2023年おみなしづき季節外れのバレンタイン番外編集

おみなしづき

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攻め×攻め事情 【独占欲とバレンタイン】 ※R18あり

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 他人にも自分にも厳しい男美羽みはねと無口で強面の顔をした近嗣ちかつぐは、幼馴染であり、同じ大学の先輩と後輩だ。
 高校時代は、秘密の関係だった二人は、大学でキスをするという事で付き合っている事実を構内に知らしめた。そして二人でいる時間を増やす事に成功した。堂々と隣にいれるのは嬉しかった。
 けれど、美羽と一緒にいる時の近嗣が微笑むたびに周りがざわつく。
 鋭い瞳をした強面の近嗣には、考えられない可愛い顔をする時がある。その度に美羽の心はザワザワとしていた。

 今も、別の講義へ行く時にすれ違った美羽に気付いた近嗣が、フッと笑ったところだった。人前で笑うなんて、秘密の時では考えられない。

「みぃちゃん、会えたね」
「チカ……」

 そんな風に笑うなと言いたいが、美羽を見て笑った近嗣に嬉しいと思う自分もいる。

「何?」
「いや……何もない。頑張れよ」
「うん」

 控えめに手を振る近嗣が可愛い。
 一人でいる事が多かった近嗣が、友達と歩く姿に嬉しいと思うと同時にモヤモヤしてしまう。

 美羽の隣にいた友人である清斗きよとにクスクスと笑われた。

「美羽、行かないでって顔に書いてあるよ」
「うるさい」

 どうしてこんなにも胸がざわめくのか。

「チカちゃんて、ああやって笑うの美羽にだけだよ」
「知ってる……」

 だからこそ、他のやつに見せたくないと思う。子供っぽい独占欲だ。

「誰と一緒にいてもあんな風に笑ったとこ見た事ない。自信持っていいんじゃないか?」

 苦笑い混じりで言われて少し冷静になった。
 自分に向けられる顔というものが特別だと言われた気がして嬉しい。それと同時に清斗に慰められるなんてそんなにも余裕がなかったのかと悔しく思う。

「いいよなぁ。俺にはあんな風に笑ってくれないもん」
「お前と僕が同じはずがないだろう」
「はいはい。そうですよね。もうすぐバレンタインだろ? 一緒に過ごすならいいじゃんか」

 そうだ。もうすぐバレンタインだ。
 いつも料理上手な近嗣からチョコレートを貰っていた。今年もきっと貰えるはずだ。

「まぁ、頑張れよ」

 そう言われた時、何を頑張るのか美羽には意味がわからなかった。
 けれど、当日にその意味を思い知る事になる。

     ◆◇◆

「チカ……その荷物はなんだ?」
「貰った」

 バレンタイン当日に構内を歩いている時にすれ違った。
 手には紙袋を持っていて、中にチョコレートらしき箱がいくつか入っていた。

「チカちゃんすごいんですよ! 朝から声掛けられまくりです!」
「目つき鋭くても優しいってみんな知ってるもんね」

 近嗣の友人が嬉しそうにそんな事を言った。

「チカちゃん、何回か告白されてましたけど、断ってたので安心して下さいね!」
「なんだと?」

 またしても近嗣の友人の言葉に驚きを隠せない。
 美羽と近嗣が付き合っているという事は公然の事実だ。それなのに告白してチョコレートを渡す奴らを殴りたくなった。近嗣が美羽から誰かに乗り換えると期待されていると思うと余計に怒りが湧いてきた。

「みぃちゃんも毎年相変わらずだ」

 美羽の手にも同じぐらいのチョコレートがある。
 けれど、渡されるのは全て義理だ。近嗣のように本気で告白してくる相手はいない。
 近嗣に友達ができた事は喜ばしい事だ。けれど、それ以外の人が近嗣にちょっかいを出すのが面白くない。

