3 / 21
逃げたいです
しおりを挟む
授業前の休み時間に、一階にある自分の教室から窓の外を見ていた。
「何見てんの? 二年? これから体育か?」
矢内和也が声を掛けてきた。
同じクラスの友人だ。
「やっぱりあれ……二年生なんだ……」
「誰か探してんの?」
「別に」
あの後、駅に着いて猛ダッシュで逃げた。
人生で一番早く走れたような気がする。
学校のトイレで、鏡に写った自分の首を見た。
チラリとシャツの隙間から見える歯形が気分を重くした。
絆創膏を貼ったけれど恥ずかしい。でも、歯形を見られるよりマシだ。
「あ、あの人……八木澤先輩かな?」
「え⁉︎」
思わず和也の指差した方向に視線をやる。確かに先輩がいた。
「和也知ってんの⁉︎」
思わず食い気味に反応してしまった。
「知ってるよ。入学したての俺ら一年でだって噂になる人だぞ。すごいイケメンでモテるみたいだ。ただ、癖のある人だって話だよな」
「その情報、もっと早く欲しかった……」
俺、あの人に噛まれたんだぞ!
とにかくもう関わり合いたくない。
「あ、ほら、こっち見た」
一瞬目が合った気がして、思わず背中を向けて窓の下に隠れてしまった。
和也は俺を不思議そうに見たけれど、すぐに窓の外に視線を戻す。
「和也……あの人……何してる?」
「まだこっち見てる」
「まじで? あの人いなくなったら教えて……」
「無理だな」
「な、なんでだよ?」
「だって、こっち来たもん」
「はぁ⁉︎ なんで⁉︎」
言うと同時に、上から頭をガシッと掴まれた。
そっと見上げれば、笑顔の先輩が俺の頭を鷲掴みしていた。
窓閉めときゃ良かった。
「トモくん、先に行っちゃうなんて酷いなぁ」
笑顔なのに指に強めに力を込められてちょっと痛い……。
この人に名前を名乗ってしまったのは間違いだった。
「あ……ははははっ……に、日直だったのを思い出しまして……」
「じゃあ、なんで今隠れたんだ?」
「か、隠れたなんて……ま、まさか……そんな事しませんよ……。け、消しゴム落としちゃって……」
俺の目がジャブジャブと勢いよく泳いでいる。
「だったら、俺の誘いを断ったりしないよな? トモくん、お昼は俺と食べよう」
「え⁉︎ と、友達と教室で食べているので無理です!」
この人とお昼食べたら何をされるのかわからない。
「友達って彼?」
「はい。和也って言うんです」
「ども」
ペコリとお辞儀をした和也を見て、先輩が目を細めたような気がする。
「ふぅん……お昼、トモくんの事借りるけどいいよな?」
和也にダメって言ってと目で訴える。
「はい」
笑顔で返事するな!
ダメって言ってくれ!
先輩は、鷲掴みにしていた俺の頭を離すとポンポンと叩いた。
「立ったら?」
「は、はい……」
逆らってはいけない何かが先輩にはある。
のっそりと立ち上がると、ガシッと俺の肩を掴んで背後から俺の耳元に顔を近付けて囁いた。
「迎えに来てあげるから……待ってろよ」
待ってろよ──低い声で耳元にそっと囁かれた言葉が頭に響く。
嫌ですと言いたいのに言えない。
先輩を見つめれば、フッと微笑んでから校庭へ戻っていった。
血の気が引いて、胸はバクバクだ。
よし……全力で逃げよう。
「何見てんの? 二年? これから体育か?」
矢内和也が声を掛けてきた。
同じクラスの友人だ。
「やっぱりあれ……二年生なんだ……」
「誰か探してんの?」
「別に」
あの後、駅に着いて猛ダッシュで逃げた。
人生で一番早く走れたような気がする。
学校のトイレで、鏡に写った自分の首を見た。
チラリとシャツの隙間から見える歯形が気分を重くした。
絆創膏を貼ったけれど恥ずかしい。でも、歯形を見られるよりマシだ。
「あ、あの人……八木澤先輩かな?」
「え⁉︎」
思わず和也の指差した方向に視線をやる。確かに先輩がいた。
「和也知ってんの⁉︎」
思わず食い気味に反応してしまった。
「知ってるよ。入学したての俺ら一年でだって噂になる人だぞ。すごいイケメンでモテるみたいだ。ただ、癖のある人だって話だよな」
「その情報、もっと早く欲しかった……」
俺、あの人に噛まれたんだぞ!
とにかくもう関わり合いたくない。
「あ、ほら、こっち見た」
一瞬目が合った気がして、思わず背中を向けて窓の下に隠れてしまった。
和也は俺を不思議そうに見たけれど、すぐに窓の外に視線を戻す。
「和也……あの人……何してる?」
「まだこっち見てる」
「まじで? あの人いなくなったら教えて……」
「無理だな」
「な、なんでだよ?」
「だって、こっち来たもん」
「はぁ⁉︎ なんで⁉︎」
言うと同時に、上から頭をガシッと掴まれた。
そっと見上げれば、笑顔の先輩が俺の頭を鷲掴みしていた。
窓閉めときゃ良かった。
「トモくん、先に行っちゃうなんて酷いなぁ」
笑顔なのに指に強めに力を込められてちょっと痛い……。
この人に名前を名乗ってしまったのは間違いだった。
「あ……ははははっ……に、日直だったのを思い出しまして……」
「じゃあ、なんで今隠れたんだ?」
「か、隠れたなんて……ま、まさか……そんな事しませんよ……。け、消しゴム落としちゃって……」
俺の目がジャブジャブと勢いよく泳いでいる。
「だったら、俺の誘いを断ったりしないよな? トモくん、お昼は俺と食べよう」
「え⁉︎ と、友達と教室で食べているので無理です!」
この人とお昼食べたら何をされるのかわからない。
「友達って彼?」
「はい。和也って言うんです」
「ども」
ペコリとお辞儀をした和也を見て、先輩が目を細めたような気がする。
「ふぅん……お昼、トモくんの事借りるけどいいよな?」
和也にダメって言ってと目で訴える。
「はい」
笑顔で返事するな!
ダメって言ってくれ!
先輩は、鷲掴みにしていた俺の頭を離すとポンポンと叩いた。
「立ったら?」
「は、はい……」
逆らってはいけない何かが先輩にはある。
のっそりと立ち上がると、ガシッと俺の肩を掴んで背後から俺の耳元に顔を近付けて囁いた。
「迎えに来てあげるから……待ってろよ」
待ってろよ──低い声で耳元にそっと囁かれた言葉が頭に響く。
嫌ですと言いたいのに言えない。
先輩を見つめれば、フッと微笑んでから校庭へ戻っていった。
血の気が引いて、胸はバクバクだ。
よし……全力で逃げよう。
25
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
偽物勇者は愛を乞う
きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。
六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。
偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
藤吉めぐみ
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる