2 / 8
堅物騎士は踊り子に惑わされる【俺から逃げられると思うなよ】 ※R18あり
しおりを挟む
ユーリオの夫であり、騎士達の教官として城に仕えている私は、今日も誘惑に負けそうな自分を叱責する。
綺麗な長い金髪を靡かせて、妖艶な魅力を纏いながら、私の首に腕を回して抱きついてくるユーリオに困った顔を向ける。
夫夫ではあるが、仕事の途中だ。
「新しい下着を買ったんだ。異国のものらしいが、テオも見たいだろ?」
「いや……(みたい!!)まだ昼間だ」
「いいだろ? 少しだけ……な?」
「ダメだ……」
そう言いながらも自分の手は、ユーリオの背中に移動してそっと抱き寄せてしまう。
手が勝手に!
ユーリオはクスクスと笑った。
「言葉と態度が逆だよ」
「うぅ……」
まだ昼間で、仕事の報告に来て騎士塔に戻る所でユーリオに声を掛けられた。人気のない一室に連れてかれて壁を背にしながら、ユーリオの誘惑と戦う。
大概私は誘惑に負ける。「今日こそは断るぞ!」と、そんな風に意気込んで深く息を吐いた。
「ユーリオ、私は──ちょ、待ってくれ……!」
体をすり寄せて耳を甘噛みされて震えた。
「ははっ。かぁわいい」
顔を上気させて得意げに笑うユーリオの顔を見ると『すき!』としか考えられなくなり、何も言えなくなる。
ユーリオにペロリと唇を舐められた。そのまま深く口付けられそうになった時にバタンッと勢いよく扉が開いた。
「ユーリオ様、テオを返して頂きたい」
そこにやって来たのは、同じ教官として働くレグナだった。
「こうなると思ってました。飽きもせず毎回毎回、何を考えているんですか!」
「昼間に誘うのは久しぶりだ」
「だから、誘うなって言ってるんですよ! テオはユーリオ様に弱いんですから!」
全くその通りだ。
レグナに引き離されて、やっとの事で無くなった理性を取り戻してくる。
「ユーリオ、そういう事だから私は行く」
「えぇー! いいとこだったのに!」
「す、すまない……」
泣く泣くユーリオを振り切るように部屋から出た。
レグナと一緒に騎士塔に戻りながらため息をつく。
「すまなかったな」
「どうしようもない王子ですよ。テオを見るとすぐに飛びつく」
レグナの言いように苦笑いする。
「そう言うな。なかなか会えない時もあるからな。側にいる間は一緒にいたいんだろう」
自分自身もそうであり、ユーリオの気持ちがわからなくもない。
「そうやって甘やかすから、つけ上がるんですよ!」
レグナの剣幕に苦笑いする。確かに昼間の誘惑はやめて欲しい。
「ところで、この国にはバレンタインデーというものがある事をご存知ですか?」
レグナの言葉に首を傾げた。
「バレンタインデー?」
「私も最近知ったのですが、お世話になった相手や意中の相手にチョコレートを贈るらしいです」
「そんなものがあるのか? 我々の国にはなかったな」
「ええ。だから、我々は騎士強化訓練合宿の日程を思いっきり被せてしまいましたね」
「そうなのか……?」
まさかそんなイベントがあるとは思っていなかった。
見習い騎士達の強化の為に合宿を行う事になっている。合宿の日程は今更変えられない。
「みんな何も言わなかったな……」
「見習い騎士は若者が多いですし、そういう相手もいないんです」
「なるほど」
「テオはユーリオ様と過ごせないんじゃ、まずいんじゃないですか?」
「そんなわけ──あるのか……?」
レグナとの会話を笑い飛ばそうとしたけれどできなかった。
これは困った事になった。
合宿は、城から離れた山を借りて泊まり込みだ。その間にユーリオと一緒に過ごせるはずがない。
「一緒に過ごせないくらいで怒ったりしないよな?」
「どうですかね。ユーリオ様ですからね。テオが合宿に行けないように画策するんじゃないですか?」
「笑えない冗談はやめろ」
「冗談じゃないですよ。私だって笑ってないじゃないですか」
その通りだ。レグナは至って真剣だ。
「来れなくならないようにして下さいよ」
「ああ……どうにかする……」
