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第二章
また逃げた レイジェル視点
ミオがいるであろう部屋へすぐに向かった。
パーティーはちょうど解散になっていて帰る人ばかりだった。借金取りもローウェンも難なく城を出られるだろう。
「それにしても、どうしてミリオン様の家族はあんな態度だったんですかね?」
「恐らくだが、王妃が亡くなった事が原因の一つかもしれない。国王の愛情は女であるミリアンナへ全て注がれた。そうなるとミリオンの事など全て後回しだ。兄はそれを見ていてミリオンをいない者として扱ってもいいのだと思ってしまったのではないだろうか……」
「勝手な理由ですね」
理由がどうであれ、ミオがいない者とされて、身代わりにされた事実は覆らない。
ミオは、初めて会った時からそんな事を言っていた。あの頃からずっとそうだったと思うとやはり甘かったのではないのかと思ってしまいそうだ。
「やっとミリオン様……いえ、ミリアンナ様に会えますね」
ラトもミオに会えるのが嬉しいようだ。
「数時間でも、こんな状況では顔を見ないのは心配だな」
「すぐに会えますって。それにしても、本物のミリアンナを見たらミリアンナ様って呼ぶのちょっと嫌になっちゃいますね」
「あちらが偽物だと思えばいい」
ミリアンナとしてでなければ、妃として迎えられない。
今後も女装して、私の隣にいて欲しいと言ったら、ミオはどうするだろうか……。
やっぱり逃げられる気がする……。
いくら考えても相手の気持ちを推し量る事などできない。ミオには私の気持ちを伝えればいい。
逃げられたら、頷いてくれるまで追いかければいい。
邪魔になるものは排除した。ミオに男であっても傍にいて欲しいのだと打ち明ける時が来た。
近付けば赤くなり、膝枕をしても嫌がらなかった。少しぐらいは期待している。
この腕に抱き締める瞬間を──。
全てはこれからだ。
「レイジェル様、あそこの部屋では?」
ラトと共に部屋の前まで行って驚いた。
「なんだ? 鍵が壊されているな」
「扉も開きっぱなしですね」
二人で中に入れば、ベッドのシーツが乱れていて確かに誰かがいた痕跡はあるのに、誰もいなかった。
「場所は本当にここか?」
「そのはずです」
窓を見れば壊されていてガラスが飛び散っていた。
外を覗けば二階程度の高さから椅子が地面に転がっているのが見えた。内側から椅子を投げて窓を開けたか。
「ここから逃げたみたいですね……」
ラトが苦笑いしながら言えば、私も苦笑いだ。
本当にミオは逃亡するのが上手い……。
今度ばかりは行く場所が全く思い当たらない。何か手がかりを見つけないといけない。
ラトと一緒に部屋を調べる。
「ラト、手紙はないか?」
「ありませんね……」
「何か……何かないのか……?」
何も見つからなくて段々と焦ってくる。
そこでふと思う。
「ラト……私は嫌われているんだろうか……」
だとしたら、ちょっと期待していた自分が恥ずかしい。
真剣に聞いたのに、ラトはブハッと吹き出した。
「そんな情けない顔しないで下さいよ。嫌われてるわけないでしょ。馬車でレイジェル様が寝てしまった時、何度も頭撫でてましたよ。誰にもバレてないと思っていたんでしょうが、私は見ました。惚れてますって顔しながらレイジェル様を見つめてましたよ」
そうだったのか……寝ていて本当に勿体無いことをした。そんな顔を見せてくれたなら、私も自信が──ちょっと待て。
「お前──それを見たのか? 私より先に──?」
「うわっ。出た。自分が先に的な、やきもち的なやつ。面倒くさいんでやめて下さいよ」
「可愛かったのか──?」
「それ、イエスもノーも答えたら怒るの目に見えてるんですけど……」
イエスならやはり私より先に見た事が許せない。ノーと言ったらラトを窓から突き落とす所だったな。
嬉しいのだが、ラトが先に見ていたとは複雑だな。
そこでコルテスが部屋にやってきた。
「遅いと思って来てみたら、お二人とも何をやっているんですか?」
説明すれば、ため息をつかれた。
「お二人もいて、何も気付かないんですか? これ、窓に椅子をぶつけて外に出ただけなら、扉の鍵が外側から壊されているのはおかしいです」
