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高校に入学して隣の席になった男は、風に揺れる黒髪と笑うと目尻に皺が寄るのが特徴的な男だった。
緩くパーマが掛かっているかのような癖毛と、二重の瞼がくっきりとしている俺とは正反対に見える。いつも穏やかで大笑いをした所は見た事はない。
決して拒絶しているわけではないのに、いつも他人と一歩引いているかのようなそいつに自然と目が行った。暗い影を落としているような……そんなやつだ。
一番後ろの席で机に突っ伏しながら横目でチラリと盗み見れば、背筋は良くノートに視線を落として書き込む姿が綺麗だ。
「大滝……おい! 大滝!」
俺だ!
「は、はい!」
慌てて立ち上がれば、先生に睨まれる。
「大滝、ちゃんと聞いていたのか?」
「あ……えっと……聞いて……ませんでした……」
関口に見惚れて聞いてなかったなんて……自分が信じられない。
相手は同級生の男だ。
「お前。放課後にみんなのノート集めて持ってこい」
先生に呆れたように言われて、クラスの奴らにクスクスと笑われてしまった。
「はーい……」
仕方なく了承すれば、隣にいた関口もクスクスと笑っていた。
「笑うな」
小声で抗議する。
「ふふっ。ごめん」
柔らかい笑顔のままそんな事を言われて照れ臭かった。
こいつは男だ。俺と同じ男……それなのに、胸が高鳴る自分がそこにいた。
◆◇◆
「僕で最後みたい」
放課後にみんなのノートを集めていれば、関口も俺の所にノートを持ってきた。
「そうだな。じゃあ、持っていくな」
ノートを持って移動しようとしたら、関口は俺に優しく微笑んだ。
「待って、大滝。僕と一緒に帰らない?」
思いがけない誘いに動揺しそうになるのを堪えて頷いた。
「あ、ああ! すぐ置いてくるから待ってろよ!」
「うん」
心なしか足取りは早く、職員室までの道のりが遠く感じる。
先生の所にノートを持っていけば、不思議がられた。
「何笑ってんだ? 何かいい事でもあったか?」
そう言われて初めて、口元がニヤけていた事に気付く。
「なんでもないっすよ! もういいですよね?」
「ああ。授業はちゃんと聞くんだぞ」
「はーい。わっかりましたぁ」
「まったく」
先生に呆れられながらも、早く関口の所へ行きたいと思ってしまう。
急いで戻った教室にいた関口は、俺に気付くと優しく微笑んだ。
「お帰り」
「た、ただいま」
心臓がうるさく鳴るのは、きっと走ってきたからだ。
「それじゃ、帰るか」
「うん」
誤魔化すように帰ろうとする俺に関口は穏やかに笑って返してきた。
そうやって話すようになれば、色々とわかった事がある。
関口の家は、俺と同じ方角で意外と近いだとか、父親と二人暮らしだとか、本も読むけれど漫画もゲームも好きだとか。
関口の名前が桜司だった時も少し興奮した。
「もしかして、お前って春生まれ?」
「そう。時春もそうなんでしょ?」
二人の共通点を見つける度に、俺は嬉しい気がしていた。
「お互いに誕生日はもう終わったか」
「そうだね」
「来年は祝えたらいいよな!」
「うん……そうだね」
来年の約束とまではいかないが、勝手に自分で約束した気になって浮かれてしまう。
お互いに家を行き来するようになり、放課後は二人で遊んで帰ってくる。
そんな生活が当たり前になって行った。
けれど、いつの間にか親友みたいに一緒にいるようになった俺達に、俺は危機感を覚え始めていた──。
女といるよりも、男である桜司と一緒にいたいなんて気持ちは普通なんだろうか。
友人同士ならあり得るかもしれない気持ちに後ろめたさを感じるのは、俺が桜司を性的に見ているからか……。
どうしても受け入れられなくて、女とも遊ぶようになる。
「桜司、今日は一緒に帰れない。悪いな」
こんな風に一緒に帰らなくなったのは何度目か。ここの所、ずっとかもしれない。
「うん……わかった」
少し寂しそうに微笑んだ気がするのは、寂しいと思ってほしいと願う俺の願望なんだろうか……。
桜司を気にしながらも、女友達の雛と一緒に歩き出す。
校門を出て歩きながら二人で話す。
こうやって雛と一緒に遊ぶ事も確かに楽しい。
「時春、今日はどこに行く?」
「どうするか?」
「私の家、来ない?」
チャラい見た目の俺に、意味深な誘い方をしてくる女は何人か経験がある。
誘われても、先ほどの桜司の顔がチラついて離れなかった。
「あー……悪いな。そういうのはいいや」
「なんでぇ?」
「だって俺達、付き合ってないだろ?」
そういうのは好きな人としたい。
「時春って見た目はチャラい癖に変なとこ真面目ぇ」
「やっぱり好きな相手と付き合ってからだと思うのは当然だろ?」
「それって私の事好きじゃないって事でしょう? 他に好きな人がいるの?」
好きな人──パッと桜司が思い浮かんでしまって立ち止まる。
これって確定だよなぁ……雛の事を好きになれるかもしれないと思っていたのに……。
認めたくなかった事実と向き合わされてしまった。
「なんで時春がそんな辛そうな顔するのよ。失恋してるの私なんですけどぉ」
雛は、不満そうに唇を尖らせた。
俺は今、辛そうな顔をしてるのか?