でも、どうしようか……。
しばらく悩む事になってしまった。
◆◇◆
悩んでいる間に時間が経過してしまい、当日になってもユーリオに合宿の事を言えないでいた。
「まずい……まずいぞ……」
まだユーリオがぐっすりと寝ている時間に起き出して、ぐるぐると考え込む。
もう準備はできていた。出発の時刻になる前に話したい。けれど、行かせないと言われてしまったら、抵抗なんて出来そうもない。
「ユーリオ……すまない……」
私は、置き手紙を書いてテーブルの上に置き、そっと部屋を抜け出した。
◆◇◆
山小屋を中心にテントを張って団員達と訓練に入る。
「今日の訓練は、鬼ごっこだ」
団員達が不思議そうに私を見つめてくる。
「範囲はこの山全体だ。ここにいる五人の教官の誰かを捕まえてサインを貰えれば今日の訓練は終わりだ。終わった者から教官で用意した食材を使って夕食を作るといい」
山小屋の外に並べた食材達を見て、団員達はゴクリと喉を鳴らした。
高級ステーキ肉や果物など、たくさんの食材がならべられていた。
「遅い奴は良い食材が無くなる。教官もありとあらゆる手を使って逃げ切るからな。敵の間者を捕まえると思って真剣にやるんだ」
全員が良い返事をすれば、教官は先に森の中へバラけて入って行く。
私は一気に遠くへ逃げた。
茂みの中を体勢を低くしてしゃがみ込む。見習い騎士の気配を感じれば、息を殺して見つからないようにした。
しばらくして、そこにあった木に登り、息を潜めて周りの様子を窺う。
それからまた時間が経つと、数人がそこを通り過ぎたのを見送った。
(見つかる事はなさそうだ)
そう思って気を抜いた瞬間に背後からポンッと肩を叩かれた。
びっくりして木から落ちたけれど、体勢を立て直して膝をつくように着地する。
それと同時に上から声を掛けられた。
「テオ、受け止めて!」
返事をする前に見上げた人物は、木々の隙間から覗く太陽の光を背に、まるで天使の羽根でもあるかのように私に向かって飛び降りてきた。
長い金の髪が重力に逆らうようにフワリと浮いていて神秘的だった。
反射的に抱き込むように受け止めれば、そのままドシャリと後方に倒れてしまった。
(て、天使を捕まえてしまった!)
背中が痛いだとか、そんな事よりもその事でドキドキと心臓が早鐘を打つ。
「ナイスキャッチ」
鼻歌を歌うように言った人物を見て、改めて驚いていた。
「ユーリオ……」
「びっくりしただろ?」
ニヤリと笑う顔は、自信に満ち溢れていて格好いい。見れば、見習いの騎士服を着ている。
「その格好は……?」
「俺もこの訓練に参加する事にしたんだ」
「なんだって?」
呆然としている間に、ユーリオはギュッと抱きしめてくる。
「捕まえた」
(しまった! あっさりと捕まってしまった!)
「好きな食材を選んでいいんだろ? 俺はお前にする」
「な、何を言っているんだ」
「俺と一緒に来れば誰にも見つからない」
上から見下ろしていたユーリオは、顔の横にあった長い髪を耳に掛けた。そして、困り顔だった私の唇を奪った。
「……っ」
そのまま舌を絡められて、巧みな舌使いに翻弄される。
どこまでも甘い甘いキスだった。
ほんのりと顔を赤く染める私を見て、ユーリオは立ち上がって手を差し出してくる。
「一緒に来るだろ?」
得意げな顔で見下ろされれば、私は自然とその手を取っていた。
◆◇◆
ユーリオに連れて行かれたのは、地図には載ってない簡易的な山小屋だった。
中は、テーブルと椅子とシングルサイズのベッドがあるだけだった。
「こんな場所があったのか?」
「作った」
「え?」
「だから、数日前に作った」
なんて事ないように言われて言葉が見つからなかった。ユーリオの行動力は誰もが予想の上を行く。
「作ったって……」
「山に入ったやつが気軽に休める休憩所みたいなものだ。あって困るものじゃないだろ?」
「それは……そうなんだが……」
山小屋を作ってしまうとは思っていもいなかった。
一体何の為に……?