「チカ、お前の一番は誰だ?」
「みぃちゃん」

 近嗣は、すぐに返事をした。本来なら嬉しいはずなのに、そんな言葉だけでは満足できなくなっていた。
 美羽の胸のモヤモヤが晴れない。

「僕は──……いや、何でもない」
「?」

 美羽は、心の中まで見透かされそうな近嗣の視線から目を逸らした。

「みぃちゃん、今日家来るよね?」
「悪いが……今日は行かない……」

 こんなモヤモヤとした気持ちで近嗣と一緒にいたら、八つ当たりしそうで怖かった。

「清斗、行こう」
「おい。いいのか?」

 美羽が、踵を返して歩き出そうとすれば、その腕を近嗣にガシッと掴まれて驚いた。
 振り返っても、真っ直ぐに美羽を見つめる近嗣の顔から視線を逸らしてしまう。

「ダメだ。行かせない。何が不満なのか言って」
「別に……そんなんじゃ……」

 近嗣の周りに嫉妬して、近嗣を自分だけのものにしたい……そんな事を言うのはかっこ悪い。 

「俺には言えない?」
「だから……何もないって……」
「嘘だ。だったら俺の目を見て言って」

 近嗣は、こういう時だけ強引だ。
 美羽は近嗣を真っ直ぐに見れなかった。

「──わかった。今日は来なくていい」
「……っ」

 そっと手を離されてしまった。
 美羽自身が言った事なのに、なぜだか突き放されたような気がした。
 美羽は、それ以上どうしたらいいのかわからなかった。

     ◆◇◆

 美羽は、家に帰って来てもグタグタと考えてばかりだった。
 自分の部屋のベッドで横になったまま動けずにいた。

「なんで行かないなんて言ってしまったのか……」

 自分だけの近嗣だとわかっているのに、感情というものは厄介で、思った通りにならない。少しいじけていたのかもしれない。
 近嗣に自分だけだと言ってほしかったのかもしれない……。

「チカ……」

 名前を呟いても虚しいだけだった。

 やっぱり会いたいと言うべきか?
 けれど、会うのも怖い。
 モヤモヤした気持ちのまま、寝返りを打ってため息をつく。

 すると、部屋のドアがノックされて上半身だけを起こして「はい」と返事をした。
 ガチャリとドアが開けられて、顔を覗かせたのは美羽の母親の愛美まなみだった。

「美羽、チカくんが来てくれたわよ」
「え……?」

 愛美の背後からペコリと頭を下げた近嗣を見て驚く。

「それじゃ、チカくん、ゆっくりしていってね」
「はい。ありがとうございます」

 近嗣は、美羽の部屋に入るとドアを閉めて美羽のいるベッドの端に腰掛けた。

「お前……どうして家に……?」

 美羽の質問に近嗣は真っ直ぐに美羽を見返した。

「今日、うちに来ないって言ってたから……」
「だから……代わりにうちに来たという事か……?」

 近嗣がコクリと頷いた。
 確かに会いたいと思っていたが、こんな形で会いに来てくれるなんて思ってもいなかった。

「それに、これ」

 近嗣に鞄から取り出した箱をスッと差し出された。
 美羽はそれを無意識に受け取った。

「バレンタイン……俺から渡してないから……」
「あ、ありがとう……」

 毎年貰っていた。今年は会わないと言ったので貰えないのだと思っていた。わざわざ届けに来てくれた近嗣に胸がいっぱいになる。

「あー……それじゃ、それだけだから……」

 近嗣は、立ち上がって帰ろうとする。

「待って!」

 思わずその腕を掴んだ。

「みぃちゃん?」

 ここでこのまま近嗣を帰してしまったら、絶対に後悔する。

「もう少し……一緒にいてくれないか?」
「いいの?」

 少し遠慮がちに問いかけてくる近嗣に、気を使わせてしまったのだとわかって美羽は自分が情けなくなった。

「いてくれ。僕が一緒にいたいんだ……」

 近嗣から貰ったチョコレートをベッドの端に置いて、ベッドに座り直した近嗣を思い切り抱きしめた。

「みぃちゃん、機嫌なおった?」

 モヤモヤとした気持ちよりも、もっと胸の奥がギュッとなる。近嗣の気持ちが嬉しかった。
 照れを隠すように近嗣をぎゅうぎゅうと抱きしめる。近嗣は、クスクスと笑いながら抱きしめ返してくれた。

