春の奇跡

おみなしづき

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「時春……こっちにきて……」

 ベッドの脇に座って両手を広げられた。
 誘われている……。

「……時晴……」

 俺は赤くなりながら部屋の入り口で立ちすくんでいた。
 桜司がこんなに積極的だったなんて予想外だ。

「付き合ってからキスはいっぱいしたよね。時春は想像した事ない? 僕はいっぱい想像した。時春に触りたい。時春は?」

 そんなのもちろん想像したし、触りたいと思った。
 俺は、照れながらも桜司の腕の前に立った。
 そっとその腰を抱き寄せられて見上げられた。
 ゴクリと喉を鳴らす。

「おわっ!」

 グイッと引っ張られて、ドサリとベッドに倒れ込む。
 見上げた桜司の顔は、やけに男らしかった。

 唇にそっと触れる指先は優しくて、照れ臭くなる。
 でも、問題がある……。

「俺、下なの……?」
「ごめんね。僕の方が時春の事を抱きたいって思ってる」

 上から落ちてくるキスはおでこに鼻に首筋に……甘くて蕩けそうだ。

「俺も……勉強はしたんだけど……」
「僕に任せてくれればいい……時春は気持ち良くなって……いっぱい甘やかしてあげたいんだ……」

 裸にされて、胸の突起を弄られる。

「んぁ……」

 変な声、出た!
 それを聞いて、桜司は嬉しそうに笑う。

「もっといっぱい声聞かせて……」

 恥ずかしすぎる……。
 桜司がこんな強引な部分も持ち合わせていたなんて知らなかった。
 知らない桜司を知れる事が嬉しかった。
 色々と予想外過ぎて笑えてくる。

 桜司をギュッと抱き寄せて、覚悟を決めた。

「好きにして……いいよ……」

 桜司の表情に欲が見えた。ガバッとされるキスは今までで一番興奮する。
 まるで、大好きだって言われているみたいだ。

 後ろに指を入れられた時は痛かった。
 そう訴えたら、そこばかり攻められた。
 痛くなくなるまで慣らされた。もうふやけてしまうんじゃないだろうか……。

「桜司……もういいから……んっ……気持ちよくなってるから……」
「大丈夫?」
「いいから……早く……」

 桜司が覆いかぶさって俺の中に挿入はいってきた時、痛みとかよりも嬉しかった。
 しばらく二人でそのまま抱き合っていた。
 生きてるって感じがする。

「動くからね……」

 ゆっくりと動き出した桜司に翻弄されて行く。
 なにこれ……気持ちいい……。

「んっ、あっ、ちょ、ちょっと……桜司……っ」

 もういっぱいいっぱいで、動かれる度に快感の波にのまれていくみたいだ。
 いつもと違う男っぽい桜司に胸がキュッとなる。

「時春……すごいね……想像以上に……エロくて……止まらない……」

 俺の顔を真っ直ぐに見つめながら、艶のある声で呟かれる。
 余裕なんてなくて、自分がどんな風に乱れているのか考えられなかった。 

「ば、ばか……っ……そういう事……言うな。あっ、恥ずかすぎて……むりぃ……」
「時春……可愛い……」

 濃厚なキスは、桜司の気持ちを表していて好きだ。

「んっ……桜司……好き……」
 
 好きがあふれる。

「時春……僕はもっと好きだ……」

 桜司の突いた場所に快感が駆け巡る。

「あ──っ! そこっ……ああっ……!」
「ここだね?」

 何度も何度も腰を振られてもう訳がわからなかった。

「あっ、や、やばい……あっ、だめっ! イッちゃう──っ!」
「時春──っ!」

 ギュッと抱きしめ合いながら昇り詰めれば、こんなにも満たされる事なんてない。
 はぁはぁと二人の呼吸音だけが聞こえるみたいだ。
 桜司の体温が心地いい。

「なんか……すごかったな……」
「うん……」

 目が合うと気恥ずかしくてクスクスと笑い合う。

「桜司……誕生日おめでとう……」

 桜司は、嬉しそうに笑った。

「時春も……おめでとう……」
「そういえば、俺も誕生日だったな……」
「自分の誕生日を忘れてたの?」
「おめでとうって言ってあげたいって思ってたから……」
「時春……」

 ギュッと強く抱きしめられた。
 俺も抱きしめ返す。

「僕は、時春と会えて嬉しい。時春と仲良くなれて嬉しい。こうやって繋がれて嬉しい。時春が生まれてきてくれて嬉しい。時春のお母さんにも感謝しなきゃ。時春を産んでくれてありがとうって……」
「それ……俺の真似?」