「そこ、座って」
ユーリオが指差したのは、ポツンと置いてある椅子だ。疑問に思いながらも言われた通りにその椅子に座る。
「手はこっちね」
前に伸びた肘掛けに手を乗せられた。
すると、どこから来たのかユーリオの従者達が音もなく現れた。
この三人は、いつもユーリオの言う事しか聞かない。
私に素早く近付く。
「っ!? ちょっと……!」
手首と足首を椅子の肘掛けと脚にしっかりと縛り付けられた。
体を拘束されて動けなかった。拷問を受ける犯罪者の気分だ……。
「ユーリオ……どういう事だ?」
「身に覚えないわけ?」
ユーリオは、私に近付くと目の前で見下ろしてくる。仏頂面で少し怒っていた。
思い当たる事は一つしかない。
「も、もしかして……置いていった事か?」
「せいか~い。テオは、俺に何も言わずにバレンタインをやり過ごそうとしただろ?」
「す、すまない……」
「言い訳しないんだよね。そういうところ好き」
怒られているのに照れる。
「それなら、これを外してくれないか?」
縛られるのは敵同士だった最初の時以来だ……自由を奪われるというのはいい気がしない。
「だぁめ。悪い事したらお仕置きしなきゃだろ?」
「お仕置きとは……?」
「お前は、俺とここで過ごす。合宿の三日間は出られないと思えよ」
「でも! 仕事が……!」
「話は通してある。知らないのはお前とレグナぐらいだ」
嘘だ……今の気持ちを何と表したら良いのか……。
頭を押さえたいのに手を縛られていてはそれもできない。
そういえば、小屋を作ったのは数日前だと言った。既に画策されていた事に慄く。
私はユーリオという男を甘く見ていた。
私の予定を何も知らないわけがなかったのだ。
「テオ、少しでも悪いと思ってるなら大人しくするんだ」
元はと言えば、悪いのは自分だ。バレンタインを知らなかったとはいえ、その日に予定を入れてしまった。それを話せずに置き手紙一つで許して貰おうなんて虫のいい話だった。
「……わかった」
何をされようとも、甘んじて受け入れようではないか。
そんな覚悟をしていれば、ユーリオが従者達に何かを合図した。
従者がどこからか小型のナイフを持ってきて、ユーリオに手渡した。
「一体何を……?」
「動くなよって、動けないか」
クスクスと笑うユーリオに嫌な予感しかしない。
されるがままでいれば、ユーリオにズボンとパンツを一緒に切られてしまった……。
ポロンと無造作に出てきてしまった男の象徴を隠したいのに隠せない。
「──……非常に恥ずかしいんだが……」
ユーリオだけじゃなく、従者達にも見られているという羞恥心で身体中が熱くなってくる。
「可愛いよ」
椅子に座ったまま下半身を露出する男が可愛い……ユーリオの感性が独特だと思う。
「もう気が済んだか?」
「まだまだに決まってるじゃないか。これで終わりだなんて意味ないだろ」
「そうなのか……」
甘んじて受け入れようとは思ったが、このままどうされるのか不安でしかない。
ユーリオは、私の前に跪いて股の間をまじまじと見つめてくる。恥ずかしすぎる。
そして、あろう事か服を切ったナイフでそこにある茂みを剃り始めた。
「待て! 待ってくれ!」
「ツルツルになったら子供みたいで可愛いだろ?」
「意味がわからないっ……!」
「ははっ。髪と同じ綺麗な金だったのにな」
ユーリオは鼻歌を歌いながら剃り尽くしてしまった……全部……。
剃った毛を綺麗に片付ければ、股の間にあった茂みがなくなってツルツルになってしまった。
茂みが無くなった男の象徴が堂々とその姿を晒している。
「元々薄かったから綺麗に剃れたな」
嬉しそうにするユーリオにガックリと項垂れる。
股の間をスースーと風が通って行く気がする……。
なんて事をしてくれたのか。
「これでは訓練の後に大浴場に入れない……」
「入らなくていいさ。部屋に戻ってきて部屋のシャワーを使えばいい。他のやつにテオの裸見られないで済むな。それに、俺は汗臭いテオも好きだ」
私は気にすると前にも言ったと思う。
ユーリオは、ルンルンと機嫌が良く、音符まで見えそうだ。
「もう気が済んだだろ……?」
気力がごっそり持っていかれた。
「何を言ってるんだ? これからだろ?」
「こ、これ以上何をすれば許してもらえるんだ……」
「そうだなぁ。俺の気持ちをたっぷり味わってもらおうか──」
妖艶に微笑むユーリオにゴクリと喉を鳴らす。
ユーリオは、従者が持って来たチョコレートを一粒口に含むと私の唇を奪う。
お互いの口の中でドロドロに溶け合うチョコレートが脳内を甘く痺れさせる。
目の前のユーリオの事しか考えられなくなりつつあった。
ドロドロのチョコレートを唾液と一緒にゴクリと飲み下す。