「どうして不機嫌だったの?」
「…………」
「言いたくないならいいけど……」
「──……いや……嫌だったんだ……」
「何が?」

 近嗣が美羽を覗き込む気配がする。
 美羽は、顔を見られたくなくて近嗣の胸から顔を上げなかった。

「チカが……僕だけのものじゃなくなる気がして……」
「俺がチョコレート貰うの嫌だった?」
「違う。そういうのじゃないんだ……なんと言うか…………や…………っ」

 美羽のプライドが邪魔をして言うのを躊躇う。

「や?」

 近嗣は、不思議そうにする。

「……──やきもちだっ!」

 美羽は、意を決して叫んだ。
 恥ずかしくて近嗣が見れない。

「ふ……ふふっ」
「何を笑っている……」
「嬉しいと思って」

 近嗣の胸からそっと顔を上げれば、嬉しそうに微笑む近嗣が見れた。
 そのまま唇に落とされたキスに、美羽の気持ちがホワホワと浮き上がる。なんて自分は単純なのかと美羽は思う。

「ぼ、僕はなんとも言えない気持ちだったんだ……」

 おでこや目蓋、頬や鎖骨に近嗣からのキスの雨が降る。

「チカは僕のものだ……」
「うん。俺はみぃちゃんのもの……」
「んっ……」

 キスされると目の前にいる男が本当に自分のものだと確認できる気がする。

「みぃちゃんが望むなら、俺は誰とも話さない」
「っ……」
「誰とも目を合わせないし、笑わない。俺の世界をみぃちゃんだけにしてあげる」

 近嗣は、とても愛おしいものを見るような目で美羽を見つめてくる。
 それだけで充分だった。

「ばか……そんな事……望んでない……」

 近嗣なら、本当にそうしてくれると思う。けれど、美羽に心の余裕が出来れば、そんな無茶苦茶な事を望んだりはしない。

「バレンタイン、やり直そっか。俺の家に行こ」
「ああ。母さんに言ってくる」
「俺も行くよ」

 美羽と近嗣でリビングに行けば、愛美はお茶を飲んでいた。

「母さん、今日はチカの家に泊まる」
「わかったわ」

 愛美は、すぐに頷いてくれて、玄関まで見送りに来てくれた。
 近嗣は、靴を履くと愛美に顔を向けて姿勢を正す。

「愛美さん、俺、みぃちゃんとずっと一緒にいて、みぃちゃんの事、幸せにします」

 言葉も視線も真っ直ぐだった。

「まぁ」
「ばっ……!」

 美羽は、どうにか『ばか!』と言わずに言葉を飲み込んだ。近嗣が何を言い出すのかと慌てている。
 愛美は、驚いたものの、すぐに顔を綻ばせた。

「ふふっ。ありがとうね。チカくんが美羽とずっと一緒にいてくれてるの知っているもの。だから……なんて言うのかしら……一緒にいない方がおかしいのよね。どうぞ、この先も美羽をよろしくね」
「はい」

 ニコニコし合う二人に、なんとも言えない気持ちが湧く。
 美羽からしたら、どう取ったらいいのかわからない。母親は近嗣の言葉の意味に気付いてるのかいないのか……。

「チカ、行くぞ!」

 はっきりさせる勇気もなくて、すぐに玄関のドアを開けた。

「愛美さん、またね」
「ええ。いつでも来てね」

 家を出て、近嗣の家に向かいながら、近嗣に問いかけた。

「あれは……どういう意味だったんだ?」
「そのままの意味。ダメだった?」
「いや……」

 ダメなはずはない。親にあんな風に言ってくれるなんて、結婚の挨拶みたいだった。

『みぃちゃんとずっと一緒にいて、みぃちゃんの事、幸せにします』

 心の中で反芻はんすうすれば、例え様のない気持ちに胸がいっぱいになる。
 愛美に伝わっているのかどうかはわからないが、美羽には充分に伝わってきた。

「う……嬉しかった……」

 素直に答えれば、とても幸せそうに笑った近嗣にこれ以上ないくらい満たされた気がした。

     ◆◇◆

 近嗣のアパートに移動してすぐに、近嗣から唇を奪われる。
 近嗣の手が美羽の気持ちを昂らせるように動く。
 嬉しそうに笑う近嗣に美羽は身を任せる。
 ドサリと布団に倒れ込んで、美羽の眼鏡を外して無我夢中で求め合う。