「俺、辛そう?」
「とっても。もう振られてるんでしょ? だったら、諦めたら?」
「いや……振られてはいない……けど……」
男を好きになって……あり得ないって否定して、それでも好きってすごい事なんじゃないのか?
距離を置いて、余計に相手の事を考える時間が増えた。一緒にいなくてもその人の事考えちゃうなんて……。
──俺はこんなにもあいつが好きだったらしい。
「なぁにぃ? 今度は笑ってて気持ち悪いよ……」
すごく大笑いしたい気分だ。
俺の中で、何か吹っ切れたような気がする。
「そっか。そうだな……誤魔化してばっかじゃ……ダメだよな。お前の気持ち、ありがとな。でも俺、好きな人いるわ」
今すぐ桜司に会いたい。
「改めて振るんて……鬼みたい。でも、私は時春のそういう所が好きなんだと思う」
「今まで遊んでくれてありがとな」
「ばか。時春だから遊んでたに決まってるでしょ。振られたら私が付き合ってあげてもいいよ。私が新しい恋をする前だったらね」
そんな風に言って明るく笑ってくれる雛は、すごくいい女だと思う。それでも好きにはならなかった──。
「お前、いい女だから俺じゃない誰かを好きになれよ」
「言われなくてもそうしますぅ。好きな人とやらの所に行くんでしょ? 早く行っちゃえ」
背中を向けた雛にありがとうともう一度言って、学校へ逆戻りだ。
桜司は、まだ帰ってないといい。
男同士だからといっぱい考えすぎていた。
ずっと隣の席のあいつを見ていたんだ。
答えなんてひとつしか無かった。
俺は、関口桜司が好きだ──何も悪い事なんてない。
緩くパーマが掛かっているかのような癖毛と、二重の瞼がくっきりとしている俺とは正反対に見える。いつも穏やかで大笑いをした所は見た事はない。
決して拒絶しているわけではないのに、いつも他人と一歩引いているかのようなそいつに自然と目が行った。暗い影を落としているような……そんなやつだ。
一番後ろの席で机に突っ伏しながら横目でチラリと盗み見れば、背筋は良くノートに視線を落として書き込む姿が綺麗だ。
「大滝……おい! 大滝!」
俺だ!
「は、はい!」
慌てて立ち上がれば、先生に睨まれる。
「大滝、ちゃんと聞いていたのか?」
「あ……えっと……聞いて……ませんでした……」
関口に見惚れて聞いてなかったなんて……自分が信じられない。
相手は同級生の男だ。
「お前。放課後にみんなのノート集めて持ってこい」
先生に呆れたように言われて、クラスの奴らにクスクスと笑われてしまった。
「はーい……」
仕方なく了承すれば、隣にいた関口もクスクスと笑っていた。
「笑うな」
小声で抗議する。
「ふふっ。ごめん」
柔らかい笑顔のままそんな事を言われて照れ臭かった。
こいつは男だ。俺と同じ男……それなのに、胸が高鳴る自分がそこにいた。
◆◇◆
「僕で最後みたい」
放課後にみんなのノートを集めていれば、関口も俺の所にノートを持ってきた。
「そうだな。じゃあ、持っていくな」
ノートを持って移動しようとしたら、関口は俺に優しく微笑んだ。
「待って、大滝。僕と一緒に帰らない?」
思いがけない誘いに動揺しそうになるのを堪えて頷いた。
「あ、ああ! すぐ置いてくるから待ってろよ!」
「うん」
心なしか足取りは早く、職員室までの道のりが遠く感じる。
先生の所にノートを持っていけば、不思議がられた。
「何笑ってんだ? 何かいい事でもあったか?」
そう言われて初めて、口元がニヤけていた事に気付く。
「なんでもないっすよ! もういいですよね?」
「ああ。授業はちゃんと聞くんだぞ」
「はーい。わっかりましたぁ」
「まったく」
先生に呆れられながらも、早く関口の所へ行きたいと思ってしまう。
急いで戻った教室にいた関口は、俺に気付くと優しく微笑んだ。
「お帰り」
「た、ただいま」
心臓がうるさく鳴るのは、きっと走ってきたからだ。
「それじゃ、帰るか」
「うん」
誤魔化すように帰ろうとする俺に関口は穏やかに笑って返してきた。
そうやって話すようになれば、色々とわかった事がある。