長いキスが終われば、はぁはぁと呼吸を整える。
「口の端に付いてる……」
ぺろぺろと口の端を舐められながら、視線の先に従者達がまだいることに気付く。
従者の三人は、跪いたまま椅子の周りから動かない。
「ユーリオ……従者を下がらせてくれ……」
「見られながらするの嫌いだろ? テオの嫌がる事しなきゃ罰にならない」
そう言いながら、太ももの内側を撫でてくる。男の象徴が先ほどのキスで少し反応しているのを見つけてクスリと笑う。
動きたいのに縛られた腕がギチッと鳴って動く事を許さない。
「ちょ、ちょっと待って……」
「待たない」
ユーリオは、ニコニコしながら私の前に再び跪いて、半勃ちだった私のモノをゆるゆると扱き始めた。
茂みが無くなった分、心なしかいつもより感じやすい気がする。
「ユーリオ……」
吐息混じりで名前を呼べば、上目遣いでうっとりしながら微笑む。
「テオのおっきくなってきたな……」
ユーリオに与えられた快感で先走りの蜜が溢れてくる。
「先っぽをグリグリされるの好きだよな。ほら、見てよ……」
蜜が溢れる場所を人差し指でグリグリと弄られた。
「すごい……グチュグチュになってきた……たまんない……」
ユーリオは、そこに顔を寄せて舌先でチロチロと舐め回した。
「っ……」
呼吸が荒くなり、舐めまわされる快感に支配されて行く。
「ユーリオ……君に触りたい……」
されるのもいいが、気持ち良くしてあげたい。
「らめ……」
咥え込んでジュブジュブとわざと音を立てて上下に動かされた。
呼び起こされた快感を頂点へと押し上げていく。
そこで、従者の一人と目が合った。気まずくて目を逸らす。
「見ないでくれ……」
見られているという事実で羞恥心が蘇ってきた。だと言うのに、ユーリオの口の中で自分自身が大きくなっていく。
「それ以上はダメだ……! イってしまう……」
「んふっ……」
ユーリオはお構いなしで私を翻弄した。
茂みがあった場所をスリッと撫でられた。今まで触れられた事のない場所を撫でられてゾクゾクが止まらなかった。
「……っ!」
ユーリオの口内で一気に熱が弾ければ、背筋を快感が駆け抜けて、呼吸も荒くなる。
ユーリオは私の出した白濁をそのままゴクリと飲み下した。
ユーリオ以外に見られながらイクなんて情けない。
「ご馳走様。でも、まだまだこれからだからね」
恍惚とした表情で服を脱ぎ出すユーリオを見つめながら、この後の展開に期待した。
◆◇◆
その後、椅子に縛られたままユーリオに何度もイカされた。ぐったりすると拘束を解いてベッドに移動して、ベッドの上でも散々私を翻弄した。
気を失うように眠って、起きた時には全裸だった。服は見つからず、全裸では小屋の外に出る事も出来ずに諦めた。
一度諦めてしまえば、あとはユーリオとの時間をたっぷりと味わうだけだった。
茂みが無くなった分、ユーリオの奥まで届くらしく、とても喜んでもらえた。
ユーリオは、自分の茂みも剃ってしまい、それもまた気に入ったらしい。肌の当たる部分が増えて、より近くに感じられた気がする。あんなにも無我夢中で求め合ったのは新婚以来だ。
予想外に濃厚な3日間を過ごす事になり、解放された時には、もう二度と同じ過ちは起こさないと心に誓ったのだった。
◆◇◆
(テオドルが合宿に行った日)
ユーリオは、全部知っていた。
合宿がバレンタインデーに重なっていた事もテオドルが何か言いたそうにしながらも、何も言えずにいた事も。
起き出して、置き手紙を見てニヤリと笑う。
「黙って行く事を許して欲しい。帰って来たら何でも言う事を聞く……ねぇ」
ユーリオがテオドルの予定を把握していないわけがないのに、そんな事も考えられないほど悩んでいたかと思うと面白くなる。
確かにユーリオは、合宿があると知った時、色んな所に根回しをしてテオドルを行かせないつもりだった。けれど、もっと楽しい事を思いついてしまった。
「だったら、俺が一緒に行けば、そこで何でも言う事聞いてもらっても変わらないよな。テオ……俺から逃げられると思うなよ──」
ニヤリと笑うと従者を呼んだ。
テオドルに何をしてあげようかと考えるだけで、ユーリオの胸に愛おしさが溢れた。
綺麗な長い金髪を靡かせて、妖艶な魅力を纏いながら、私の首に腕を回して抱きついてくるユーリオに困った顔を向ける。
夫夫ではあるが、仕事の途中だ。
「新しい下着を買ったんだ。異国のものらしいが、テオも見たいだろ?」
「いや……(みたい!!)まだ昼間だ」
「いいだろ? 少しだけ……な?」
「ダメだ……」
そう言いながらも自分の手は、ユーリオの背中に移動してそっと抱き寄せてしまう。
手が勝手に!
