身代わりおまけ王子は逃げ出したい

おみなしづき

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第一章

その頃のミリアンナ ② ミリアンナ視点

 街の仕立て屋は、黒髪が映えるとても見目麗しい男性だった。
 貴族の間で噂になっていた『腕も顔もいい仕立て屋』はこの人かと思った。
 期限のある注文は受け付けず、人を選ぶ仕立て屋なんて馬鹿にしていると思っていたけれど、こんな人がやっているなら頼んでもいいと思う。

 私の事をまじまじと見つめてくる。
 早速惚れたのかしら? 悪くないわ。

「あなたは……女性……ですよね?」

 そんな質問をされた。

「当たり前じゃない」

 変な質問ね。男にでも見えるというの?

「ミオ……という名前に聞き覚えは?」
「ミオ? 知らないわ」
「そうですか──」

 すぐに興味がなさそうにされた。
 なんだか面白くない。

 私が女だからなのか、その人は直接採寸はせず、屋敷の侍女に指示を出す形でしていた。
 真剣に用紙に書き込む姿に惚れ惚れしそうだった。

「あなたが採寸してもよろしくてよ」

 私のような女に触れられるなんて男の人は泣いて喜ぶ。

「結構です」

 用紙に視線をやったまま、こちらを見ようともしなかった。

 今、断られたの……?

 信じられない。私を無碍むげにする男がいるなんて。
 ものすごく頭にきた。

「そんな態度でいいと思っているの!?」
「身体に触っただけで勘違いする女性は多いです。面倒な事は避けたいですから──」
「な……!」

 私の身体に触れるのが面倒だと言われたみたいだった。

「わたくしは、この国の王女よ! そんな態度では、頼まないわよ!」
「王女? あなたが?」

 やっとこちらを見た。
 やっぱり王女という肩書きには弱いらしい。
 今謝れば、懇意にしてもいい。得意げに笑う。

「王女は、今はテレフベニアでは?」
「お兄様が代わりに行っているのよ。この事は秘密よ。喋ったら罰を受けてもらいますからね」
「王太子の花嫁選びにあなたのお兄さんが行ったという事ですか──? お兄さんとそっくりなんですか?」
「当たり前じゃない。双子ですもの」

 その青年は、考え込んだと思ったら、急に荷物を仕舞い始めた。

「行く所ができました。ドレスは別の店に頼んで下さい」
「な、なんですって?」

 私のドレスを作る事を断るだなんて信じられない。

「採寸した用紙は、別の店で役に立つので置いていきます」
「何を言ってるのよ! あなたが作りなさい!」
「無理です。しばらく店を閉めます」
「ちょっと! 待ちなさいよ!」

 その人は、荷物を持ってドアに手を掛けてこちらを振り返った。

「それから──身代わりにしたのなら、あなたがその秘密を言いふらしてどうするんです? 賢くない──馬鹿王女のいるこの国は可哀想ですね──」

 嘲笑いながらそう言い残してそのまま屋敷を出て行った。

「な……っ! 何よ、あの男!」

 怒りで身体が震えた。
 王女である私を馬鹿にした。
 気がおさまらなくて、そこにあった花瓶を床に叩きつけた。
 ガシャンと派手な音を立てて割れた花瓶を見たら少しスッとした。
 侍女が怯えてこちらを見ていた。気に入らない。

「何見ているのよ! 片付けなさいよ!」
「は、はい……」

 城の侍女と違ってのろまだ。
 またイライラしてきて次の花瓶を割ろうとした時だった。

「ミリアンナ~。愛しのお父様が来たよ~」

 部屋に顔を覗かせたのは、お父様だった。

「お父様ぁぁぁ~~!」

 お父様に抱きついて、わぁっと泣く。

「おお、おお、ミリアンナ。どうしたのだ?」

 ヨシヨシと背中を撫でて慰めてくれる。

「ドレスを新調しようとしたのに、店主に断られたのよ! どうにかしてよ!」
「おやおや、お前は今、テレフベニアにいる事になっているんだぞ? 街のやつに会ったらダメじゃないかぁ~。ちゃんと口止めはしたのか?」

 まさかお父様にそんな風に言われるとは思わなかった。

「だって! 家の中にこもりきりなんてつまらなかったんですもの! 口止めだってしたわよ!」
「まぁまぁ、ミリオンが帰って来るまでの辛抱だ。ドレスはあるものにしなさい。その代わり、ミリアンナのだぁい好きなケーキを買ってきたからなぁ」
「二つある?」
「もちろん」

 それならまぁいいわ。

「お兄様、早く帰ってこないかしら」

 屋敷にこもりきりの生活は退屈で退屈でストレスばかりが溜まる。

「ミリオンは、ミリアンナと違って取り柄のないやつだ。すぐに帰ってくるさ」
「お兄様が帰ってきたら、お城に戻れるわよね?」
「おや? ミリオンが帰ってきたら、ローウェンと結婚してここに住むんじゃなかったのか?」

 お父様が意外そうに言う。

「だってぇ、やっぱりお城でお父様と過ごす方がいいんですもの」

 ローウェンは優しいけれど、それだけの男だった。
 ローウェンにも、この屋敷にいるのも、もう飽きた。
 城にいた方が色んな男性と交流があって、チヤホヤされたし気分が良かった。
 城に戻ったら、あの格好いい仕立て屋をまた呼んで、今度こそ跪かせてあげようと思う。
 私の魅力がわからない男なんていない。絶対に落としてみせる。
 私を馬鹿にした事を後悔させてあげる。

「そうかそうか。それなら、ミリアンナの部屋の家具を新調しようか」
「さすがお父様ね! 嬉しいわぁ。それじゃあ、ケーキは一緒に食べましょうね」

 侍女に用意をしてもらい、お父様のだらしない顔を見ながら、美味しいケーキを口に運んだ。
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