関口の家は、俺と同じ方角で意外と近いだとか、父親と二人暮らしだとか、本も読むけれど漫画もゲームも好きだとか。
関口の名前が桜司だった時も少し興奮した。
「もしかして、お前って春生まれ?」
「そう。時春もそうなんでしょ?」
二人の共通点を見つける度に、俺は嬉しい気がしていた。
「お互いに誕生日はもう終わったか」
「そうだね」
「来年は祝えたらいいよな!」
「うん……そうだね」
来年の約束とまではいかないが、勝手に自分で約束した気になって浮かれてしまう。
お互いに家を行き来するようになり、放課後は二人で遊んで帰ってくる。
そんな生活が当たり前になって行った。
けれど、いつの間にか親友みたいに一緒にいるようになった俺達に、俺は危機感を覚え始めていた──。
女といるよりも、男である桜司と一緒にいたいなんて気持ちは普通なんだろうか。
友人同士ならあり得るかもしれない気持ちに後ろめたさを感じるのは、俺が桜司を性的に見ているからか……。
どうしても受け入れられなくて、女とも遊ぶようになる。
「桜司、今日は一緒に帰れない。悪いな」
こんな風に一緒に帰らなくなったのは何度目か。ここの所、ずっとかもしれない。
「うん……わかった」
少し寂しそうに微笑んだ気がするのは、寂しいと思ってほしいと願う俺の願望なんだろうか……。
桜司を気にしながらも、女友達の雛と一緒に歩き出す。
校門を出て歩きながら二人で話す。
こうやって雛と一緒に遊ぶ事も確かに楽しい。
「時春、今日はどこに行く?」
「どうするか?」
「私の家、来ない?」
チャラい見た目の俺に、意味深な誘い方をしてくる女は何人か経験がある。
誘われても、先ほどの桜司の顔がチラついて離れなかった。
「あー……悪いな。そういうのはいいや」
「なんでぇ?」
「だって俺達、付き合ってないだろ?」
そういうのは好きな人としたい。
「時春って見た目はチャラい癖に変なとこ真面目ぇ」
「やっぱり好きな相手と付き合ってからだと思うのは当然だろ?」
「それって私の事好きじゃないって事でしょう? 他に好きな人がいるの?」
好きな人──パッと桜司が思い浮かんでしまって立ち止まる。
これって確定だよなぁ……雛の事を好きになれるかもしれないと思っていたのに……。
認めたくなかった事実と向き合わされてしまった。
「なんで時春がそんな辛そうな顔するのよ。失恋してるの私なんですけどぉ」
雛は、不満そうに唇を尖らせた。
俺は今、辛そうな顔をしてるのか?
「俺、辛そう?」
「とっても。もう振られてるんでしょ? だったら、諦めたら?」
「いや……振られてはいない……けど……」
男を好きになって……あり得ないって否定して、それでも好きってすごい事なんじゃないのか?
距離を置いて、余計に相手の事を考える時間が増えた。一緒にいなくてもその人の事考えちゃうなんて……。
──俺はこんなにもあいつが好きだったらしい。
「なぁにぃ? 今度は笑ってて気持ち悪いよ……」
すごく大笑いしたい気分だ。
俺の中で、何か吹っ切れたような気がする。
「そっか。そうだな……誤魔化してばっかじゃ……ダメだよな。お前の気持ち、ありがとな。でも俺、好きな人いるわ」
今すぐ桜司に会いたい。
「改めて振るんて……鬼みたい。でも、私は時春のそういう所が好きなんだと思う」
「今まで遊んでくれてありがとな」
「ばか。時春だから遊んでたに決まってるでしょ。振られたら私が付き合ってあげてもいいよ。私が新しい恋をする前だったらね」
そんな風に言って明るく笑ってくれる雛は、すごくいい女だと思う。それでも好きにはならなかった──。
「お前、いい女だから俺じゃない誰かを好きになれよ」
「言われなくてもそうしますぅ。好きな人とやらの所に行くんでしょ? 早く行っちゃえ」
背中を向けた雛にありがとうともう一度言って、学校へ逆戻りだ。
桜司は、まだ帰ってないといい。
男同士だからといっぱい考えすぎていた。
ずっと隣の席のあいつを見ていたんだ。
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