ユーリオはクスクスと笑った。
「言葉と態度が逆だよ」
「うぅ……」
まだ昼間で、仕事の報告に来て騎士塔に戻る所でユーリオに声を掛けられた。人気のない一室に連れてかれて壁を背にしながら、ユーリオの誘惑と戦う。
大概私は誘惑に負ける。「今日こそは断るぞ!」と、そんな風に意気込んで深く息を吐いた。
「ユーリオ、私は──ちょ、待ってくれ……!」
体をすり寄せて耳を甘噛みされて震えた。
「ははっ。かぁわいい」
顔を上気させて得意げに笑うユーリオの顔を見ると『すき!』としか考えられなくなり、何も言えなくなる。
ユーリオにペロリと唇を舐められた。そのまま深く口付けられそうになった時にバタンッと勢いよく扉が開いた。
「ユーリオ様、テオを返して頂きたい」
そこにやって来たのは、同じ教官として働くレグナだった。
「こうなると思ってました。飽きもせず毎回毎回、何を考えているんですか!」
「昼間に誘うのは久しぶりだ」
「だから、誘うなって言ってるんですよ! テオはユーリオ様に弱いんですから!」
全くその通りだ。
レグナに引き離されて、やっとの事で無くなった理性を取り戻してくる。
「ユーリオ、そういう事だから私は行く」
「えぇー! いいとこだったのに!」
「す、すまない……」
泣く泣くユーリオを振り切るように部屋から出た。
レグナと一緒に騎士塔に戻りながらため息をつく。
「すまなかったな」
「どうしようもない王子ですよ。テオを見るとすぐに飛びつく」
レグナの言いように苦笑いする。
「そう言うな。なかなか会えない時もあるからな。側にいる間は一緒にいたいんだろう」
自分自身もそうであり、ユーリオの気持ちがわからなくもない。
「そうやって甘やかすから、つけ上がるんですよ!」
レグナの剣幕に苦笑いする。確かに昼間の誘惑はやめて欲しい。
「ところで、この国にはバレンタインデーというものがある事をご存知ですか?」
レグナの言葉に首を傾げた。
「バレンタインデー?」
「私も最近知ったのですが、お世話になった相手や意中の相手にチョコレートを贈るらしいです」
「そんなものがあるのか? 我々の国にはなかったな」
「ええ。だから、我々は騎士強化訓練合宿の日程を思いっきり被せてしまいましたね」
「そうなのか……?」
まさかそんなイベントがあるとは思っていなかった。
見習い騎士達の強化の為に合宿を行う事になっている。合宿の日程は今更変えられない。
「みんな何も言わなかったな……」
「見習い騎士は若者が多いですし、そういう相手もいないんです」
「なるほど」
「テオはユーリオ様と過ごせないんじゃ、まずいんじゃないですか?」
「そんなわけ──あるのか……?」
レグナとの会話を笑い飛ばそうとしたけれどできなかった。
これは困った事になった。
合宿は、城から離れた山を借りて泊まり込みだ。その間にユーリオと一緒に過ごせるはずがない。
「一緒に過ごせないくらいで怒ったりしないよな?」
「どうですかね。ユーリオ様ですからね。テオが合宿に行けないように画策するんじゃないですか?」
「笑えない冗談はやめろ」
「冗談じゃないですよ。私だって笑ってないじゃないですか」
その通りだ。レグナは至って真剣だ。
「来れなくならないようにして下さいよ」
「ああ……どうにかする……」
でも、どうしようか……。
しばらく悩む事になってしまった。
◆◇◆
悩んでいる間に時間が経過してしまい、当日になってもユーリオに合宿の事を言えないでいた。
「まずい……まずいぞ……」
まだユーリオがぐっすりと寝ている時間に起き出して、ぐるぐると考え込む。
