大魔法使いは二度目の人生を〝普通〟に楽しみたい

おみなしづき

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ディノ・バスカルディ

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 ディノ・バスカルディは今の俺の名前だ。
 ファルザー伯爵家の長男で、20歳だが体が弱く、ずっとベッドの上で過ごしていたらしい。

 エルドだった時の俺が真っ暗な闇に包まれて死んだと思ってから、パッと目を覚ますという現象に自分自身が驚いていた。
 状況を理解するのに時間は掛からなかった。
 目覚めた時に手に握っていた手紙にはこうあった。

《知らない誰かさんへ
 僕の体をあなたに捧げます。どうしても、このまま死ぬのが嫌でした。どうか僕の生きた証を残して下さい。弱い体でごめんなさい。それでも、全てを諦めてしまった僕よりは生きれるはずです。  ディノ・バスカルディ》

 もう一枚の手紙には家族構成などが書いてあって律儀だ。

 どうやらこの体は、赤の他人の体らしい。
 そっと視線を彷徨わせれば、広い部屋に綺麗な家具類が目に入る。
 姿見に映った他人が、床に寝ているのが見えた。

 動こうとしても、体が鉛を付けられているかのように重く、上半身を起こすだけで時間が掛かった。
 姿見に写っていた他人が俺と同じ動きをする。
 空のような薄い水色の髪は、切る機会がなかったのか腰まであった。瞳の色は翡翠のような緑だった。
 エルドだった時とは全く違う、儚そうな見た目にちょっと笑ってしまった。

 本物のディノ・バスカルディの寿命は尽きる寸前だったようだ。
 そのディノが、究極魔法を使って俺の魂を呼び寄せたらしい。

 自分の魂と引き換えに──。

 誰もができる事じゃない。ディノ自身にも魔法使いの才能があったはずだ。

「なるほどね……はは……この体じゃ碌に歩く事もできなかったわけだ……」

 呼び寄せられた魂が俺じゃなかったら、この体じゃ満足しなかっただろう。
 それでもディノ自身が言うように、生きる事をやめてしまったディノよりは生きれただろう。一度死んでいる手前、この体でもどうやっても生きてやるという気持ちが湧いてくるものだ。

 目を閉じて集中する。
 この体の弱い部分を正しい状態に戻そうとした。

 普通の魔法使いが魔法を使う時に必要なのは、魔力と魔法陣だ。
 俺の場合は、魔力とイメージさえあればいい。
 そのイメージを頭の中に描いて集中すれば、体の中の魔力が反応してその事象が起きる。

 でも今は、ディノ自身が究極魔法を使った後で魔力はほぼゼロだった。
 この体の怠さはそれもあるのだろう。

 周囲を確認すれば、どうやら床に描いた魔法陣の上に寝そべっていたようだ。
 他の魔法使いは魔法陣に魔力を通さないと、魔法が発動できない。

 頭のイメージを魔法陣で表して魔力を通して初めて魔法が使えるらしいが、俺には面倒でしかない。
 エルドだった時は、魔法陣なんて使わなかった。この体でも必要なさそうだ。

 回復魔法の魔法陣はない。
 体の中を治すイメージを魔法陣で表すことができないからだ。
 他の魔法と違い、実験したところで、治すどころか死に追いやるなら本末転倒だ。
 だから、魔法陣無しで魔法が発動できる人──つまり、俺じゃないと回復魔法は使えない。
 しかも他人には使えない。自分の体だから回復するイメージができる。

 改めてぐるりと魔法陣を見回した。
 この陣は独学のようだ。見た事もない。

「すごいな……」

 こんなにすごい魔法を作るほど、ディノはそこまで生に執着していたのか。
 だったら最期まで足掻けば良かったのに……。
 魂がなくなっても生きた証を残して欲しいだなんて……矛盾している……。

 色々と思う所はあるが、生き返った限り、有り難く思いながらディノとして生きるしかない。

 こんな魔法は誰も使えない方がいい。
 その陣を這うようにしながら残らず消して、そこにあったベッドによじ上り横たわる。
 非常に疲れて息切れも激しく、ぐったりとする。

 体を治すのは……少し寝て、魔力を回復してからにしよう。

 そうして、そっと目を閉じた。
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