という事は──。
「何者かが扉を開けて、ミリアンナ様を連れて窓から一緒に逃げたのです」
「俺たち以外にミリアンナ様を助けた人がいるってのか?」
コルテスが頷く。
「扉を開けておきながら、扉から逃げなかったのは、逃げられなかったからです。ここに居たのがミリオン様だと理解していて、全ての事情を知っているのではないでしょうか」
「それなら、助けたのはミリオン様の方の知り合いって事だな」
ラトの言葉に考え込む。
「パーティーで人の出入りは激しかった。招待客のリストと出席者のリストを照らし合わせよう」
「はい。すぐに用意します」
コルテスがラトに向かってドヤ顔をする。
「こんな事に気付かないとは、やはり私がいなければダメですね」
「せっかく褒めてやろうと思ったのに、お前はそういうところが可愛げがない」
「ラトから褒められても嬉しくありませんね」
ため息をつくコルテスにラトがズイッと近付く。
「言葉より態度で褒めてやろうか? 抱きしめてやろうか?」
「毎回毎回同じ事ばかり言っていてよく飽きませんね」
「モテないお前が喜ぶからだろ?」
「誰が喜ぶんですか! 誰が!」
いつもの二人のやり取りを放っておいて、窓の外の暗い闇を見つめながらミオの事を想う。
誰とどこへ行ったのか……。
「知り合いでしたら、酷い事はされないでしょう」
コルテスが気にかけてくれる。
「だが、スッキリしない──」
何かが胸の奥に引っかかっている。
ミオに会えなくてかなり気落ちしている……。
家族から酷い扱いを受けていて、ミオがまたここに戻ってくるとは考えられない。
これからだと思っていたのに……!
思えば、追いかけっこばかりだ。
諦める? そんな言葉は私の辞書にはない!
こうなったらとことんやってやろうじゃないか。
「ふ、ふふっ……ははっ」
なぜか笑えてきたな。
「レイジェル様が壊れた……」
「は、早くミリアンナ様を見つけましょう!」
まだ私の気持ちを伝えていない。このまま終わりになんてさせない。
必ず見つけ出して会いに行く──。
パーティーはちょうど解散になっていて帰る人ばかりだった。借金取りもローウェンも難なく城を出られるだろう。
「それにしても、どうしてミリオン様の家族はあんな態度だったんですかね?」
「恐らくだが、王妃が亡くなった事が原因の一つかもしれない。国王の愛情は女であるミリアンナへ全て注がれた。そうなるとミリオンの事など全て後回しだ。兄はそれを見ていてミリオンをいない者として扱ってもいいのだと思ってしまったのではないだろうか……」
「勝手な理由ですね」
理由がどうであれ、ミオがいない者とされて、身代わりにされた事実は覆らない。
ミオは、初めて会った時からそんな事を言っていた。あの頃からずっとそうだったと思うとやはり甘かったのではないのかと思ってしまいそうだ。
「やっとミリオン様……いえ、ミリアンナ様に会えますね」
ラトもミオに会えるのが嬉しいようだ。
「数時間でも、こんな状況では顔を見ないのは心配だな」
「すぐに会えますって。それにしても、本物のミリアンナを見たらミリアンナ様って呼ぶのちょっと嫌になっちゃいますね」
「あちらが偽物だと思えばいい」
ミリアンナとしてでなければ、妃として迎えられない。
今後も女装して、私の隣にいて欲しいと言ったら、ミオはどうするだろうか……。
やっぱり逃げられる気がする……。
いくら考えても相手の気持ちを推し量る事などできない。ミオには私の気持ちを伝えればいい。
逃げられたら、頷いてくれるまで追いかければいい。
邪魔になるものは排除した。ミオに男であっても傍にいて欲しいのだと打ち明ける時が来た。
近付けば赤くなり、膝枕をしても嫌がらなかった。少しぐらいは期待している。
この腕に抱き締める瞬間を──。
全てはこれからだ。
「レイジェル様、あそこの部屋では?」
ラトと共に部屋の前まで行って驚いた。
「なんだ? 鍵が壊されているな」
「扉も開きっぱなしですね」
二人で中に入れば、ベッドのシーツが乱れていて確かに誰かがいた痕跡はあるのに、誰もいなかった。
