に忘れられた神々では、儂の孫の相手にもならんか」
VRMMOファーアースオンラインは、ただのゲームではない。偉大なる星の女神と偉大なる時の男神、そして近衛天翔王光が協力して創り出した世界だ。
そこに集まる因果は、ただゲームを楽しもうなんて人間では容易に弾かれることになる。
誤解を恐れずに表現すれば、神々へ届く“運”がない者には強くなることができない。
あのVRMMOファーアースオンラインで最強の魔王にまで到達した孫に、信仰を失っていく神々が届くはずがなかったのだ。
近衛天翔王光は、この結果を最初から予測していた。
もちろん予測していたとは言え、絶対にこの結果になるとまでは思っていなかった。<時>の神々が近衛天翔王光の孫を撃破する未来があったかも知れない。可能性としてはそちらのほうが遙かに高かっただろう。
その可能性の未来であれば、『マリアステラの世界』へ<時>の神々を送り込むことで、近衛天翔王光の目的は達成された。
それを変えたのは、マリアステラの策略か、狐の神の裏切りか、孫の力を甘く見ていたか、黄金狐のモフモフか、他の何かか。
「プランBは失敗だ。やはりプランA、完璧な儂による完全な作戦じゃな」
近衛天翔王光のメインプランはまったく外れていない。ここまでのすべてが―――キュウをものにできなかったが―――計画通りだ。
しかしそれは、あくまでもここまではであって、近衛天翔王光にとって最大最高の誤算が空へ上がってきた。
「もう良い加減、止めにしない、お父様?」
世界一可愛くて賢くて将来はパパのお嫁さんになると言っていた愛しの娘が、近衛天翔王光の前に立ち塞がった。
近衛天翔王光は『マリアステラの世界』へ穴を開ける行為を止めて、全力全開で娘と向かい合う。
腰よりも長く伸びた枝毛一つない黒髪に、この世のどんな陶器も叶わない美しい肌。二人静色に白い花柄が入った着尺模様の着物は、娘のお気に入りだった。
それは娘を再現したアバターだったけれど、娘の美しさを一パーセントも再現できていなかった。しかし、一パーセント未満でも本物の娘の美しさが無量大数であれば、アバターの美しさに目を奪われるのも仕方がない。
いや近衛天翔王光が見ているのは、内面の美しさである。もちろん外見も最高で絶対だけれど、内面も究極で無敵なのが娘だ。
「美人コンテストというのがあるじゃろう?」
近衛天翔王光の唐突な質問に対し、娘は眉をひそめる。それでも彼女は答えてくれた。
「私が出たら優勝できるって言うのは、聞き飽きたから。優勝できる訳ないでしょ。ああいうのは、ちゃんと食事制限とか身体作りのトレーニングとか、体型維持のために努力した人が勝ってこそ意味があるの」
娘らしい解答に笑みを零す。これが近衛天翔王光やクソ孫だったら、こう答えるだろう。
「これより世界の“美”は姫桐を基準とする! 世界の基準は姫桐が基準となり、お前にいかに近づけたかが、審査基準じゃ。おお、儂は天才だ、さすわし、美人コンテストの時代の変遷によって変わる価値観への対応を、克服してしまったぞ」
常識や世界が、自分に合わせろ。
「はい、馬鹿ー! 世界中の人は、お父様を天才だと褒め称えるけど、私としては世界一頭の悪い父親だから! 世間に理解されない娘の気持ちが分かる!?」
「分かるとも。お前は可愛い」
「相手を思いやらない溺愛は虐待と同じだからね」
その瞬間、近衛天翔王光の天才的頭脳に閃きがやってきた。
ああ、娘は恥ずかしがっている。
ここは大人な対応で受け止めてやるのが、父親というものだろう。仲直りのために一緒にお風呂へ入って髪でも洗ってやりたいけれど、この歳になると恥ずかしいに違いない。近衛天翔王光はまったく気にしないけれど、娘が恥ずかしいという気持ちを尊重してやるのが、良い父親というものだ。
「とりあえず、一緒に風呂でも入って汗を流そう」
「もう嫁に行って子供もいる娘に対する言葉だと思うと、気持ちの悪くなるレベル!」
「父親にとっては、娘はいくつになっても娘だ」
「良い言葉に聞こえるけど、時と場合が最低すぎる」
娘は虚空に手を入れると、そこから直刀を抜き放った。
孫が『現代リアルワールド』と呼ぶ世界では、娘に襲い掛かる悪漢が存在する。近衛天翔王光自身が思わず襲い掛かりたくなる可愛さなので、悪漢共の気持ちは理解できるが、そんな行為は許されるはずがない。
だから近衛天翔王光は娘に幼い頃から護身術と、銃刀法無視の射撃術と刀術を教え込んだ。
ただし娘がその技術を使うことはなかった。近衛天翔王光の元に居た幼い頃は、大統領並みの警備を付けるのは当然として、民間軍事会社を組織し娘の行く先々の危険を排除すると共に、可能な限り施設や土地は買収していったのだ。娘は安心してすくすくと育っただろう。
こうして大きくなった娘は、『現代リアルワールド』で披露する機会のなかったそれを、近衛天翔王光に見せてくれるらしい。
「娘のお遊戯会か。忙しいから後にしてくれと言うパパは三流、具体的な約束をして二流、あらゆる用事を後にして娘を優先するのが一流」
「ならお父様は失格ね」
娘が美しく空を駆ける。
「プロのカメラマンと撮影用機材を用意し、その後はお遊戯会が行われた土地と建物を購入、記念館を立ち上げる儂は、超一流!」
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