もう準備はできていた。出発の時刻になる前に話したい。けれど、行かせないと言われてしまったら、抵抗なんて出来そうもない。
「ユーリオ……すまない……」
私は、置き手紙を書いてテーブルの上に置き、そっと部屋を抜け出した。
◆◇◆
山小屋を中心にテントを張って団員達と訓練に入る。
「今日の訓練は、鬼ごっこだ」
団員達が不思議そうに私を見つめてくる。
「範囲はこの山全体だ。ここにいる五人の教官の誰かを捕まえてサインを貰えれば今日の訓練は終わりだ。終わった者から教官で用意した食材を使って夕食を作るといい」
山小屋の外に並べた食材達を見て、団員達はゴクリと喉を鳴らした。
高級ステーキ肉や果物など、たくさんの食材がならべられていた。
「遅い奴は良い食材が無くなる。教官もありとあらゆる手を使って逃げ切るからな。敵の間者を捕まえると思って真剣にやるんだ」
全員が良い返事をすれば、教官は先に森の中へバラけて入って行く。
私は一気に遠くへ逃げた。
茂みの中を体勢を低くしてしゃがみ込む。見習い騎士の気配を感じれば、息を殺して見つからないようにした。
しばらくして、そこにあった木に登り、息を潜めて周りの様子を窺う。
それからまた時間が経つと、数人がそこを通り過ぎたのを見送った。
(見つかる事はなさそうだ)
そう思って気を抜いた瞬間に背後からポンッと肩を叩かれた。
びっくりして木から落ちたけれど、体勢を立て直して膝をつくように着地する。
それと同時に上から声を掛けられた。
「テオ、受け止めて!」
返事をする前に見上げた人物は、木々の隙間から覗く太陽の光を背に、まるで天使の羽根でもあるかのように私に向かって飛び降りてきた。
長い金の髪が重力に逆らうようにフワリと浮いていて神秘的だった。
反射的に抱き込むように受け止めれば、そのままドシャリと後方に倒れてしまった。
(て、天使を捕まえてしまった!)
背中が痛いだとか、そんな事よりもその事でドキドキと心臓が早鐘を打つ。
「ナイスキャッチ」
鼻歌を歌うように言った人物を見て、改めて驚いていた。
「ユーリオ……」
「びっくりしただろ?」
ニヤリと笑う顔は、自信に満ち溢れていて格好いい。見れば、見習いの騎士服を着ている。
「その格好は……?」
「俺もこの訓練に参加する事にしたんだ」
「なんだって?」
呆然としている間に、ユーリオはギュッと抱きしめてくる。
「捕まえた」
(しまった! あっさりと捕まってしまった!)
「好きな食材を選んでいいんだろ? 俺はお前にする」
「な、何を言っているんだ」
「俺と一緒に来れば誰にも見つからない」
上から見下ろしていたユーリオは、顔の横にあった長い髪を耳に掛けた。そして、困り顔だった私の唇を奪った。
「……っ」
そのまま舌を絡められて、巧みな舌使いに翻弄される。
どこまでも甘い甘いキスだった。
ほんのりと顔を赤く染める私を見て、ユーリオは立ち上がって手を差し出してくる。
「一緒に来るだろ?」
得意げな顔で見下ろされれば、私は自然とその手を取っていた。
◆◇◆
ユーリオに連れて行かれたのは、地図には載ってない簡易的な山小屋だった。
中は、テーブルと椅子とシングルサイズのベッドがあるだけだった。
「こんな場所があったのか?」
「作った」
「え?」
「だから、数日前に作った」
なんて事ないように言われて言葉が見つからなかった。ユーリオの行動力は誰もが予想の上を行く。
「作ったって……」
「山に入ったやつが気軽に休める休憩所みたいなものだ。あって困るものじゃないだろ?」
「それは……そうなんだが……」
山小屋を作ってしまうとは思っていもいなかった。
一体何の為に……?