「場所は本当にここか?」
「そのはずです」
窓を見れば壊されていてガラスが飛び散っていた。
外を覗けば二階程度の高さから椅子が地面に転がっているのが見えた。内側から椅子を投げて窓を開けたか。
「ここから逃げたみたいですね……」
ラトが苦笑いしながら言えば、私も苦笑いだ。
本当にミオは逃亡するのが上手い……。
今度ばかりは行く場所が全く思い当たらない。何か手がかりを見つけないといけない。
ラトと一緒に部屋を調べる。
「ラト、手紙はないか?」
「ありませんね……」
「何か……何かないのか……?」
何も見つからなくて段々と焦ってくる。
そこでふと思う。
「ラト……私は嫌われているんだろうか……」
だとしたら、ちょっと期待していた自分が恥ずかしい。
真剣に聞いたのに、ラトはブハッと吹き出した。
「そんな情けない顔しないで下さいよ。嫌われてるわけないでしょ。馬車でレイジェル様が寝てしまった時、何度も頭撫でてましたよ。誰にもバレてないと思っていたんでしょうが、私は見ました。惚れてますって顔しながらレイジェル様を見つめてましたよ」
そうだったのか……寝ていて本当に勿体無いことをした。そんな顔を見せてくれたなら、私も自信が──ちょっと待て。
「お前──それを見たのか? 私より先に──?」
「うわっ。出た。自分が先に的な、やきもち的なやつ。面倒くさいんでやめて下さいよ」
「可愛かったのか──?」
「それ、イエスもノーも答えたら怒るの目に見えてるんですけど……」
イエスならやはり私より先に見た事が許せない。ノーと言ったらラトを窓から突き落とす所だったな。
嬉しいのだが、ラトが先に見ていたとは複雑だな。
そこでコルテスが部屋にやってきた。
「遅いと思って来てみたら、お二人とも何をやっているんですか?」
説明すれば、ため息をつかれた。
「お二人もいて、何も気付かないんですか? これ、窓に椅子をぶつけて外に出ただけなら、扉の鍵が外側から壊されているのはおかしいです」
という事は──。
「何者かが扉を開けて、ミリアンナ様を連れて窓から一緒に逃げたのです」
「俺たち以外にミリアンナ様を助けた人がいるってのか?」
コルテスが頷く。
「扉を開けておきながら、扉から逃げなかったのは、逃げられなかったからです。ここに居たのがミリオン様だと理解していて、全ての事情を知っているのではないでしょうか」
「それなら、助けたのはミリオン様の方の知り合いって事だな」
ラトの言葉に考え込む。
「パーティーで人の出入りは激しかった。招待客のリストと出席者のリストを照らし合わせよう」
「はい。すぐに用意します」
コルテスがラトに向かってドヤ顔をする。
「こんな事に気付かないとは、やはり私がいなければダメですね」
「せっかく褒めてやろうと思ったのに、お前はそういうところが可愛げがない」
「ラトから褒められても嬉しくありませんね」
ため息をつくコルテスにラトがズイッと近付く。
「言葉より態度で褒めてやろうか? 抱きしめてやろうか?」
「毎回毎回同じ事ばかり言っていてよく飽きませんね」
「モテないお前が喜ぶからだろ?」
「誰が喜ぶんですか! 誰が!」
いつもの二人のやり取りを放っておいて、窓の外の暗い闇を見つめながらミオの事を想う。
誰とどこへ行ったのか……。
「知り合いでしたら、酷い事はされないでしょう」
コルテスが気にかけてくれる。
「だが、スッキリしない──」
何かが胸の奥に引っかかっている。
ミオに会えなくてかなり気落ちしている……。
家族から酷い扱いを受けていて、ミオがまたここに戻ってくるとは考えられない。
これからだと思っていたのに……!
思えば、追いかけっこばかりだ。
諦める? そんな言葉は私の辞書にはない!
こうなったらとことんやってやろうじゃないか。
「ふ、ふふっ……ははっ」
なぜか笑えてきたな。
「レイジェル様が壊れた……」
「は、早くミリアンナ様を見つけましょう!」
まだ私の気持ちを伝えていない。このまま終わりになんてさせない。
必ず見つけ出して会いに行く──。
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