 自分が似たような事を言ったことに恥ずかしくなる。
 茶化すように言ってやれば、桜司はクスクスと笑う。

「そう。でも、本当の気持ち。僕は……生まれてきて良かった……」
「お、俺も! 生まれてきて良かった!」
「時春……毎年……二人でお祝いしようね」

 桜司からそんな未来の言葉が聞けるなんて思っていなかった。

「もちろん──っ」

 来年の約束どころか、毎年の約束ができた。嬉しすぎる。

「この先、何があっても時春と絶対別れないよ。覚悟しといてね」

 それはこっちのセリフだ。

「桜司にもう一回おめでとうって言っていい?」
「何度だって……言ってよ」
「おめでとう」

 ギューッと抱きしめる。

「ねぇ……もう一回したくなった……」

 桜司はまた勃ったらしい。
 確かに腹の奥で桜司を感じる。

「あっ……! ま、まだ動くなって……っ!」

 部屋には二人の呼吸音と、ギシギシとベッドの軋む音が響く。それから、俺の喘ぐ声と桜司の好きだと囁く声。
 それらに混じって、俺と桜司は『おめでとう』と何度も言い合っていた。

     ◆◇◆

 十年後──春。

「桜司、だからぁ、あの人は会社の先輩で、全然俺の事に興味なんかねぇよ……」

 仕事が終わって帰宅する時に、会社の先輩に声を掛けられていたのを桜司に見られてしまった。

「嘘だ。あの人、今日が時春の誕生日だって知ってて時春の事誘ってた」

 会話の内容まで聞かれていたようだ。
 桜司は、墓参りに行った帰りに俺を迎えに来てくれた。
 それなのに、その現場を見て家に帰ってくる間もずっと不機嫌だった。
 家に帰ってきてからも……か……。

「そうだったとしても、俺は桜司と二人で誕生日を祝うよ。ほら、機嫌直してくれよ?」

 ダイニングテーブルに並べられたホールケーキと豪華な食事とワイン。
 二人で用意したそれらを前に、口論なんてしていられない。
 桜司の隣に移動して、そっとケーキにフォークを刺して、桜司の口元に寄せた。

「このケーキ、美味しいぞ~」

 円を描くようにフォークをくるくると回す。

「…………」
「桜司が食べないなら、俺が──」

 手をガシッと握られて、俺の手からケーキをパクリと食べた。
 可愛いやつめ。誕生日に食べるケーキが大好物なのは知っている。
 桜司は、ホールケーキだって残さず食べてしまう。

「美味しいだろ?」

 ニコニコとしていれば、手を握ったままフォークを取られてテーブルに置かれた。

「美味しい……けど、時春は僕に食べられる方が先だ」
「え?」

 グイッと引っ張られて、顔を寄せてきた桜司に唇を奪われる。
 言葉通りに食べられてしまいそうな濃厚なキスだ。ケーキの甘い味がする。

「んっ……桜司……」
「ほら、すぐにそんないい顔をする……だから狙われるんだ」
「これはっ……相手がお前だからだろ……」

 不機嫌だった顔が少し和らいだ。
 そのまま服に手を掛けて脱がそうとしてくる。

「待てって……」
「待たない……」

 いやらしい手つきで身体中を撫でられる。

「大事な事……言わないと……あっ」

 チュッと繰り返されるキスは、止まることを知らない。

「桜司……ちょっ……待てって……ここじゃ──うわっ!」
「あっ!」

 ガタンッと椅子から落ちた……。
 桜司も俺に引っ張られるように一緒に落ちた。
 二人して床に転がっている。

「だから待てって言ったんだろうが……」
「ごめん……」

 桜司と目が合ったら笑えてきた。

「ははっ。桜司、誕生日おめでとう」
「ふふっ。時春も、おめでとう」

 二人でクスクスと笑い合ってキスをする。

 俺たちは何年経っても、毎年二人のお祝いを欠かすことは一度もなかった。




────────────




※あとがき

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 テーマは『春』と『誕生日』でした。春生まれの皆様、おめでとうございます。
 それでは、またお会いできたら嬉しいです。
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感想 2

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みんなの感想(2件)

ねぎま型4号
ネタバレ含む
2022.04.15 おみなしづき

感想ありがとうございます!
いつもの作品とは違い、暗めになってしまったので受け入れられて良かったです♡
時春の明るさに桜司は救われたと思います。
私も10年後が気に入っていて、ずっと一緒にいてこそ完結だと思っています。10年後もお祝いしてるのは、あの家で……かもしれませんね(〃ω〃)
こちらこそいつもありがとうございます!嬉しいです♡

解除
ちま
2022.04.14 ちま
ネタバレ含む
2022.04.14 おみなしづき

感想ありがとうございます!
私もあのキスシーン気に入ってます♡ついでに言うと最後のシーンも好きですw
いつもとは違う感じの内容でしたが、受け入れられて良かったです。
春なので、春っぽいものをと思って書いたのですが、暗くなっちゃいました(;^ω^)
でも、少しでもポカポカして頂けたのなら嬉しいです。
ありがとうございました!

解除

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