「そこ、座って」
ユーリオが指差したのは、ポツンと置いてある椅子だ。疑問に思いながらも言われた通りにその椅子に座る。
「手はこっちね」
前に伸びた肘掛けに手を乗せられた。
すると、どこから来たのかユーリオの従者達が音もなく現れた。
この三人は、いつもユーリオの言う事しか聞かない。
私に素早く近付く。
「っ!? ちょっと……!」
手首と足首を椅子の肘掛けと脚にしっかりと縛り付けられた。
体を拘束されて動けなかった。拷問を受ける犯罪者の気分だ……。
「ユーリオ……どういう事だ?」
「身に覚えないわけ?」
ユーリオは、私に近付くと目の前で見下ろしてくる。仏頂面で少し怒っていた。
思い当たる事は一つしかない。
「も、もしかして……置いていった事か?」
「せいか~い。テオは、俺に何も言わずにバレンタインをやり過ごそうとしただろ?」
「す、すまない……」
「言い訳しないんだよね。そういうところ好き」
怒られているのに照れる。
「それなら、これを外してくれないか?」
縛られるのは敵同士だった最初の時以来だ……自由を奪われるというのはいい気がしない。
「だぁめ。悪い事したらお仕置きしなきゃだろ?」
「お仕置きとは……?」
「お前は、俺とここで過ごす。合宿の三日間は出られないと思えよ」
「でも! 仕事が……!」
「話は通してある。知らないのはお前とレグナぐらいだ」
嘘だ……今の気持ちを何と表したら良いのか……。
頭を押さえたいのに手を縛られていてはそれもできない。
そういえば、小屋を作ったのは数日前だと言った。既に画策されていた事に慄く。
私はユーリオという男を甘く見ていた。
私の予定を何も知らないわけがなかったのだ。
「テオ、少しでも悪いと思ってるなら大人しくするんだ」
元はと言えば、悪いのは自分だ。バレンタインを知らなかったとはいえ、その日に予定を入れてしまった。それを話せずに置き手紙一つで許して貰おうなんて虫のいい話だった。
「……わかった」
何をされようとも、甘んじて受け入れようではないか。
そんな覚悟をしていれば、ユーリオが従者達に何かを合図した。
従者がどこからか小型のナイフを持ってきて、ユーリオに手渡した。
「一体何を……?」
「動くなよって、動けないか」
クスクスと笑うユーリオに嫌な予感しかしない。
されるがままでいれば、ユーリオにズボンとパンツを一緒に切られてしまった……。
ポロンと無造作に出てきてしまった男の象徴を隠したいのに隠せない。
「──……非常に恥ずかしいんだが……」
ユーリオだけじゃなく、従者達にも見られているという羞恥心で身体中が熱くなってくる。
「可愛いよ」
椅子に座ったまま下半身を露出する男が可愛い……ユーリオの感性が独特だと思う。
「もう気が済んだか?」
「まだまだに決まってるじゃないか。これで終わりだなんて意味ないだろ」
「そうなのか……」
甘んじて受け入れようとは思ったが、このままどうされるのか不安でしかない。
ユーリオは、私の前に跪いて股の間をまじまじと見つめてくる。恥ずかしすぎる。
そして、あろう事か服を切ったナイフでそこにある茂みを剃り始めた。
「待て! 待ってくれ!」
「ツルツルになったら子供みたいで可愛いだろ?」
「意味がわからないっ……!」
「ははっ。髪と同じ綺麗な金だったのにな」
ユーリオは鼻歌を歌いながら剃り尽くしてしまった……全部……。
剃った毛を綺麗に片付ければ、股の間にあった茂みがなくなってツルツルになってしまった。
茂みが無くなった男の象徴が堂々とその姿を晒している。
「元々薄かったから綺麗に剃れたな」
嬉しそうにするユーリオにガックリと項垂れる。
股の間をスースーと風が通って行く気がする……。
なんて事をしてくれたのか。
「これでは訓練の後に大浴場に入れない……」
「入らなくていいさ。部屋に戻ってきて部屋のシャワーを使えばいい。他のやつにテオの裸見られないで済むな。それに、俺は汗臭いテオも好きだ」
私は気にすると前にも言ったと思う。
ユーリオは、ルンルンと機嫌が良く、音符まで見えそうだ。
「もう気が済んだだろ……?」
気力がごっそり持っていかれた。
「何を言ってるんだ? これからだろ?」
「こ、これ以上何をすれば許してもらえるんだ……」
「そうだなぁ。俺の気持ちをたっぷり味わってもらおうか──」
妖艶に微笑むユーリオにゴクリと喉を鳴らす。
ユーリオは、従者が持って来たチョコレートを一粒口に含むと私の唇を奪う。
お互いの口の中でドロドロに溶け合うチョコレートが脳内を甘く痺れさせる。