「今だけは……僕を甘やかしてくれ……」
「うん……」

 近嗣が嬉しそうに笑う。
 服を脱がされて、胸の突起に吸い付かれた。

「あっ……」
「覚えておいて……俺がこんな風に触れるのは、みぃちゃんだけ……」

 優しく、それでいて美羽の快感を煽るように近嗣が素肌に触れてくる。
 こんな風に触れるのは自分だけ……それが心地良かった。

「もっと教えてあげる……」

 尻の蕾に触れて優しく中をかき混ぜられた。
 近嗣の手で時間をかけてゆっくりと蕩けさせられる。

「あっ……! んっ……」

 快感の波に溺れそうになるのを近嗣に縋り付く事で必死に耐えた。

「チカ……」

 蕩けた顔で見つめれば、近嗣がゴクリと喉を鳴らした。
 美羽だけが知っている欲情した近嗣だ。その顔がもっと見たいと思った。

「もっと……もっと僕に教えてくれ……」
「みぃちゃん……大好き……」

 繰り返されるキスの合間に服を脱いだ近嗣は、優しく美羽の中に侵入してきた。
 誰も見た事がない近嗣の快感に歪む顔を見上げれば、美羽の胸を愛おしさで満たす。

(この瞬間を知っているのは僕だけだ……)

 それがとても嬉しかった。

     ◆◇◆

「みぃちゃんは、抱かれる事に慣れてきてるね」

 抱き合って横になっていれば、そんな事を言われた。

「今日は特別だ!」
「いたたた……」

 近嗣の頬を引っ張って黙らせる。

「僕はチカを抱く事を諦めていない」

 確かに抱かれる事には慣れてきていたけれど、甘く蕩けた近嗣を見たいとも思う。

「まだそんな事言ってる……」
「抱かせて欲しい」

 美羽が真剣な顔を向ければ、近嗣は少し悩んでからコクリと頷いた。

「わかった。明日はみぃちゃんの好きにしていい……」
「ほ、本当だな!?」
「その代わり──」

 近嗣は、美羽の上に移動するとキスしてくる。

「今日は俺の自由にさせてもらうよ」
「わかった。チカの好きにしていい……」
「遠慮しないからね」
「あっ……」

 近嗣は、言葉通りに遠慮なく美羽に触れてきた。
 二度目の挿入は容易く、気持ち良さに震えた。
 近嗣が、美羽の気持ち良い所を突いた。

「あっ……! んっ、ん、んんっ!」
「ほら、声、我慢しないで」
「さっきは、んっ、もっと、優しかった……! あっ!」

 近嗣が快感を煽るように容赦なく突いてくる。
 内壁を擦る感触が気持ち良くて、訳がわからなくなりそうだ。

「ちょ、あっ、待って……!」
「みぃちゃんは、俺の愛をたっぷり味わうべきだ」
「ちか……っ!」
「ほら、ギュッとしまった……もうすぐイキそうだ……」

 嬉しそうな近嗣を見て悔しい思いをする。

「好きにしていいって言ったのはみぃちゃんだ。これが終わったら……次は後ろから……ね」
「あっ、ああっ──!」

 美羽は、声も我慢できずに近嗣に翻弄されて行った。

     ◆◇◆

 近嗣にめちゃくちゃに抱かれてしまった美羽は、次の日は動けなかった。
 声が掠れるまで抱き潰されてしまった。

「みぃちゃん、俺の事好きにしていいよ」

 楽しそうにそんな風に言ってくる近嗣が憎らしい。

「最初から僕が動けなくなるまでやるつもりだったんだろ……?」
「ふふっ。みぃちゃん、大好き」

 布団に入ったまま動けずにいる美羽に擦り寄る近嗣の頭をポカリと叩く。

「今日はもう動けない……来年は覚えてろよ」
「来年もいっぱい愛してあげる」

 そう言って笑い合う二人には、この先の未来にお互いがいない事が想像できなかった。

     ◆◇◆

 美羽は、家に帰ってきて、ベッドの端に置いたままだった近嗣から貰ったチョコレートの箱を開けた。
 中に入っていた一口サイズのチョコレートを口に運んで食べれば、口の中に広がった甘さに顔を綻ばせる。
 この先もずっと近嗣と共にいる未来のために、今日も頑張ろうと思った。
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