目の前のユーリオの事しか考えられなくなりつつあった。
ドロドロのチョコレートを唾液と一緒にゴクリと飲み下す。
長いキスが終われば、はぁはぁと呼吸を整える。
「口の端に付いてる……」
ぺろぺろと口の端を舐められながら、視線の先に従者達がまだいることに気付く。
従者の三人は、跪いたまま椅子の周りから動かない。
「ユーリオ……従者を下がらせてくれ……」
「見られながらするの嫌いだろ? テオの嫌がる事しなきゃ罰にならない」
そう言いながら、太ももの内側を撫でてくる。男の象徴が先ほどのキスで少し反応しているのを見つけてクスリと笑う。
動きたいのに縛られた腕がギチッと鳴って動く事を許さない。
「ちょ、ちょっと待って……」
「待たない」
ユーリオは、ニコニコしながら私の前に再び跪いて、半勃ちだった私のモノをゆるゆると扱き始めた。
茂みが無くなった分、心なしかいつもより感じやすい気がする。
「ユーリオ……」
吐息混じりで名前を呼べば、上目遣いでうっとりしながら微笑む。
「テオのおっきくなってきたな……」
ユーリオに与えられた快感で先走りの蜜が溢れてくる。
「先っぽをグリグリされるの好きだよな。ほら、見てよ……」
蜜が溢れる場所を人差し指でグリグリと弄られた。
「すごい……グチュグチュになってきた……たまんない……」
ユーリオは、そこに顔を寄せて舌先でチロチロと舐め回した。
「っ……」
呼吸が荒くなり、舐めまわされる快感に支配されて行く。
「ユーリオ……君に触りたい……」
されるのもいいが、気持ち良くしてあげたい。
「らめ……」
咥え込んでジュブジュブとわざと音を立てて上下に動かされた。
呼び起こされた快感を頂点へと押し上げていく。
そこで、従者の一人と目が合った。気まずくて目を逸らす。
「見ないでくれ……」
見られているという事実で羞恥心が蘇ってきた。だと言うのに、ユーリオの口の中で自分自身が大きくなっていく。
「それ以上はダメだ……! イってしまう……」
「んふっ……」
ユーリオはお構いなしで私を翻弄した。
茂みがあった場所をスリッと撫でられた。今まで触れられた事のない場所を撫でられてゾクゾクが止まらなかった。
「……っ!」
ユーリオの口内で一気に熱が弾ければ、背筋を快感が駆け抜けて、呼吸も荒くなる。
ユーリオは私の出した白濁をそのままゴクリと飲み下した。
ユーリオ以外に見られながらイクなんて情けない。
「ご馳走様。でも、まだまだこれからだからね」
恍惚とした表情で服を脱ぎ出すユーリオを見つめながら、この後の展開に期待した。
◆◇◆
その後、椅子に縛られたままユーリオに何度もイカされた。ぐったりすると拘束を解いてベッドに移動して、ベッドの上でも散々私を翻弄した。
気を失うように眠って、起きた時には全裸だった。服は見つからず、全裸では小屋の外に出る事も出来ずに諦めた。
一度諦めてしまえば、あとはユーリオとの時間をたっぷりと味わうだけだった。
茂みが無くなった分、ユーリオの奥まで届くらしく、とても喜んでもらえた。
ユーリオは、自分の茂みも剃ってしまい、それもまた気に入ったらしい。肌の当たる部分が増えて、より近くに感じられた気がする。あんなにも無我夢中で求め合ったのは新婚以来だ。
予想外に濃厚な3日間を過ごす事になり、解放された時には、もう二度と同じ過ちは起こさないと心に誓ったのだった。
◆◇◆
(テオドルが合宿に行った日)
ユーリオは、全部知っていた。
合宿がバレンタインデーに重なっていた事もテオドルが何か言いたそうにしながらも、何も言えずにいた事も。
起き出して、置き手紙を見てニヤリと笑う。
「黙って行く事を許して欲しい。帰って来たら何でも言う事を聞く……ねぇ」
ユーリオがテオドルの予定を把握していないわけがないのに、そんな事も考えられないほど悩んでいたかと思うと面白くなる。
確かにユーリオは、合宿があると知った時、色んな所に根回しをしてテオドルを行かせないつもりだった。けれど、もっと楽しい事を思いついてしまった。
「だったら、俺が一緒に行けば、そこで何でも言う事聞いてもらっても変わらないよな。テオ……俺から逃げられると思うなよ──」
ニヤリと笑うと従者を呼んだ。
テオドルに何をしてあげようかと考えるだけで、ユーリオの胸に愛おしさが溢れた。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
33
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる